目次
注意書き
当SSはレミリア、衣玖のカップリング的SSです。
そういうのが嫌いな方は本編を読まれる前に回避した方がいいと思われます。
後、カップリングSSなのにあんまり、イチャイチャしていません。
イチャイチャなんて書けない作者ですので悪しからず。
ついでに物凄い短いです。悪しからず。
また、この作品は傷心「マイハートブレイク」の後日談となっております。
関係がとても深いので先にそちらをお読みください。
以上の点を踏まえてお読みください。
Sweet, bitter sweets
白いベッド、白いシーツ、白いパジャマ。それらに包まれた幼い月は黒い翼を少し伸ばしてから起き上がる。カーテンの掛かった窓から僅かばかり漏れる光の赤みから察するに丁度日が暮れる頃だと推測された。誰そ、彼はと人が問う時間帯からは妖怪の時間だ。とはいえ、彼女が活動するにはまだ少し早い時間だ。しかし、彼女は夜更かし――というよりは彼女の種族を考えれば昼更かしか――もすれば、徹昼もする、挙句に夜に寝ることもある生活が不規則なバッドレディ。何時の時間に起きようと、彼女には関係がない。
さて、今日も活動を始めようと翼の関係で寝返りのうてない彼女は固まった筋肉を緩ませる為にもう一度だけ伸びをした。それからベッドから降りる。その頃には時を操る従者が身嗜みの全てを整えていた。鏡を見て、その出切具合を確認するが今日も今日とて何も言うことはない。少し面白みもないが、こういったところに日常の変化は求めてはいない。少しばかり可愛げなポーズを鏡の前で取ってから、彼女は寝室を後にした。
薄く紅に染められた通路を抜け食堂へ。その一番奥、主人の席に座る。椅子は彼女の足が地に届かないほどの高さだ。座るというよりは登るという感覚に近いが、彼女はその黒い翼でその高さを苦ともせずに羽毛のように静かに座る。それを確認したかのように朝食が置かれていく。彼女は吸血鬼であり、小食である為、少量の血液があればそれでいいのだが、それだけでは味気がないので、何時も血液入りの紅茶以外に食べ物が一品だけつく。今日はチョコレートが付いていた。
悪魔の狗が聖人の祭に便乗かと溜め息混じりに笑うと、悪魔の狗が聖人の祭に便乗して悪魔に敬愛を示すというのは一つの侮辱にもなりますねと嘯いた。主従二人で声を出さずに口元だけで笑うと、身近な言葉遊びを終えた。それから間をおいて食事を始める。
薄く一口で食べられるようにスライスされたチョコレートを啄ばむように口に入れ、十分に溶けてから嚥下、そのチョコレートの後味を紅茶で流す。それから一息休憩して食事を進めていく。彼女の食事は遅い。小食の為、少しずつ休憩を挟みながら食べるのだ。だから、人から直接血を吸えば、服も何も血で染まる。
ようやく、チョコレートを食べ終え、紅茶を啜る。カップをゆっくりと置くと、彼女は今日の予定を考える。考えるとはいえ、常に突発的に思い付いた事をするのが彼女である。考えるという作業に特に意味はない。そんな意味のない事をする彼女を見た悪魔の狗は一つ提案をする。彼女はそれを聞き、薄く小さく永遠に性徴を迎えない少女の胸の内の中に仕舞い込んだ感情を思いだし、少しだけ痛みに似たものを感じ笑う。
それから悪魔の狗で自身の従者に手伝いを頼み、彼女、レミリア・スカーレットはチョコレートを作りを始めた。
――Sweet, bitter sweets.
レミリアと永江衣玖の奇妙な関係が始まってからどのくらい経ったのかは誰も覚えていない。そのくらい彼女達の関係は極自然に感じていたし、周囲もそう思っていた。しかし、周囲はレミリアが衣玖に恋慕を抱いていた事を知らない。いや、抱いている事を知らない。レミリアの恋慕は一夜の内に胸に仕舞いこんでしまったのだから、誰も知るわけもない。生まれたばかりの恋慕の情は一夜の内に衣玖のレミリアという存在の許容と恋慕を優しく拒絶する抱擁と口付けで終えてしまったのだ。それからもレミリアの胸の内に燻ってはいるが、それを誰かに悟られた事はない。故に、誰も知らないのだ。
そんな思いを練りこんだチョコレートは殊更甘く、何より苦く作り上げられた。これを食べた衣玖がそのレミリアの燻る恋慕をすぐに察するような、そんな味に作り上げられた。
果たしてこれを渡しても大丈夫なのだろうか、レミリアはそう逡巡する。衣玖はきっと、そんな思いも抱き締めてくれるだろう。あの夜のように応えられないという言葉をその手に篭めて。レミリアもそんな衣玖の言葉を受け入れてしまうだろう。幾許かの痛みと共に。
恐らく、二人の関係はそれでいいのだ。交わる道もあるだろう。運命の赤い糸は互いに向かって伸びている。天に別たれているが、確実にお互いに向かって伸びている。お互いにそれでいいと思っているから、それでいいのだ。
そう思い、レミリアは僅かな逡巡の後に家を飛び出して、玄雲海へとやってきたのだった。ここまで登ってくる最中にレミリアの存在を感知したのか衣玖は既にそこにいた。
チョコレートを渡す。
その場で食べて貰う。
甘味と苦味が心を伝う。
言葉なき伝心が終り、ただ互いの暖かさを伝えあう。
レミリアの手は幼く、天を掴むには小さ過ぎる。
衣玖の手はそれよりも長く大きいが、地を釣る釣り竿にはなれない。
しかし、レミリアは天に牙を突き立て嚥下できる。
しかし、衣玖は天を捨て、地に落ちることができる。
お互いにお互いを掬い上げられない。ただ、堕とし、堕ちる事しかできない。
だからこそ、二人はそれを望まない。
それは相思相愛故にである。
二人は互いをそうして思う事で愛を確認しあっている。
ただ、それでいいのだ。結ばれる事が全てではないのだから、それでいいのだ。
結ばれない苦味、レミリアも、衣玖もただ、それを噛み締める。
思い、傷付け、確かめ合う。ディスコードばかりのワルツは互いの口付けで一曲を終える。勿論、唇は交わさない。ただ純真に額へ口付け、互いの純潔を誓い合う。
それから、甘味が生まれた。
二人は笑顔で見詰めあって、手を取り合う。
こんなに甘く苦い恋だから、こんなに心を痛める恋だから、せめてこの一時だけでも、
「――So sweets.My sweets. So sweets.My bitter sweets.Please shoot the bullet which stops my pain」
後書き
短っ!
地の文だけで構成すると会話ないから、流れだけで話進められて短縮しまくれるね。
っつーことで、バレンタインSSです。
ネタ構成も上手くできずに纏まらないまま書いたので、なんか、酷い感じになったけどまぁまぁまぁ。
時節物故に当日に間に合っただけでも御の字だね。
んで、レミ衣玖ですが。
個人的に傷心~のあの切ない感じの流れが好きなのでこれをピックアップしました。
まぁ、後半だけだけどねw それっぽくしてたの。
序盤はまぁ、ちゃんとした主従とかなんか、そんなレミリアのカリスマ雰囲気書きたかったんです。
まぁ、うん、なんだ、できてないけどorz
誰か、僕にカリスマを!
それでは最後に、東方シリーズ原作者であるZUN氏に多大な感謝を!
読んでくれた読者様にありがとうを送ります。
以上。
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