黄昏のネちょ学Ⅷ ~怒を統べる者~ 2

Last-modified: 2011-01-06 (木) 19:22:52

目次

注意書き



 このSSはネちょwikiでの設定、他の方々のSSの設定、自分独自で考えた設定などが含まれております。
 あらかじめご了承ください。


 もし嫌な表現が気になった方は、こちらにお知らせください。
 次から気をつけるか、訂正などさせていただきます。

本編



               【4】~怒を統べる者~




 ずっと昔に俺――鬼殺しは、誘拐された事がある。
 友人と河原に遊びに行った時、帰り道を忘れてしまい、近くにいた数人の男に尋ねた瞬間だった。
 突如俺は手足を結ばれ、どっかの建物の中に連れて行かれたのだ。


 まだ5歳児だった俺だが、不思議と恐怖を感じず、寧ろ怒りだけが生まれていた。
 怒りを男達に向かって罵倒を浴びせるが、口をガムテープで防がれてしまう。


 そこに敵がいるのに。
 自分が相手する敵がいるというのに。
 何も出来ない俺が腹立たしく思えた。


 どうしようもない境地に陥ったそんな時。
 俺の前にヒーローが現れた。
 ――それが、俺の親父だ。


 親父は俺のピンチに駆けつけ、助けに来たのだった。
 両腕の拳に力を入れ、颯爽と男達を撃退していく。


 親父の力は、『この世に存在する、ありとあらゆるものを破壊する能力』。
 何でも斬れる事が出来る刀だろうが、どんなに硬い装甲だろうが、雨のように降り注ぐ銃弾が飛んで来ようが、時を止められようが関係無い。
 存在するありとあらゆるものを、破滅に追いやる力を持っている。
 親父によると、多少破壊出来ないものもあるらしいが、それ以外なら殆ど可能なのだろう。


 親父は俺を縛っていた縄を解くと、俺を背負ってその場を去った。
 親父はカッコいいやつだ。
 顔とかルックスとかそんなちゃらけた様なカッコよさではなく、人間として純粋にカッコよかった。


「大丈夫だったか、鬼殺し?」


 背負われながら俺が黄昏ていると、親父が俺を心配してきた。
 親父の背中は大きくて暖かかったのを覚えている。


「大丈夫。全然平気だった」
「ハッハッハッ。お前は強い子だ」


 夕日を浴びて、家に帰る親子。
 その光景は暖かくて、温もりがあった。
 俺はそんな親父の様な善に憧れ、そして悪を嫌うようになった。


「父さん。俺、大きくなったら父さんみたいになるよ」
「私みたいにか?」
「うん。いつか父さんみたいになって、善を守り、悪を倒せるような……そんな男になってみるよ」


 俺はその日、親父に誓った。
 親父のように誰にも負けないような力を得て、正義の為に貢献して見せると。
 親父は幸せそうに俺を見つめ微笑むと、俺に向かって語り出した。


「その心意気は良い事だ。しかしだ、鬼殺し。その善や悪を判別するのは自分自身。時には私の思う善が、お前にとっては悪だと思ってしまう時も来るだろう」
「そんな事あるのか? 善や悪なんて見分けつくと思うけど」
「それが人間。人によっては善や悪など、違って見える事もあるのだよ。だがな、鬼殺し……」


 親父は進めていた足を止め、空を見上げていた。
 夕焼け染まった空は、まるでオレンジ色の絵の具で塗られているようで、幻想的だ。


 この感覚は今でも忘れられそうに無い。


「自分の信じる善は守り抜きなさい。それで私と敵対する事になったとしても、自分の信じた善だけは守りなさい」


 親父が幻想的な空間で、俺にそう大事そうに伝えてきた。
 当時の俺は良く分からなかったが、今になってはその通りだと思う。
 人によって、善や悪は違って見えるものだと、俺の人生の中で何度も痛感してきた。
 だから俺は、人を守れるだけの力を取得し、自分の信じる善を守る事にしたんだ。


 親父がこの学園を設立した時、俺は親父を軽蔑した事がある。
 人を守るべきに戦っているあんたが、何で暢気に学園の校長なんてしているんだと。


 でもそれは、親父なりの善だったんだと、後に気付く事になる。
 どんな訳ありの生徒でも受け入れ、生きる意味を教えてくれる学園。
 親父はここで、善なるものを沢山生み出していたのだ。


 だから俺は、親父を信じる事にした。
 俺は俺の信じる善を守る為に戦うのだ。




                      ~@~




 俺と瀟洒は学園外に出て、とある1つのビルの前にやってきた。
 そこまで高い建物ではなく、小さな会社のように思える。


 猥褻行為をされた女子生徒に話を聞くと、このビルに連れ込まれたようだ。
 あの女子生徒2人……泣いてたな。
 どんだけ怖い思いをしたのやら――考えるだけで胸糞悪い。


「さて、オニコロどうする?」


 腕組みをして仁王立ちしている瀟洒は、俺のあだ名で呼ぶと、俺からの指示を待つ。


「……てか、こんな所でもメイド服なのか。お前は」


 街中でもメイド服を着こなす瀟洒だが、目立った事この上ない。
 通り過ぎる人々が、瀟洒をちろ見しては何事も無かったかのように通り過ぎていく。


「この服のどこがおかしいの。この完璧で瀟洒な服が!」
「お前、TPO考えろよ」
「考えているわよ!」


 考えてそれかよ。


「何か文句でもありますか?」


 俺は瀟洒の格好を上から下まで、眺めた。
 どう見ても、この公共の場だと問題あるだろう……。
 とりあえずまぁ、褒めて気分でも取り戻させるか。


「まぁ何だ。足、綺麗だな」


 俺は瀟洒の前でしゃがみこんで、彼女のメイド服から伸びる素肌に触れ、そう呟いた。
 うっわ、すべすべだなこりゃ……。
 どうやったらこんな綺麗で良い足になるんだ。


「……ッ!!」
「おぐっ」


 その刹那に瀟洒が足を振り上げ、俺の顔面を捉えた。
 蹴飛ばされた顔面に衝撃がはしる。


 だが何だ。
 見えてる、見えてるぞ瀟洒。スカートの中が見えてるぞ。
 そんな冷静に突っ込んでいる俺とは対照的に、瀟洒は赤面しており、俺を睨みつけながら息を荒げている。


「何で蹴る」
「それはこっちの台詞よ! 何で足を触ったのよ!?」
「綺麗だったから」
「そんなストレートに……。あぁ、オニコロ……貴方って人は……」


 瀟洒は凄い形相で俺にガンを飛ばしてくる。
 そんな目で見るなよ……。


「分かった、悪い。俺が悪かった」
「当たり前よ、まったく……」


 彼女は俺から目をそむける様にし、顔を隠した。
 ――それにしても、何でこいつはスカートの中に短パンやら何やらはいてないんだ?
 その状態だとパンツが丸見えじゃないか。黒だったし。


 いや、寧ろあの学園がおかしいのだろう。
 まさか常識というもの自体を、親父は破壊したんじゃないだろうな?
 いや、そんなものまで破壊するのは……。
 ――親父なら普通に出来そうだな。


「で、オニコロ。結局これからどうするの? 正面から行くの?」


 瀟洒が冷静さを取り戻すと、これからどうするか再び聞いてきた。
 正面から……か。


「いや、1度逃げ出さないようにあいつらを建物の外に誘き出したい」
「でもそんな事しなくても、別に私達の力なら全員捕まえられるんじゃない?」
「それだと面倒臭い。それにもう1つ。――こっちが先手打って、相手に恐怖を植え付ける」
「それってどういう……」


 瀟洒はそこまで言うと、目の前で起こった出来事に絶句し、口を閉ざしてしまった。
 まぁ、無理もねぇかもな。


 今、俺は――『片手で電柱を持ち上げているんだからよ』。


 怒り30%ってとこか。


「おい瀟洒。民衆を全員退避させろ」
「え?」
「お前なら時止めて楽勝だろうが」
「――本当に自分勝手なんだから……!」


 瀟洒がそう言った瞬間。
 彼女と俺の周りで驚愕していた民衆が全員いなくなった。
 遥か彼方の方でざわめく声が聞こえる。


 瀟洒は時を止める事が出来る能力を持っている。
 だからこそ、時を止め、民衆を動かすなんてことも容易く出来るのだ。


「これでいい?」
「ありがとよ。じゃあ、始めるか。瀟洒は、少し離れてくれ」


 俺は電柱を一気に引っ張り、電線を荒々しく千切った。
 千切れた電線から火花が飛び散り、バチバチとはじける音が耳に痛々しく響く。


 そして俺は電柱を少し手加減しながら、ビルに向かってスイングした。
 轟音が鳴り響き、ビルが揺れる。
 何度も何度も、俺はビルに電柱バットを叩き込む。
 威力の調整を誤って少しコンクリートの壁が崩れ落ちたが、まぁ、中にいる奴は平気だろう。


「ちょっと、オニコロ! 何やってるの!?」


 瀟洒が慌てて俺の元までやってきて、俺の動きを停止させた。
 瀟洒は少し体を震わせている辺り、俺を恐れているのだろうか。


「何って、こうやって中にいるやつを驚かせて、外に出てくるの待っているんだよ」
「こんな方法、無茶苦茶じゃない!」
「そうか? でもほら……でてきたぞっと!」


 ビルから男達の群れがぞろぞろと出てきたのを確認すると、奴らの前に電柱を放り投げた。
 激しい音と共に大木みたいな電柱は横に倒れ、男達を恐怖で染める。
 怖くて動けなくなった男達の前に俺は立ち、彼らを問い詰め始めた。


「おい。てめぇらの頭(かしら)はどいつだ?」


 男達がざわつく中、1人のスーツを着こなした男が前に出てきた。
 営業スマイルをこちらに向けているが、どこぞか焦りが見える。


「私ですが……いかがなさいましたでしょうか?」


 ――この野郎。
 この状況でよくもまぁ、そんな悠長な事言えるよな。


「昨日の夕方、女子生徒の制服引ん剥かせて写真を撮ったそうだな、てめぇら」
「は……? 何の事でしょ――」
「この会社ン中調べさせてもらうぞ。もし変なのが出てきたら、警察に突き出すからな」
「そんな勝手な事をされて……」


 ニコニコと頭(かしら)は、口篭る様に俺ににじり寄って来る。
 あぁ、めんどくせぇ。
 今後に及んで、まだなんか言うのかこいつは。


 俺は電柱に右足で踵落としをくらわし、小規模な地震を起こした。
 グラつく大地に対して、さすがに男は冷静さを保って入られず、笑顔が歪みを見せる。
 ガラスのように電柱は破壊され、粉塵が舞う。


 ――悪いな。電気使っていた奴ら。


 今更ながら罪悪感を感じた所で、俺はビルの中に入ろうと足を踏み出す。


「待ってください! あなた一体……!」
「私立ネちょネちょ学園の先公だよ」
「先公……? 何で先生がこんな……?」
「私立ネちょネちょ学園のって言ってるだろうが。てめぇらみたいな奴なら知ってるだろう?」


 俺が学園の名を二度も名乗ると、男達の表情が真っ青に染まっていった。
 ネちょ学は、それなりに裏では有名な学園だ。
 表向きにはただのおかしな学園にしか思われないが、裏だとそれが一変し、戦闘狂が集まる学園だと伝わっている。


 だが、偏見は決して間違っていない。
 仲間がやられたら、決して黙ってはいない学園。
 それが私立ネちょネちょ学園の本質でもある。


「お前らは、警察よりも性質(タチ)の悪い奴らに喧嘩売ったんだよ」
「…………くッ」
「おらどけッ。言っとくが、証拠が見つかればもう逃げられは……」
「お前ら構わん! こいつにぶっ放せ!!」


 頭(かしら)が突然叫び出し、懐から何かを取り出し、俺の眉間目掛けて火を噴いた。


 ――チャカ(銃)だ。


 次々と周りの男達がチャカを取り出し、俺に銃口を向け発砲する。
 青空の下に鳴り響く轟音。
 飛び交う凶弾。
 畏れる男達。


 やがて、薬莢が地面を覆い尽くすほど転がり落ち、銃音が止んだ。
 全く。こんな時にも空は生意気そうに晴れてやがる。


「痛ってぇな、てめぇら……」


 銃弾を受けた俺はまず、一言呟いた。
 男達が両目を大きく開けると、俺から離れるように後ずさりする。


「そんな……馬鹿な……」
「今のヤクザはチャカ持ってるとは聞くが、まさか本当とはな……」


 俺に向けて放たれた鉛玉は、俺の身体を貫通する事無く、足元に転がり落ちていた。
 勿論その弾は全て、この身体で受け止めて落ちていったものだ。


「てめぇら。もう後悔なんてさせる暇も与えねぇぞ。――怒り50%だ」


 俺は宙に飛び、大地に向かって拳を雷(イカズチ)の如く突き落とした。
 その周囲に集まっていた男達は、空高く吹き飛び土煙と共に落ちてくる。


 さて、悪をぶっ潰してやらぁ。
 てめぇら。後悔なんて、もうさせねぇからな?




                     ~@~




 あ~ぁ。
 オニコロ怒らせちゃったか、あの子達……。
 遠くから監視するように、その様子を眺めていた瀟洒は心の中で呟いていた。


 鬼殺しの事を良く知っている瀟洒は、彼の恐ろしさを良く知っている。
 彼の能力――それは、『怒りを絶対的な力に統べる能力』。


 人は誰しも怒る事により、自分の中にある潜在能力を最大限に引き出す力を持っている。
 だが、大概なら冷静さを失い暴走し、結果的に無駄な体力を消耗し、朽ちていくのがオチだ。


 しかし、鬼殺しという者は違った。
 生まれながらにして、悪という存在に対し、何度も何度も激昂し続け、やがてそれに慣れてしまう。
 そして彼は怒りをフルパワーで引き出せると同時に、それを有効に活用する能力を得た。


 鬼殺しが憤怒すれば、身体の筋力は鋼の如く硬化し、鬼をも唸らせる程の力を発揮できるようになる。
 そして、彼の強さはそれだけでは留まらない。


「オラァ! てぇりゃぁ! うんどごラッシャァ!!」


 鬼殺しは次々に無謀にも襲い掛かってくる男を捻じ伏せていた。
 相手に密着するまで近づき、顔面に肘をめり込ませ、腹に膝蹴り、そして額に向かって頭突きを入れ込み、倒れた男の頭を片手で持ち上げ、敵に投げつける。


 彼の戦い方は、まさしく喧嘩という行為そのものだった。
 鬼殺しは喧嘩術と言う、ヤクザやらが使う戦法を主軸にしている。
 この戦法はとても実践向けである為、鬼殺しは好んでいた。


 本来殴る蹴るなどの攻撃は、腕や足を伸ばしてリーチの長さを生かしたりする。
 だがこの攻撃は、実践では逆手に取られる場合がある。
 伸ばした腕や足を掴まれ、拘束される可能性が高いからだ。


 空手では伸ばした拳や足は、相手に当たった瞬間、すぐに引っ込めるようにする。
 それは拘束されないようにする防衛の役目があるからだ。


 しかし鬼殺しの喧嘩術では、その心配性がまったくと言って良いほど無い。
 彼は肘や膝を使い、素早く超近距離で攻撃し続ける。
 一見地味に見えるが、リーチの短いものを高速で叩き込まれては、反撃の予知すら与えられない。


 更に大概の攻撃は相手が密着するほど近くにいる時は、なかなか威力を発揮出来ない。
 ナイフやスタンガンがあればまだ別だろうが――今の鬼殺しの力は絶対的。
 その程度の柔な攻撃など、受け付けてくれるわけが無い。
 相手に後悔させる暇も与えず、肘で打ちつける、膝で連続で腹に減り込ませ、投げ飛ばしては勢い良く突撃してくる相手に頭突きを喰らわす。


 そして鬼殺しは、腰に差していたアクセサリーを引き抜くと、それで相手の喉を突く。
 今では特殊警棒を持つと公安に目をつけられる為、その代わりになる物として彼が持ち歩いているのは――鉄扇だった。
 普段はアクセサリーの代わりになるが、戦闘時には頼もしい武具となる。


 攻めてくる相手を鉄扇を突き返し、男達は次々と眉間、顎、喉などを攻めていく。
 鬼殺しはその場から大きく後ろに飛び、鉄扇を広げた。
 彼はポケットから1枚のスペルカードを取り出し、発動させる。


「スペルカード『怒風』! おんどりゃぁぁぁあああ!!」


 自分の身体から溢れ出ている怒気を鉄扇に込め、横に思い切り靡いた。
 第1波の怒気で相手は怯み、第2波の怒気で男達は戦意喪失し、第3波の怒気で全員が風に抵抗することなく吹き飛ばされる。


「凄い……」


 瀟洒は一言、今までの出来事の感想を呟いた。
 誰しもが彼の戦いっぷりを見惚れて、そう言葉を漏らす。
 そして次にこう思う。


 ――化け物だと。


 彼はあの日、泥酔に負けた日から更に強靭と化した。
 もっと力を。
 鬼をも殺せるような圧倒的な力を。
 彼は高みを望み、鬼を滅する程の力を手に入れた。


 そして鬼殺しの恐るべき事が、もう1つある。


 彼はまだ、半分ほどの憤怒(ちから)しか出していないという事だ。




                     ~@~




 ……手応えがない奴等だったな。


 俺――鬼殺しの感想は、それだけに尽きた。


 本当にヤクザなのかこいつらは。
 チャカ(銃)持っている辺り、そうだとは思うんだがな……。


 男達はスーツを着ている頭(かしら)以外は、全員地に伏せていた。
 血が男達から流れているものの、ギリギリ殺していない。
 怒りが50%と言えども、それは力の最大値を伸ばすだけで、力の調節は安易に可能。
 ――まぁ、殺したら元も子もねぇしな。


「んじゃ、お前。一緒に中まで来て、調べさせて貰おうじゃねぇか」
「化け……物が……」
「――遠慮なく人殺そうするてめぇらの方が、俺から見たら化け物だよ」


 俺が吐き捨てるように言うと、急に頭(かしら)が不気味な笑いを浮かべてきた。


「何を笑ってやがる?」
「まだお前達は、自分らが不利側にいるのを知らないみたいだから教えてやる……」
「あぁ?」
「ヘッヘッ。昨日の女子生徒の哀れもない写真は俺達が持っているんだぜ? 今すぐにでも、他の連中に連絡出来る。街中にばら撒いて欲しくなかったら……」




 ――下らねぇ事、本当に腐るほど考えてやがるんだな、てめぇはよぉ?




「ひ……ッ!?」




 頭(かしら)は急に怯え出し、両手両足を震わせながら懸命に動かし、後退りした。
 そんなに俺を怒らせたいなら見せてやるよ。




 ――怒り100%(フルパワー)だ。




 俺の怒りが有頂天に達し、世界が圧迫し始める。
 世界という空間が上下に揺さ振られ、生命のある物以外、振動しているように見えた。
 大気が狂い、青く晴れ晴れとしていたはずの空が、雲で覆い尽くされていく。
 大地に細かくヒビが入り込み、轟音が鳴り響いている。


 まるで世界というそのもの自体が、憤怒をあらわにしているようだ。


「『「もしそんなことして見ろ。そん時はてめぇ自身がどうなるか、分かってるんだろうなぁ?」』」
「あ……が……」
「『「分かってんだろうなぁ、てめぇ!!」』」


 俺の声はエコーするように天空に響き渡り、精神的苦痛を、男達に与える。
 頭(かしら)は瞳から涙を滝の様に流し出し、手足をがくがくさせていた。


 良くそんなんで、頭(かしら)なんて出来ていたなコイツ。
 俺の怒りは終焉を迎えることを知らず、頭(かしら)にもう少し脅しをかける為に、1歩前に進もうとした。


 が、自分の足に何かが絡まっている感覚があり、俺は足を確認する。
 そこには白く透き通った綺麗な手が、俺の足を掴んで離さないでいた。
 この手は……。


「オニコロ……もう十分……それ以上は駄目……」


 背後を振り返ると、そこには苦しそうに伏せている瀟洒の姿があった。
 必死にここまで身体を引きずってきたのだろうか。
 俺に怒りの気を触れながらも、苦しそうに瀟洒は声を発していた。
 瀟洒はまるで、翼が怪我して飛べない小鳥のように、苦しそうに俺を見つめている。


 ――やべぇ。またやっちまった。


 俺の力は、敵だろうが味方だろうが一切関係無く、影響を受ける。
 怒りは一定の相手だけに放つのではなく、常に周囲に撒き散らしてしまう。
 自分では善のつもりでやっているのに、逆に迷惑になってしまう事も多々ある。


 ――それが俺の悩みであり、俺の嫌いなところだった。


「……悪い、瀟洒」


 俺は怒りを納め、元通りの自分に戻る。
 それと同時に世界も憤怒するのを止め、元通りの青空へと戻った。


 瀟洒に何か他に言葉をかけようかと思ったが、何も言えず、ビルの中へ俺は向かった。
 今の俺に、彼女に何か言う資格なんてなかったのだから。








               【5】~憤怒の温情~




 その後。男達のビル内からは、大量の写真データが発見された。
 勿論、不純な物ばかりである。
 どうやらここでは、写真を売買しており、違法な取引をして、儲かっていたのだろう。


 写真が本にされたものまで発見される。
 このまま全てを自分の手で処分しようかと思ったが、そうはしない事にした。
 これらを証拠品として、あいつらを警察に突き出さなきゃならないからである。


 それに俺も男だ。
 これらのものに興味が無いわけでは無い。
 もしも処分すると言って、処分しなかった時の自分が怖いので、あっちに任せる事にする。まぁ、そんな事はならないだろうが念の為だ。


 ここの男達は全員逮捕され、俺のした事や電柱やらの被害は親父が何とかしてくれた。
 警察だろうと、この学園には手出しできないという、おかしな状態が、今も保たれつつあったのだ。


「瀟洒」


 女子生徒の事件を納めた次の日。
 放課後の職員室で、俺は紅茶を飲んで一服している瀟洒に話しかけた。


「何、オニコロ?」
「昨日はすまんかった。やり過ぎた」


 まだちゃんと謝ってなかったから、今、謝る事にした。
 瀟洒は、手に持っていたカップを置くと、溜息を1つ吐く。


「オニコロは昔っから、勝手な事しすぎよ」
「んむぅ……」
「私とは真逆ね。だからこそ、いつも驚かされてばっかりなんだけどね」


 全く持ってその通りだ。
 俺は、俺のやりたいようにして、事件を解決へと向かわせる。
 瀟洒はちゃんと計画を立てて、時には他人と協力して事件を解決へと向かわせるのだ。
 瀟洒は正義感が強く、いつも完璧にこなす。


 ――俺は……。


「なぁ、瀟洒」
「何?」
「俺、やっぱり他人に迷惑かけてるだけなのかもしれねぇな……」


 俺は人に怖がられ、他人に迷惑かけてまで、たった2人の女子生徒を助けた。
 勝手に怒って、勝手に行動して、勝手に迷惑をかける。
 俺はもしかして、善の皮を被った悪なんじゃないだろうか。


「確かに迷惑かけたかもしれないけど。……ほらっ、オニコロ。あれ」


 瀟洒は話している最中に何かに気付いたのか、微笑んで俺の背後に指を刺した。
 振り返ってみると、そこには事件の被害者である女子生徒が2人、こっちをチラチラと見つめている。
 どうしたんだろうか――まさかまた何か……。


「ほら、オニコロ。さっさと行きなさい」
「お、俺がか?」
「何言ってるの。今回の手柄はあなたじゃない。あの子達は、オニコロに御礼を言いに来たのよ」


 俺に……礼を?
 俺は女子生徒を見つめ、自分に指を指してジェスチャーで伝える。


 ――俺を呼んでいるのか?


 すると女子生徒2人は、こっくんこっくんと2回頷いた。
 その表情に俺を恐れている様子も、何か哀しんでいる様子は見られない。


「オニコロは今回、あの子達の事を1番思ってくれて、直ぐに行動に移った先生じゃない。あの子達の不安をこんなにも早く解決したオニコロを、責める気なんて無いわよ」


 ハッハッハッ。
 まいったな……。
 こんな事言われるのは、正直慣れていねぇんだがな。
 俺は少しだけ笑うと、女子生徒の2人に向かって歩き出した。


 俺はきっと、これからもこんな生き方をして行くのだろう。
 それが俺なのだから。


 女子生徒の2人には、ありがとうって言われてしまった。
 ちょっと恥ずかしかったが、たまには悪くないって思えたんだ。




 空は、黄昏に染まっていた――。
 光は、優しくネちょ学を包み込んでいた――。








                   ~黄昏のネちょ学~



後書き



 どうも皆さんこんぱろは。
 今回は前作と違って、短い感じの作品になりました。
 その割には執筆スピードが減速しましたが……。


 いつもよりかは、何か個人的に失敗した感があります。
 が、完成させるかどうかが大切だと思うので、次に生かす感じで頑張ります。
 まぁ、見直したら普通に良かったとかいうのもあるので、まだ完成度は良く分からない感じです。




 ここからはネタバレが出てると思うので、続きを見たい方は下のほうをクリックして下さい。

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 今回は黄昏のネちょ学Ⅷです。
 ついにここまで来てしまいましたね。
 鬼殺しさんが主人公のお話。結構前からこんな話書きたいなぁって形にしてみました。
 が、ちょっと盛り上がりに欠ける様な感じ。


 私のSSで、もっともチート能力を持たせているのが後悔校長先生だったりします。
 ずっと前からこんな能力でいこうとは思っていましたが、中々出す機会がなかったのです。
 本当はこの話でも、校長先生の能力は隠す方向性でいこうかと思いましたが、もういいやって感じで後悔。


 瀟洒先生も掛け合わせての話でしたが、本当は出さないつもりだった感じで。
 んー、何かやっぱり肉付け足りなかったかなぁ。


 鬼殺しさんのキャラは、少しヤンキーっぽい感じ。
 ぶっきらぼうな感じだけれども、とても優しい心を持っている人っていう設定ですね。
 いつもながら本人とは大きく感じが違いますorz






 そして今回のテーマソング。


 http://nicosound.anyap.info/sound/sm737654


 『高橋ひろ』の【太陽がまた輝くとき】という曲。
 既にお亡くなりになられた方の歌です。
 切ない感じで、どこか懐かしい感じの歌。
 背に夕日を浴びて帰っていく鬼殺しさんってのを想像すると、何か渋カッコいい。


 それにしても、音楽ってのは素晴らしいですね。色んな気分が込み上げてくる感じで。




独り言



 皆さんは怒った事がありますか?
 まぁ、普通にあるでしょう。人間である限り。


 何故、人は怒るのでしょうか。
 私は大体怒る理由ってのは、自分か誰かの為かと思うんですよ。
 怒るっていうのはあんまり印象良くない所も多いですが、誰かの為に怒れるってのは、優しい証拠なんじゃないかなぁとか思ったりします。


 怒る事は決して悪い事ではなく、だからと言っても良い事とも言えずに。
 でも、本気の怒りにはその人の本音が見え隠れします。
 訳も分からずに怒ってしまう事もあります。
 そこには必ず理由がある。
 本気だからこそ、怒れるのでしょう。


 時には怒らなければ、相手に伝わらない事もあります。
 そん時は怒っていいんです。それがその人の為、自分の為になるのなら。
 怒る事に躊躇いがある人もいるでしょうが、それも勇気なのでしょう。


 でもやはり怒る事は決して良い状況ではないというのも確かです。
 私は怒りすぎて、一時期は感情を殺す事もしましたが、結局自分自身の害にしかならなかったんですよね。
 だからと言って、怒りを外に出し続けるのは、相手の害にしかならない。
 やはり何事もバランスが大切なのだと思います。




 あなたは何の為に、怒りますか?
 あなたは誰の為に、怒りますか?




 怒りの意味を考える。
 それがこの黄昏のネちょ学なのかもしれません。








 そして、最近気付いた事が1つ。
 私の作品って、一人称と三人称が混ざっていて、分かりづらい描写ある所多いのかなぁとか思ったり。


 だから次回作からは、どちらかに絞り込むと思います。
 多分一人称視点で、後は視点変更とかの練習になるかな。
 まぁ、視点変更も難しいので、色々とそこも試していかないといけませんね。
 とりあえず今回までは、今まで通りの書き方でした。


 さて、次回作も頑張っていきたいと思います。
 最近は皆さん、絵を描いたりと色々趣味を見つけ出しているようで、楽しそうだなぁと思いながらチャットを見ていますw


 会話する事が少なくなりましたが、大体他の作業してるからなのですよね。主にSSかゲームかですけれども。たまに歌っているけど。いや、それはいつもの事かw(現在は絶望ビリー歌いながら、書いてます。キラァキラァキラァキラァ!!


 私も色々自力で前に進み始めています。
 不器用でも色々と足掻いてみたりね。
 忙しい世の中だけれども、誰かの心に何かを伝えられる存在であり続けられますよう、私は願ってます。




 それでは皆さん。
 ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
 読んでくださった皆様に……。




 最大級の感謝をこめて。








 萃まる楽しき炎:酒飲みスーさん



囁く声







         ――怒りとは想いを伝える存在でもあるんだよ。





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コメント欄:

  • 何か裏があるかと思ったけど、ただの酷い連中だったわけね。 そして今更だけど、校長先生の能力ってこんなんだったのかー……。 熱い展開は大好物! 読んでて結構痛快だったり。 >独り言 たしかに怒った態度見せないと、相手に伝わらない事は多いかも。 でも、逆に状況悪くするだけの場合もあるし……、んー難しい。 怒りにも色々種類があると思うけど、本当の事言われて(図星をつかれたり)怒ってキレちゃったりとか、そういう事はしたくないですね。相手に呆れられるか、余計に莫迦にされるだけですし。 -- 闇夜? 2011-01-06 (木) 19:22:51