目次
注意書き
当SSはネちょ学SSです。
ご出演者の方のお叱りを受けた場合、謝罪と共に削除させていただきます。
また、このSSは山なし、オチなし、意味なしの上、方向性不明のあれなSSです。
以上の点を踏まえてお読み下さい。
一話
かつては、一流レストランの料理人。
次期シェフとして目されていたが、今は学園の食堂で腕を振るっている。
戯れなどではなく、これが現在の仕事だ。
各国を巡り、流浪していた俺が母国に帰ってきたのは一週間前。
料理の腕に自信がある。それ一つで生きていく自信もある。
だが、ここは一度、逃げ出した母国。
逃げ出した理由は、ただ居辛くなっただけ。それだけで逃げ出した。
俺は一流レストランの料理人で、次期シェフと目されていた。
だからこそ、突然、仕事を辞め、蒸発したという噂はその界隈では有名だった。
そんな噂がない場所で仕事をしたかったが、そんなところはなかった。
俺の勤め先は全滅したのだった。
そうして、母国を彷徨する事、四日。
流浪の身ではその日暮らしが精一杯。
不景気が俺の胃袋を直撃した。
その日暮らしも不景気の世では成り立たない。
つまり、ろくな飯にありつけず、行き倒れ。
その後、学園の教頭に拾われて、こうして食堂にて腕を振るっているわけである。
今日も腹を空かせた学生達が俺の料理を求めて、ここにやってくる。
「全解放さん、今日の日替りは?」
いいだろう。今日も全回復してやる。
――第一話 「封印された知性なき神」
昼の十二時。
規則正しい生活を送るのなら、この時間に昼食を摂るだろう。
そして、常に規則正しい生活を心掛けている俺もこの時間が昼食タイムだ。
だというのに、俺は飯にありつけないばかりか、食べたいと思って作った料理を奪われる始末だ。
嗚呼、食いたいものが食えず、奪われる理不尽な世の中よ。
俺は恨もう。こんな社会を作った人間を。こんな世の中を放っておく為政者を。ついでに神とかも恨んでおこう。
「日替り四つ!」
「おぉぉぉぉるふぁぁぁぁぁぁっっっく!」
「うるさい、叫ぶな!」
指示通り、今日の日替り定食を盛りつける。
今日の日替り定食はターリー。所謂、カレー定食だ。
内訳はサフランライスにナン、ヨーグルトサラダに五種類のカレー。
ターリーというのは、インドのカレー定食。語源はこれに使われる盆がターリーというところからだ。
ターリーの中心にサフランライスを盛りつけ、その上にナンを置く。
その後、ヨーグルトサラダと五種類のカレーを盛った器をサフランライスの周りに置いていく。
その作業は実に……。
「面倒臭ぇぇぇぇ! 誰だ、今日の日替り考えた奴!」
「お前だ、お前! 自分で日替り担当になったんだろう!」
嗚呼、後悔先に立たず、というやつだ。
俺はその時俺が食べたいものしか作りたくない。
それが元で初日に五回の口論と百三十七回の無敵回復をする羽目になった。
最終的に作りたいものを作った方がモチベーションが上がり、それ以外を作るよりも段違いに味がいい事から日替り定食を任されたのだった。
それに、その時俺が食いたいもの、というのは、その日の天候・気温・湿度・気圧を考慮し、何が美味く食べられるか計算している。どうせ、食べさせるのなら、自分でも食べたくなるものがいいだろう。
尤も、やる気がなくとも、俺の料理は美味いのだが。
「解放! 苦情!」
苦情? 俺の料理にか。いい度胸だ。全回復してやろう。
厨房からカウンターに向かう。
「ちょっと! スプーンついてないんだけど!」
なるほど。
甘ちゃんめ。
食事という物がわかっていないらしい。
教育してやる。
「スプーンなんぞ使って食わせたら、金属の味で俺の料理が完全に楽しめないだろうが! 大体、食事ってのはな、五感全てを駆使して楽しむもんだろうが。最近の餓鬼はスプーンだの箸だの言うから困る。手で食え。手で味わえ。そっちの方が断然美味い。嘘だと思うならここで試せ」
スプーンを生徒に渡す。
大人しく、カレーを味わう生徒。
瞬間、生徒の顔面に広がる喜悦。
美味そうな顔に俺は満足しない。むしろ、腹が減る。
「次は手だ」
頷いて、生徒はカレーをサフランライスに絡め、口に運ぶ。
嚥下から、何かに気付いたのかもう一度スプーンでカレーを食べる。
「金属味が気になっただろ。それに、だ。手で……触覚を使って先に食べ物の感触を味わえば、より食べ物の食感が味わえるだろう。食べ物の歯ごたえや感触が想像できるだろう。わかるか? それが手で味わうって事だ」
生徒は何も言えずに頷く。
わかったなら、とっとと席にいけ。
後ろがつっかえてるだろうが。
「わかったなら、さっさと席にいけ。俺は俺が美味いと思うものをお前だけじゃなく他の連中にも配らなきゃならんのだ。まぁ、また食いたくなったらおかわりでも何でもくるといい。お前の為だけに作っているわけじゃないが、俺の料理でお前の顔をほころばせる為に振舞ってやるさ」
「は、はい」
生徒はターリーを持って既に確保してある席に歩いていった。
さて、盛り付けに戻ろう。
そう思い、カウンターから厨房に戻ろうとするが、こちらに向かって送られる拍手に気がつき、もう一度、食堂の方を見る。
そこには一人の生徒が立っていた。
だが、その目には爛々とした何かを宿していた。
「素晴らしい。いや、素晴らしい心掛けです。ですが、そのカレーは本当に私の舌を満足させるだけのものがありますかね?」
周囲の生徒が、さばだ、さばカレーだ、等と声を上げている。
どうやら、目の前の生徒が学内で噂のカレー狂いらしい。
面倒臭いのに絡まれたものだ。
「料理の美味い不味いは口で語る事じゃないな。試したいなら、注文すればいい。無駄口なんぞ叩いていないでな」
「なるほど、その態度は自信あり、と受け取りました。では、ターリーを一つ、頼みましょうか」
そう言われ、サフランライス、ナン、ヨーグルトサラダ、五種類のカレーを盛りつけたターリーをさばカレーに渡す。
「……ふむ、グリーンカレーに汁気のないじゃが芋のカレー、チキンカレー――」
「ここで食うな。邪魔だから」
「……失礼!」
さばカレーはターリーを持ってどこかで見た事がある生徒が確保していた席へ向かった。
やれやれ、本当に面倒臭い。
まぁ、何が面倒臭いと言えば、さばカレーという生徒よりも、先ほどのやり取りの間に更に増えた注文の対応だが……。
「カレー定食まだー?」
餓えた学生の群れ。
仕方ない、少しばかり本気を出そう。
「おぉぉぉぉるふぁぁぁぁぁっっっく!」
「叫ぶな、うるさい!」
ひたすらにカレー定食を盛りつけ、生徒に渡していく。
学生食堂の忙しさは異常だ。
というよりも、明かに食堂のキャパシティよりも多くの生徒が押し寄せている。
少しは購買に行くなどとは考えないのだろうか。
俺の作業量を減らせ、と言いたい。切実に。
「ごめんね、スーちゃん。お弁当作るつもりだったのに、寝坊しちゃって」
「澪と一緒にご飯食べられるだけで私は幸せだよ。それに、このカレー定食、美味そうですしね」
弁当作れ。
そして、俺の作業量を少しでも減らせるよう尽力しろ。
バカップルめ。
カップルは消毒だー。
「ちんちくー、そのカレー辛いぞー」
「うっさいです! おぼろんの社会科の成績、落としてやります!」
「ちょ、洒落にならねぇ!」
それは職権乱用だ……が、別にどうでもいい。
「おかわり!」
ああ、そうか。気に入ったのか。
誠にありがとうございます。
だが、帰れ!
俺の作業を増やすんじゃない。
ファックオーフ。
と、どうやら、注文は粗方、片付いた様だ。
おかわりに来る連中以外は大体、席についている。
それを見て、盛り付けの手を休める。
そんな僅かな休息の中、先ほどのさばカレーが近づいてくる。
そして、カウンターに着くなり、両手を広げて叫ぶ。
「素晴らしい! このカレーならば、俺の七十二の悪魔に入れてもいいくらいだ!」
七十二?
どうやら、俺のカレーと同格のものが七十二もあるらしい。
「どうしたんですか? 不満そうな顔をして。七十二の悪魔は最高峰なんですよ? むしろ、光栄に思ってください」
光栄?
七十二の同格がいるのにか。
いいだろう。口も聞けないくらいに全回復してやる。
「まだ食えるか?」
「え、ええ、まぁ」
「それなら、そこで待ってろ。最高を教えてやる」
そう言い残し、厨房に向かう。
途中に何やら、色々と言われた気がするが、そんな事はどうでもいい。
ただ、俺のカレーが最高だという事を知らしめてやる、それしか頭にない。
即座にスパイスを調合。
鍋では玉葱の甘味が最大限に出るまで炒める。
それが終ったら、羊のひき肉と調合したスパイスを投入。
ひき肉の色がいい具合に変わり次第、トマトピューレ・グリーンピースを入れ、更に水をひたひたになる程度に入れてしばらく煮込む。
二~三十分の時間がかかるが、気にする必要もない。
煮込んだら、味を整えて、キーマ・マタールの完成だ。
無論、ただのキーマ・マタールではない。
それを皿に盛りつけ、律儀にも待っていたさばカレーに渡す。
さぁ、味わうがいい。
「いただきます」
さばカレーが一口、キーマ・マタールを食べる。
口に入れた瞬間に、さばカレーは電撃が走ったかのような、そんな動きをし、次の瞬間にはキーマ・マタールを両手で、何も言わず、ただ貪る様に食べる。いや、食う、と言った方がいいか。
美味い、そんな言葉すら上げず、さばカレーはひたすらに貪る。
そこに知性や理性などは完全に感じられない。
目の前のキーマ・マタールを喰らう。その行為に狂気すら感じさせる。いや、狂気しか感じさせない。
さばカレーの目は剥かれ、開いた瞳孔は餓鬼のそれを思わせる。
しかし、その姿を誰もがおかしいとは感じていない様子だった。
それもそうだろう。既にこのキーマ・マタールの匂いが狂気を振り撒いているのだ。
そう、このキーマ・マタールは食した者に盲目白痴、暗愚の実体、アザトースの如き狂気を齎すものだ。
強烈な食欲をそそる匂いを嗅ぐだけで、その料理の事しか考えられなくなり、一口食べれば賞賛の知性も理性も言葉すらも忘れ、ただひたすら、醜くも食べる事しか考えられなくなる。
そんなキーマ・マタールだ。
食べ終わったさばカレーが、皿を差し出す。
おかわりの要求らしい。
だが、その要求には応えられない。
「それ一食で終りだ。それ以上は作っていない」
その言葉を理解したのか、さばカレーが叫びを上げる。
いや、キーマ・マタールの匂いを嗅いだ者達、全てが叫びを上げていた。
既に皆、正気ではない。
このキーマ・マタールは確かに美味い。最上にして究極、そして至高の味だ。
しかし、それ故に最大の欠点があった。
美味過ぎるが故に、脳内麻薬の分泌が異常に起き、それを食べる以外に思考が回らなくなる事だ。それだからこそ、美味過ぎるものを食べたものは皆、アザトースと形容される。
そこまでになった者達が食べられない事を悟った後の行動は一様にして同じだ。
暴動。
俺はそれを予測して、すぐさま無敵状態になる。
暴動を起こした生徒と教師達が厨房に雪崩れ込む。
キーマ・マタールを作った鍋はまだ洗っていない。
それに僅かに残っているものを舐めに行くのだろう。
よく見れば、さばカレーが食べた皿を奪い合い、舐め合う姿も確認できる。
美味過ぎるものというものは存在するだけでも罪。
それを理解した俺は、そっと厨房を後に――
「そこまでよ!」
気がつけば、暴動を起こしている者全てに刃の潰されたナイフが襲いかかっていた。
そんな生半可な攻撃では、脳内麻薬の異常分泌で興奮状態にある人間に痛みも与えられない。
そう思ったのだが、ナイフ達は確実に脳天を撃ち抜き、その衝撃で脳震盪を起こして、暴動を起こす者達を眠りにつかせていく。どうやら、アザトースを封じる旧神は近くにいたようだ。
なるほど、この腕があれば、この無茶苦茶な学園の生活指導をやっていける筈だ。
等と感心していると、投げられたナイフ達の主が俺の前にいた。
「さて、全解放さん、何故、暴動が起きたのかしら。説明してもらえる?」
恐怖の生活指導教諭、旧神、瀟洒!の威圧ある笑み。
その笑みは、全てを知っているようだった。
俺は、思わず、それに気圧される。
「あー、いや、何ででしょうねー」
惚ける俺。
笑みを強める瀟洒!
口元から僅かに覗く犬歯が恐ろしい。
「もう一度聞きますよ? 何故、暴動が起きたのかしら」
「……さて、俺にはわかりまね――」
「そう、貴方にもお仕置きが必要ね」
気がつけば、周囲はナイフに囲まれている。
ああ、終った。
そう思う暇すらなく、俺の意識は深遠へ、無名の霧へ落ちていくのだった。
その後、アザトースは旧神の説教によって完全に封印されたのだった。
二話
風が吹き抜け、学園の中庭に植えられた草木を揺らす。
空は晴れ。雲一つもない青一色。
空気は冷たい。冬だから、と言えばつまらないが、実際にそうなのだから仕方ない。
普段なら嫌な顔をしたくなる冷たさだが、今だけはその冷たさが有難い。
厨房は暑い。温かい料理。それを温める火。そんなものに囲まれた場所は暑いに決まっている。おまけに、あの殺人的なまでの忙しさだ。料理を作り終われば、後は盛りつけるだけと言えども、相当な運動になる。
そうして上がった体温を冷ましているわけだ。
しかし、こうしてただ体温を冷ますだけというのも暇だ。
煙草、でも吸えればいいのだが、生憎、吸う気はない。というよりも、よくもまぁ、あんな不味いものを吸えるものだ。舌が馬鹿になる。
じゃあ、そのまま突っ立っているだけ、というのも嫌だ。
というわけで、購買からロリポップキャンディを購入してきたのだった。
早速、封を開け、口にする。広がる安っぽい味。まぁ、百円ならこんなものだろう。米国の奇抜な色調の、身体に悪そうなキャンディよりは遥かにマシだ。
「やっぱり、解兄だ」
声をかけられ、振り向く。
そこにはさばカレーに絡まれた時にさばカレーの席を確保していた、どこかで見た事がする、ネちょ学制服を着た少女がいた。
「……あー、ひょっとして、ぽきか」
遠目で見ただけでは思い出せなかったが、目の前に来て解兄と呼ばれ、ようやく思い出した。
ぽきは俺の妹だ。
二年振りの再会だが、まさか、ここまで見違えるとは思わなかった。
成長期とは恐ろしいものだ。
もし、俺を解兄と呼ばなかったら、判断するものが桃色の髪と中学の頃から無駄に大きかった胸しかない。
「解兄……。今まで、どこに行ってたの」
俺は、何も言わずに世界放浪の旅に出た。
それでショックを受けたのは間違いなく、ぽきが一番だろう。
早逝した母親の代わりにぽきを育てたのは俺だ。
父親はシングルファーザーの重みに耐えられず、仕事に逃げてしまった。
ぽきを育てるのは、俺しかいなかった。
幸い、父親は家に金だけは入れてくれるので、何の不自由もなく生活できた。
しかし、俺もぽきも親の愛情は十分には受けられなかった。
俺はまだ、母親が生きていた頃に厳しくも甘やかされた記憶がある。ぽきにはそれがない。
そんなぽきは何時だって、俺の後ろに付いて回った。
それだけに、いきなり俺が旅に出て一番、パニックを起こしたのはぽきだったと言える。
とはいえ、それでどうしようもなくなったりするほど、俺に依存するような育て方はしていない。
一週間かそこらパニックを起こしただろうが、それ以降は立ち直ったはずだ。
現にこうして、しっかりと成長し、元気な姿でいる。それが何よりの証拠だ。
しかし、おっぱいでけぇ。
「色々と」
世界中、気の向くままに旅したのだ。
色々としか答えられない。
俺の様子を見て、訊いてもこれ以上の答えは返ってこないと判断したぽきは、一つ溜め息を吐いてもう一度、俺の目を見る。
「何で、出ていったの?」
目を逸らす。
僅かな沈黙。
「どうして?」
ぽきの縋るような目。
やはり、俺がいなくなって寂しかったのだろう。
「家にいるのが、嫌になったの?」
「……そういう訳じゃない」
本心だ。
親父は仕事に逃げたし、妹の世話は正直、可愛いとはいえ堪えた。
それでも、あの生活が嫌だとは思わなかった。
「それなら、なんで……」
理由は言えない。
何故、言えないか。
それは俺が男だから、としか言えない。
つまらないプライドだと思うが、それが俺を大きくしてきた部分もある。
沈黙が、場を支配する。
心地好かった冷たい空気は、今では絶対零度に感じられる。
ぽきの視線は刺さるような鋭さはない。
だが、その視線は俺に居心地の悪さを確実に感じさせる。
何か、適当な理由をでっちあげなければ。
そう思うが、思考は上手く回らない。
それから、どれくらい経っただろう。
恐らく、一分か二分そこらだ。
居心地の悪い空間は確実に時間感覚を狂わせ、過ぎる時間を長く感じさせる。
早く、この場から離れたい、そう思っている時に、救いの神が現れた。
「あー、全解放さん、ここにいましたか」
現れたのは教頭、てんこあいしてぬ。
行き倒れていた俺に職と住家を与えてくれた恩人だ。
そのくせ、割りとフランクで敬語で話すと堅苦しいからいらない、と言った大物でもある。
「取り込み中でしたか?」
「いや、兄妹の会話なんで。ぽき、その話は今度だ」
そう言われ、大人しくぽきは引き下がる。
俺とぽきの話はあくまで一家の内輪話で、他人に聞かせるようなものではない。
だから、教頭が来た時点で、ぽきは引き下がるしかなかった。
ぽきがその場を離れた事を確認してから、俺は話を切り出す。
「で、何か用事でも?」
「ああ、実は頼みたい事がありまして……」
――第二話 「甘い笑顔に溶けていたい」
嗚呼、神よ。
何故、俺にこんな面倒臭い役目を押しつけるのですか。
夜。
学園。
夜景がロマンチックな部屋。
何故、こんな部屋があるのか疑問が尽きないが、この学園に疑問を抱いたら負けだ。
「あー、そろそろ、いなくなってもいいか?」
「まだ、いてください。喋ってないと、色々と……」
無駄に緊張する教頭。
というのも、愛しの彼女に告白するらしい。
確かに、緊張もするだろう。
とはいえ、俺もここに居続けるわけにもいかない。
俺の役目はあくまで、美味いディナーを用意する事であり、告白を見届ける役ではない。
「しかし、俺がここにいても、どうしようもないだろう」
「そうなんですが……」
深呼吸をする教頭。
「よし、頑張ります」
教頭の引き締まった表情を見て、俺は部屋を後にする。
「しかし、恋人か……」
呟いてみて、昔を思い出す。
俺にはかつて、恋人がいた。
思い出すと、胸が少しばかり痛む。
「駄目だな。昔を思い出しても仕方ない」
だが、思考は止まってくれない。
恋人は、俺と同じ職場で働いていた。
同時にそこのシェフの一人娘でもあった。
付き合っていた期間は二年。
結婚も考えていた。
だが、別れた。
別れ話は、恋人から切り出された。
俺は、恋人に暴力を振るった事は勿論、大声で怒鳴った事もない。
ただ、二人で静かに過ごしただけだ。
恐らく、それがいけなかったのだろう。
俺は恋人の為に料理しかしなかった。
流行りのデートスポットを調べたり、遊園地で楽しんだりと、そういった事は一切していなかった。
それは、俺の挑戦でもあった。
恋人をそんな事に二年も付き合わせてしまった事は、謝らなければならないと思う。
それもせずに逃げるように国から旅だった俺には、もう会う事すら許されないだろう。
……。
溜め息を吐く。
せっかく、カップルが成立するかもしれん時に何を考えているんだ。
「おぉぉぉぉるふぁぁぁぁぁっっっく!」
気分転換に叫ぶ。
それから、深呼吸。
落ちついたところで周りを見れば、既に手にはワインを持っていた。
どうやら、考え事をしていた最中にも仕事はしっかりしていたらしい。
尤も、ずっとこんなことをやっていたのだ。体に染みついているのかもしれない。
さて、後はこれを持っていくだけだ。
廊下を歩き、教頭とその思い人が待つ部屋へ向かう。
……あれは誰だ?
そう思った瞬間に、金髪の人間の理想を詰め合わせた人形のような容姿の女性が横を通り過ぎていった。
走ってきた方向は、教頭が待つ部屋だ。
状況を考えるに、あれが教頭の思い人なのだろう。
追いかけるべきなのだろうか。
しかし、僅かだが見えた顔には、涙が外の月の光を反射していた。
追いかけるべきではないのだろう。
少なくとも、俺が追いかけるべきではない筈だ。
追いかけるべきなのは、そう教頭だろう。
あの教頭が、女を泣かせるような告白はしないだろう。
そう思うからこそ、俺は教頭を回復してやるべきだと思い、走って料理を取り、教頭がいる部屋へ向かった。
ドアを開けると、そこには落ちこんだ教頭がいた。
その姿に、かつての、別れ話を切り出された時の俺を重ね合わせてしまう。
恋人は、俺を勝手な男だと評した。
それもそうだろう。
ただ、恋人を自分の料理を食べさせるだけの存在の様に扱えば、そう言われるのは仕方のない事だ。
だが、本当は違うのだ。
俺は、俺の一番を常に恋人に味わっていて欲しかったのだ。
恋人は、俺の料理が一番好きだったわけではない。好きだったのは俺だ。
それを知っていて、俺は敢えて、恋人に何もせず、ただ料理だけを作った。
料理は俺の魂だ。
料理に俺の人生の全て賭けていた。
だから、料理だけで恋人に愛を囁いていた。
ずっと、愛情は伝わっていると思っていたのだが、結局、そんな事はなかった。
愛情は、同じままでは色褪せて、鮮烈さを失ってしまう。
つまりはそういう事だ。
俺は、恋人に自己満足をただ強いただけだった。
愛想をつかされて当然だ。
しかし、目の前で落ちこむ教頭は、まだそこまで致命的なところに至っていない。
擦れ違った女の涙は、嫌だったという理由ではないのだ。
だからこそ、俺は、教頭を回復してやらなければならない。
「教頭。食え」
今日のメインディッシュのを教頭の前に置く。
「全解放さん……」
「黙って食え。全回復とはいかないが、少しはましになるだろ」
そう言われ、教頭は少しずつだが、料理を食べ始める。
「……今から言うのは、ただの独り言だ。聞き流しながら食え」
教頭が頷く。
「どんな酷い事を言われたかは知らないが、あれはまだ脈がある。というか、あれは好きだからこそ、だな。もう、勢いで恋をするような歳でもないんだ。十代の時のような衝動はない。好きになって、付き合って、その後がどうなるか不安なんだ。好きだからこそ、付き合って受け入れられなかった時が怖いんだ」
そう、どんな歳になろうと、好きな相手に振られるのは、とても痛い事だ。
俺もいい歳をして、失恋旅行で世界放浪などとやらかした。
それは、恋人を繋ぎ止められなかった自身の料理をより高みに上げる目的もあったのだが、どちらにしろ、恋人という存在を無視した情けない結果によるものであるのは変わりない。
「コンプレックスがあるんじゃないか? よくは知らないが、普通に告白して、ああなら、その可能性が高い。それを食い終わったら、何事もなかったように押せ。相手を信用させられるまで行くしかない。本気ならな」
本気かどうかなど、確認する必要もないだろう。
だが、敢えて挑発する様に言ってやった。
「わかってます。そんな事を言われなくても、わかってますよ。どれくらい好きだと思ってるんですか」
「知らん。だが、回復はしたみたいだな」
食べ終わった皿と、教頭の笑顔。
「まぁ、頑張れ。あの様子ならもう一押しだ」
そう言い、使った食器を片付け、俺は部屋を後にする。
「ありがとうございます。確かに全回復しましたよ」
去り際に言われた台詞に俺は満足し、笑みを浮かべる。
人生の苦味も、確かなコクを生み出す旨味だ。
避けるものではない。
ただひたすらにコクを生み出すこんな夜も悪くはないだろう。
三話
「解兄! セレロンさんのお化け屋敷に行こう!」
文化祭。
この学園では無駄に年三回の文化祭がある。
どれだけ、祭好きなんだ。
本来ならば、食堂にて飯を作れねばならない筈だが、何故か俺はぽきと文化祭を見に回っていた。
というのも、こういう時くらい家族サービスをしろ、という事で無理矢理、休暇を取らされたのだった。
「解兄ー!」
はしゃぐぽき。
……おっぱいでけぇ。
動く度に揺れる揺れる。
ノーブラか? ノーブラなのか? お兄ちゃん、そんなの許しませんよ。
しかし、家の家系は着物が似合う程度に慎ましやかだった筈だが……。
そうか、俺の料理か。ぽきは俺の料理で育ったから、間違いない。
つまり、俺の料理には豊胸効果があったのか……。
今度、ちんちくにでもそう売り出して一儲けしよう。
それには、我が愛する妹様の助力が必要不可欠だ。
脳内再生開始。
ちんちく「本当におっぱい大きくなるんです?」
俺「そりゃもちろん。だって、あれを育てたのは俺の料理だぜ?」
ぽき「お、お兄ちゃんの料理で……こんなに……その……お、おっぱいが大きく……なりました……」
俺「おっぱいおっぱい!」
ちんちく「おっぱいおっぱい!」
我ながら完璧だ。
五十万は引き出せるね。間違いない。
ありがとう、ちんちく! ありがとう、俺の料理!
そして、おっぱいおっぱい!
そうと決まれば、早速、ぽきに話を持ちかけなければ!
「ぽき、ぽき」
「何? 解兄」
「実は、頼みがあるんだ」
かくかくしかじかちんちくエロ変態あいしてる!
……。
…………。
………………。
殴られた! 何故だ!
――第三話 「上弦の月」
「いってぇ……」
「解兄が悪い」
麗しい兄妹愛で協力してもいいじゃないか。
上手くいけば、お小遣いだって出してやれるのに……。
「あ、軽音部の出店だ!」
そう言ってぽきが無邪気にその軽音部の出店に走っていく。
揺れるおっぱい。
おっぱいおぱーい。
「解兄、ここでご飯奢ってくれたら、許してあげるよ!」
ああ、何て単純な妹だ。
思えば、昔から食い意地が物凄い張ってた気がする。
そもそも、物凄い大食いだった気がする。
少し前に、ポコピンなるもにゅもにゅしたよくわからない生き物を見て、涎をたらしていた記憶がある。
……あれ、食べられるものなのか?
それはともかく、そのくらい食い意地が張っている。
親父が仕事に専念してなかったら、エンゲル係数で家計が逼迫するところだったな。
親父……あんた、とっとと子育て諦めて仕事に逃げたの、正解だったよ。
「軽音部の上弦さんの料理、とってもおいしいんだよ!」
我が妹に美味いと言わせるだと……!?
大食いの癖に一際、味にうるさい妹に美味いと言わせるだと……!?
上弦……何者だ……!
「わかった。ぽきにそのくらい言わせる料理っていうのに俺も興味ある」
「じゃあ、カレーに焼き蕎麦にスパゲティにおにぎりに……」
頼み過ぎだ妹よ。
というか、これで妹一人分だから恐ろしい。
「あ、全解放さん」
妹が注文している最中に料理を盛りつけている男に話しかけられた。
どこかで見た事があると思ったら、昨日の嫁にしたい人ランキングで見事一位に輝いた上弦だった。
男なのにそのランキング一位に輝くのはどうなんだ。
「ああ、誰かと思ったら、嫁か」
「はは、勘弁してください」
まぁ、男であのランキングを制するのは不本意だろうな。
「あ、何か食べます?」
「ん、ああ、じゃあ、肉じゃがを貰おうか」
嫁、というイメージで思わず肉じゃがを頼んでしまう。
「肉じゃがですね? 俺、得意なんですよね」
そう言って笑う上弦。
嫁じゃねーか。
「どうぞ、熱い内に食べてください」
渡される肉じゃが。
それを受け取ると、ぽきに声をかけ、金を払う。
「……お前、絶対、頼み過ぎだ」
「だって、おいしいんだよ!?」
こいつの食い意地はもうどうにもならん。
溜め息を吐いて、ぽきの頼んだ料理を半分持って、適当に座れる場所へ移動した。
「さて、どれだけ美味いか、試してみるか」
座ってすぐに食べ始めたぽきを尻目に、俺も得意だと言っていた肉じゃがを味わう。
なるほど。ぽきを唸らせる事はある。美味い。
が、俺ほどではないな。
まぁ、素人とプロじゃ力差がありすぎるな。
しかし、何だろう。
確実に俺よりは美味くはない。
だが、俺よりも美味いと感じさせるものが、何かある。
何だろう。
正体を明かす為にもう一口、もう一口と食べるが、全くわからない。
「上弦さんの料理って、全然、解兄の料理と味が違うのに、懐かしいんだよね」
黙々と食べる俺の様子を見てぽきが笑っていた。
懐かしい。
ぽきは俺の料理で育った。
つまり、俺よりも美味いと感じさせる要素の正体のヒントはそこにあるようだ。
「何て言うのかな。解兄の料理は確かに美味しくなったんだけどね。でも、なんだろ。暖かさ、て言えばいいのかな。そういうのがなくなっちゃった気がするんだよね」
ああ、そうか。
なるほど。正体がわかった。
流石、嫁にしたい男だ。
俺よりも美味いと感じた原因は、暖かさだ。
つまり、家庭的な味、という事だ。
それは、二年の世界放浪で俺が完全になくしてしまったものだ。
俺はいつしか、自分の為だけに料理を振舞うようになっていた。
自分の食い扶持を稼ぐ為、自分の自尊心の為、他人の事など考えず、ただ美味いものだけを求め続けていた。
そんな自分勝手さが俺の料理の象徴となっていた。
嵐のような料理。
それが最後に俺の料理に送られた感想だった。
確かに美味いのだが、人を振りまわすような料理。
ジェットコースターのようなスリルはあるが、遊園地を出てしまえばそれまでの、夢幻の料理。
確かな暖かさを持つ、この肉じゃがには敵わない筈だ。
俺の料理は、心に染みるような深みがなくなってしまっていたのだから。
……もしかしたら、俺にもこんな料理を振舞い、振舞われる日々があったかもしれない。
しかし、それはもう叶いはしないもしも、だ。
昔の恋人は、もう他人の女房だ。
仕事から帰ってきて、心に染みるような、愛情の篭った料理とかつての恋人が待っているなどというもしもはもう、潰えた。
俺は、これからも料理を作らなければならない。
何かを失っても、俺にはこれしかないからだ。
……肉じゃがが目に染みる。
天を仰げば、青い空がただただ広がっていた。
そうして、肉じゃがを味わい、俺は一言言いに、もう一度、上弦を訪ねた。
「美味かった」
「あ、ありがとうございます。……あ、今度、料理教えてもらってもいいですか?」
「ああ、何時でも来い。一人前の嫁にしてやるさ」
そう言って去ろうとしたところに、不穏な気配を匂わせる狐耳があった。
ちんちくだ!
「ふふ、全解放×上弦……ごちそうさまでした……」
逃げようとするちんちく。
しかし、逃がす筈もない。
「うぁー! 離せー! 離せー! ウチには全解放×上弦を世に知らしめるという崇高な使命がー!」
いらん使命だ。
「よし、上弦。今から狐鍋の作り方を教えてやる」
「わかりました! 勉強させてもらいます!」
全く、腐女子はいい話すらもそちらに持っていくから困ったものだ。
四話
二月十三日。
テレビに色恋は素晴らしいと踊らされ、菓子会社に好きな人にチョコを送ろうと唆された女子達が今年もチョコレートを求め東奔西走する。
最近では女だけでなく男もそうらしいが、まぁ、どうだっていい事だ。
昔、恋人に手作りのチョコレートを贈られた記憶があるが、あの時は普通に出来の批評をした。
同じ料理学校に通っていたから、味見として渡されたの思ったのだ。
結果、怒られた。
今思えば、よくもまぁ、二年ももったものだ。
我ながら感心する。
にしても、手作りチョコか。
今日は穣子は家内という家庭科の教師がチョコレート作り講座をやっているらしい。
俺も講師役として誘われたが、傍にいたちんちくに俺は講師には向かないと言われ、なしになった。
俺も講師役には向かないと思うが、ちんちくに言われると妙に腹が立つ。
まぁ、そんな事はどうでもいいのだ。
今現在、目の前にある問題に比べれば些細な事だ。
「あー、畜生! 面倒臭ぇぇぇぇぇぇ!」
誰だ、バレンタインには売れるからって、購買にチョコレート作って卸すって言った奴!
……誰もツッコミがいねぇ!
ふぁっく、ふぁっく、ふぁああああぁぁぁぁっく!
畜生、俺だよ。言ったの。
暇潰しに作ったチョコレートが思いの他、出来がよくて上機嫌になったのがそもそもの間違いだ。
その後、この喜びを伝えるべく、購買の幼女に話を持ちかけた結果がこれだ。
ふぁっく、ふぁっく!
俺の料理が美味過ぎるのが一番悪い。
俺って何て罪な男だろう。
……阿呆な事考えてないで作ろう。
「あー、いたいた。おーい」
……げぇ! 冥王!
――第四話 「おとめキッチン」
予期せぬ面倒事は何時だって起こり得るものだ。
例えば、教頭と泥酔がいきなりアンコウを捌いて鍋にしろと持って来たり、教頭と泥酔がてっちりを食べたいからと言ってトラフグを捌かされたり、教頭と泥酔が酒のつまみがないと俺の秘蔵の肴を奪っていったり……。
全部、あいつらじゃねーか! 最悪だ!
あいつ等に比べれば、遥かに冥王の方がマシな気がしてきた。
「あー、違う。それ以上、突っ込むとせっかくのガナッシュなのに、チョコの風味が弱くなる」
「なるほどねぇ」
現在、冥王にチョコレート作りを教えながら、売り物のチョコレートを作成中。
取り敢えず、冥王にはボンボン・ショコラを作らせている。
ボンボン・ショコラというのは、中に詰め物をした一口サイズのチョコレートだ。
丁度、俺が作っている売り物と同じものなので、それにした。
因みに俺が作っているボンボン・ショコラの中に入れるものには蜂蜜や果物のピューレが主で、冥王が作っている物の中身は洋酒やリキュールが中心となっている。
恐らく、同僚かそこらにやるのだろう。
「ところで、誰に贈るんだ?」
「ぶしつけだねぇ」
ぶしつけと言われても、それくらい訊く権利はあるだろう。
少なくとも、無償で物を教える趣味など、俺にはない。
「まぁ、教えられてる事だしね。……緋雨だよ。同じ用務員の」
ああ、どこからか投げられる鎖鎌を片手で受け止めつつ、何事もなかったかのように草刈してるあの人か。
……何か色々とおかしい。
まぁ、いいだろう。
教頭とかも何か、殴られたり踏まれたりしてるし。
「そういえば、何で俺のところに来たんだ? 家内先生だったかが手作りチョコレートの特別教室があっただろうに」
「ああ、あっちいったら、ばれるし。今年はなしってあいつに言ってるしねぇ」
つまり、サプライズというやつか。
落としておいて上げる。
まぁ、基本だろう。
尤も、俺からすれば、まどろっこしいとしか思わないが。
「いやー、付き合いが長いとねー、そういう吃驚でも用意しないと新鮮味がなくなるんだよねー」
冷蔵庫から何故か声が聞こえる。
「おー? 開かねー! うにゅほー! 閉じ込められちったー!」
ああ、頭痛がしてきた。
しかし、取り敢えず、救助はすべきだ。
冷蔵庫のドアを開ける。
中には案の定、泥酔と冷蔵庫に仕舞っておいた酒達の残骸が転がっていた。
「おー、悪いねー。お酒飲んでたら閉じ込められちってさー」
俺は頭を抱える。
俺秘蔵の酒も含まれていたからだ。
酒の残りは、冥王がチョコレート作りに使っている物しか残っていない。
「いやー、美味かったー! あ、お礼にこれを上げよう! ホワイトデーはマンションね!」
渡されるチョコレート。
いや、待て。ふざけんな。
これ、俺が作ったやつじゃねーか。購買で売ってるやつじゃねーか。
というか、これでマンションとか何倍返しだよ。
「あー、そうそう、せっちゃん。ひーちゃんといると楽しー?」
「楽しいっていうか、楽しむ努力をしてるね。好きになるっていうのは、一緒にいて楽しいからじゃなくて、一緒に楽しみたい、ていうのだからねぇ。私はあいつと一緒に人生を楽しみたい。だから、こうしてサプライズを用意してるわけさ」
ああ、そうか。
結局のところ、デートも何も一緒に楽しむ為のエッセンスなのか。
ただ愚直に自分の一番でだけ接していても、いずれはそれが当然になって一番もその地位を保てなくなっていくのか。
にも関わらず、昔の恋人は二年も俺と楽しみたいと、待っていてくれたのだ。
なんと情けない事だろう。
結局、俺は好意に甘えてだけに過ぎなかった。
何かしたとしても、それは俺の我が侭でしかなかった。
彼女が俺に下した最後の評価を思いだし、心が震える。
馬鹿だな。
今更、そう思っても遅い。
ならば、せめて、チョコレート作りを真面目にやろう。
まだ見ぬカップル達を祝福する為に。
「だってさー。聞いてるー?」
真面目にチョコレート作りをしようとしたところに泥酔がどこかに話し掛けていた。
そちらの方向を見ると教頭の恋人の……大江戸ハーマイオニーだったか……と何時も薬膳料理を食わせてやっている喘息全開!、ちんちく、埋めたて養護教諭、恐怖の生活指導教諭、他にも教師陣が沢山がいた。
どうやら、泥酔は冷蔵庫に閉じ込められていた時から、これらの存在に気付いていたらしい。
恐らく、用件は冥王と同じ。
「はぁ、もう何人面倒見るのも同じだ。いいだろう。全回復させてやろう。成人乙女ども」
明日の主役は俺ではない。
回復してやるのも俺の役目ではない。
最近では男もチョコレートを贈るらしいが、やはり、バレンタインの主役は女だ。
そうして、乙女達に占領されたキッチンで俺はチョコレート作りを指導していくのだった。
【おまけ】
バレンタイン当日。
外では生徒会が、生徒の要望に応えてバレンタインチョコ争奪戦なるものを催している。
本当に祭好きな学園だ。
まぁ、それはどうでもいいとして……。
今日もチョコレート作りだ。
それも、泥酔にも嗅ぎつけられないところで保護していた特注の材料を使っての、だ。
さーて、頑張った俺へのご褒美にスィーツ作りでも頑張りますかね。
俺の腕なら無限に美味くできる。
いや、楽しみだ。
「おお、おったか」
作ろうとした矢先に声をかけられる。
厨房の入り口に目を向けると銀髪紅目の美人がいた。
狐耳と尻尾を見るに噂のちんちくの妹だろう。
遺伝子仕事しろ。
「わらわにチョコレートの作り方を教えて欲しいのだ」
……材料は頑張った俺へのご褒美分しかないんだけど。
しかし、おっぱいでけぇ。
しかも、ぽきの柔らかそうなおっぱいと違い、ロケットおっぱいだ。
ああ、なんというおっぱい。
「頼む、この通りだ」
遂には土下座をするちんちく妹。
そこまでされて断れば、悪役以外の何者でもない。
しかし、俺は俺の作ったチョコレートが食べたい。
「教えては、くれないのか?」
土下座で駄目と踏むと、すぐに色仕掛けに移行するちんちく妹。
まずい。非常にまずい。
ロケットおっぱいが腕に……。
そして、俺は考えるのをやめた。
気がつけば自分用のチョコレートの材料は一つも残っていなかった。
……男とは悲しいものだ。
後書き
はい、後書きです。
遂に全解放さん主役SSができてしまいました。
ご本人様から、書いてもいいよ、という許可が出たので遠慮なく書きました。
楽しんでいただけたのならば幸い。
そうでないのなら、ごめんなさい。私の力量不足です。
タイトルは最近買ったCD、asobi seksuを元にしました。
ボーカル日本人の洋楽シューゲイザーバンド(?)です。
興味がある方は適当に聞いてみてね。
日本語詞もあるから、聞き慣れない人でも大丈夫かもね。
……いや、業者の回し者じゃないっすよ。
……他に書くことない。
では、最後にご出演者の皆様と!
お付き合いいただいた読者様に最大限の感謝を!
ありがとうございました!
感想スペース
コメント欄:
- ダメだwwwこのキャラよすぎるでしょうwww 無駄にイケメンっぽい解放さんに万歳、しかしネちょSS見ててカレー食いたくなったのは初めてですよ(ノ´∀`*)ノ -- てんぬ? 2010-02-11 (木) 13:27:27
- 彼処からこのような話になるとは………!おおいに笑わせていただきました -- ファンネル@漏斗? 2010-02-11 (木) 13:41:35
- カレーだけでここまでの話を作るなんて・・・すげーw あ、出演ありがとうございます♪ -- レナ? 2010-02-11 (木) 13:54:18
- 一言、凄まじい! そして連載予定ktkr。゚+.(・∀・)゚+.゚ ばっちり期待してますので! -- マナ識? 2010-02-11 (木) 14:42:16
- 私が主役だと・・・しかたないエスカルゴを奢ってやろう -- 全解放? 2010-02-12 (金) 23:55:04
- 気付いたら2話目ができてるwそしてちゃっかり別の話と繋がってるww 面白かったですw -- リィ? 2010-02-13 (土) 11:58:31
- 二話が出来ていて驚きつつも、別の話に繋げるのがナイスと思いつつも。終わってみればおっぱいでけぇという心の声しか覚えていない俺に幸あれ、しかしこの兄妹は強すぎるから困る。 -- てんぬ? 2010-02-13 (土) 14:00:13
- 一話→か、解放さんがイケメン・・・!w 理想のコックさんな感じで不覚にもお腹が空きました← ドックンさんが以前孤独のグルメの話をしてたのはこれの伏線だったんですね・・・!w 二話→ゆゆ兄妹きたこれ← しかし心の声には吹きました、結局はそれですかー!w きゃ、ぎゃー!ら、らばえあに続いてる!w どちらも解放さんかっこよかったです、ふぁっくな意味で← -- 狐? 2010-02-13 (土) 14:06:39
- そしてこの3話であるw 私の上弦はまだ嫁にはださんぞー!← ともあれごちそうさまでしたw ラスト1話をまってます! -- マナ識? 2010-02-13 (土) 17:43:18
- そして『おきつね★ちょこれぇと』に続くと………GJ! そしてどうやって上げずに更新したのだろう、まあ私の書き込みで上がるんでしょうがね -- ファンネル@漏斗? 2010-02-14 (日) 16:56:19
- ドックンさんは管理者権限でひっそり更新できるのは知っていたけどまるで隠さなくてもいいじゃないかwww ファンネルさんのおかげで気づいたわw そんなわけで完結おめでとうです! おーるふぁっくー! 全滅した。。。。。← -- マナ識? 2010-02-14 (日) 18:26:39
- 他のSSと並行作業で書き上げられてるとかすごいw とりあえず4話よんで全解放さんのキャラが料理と(相手の)胸・・・・ですかww -- リィ? 2010-02-14 (日) 18:42:45
- いやはや!4話まとめて読ませていただきました!テーマ決まってると面白いですねホントw 読んだ次の日はカレーなのはで後として(ぉ 解放さんとは良い酒が飲めそうですねw -- B.B.? 2010-02-14 (日) 19:43:21
- 三話→ちょ、初っ端からうちに何させてるんですか!w うちだったらもっとバレないようにやりますよ!←違 上弦さん可愛い・・・嫁じゃないですか!← そして解放さんひどい!そりゃ殴られますよ・・・w だーかーらー、狐鍋は幻想の・・・はっ!?やだ、はなしっ、ぎにゃああぁぁぁ・・・ 四話→というわけで銀ちゃん登場ですわぁw さてぇ、刹那姉さんの台詞が印象的でしたわぁ。すごくいい言葉だと思ったわぁ・・・というか泥酔先生はカリスマ溢れすぎよねぇ・・・w おまけには私が出てたようだけどぉ・・・続編があるのかしらぁ? ともかく全解放さんシリーズ執筆お疲れさまでしたぁ、どれも楽しませてもらいましたわぁ、くすくす。 ・・・あらぁ?おきつねちょこれぇと、ってぇ・・・? -- 狐→銀狐? 2010-02-15 (月) 01:10:50
- 思わぬところで料理の情報ゲット!勉強になりました← 暫く作ってなかったですけど久しぶりにキーマ・マタール作りたくなりました そしてどうでもいいけどasobi seksuいいよね!(黙 -- 上弦? 2010-03-15 (月) 20:11:18
- とりあえずぽきちゃんの巨乳にふいた -- 泥酔? 2010-03-15 (月) 20:52:34