イベント/あざわる鮮紅

Last-modified: 2012-07-06 (金) 20:27:30

シナリオ/世界移動シナリオ-中世聖騎士編のイベント。


あざわる鮮紅

予覚・告白・帰還

……ブロントさんの様子がおかしい。
主人公が紅魔城を訪れて、第一の感想がそれだった。
サクヤやメイド達もそれを察し、そのせいか普段とはどこかぎこちない。
数分前、性格こそアレだが仕事においては非の打ち所がないサクヤが皿を落とし掛けた。
サクヤですらそうなのだから、他のメイド部隊はどのようなものかは推して知るべし。
主人公には今の紅魔城の空気全体もどこか混濁しているように思える。

 

そして、未だ帰らない主の存在が城に冷たい空白を残しているようにも感じられた。

 

……嫌な感覚だ。

 

持ち主を失った玉座を見つめる度にレミリアの安否が気になる。
あれから数週間経った。葬式に出かけるにしても・・・こんなに時間をかけるものだろうか?
と、背後に足音が響く。反応して無意識に振り向いた。

 

「……主人公か」

 

……ブロントさん

 

エルヴァーンの騎士が目の前に立っていた。その表情は暗く、何処か淀んでいる。
その背にはネガのオーラともダークパワーな感じとも違う、暗い影を背負っているように見えた。
雰囲気からして明らかに「こいつどっかおかしいんじゃね?」レベルでおかしい。

 

「エrミリアが来たのかと思ったんだが……」

 

……勘違いさせてごめん。
見た感じまだ帰ってきてないようだけど…………ところでブロントさん。
「……何か用かな」

 

……記憶取り戻しましたか?
「取り戻した」

 

そうですか葛藤すごいですね
「……それほどでもない」 

 

なんてことはない質問。ブロントさんは暗い表情でそれを肯定した。
取り戻したんですね、記憶。サクヤさんやレミリアも喜んでくれるでしょうに。嬉しくないんですか?
「……ああ。思い出さなければよかったと俺は深い後悔に包まれた」

 

……一体どうしたって言うんですか。
主人公の問いにブロントさんは暫く悩み、深い溜息をついて話した。

 

自分は一体何者なのか。
何故自分はこの辺鄙な地を訪れたのか。
騎士はそれらを重く、訥々と語った。胸の裡に溜まっていた黒い感情を吐き出すかのように。

 

『吸血鬼・スカーレットデビルを討滅せよ』

 

ランペール王から勅命を受けた彼の足取りは淀みなかった。相棒のベヒんもスを駆り、古き森へと向かった。
……誤算だったのは森を覆っていた霧が想像以上の濃さだということか。
探索中、足を踏み外し相棒と共に崖を転がり落ちる羽目になったのだ。その際の怪我が元で彼は記憶を失い……

 

そして彼女に拾われた。
森に住まう吸血鬼、レミリア・スカーレット。スカーレットデビルその人に。
最初、スカーレットデビルは冷酷にして残虐、狡猾にして非情の悪魔と聞いた。
しかし、実際にはどうだろうか?

 

……レミリアは吸血鬼だ。しかし人間に害を為す存在か。そう問われた時、はっきりとノウといえる。
だというのに……

 

「……俺は……あいつを手にかけなくちゃいけにい。君主の命令は絶対だから、果たさなくちゃいけにい
……俺があいつをPKする瞬間を考えた時俺は生まれて初めてビビった……
ナイトは高確率で最強なんだがこればかりはどうにもならないと怯えが鬼になっちぇまう」

 

血を吐くような勢いで告白、否叫んだ騎士は最後に呻くように呟いた。

 

「畜生……俺は馬鹿だ……」

 

主人公がどう話かければいいのか迷った僅かな時間。
そこに割り込むかのように紅魔城中に声が響いた。

 
 

「ただいま」

 
 

その声音とそれが紡ぐ四文字の言葉は、紅魔城城主レミリア・スカーレットが城へ帰還したことを意味する。
そして、

 

「お久しぶり、ブロントさん、主人公」
それは彼の騎士が決断を下さなくてはいけない時が来たことも意味していた。

 
 
 

「ごめんなさい、主人公。部屋を出てくれる?」

 

「……お願い」

Scarlet Sky Is Fallen Down

城の玉座の間。
そこで両者は遂に対面した。一方は塞ぎこむような表情で、もう一方は透明な微笑みを浮かべて。
「レミリア……」

 

ノーブル・テザー卿
「……!」

 

沈痛な表情を浮かべていた方、騎士の顔が驚愕に歪む。何故、レミリアがその名前を知っているのか。
その表情を紅い双眸で見つめ、レミリアは安堵したかのように微笑む。
「その様子じゃ……記憶、戻ったのね……」

 

「ルモリアお前何で……葬志貴にいってたんじゃにいのか?」

 

ブロントさんの質問にレミリアはそうしき?と呟いて、もっとマシな言い訳は言えないのかあのメイド長はと一人ごちる。
「……私がいない間にサクヤが何か言っていたかもしれないけど、あれは嘘。暫くサンドリアに行っていたの……ブロントさんが何者か知りたくて。吸血鬼の異能って使い道が限られてると思ってたけど、情報収集になると本気で役に立つのね」

 

「じゃあ……お前は知ったンのか?」
「ブロントさんは一体何者なのか。ブロントさんがここに来た目的も、全部」
レミリアから笑みが零れる。感情を押さえつけた様な、乾いた笑いだった。

 

「本当、笑っちゃうわよね。ついこの間までは一緒に紅茶を飲んで語り明かす間柄だったのに、本来は殺し合わなきゃいけない関係だなんて」

 

「……心底、呪うわ。神様なんて体のいい捌け口がいるのか私には分からないけど、それでも呪わずにはいられない」
「……「」確かにな。黄金の鉄の精神のナイトでも思わず自重が鬼なってしまった感」
一通り苦笑い。収まった後に暫しの静寂。やがて吸血鬼は語り出す。

 

「全部知った後、考えたの。この後どうすればいいのか。
貴方の正体がわかった、理屈でいえば危険が危ないから殺した方がいい。
でも困った事に私は貴方をとても気に入っている、できるならそんな真似はしたくない。
……じゃあどうしようか? ……そんな感じでずっと考えていてね。
おかげで帰ってくるのに時間がかかったけど、答えは見つかったわ」

 

「レミリアが……一体どんな答えを見つけたのか【興味があります。】」
騎士の問いを聞いた吸血鬼は長年秘めていた取っておきの秘密を打ち明けるかのように告げる。
「最高に冴えてない答えよ? ……貴方の記憶を奪い、そのついでに吸血鬼にする

 

「……」

 

「記憶を取り戻すことが不味いのならば、いっそ記憶喪失したままにすればいい。おまけで貴方を吸血鬼にすれば、故国に戻りたくても戻れないでしょう。
私は今までと同じくずっと、ずっと貴方と一緒にいられればそれでいい……例え人間を止めさせて、取り戻した記憶を奪ってでも」

 

私は欲張りだからさ、と続け、言葉を切った。

 

「だから吸血鬼らしいやり方で、欲しいモノは力づくで奪わせてもらうわ。
頭がおかしくなったと思う? そうよ、幾らでも狂ってもいい……
ブロントさん、私は貴方が欲しい……!

 

腕を振りかざし、胸中をぶちまける様にレミリアは叫ぶ。
ブロントさんは沈痛な表情でその姿を見つめた。

 

「……そるは『スカんレットデビル』の言葉か?」
「……ええ『スカーレットデビル』レミリア・スカーレットとして」

 

長い、長い、気の遠くなるような長い沈黙があった。
沈黙の間、ブロントさんは瞼を閉じ、険しい表情を浮かべる。

 

そして、

 

「…………もう 迷うのはやめにすることにした。……レミリア」
「うん」
「……俺は『スカんレットデビル』を倒すことに決めたんだが」

 

騎士の口から出た答え。
それを聞いたレミリアは穏やかな微笑みをうかべる。
迷いは微塵もなかった。

 

「……わかったわ、じゃあ……」「ああ だから……」
「本気でいくわよ」「本気だすぞ」

 
 

―― 一体何をやっているんだろう、自分達は。

 
 

レミリアの宣言を合図に紅い十字架の閃光が彼女を中心に炸裂。
そのまま天井をぶち抜いた十字架はエネルギーを持って空間に屹立、空中に燐光をまき散らす。
ガラガラと崩れおちる瓦礫。鮮紅が騎士の体をじわりと苛む。

 

「ぐうッ!」

 

その衝撃は城中の人魔妖の注意を向けさせるには十分すぎるものだった。
主人公とサクヤを始めとしたメイド達が此方にやってくる。

 

「お嬢様……!」

 

「来るなッ!!」
「ッ!」
対する吸血鬼は駆け寄る彼らを一喝、留まらせる。
外野を無視してレミリアはそのまま疾駆。勢いに乗った自身を騎士にぶちかました。

 

しかしその一撃は盾を構え下段ガードで固めた騎士には響かない。
だが押す。ひたすら押す。やがてその推進力に負け、騎士の体が宙に浮く。
がら空になった胴に吸い込まれる様に、鋭い蹴りが飛び込んだ。

 

天井の次は壁がぶち抜かれる。
破砕音が高らかに響き渡り、両者は城の外へ投げ出された。

 
 

――まるで悪い夢を見ている様だ。

 
 

舞台は城外の庭に移り、激しく攻防を散らす騎士と吸血鬼。

 

レミリアは魔力で生みだした深紅の槍を空中から垂直に一回転しながら捻る様に振り下ろし、対するブロントさんは盾を上段に構え、槍の一撃を受け止める。
爆音と荒れ狂う突風のダンスが庭園中を蹂躙。衝撃と共に拮抗する盾と槍。
槍が盾の表面を擦る度に火花と劈くような擦過音が飛び散る。ブロントさんは盾に全身全霊の力を込め、槍をようやくはじき返した。
一撃を弾かれ、大きく隙を見せたレミリアに雷を纏った拳の一撃が入り、レミリアは真上に広がる空へ向かって大きく吹き飛ぶ。
レミリアは翼を広げて滞空の姿勢に入り、衝撃を逓減。ピリピリと紫電の残滓が散り、空気の中に溶けてゆく。

 

「そう簡単にやられるわけにはいかないんだが!? だからたまにくる危ない攻撃も「ほう・・」て盾で受け止めるッ!」
「ふ、うふふふふふふ、あははあははははははははははははッ!! そうそう……そうこなきゃあ面白くないよなァッ!!!」

 

吸血鬼は紅い光弾を騎士目掛け放ち、対する騎士は迫る光弾を抜いた佩刀の一閃で一気に斬り捨てる。
両断され一対になった紅弾の破片は弧を描くような軌道で飛び、騎士の背後の地面に激突、爆風を巻き起こした。

 

光弾を両断した瞬間、発生した威力の波が周辺を巻き込み、空を舞うレミリアを打ちのめす。
レミリアはバランスを大きく崩すも、バク転するように体をくるりと回転し姿勢を立て直した。

 

「ふ、ふふふっ、本当にいい気分……!」
「もう迷わにい さっきそう決めたんですわ?お?」

 
 

――いいや、嘘だ。まだ迷っている。

 
 

「こんなにも月が紅いから……?」
「だから……!」

 
 

――なんでもいい。

 
 

騎士は地を蹴り、吸血鬼は空を疾る。

 

「楽しい夜になりそうね……!」
「お前ハイスラでボコるわ・・!」

 
 

――こんな悪夢、早く終わってしまえ。

 
 

深紅の空を二つの影が交差した。

 

 
  • VSレミリア・スカーレット
    深紅の満月を背景に始まる、記憶を取り戻した騎士と紅い悪魔の、一対一の戦い。
    主人公はこの戦闘に参加不可能。その場にいる者達と共に両者の戦いのいくえを見守るしかない。
     
    戦闘はブロントさん視点で進む。レミリアの能力値はチートそのものだが、ブロントさんのステはそれ以上なので対等以上に戦えるだろう。
     
    • 第一段階
      ♪霧染めのアムネイジア -Orchestral Style-
      初ターンに『ドレッドスパイク』を使用、以後ランダムに技を使用して、1/3の確率で二回行動を取りスペルカードで追撃。これが第一段階のレミリアの基本行動。
      特殊な行動としては3ターンごとに『シーリングフィア』で飛翔、次ターンに『ビシャスキック』を使用してくる。他の攻撃に比べて威力が大きいので防御しておいた方がいい。
      また、脇を固めようとしてプロテスなどで自己強化を図ろうとすると『ヒリオヴォイド』で吸収してくるので注意。
      HPを50%削ると『「ミレニアムの吸血鬼」』を発動、HPが全回復した状態で戦闘曲と背景が変化し、第二段階に移行する。
       
      Rs.jpg
       
    • 第二段階
      ♪薔薇殺しのカーミラ
      ここからが正念場。常時二回行動を取る様になる他、初回で『スペルウォール』を使用。以後3ターンごとにバリアを張り、物理もしくは魔法攻撃を吸収する。
      発動したバリアの種類を見てその場に適した戦い方に切り替えよう。また常時二回行動を取る為、攻撃が激化。使用する技の大半も強力なモノへ変化している。
      HPだけではなくMPとTPも吸収する『ノスフェラトゥキス』と、使用頻度こそ少ないものの威力倍率が高い『神槍「スピア・ザ・グングニル」』は使われるとかかなり怖い。
      いくらブロントさんでも威力倍率高めの技でラッシュをかけられると一気にダウンしてしまう。
      第二段階のレミリアは『ヒリオヴォイド』を使用しないのでプロテスなどで守りを固めておこう。
      ただし強化が3つ以上かかっている場合、ディスペル効果がある『オブリビオンスマッシュ』を連続使用して効果を一気に解除してくる。
      こうなってしまうと折角の苦労が水泡に帰るので、強化をかけるなら2つまでにしておくこと。
      ラストスペルはTPが300%まで蓄積すると宣言、ラストスペルは二種類あるが、宣言ターンが偶数か奇数かでどのラストスペルを宣言するか変化する。
      偶数の場合は『紅魔「スカーレットデビル」』を、奇数の場合は『爆縮「アウェイクニング・インプロージョン」』を宣言する。
      どちらもまともに食らうとかなり痛いので宣言を確認したら次のターンは必ず下段ガードで固めておこう。
      HPを80%以上削るとイベント発生、ここからは実質イベント戦になる。
      ボロボロになった両者がスペルカードとスペルカード、ラストスペルとラストスペルでぶつかり合い、最後に両者がラストワード…
      ブロントさんは『「ウリエルブレード」』を、レミリアは『「スカーレットディスティニー」』を使用し、そこで戦いに決着が付く。
       
  • 攻略
    どの段階でも共通して光属性の攻撃が非常に有効。状態異常は全てレジストしてしまうが、光属性の攻撃を受けたターンから数ターンの間は一部の耐性がゼロになる。
    • 第一段階
      第一段階は残りHPに注意を払いつつ戦えれば特に注意することは無い。
      シーリングフィア使用の次ターンは下段ガードを固めておくことを忘れなけれ尚良し。
       
    • 第二段階
      第二段階から攻撃が急激に激しくなるのでプロテスとシェル、もしくは『鉄壁「ランパート」』を使用した状態で挑むこと。
      ただし上記に解説したように、これら良性効果を三つ以上併用するとディスペル効果を持つ『オブリビオンスマッシュ』が速攻で飛んでくるので3つ以上の重ねがけはNG。
      魔法吸収の『スペルウォール』を使用されたら物理メインの攻撃、物理吸収の『ソーマウォール』を使用されたらバニシュⅡなどの魔法で攻撃しよう。
      『紅蝙蝠「ヴァンピリッシュナイト」』によるブリンク状態が面倒だが、どういう訳かこれを使用する姿はあまり見られない。
      …余程リアルラックが悪かったり難易度がLunatic以上の場合はこの限りではないが。
      スペカや魔法の毎ターン使用が予測される。MPがカツカツになった時に備え、イベントを起こす前にMP回復アイテムを大量に備蓄しておくこと。
      後はHP管理に気を遣いつつレミリアのHPを削り続けるのみ。
       

 

貴方の記憶を奪い、そのついでに吸血鬼にする。

 

啖呵こそ切ったがレミリア・スカーレットには彼から記憶を奪ったり、卷族にする気は最初からなかった。
彼と永遠の刻に共にいられるならそれはとても嬉しいことだと思う。しかし永遠に変わらないものなんてあるわけがない。
時間は経過するにつれ、記憶、感情・・・大切なモノを風化させてしまう。
老いぬ体を持っていたとしても例外ではない。長い時間を経るうちに醜くなってしまうモノもある。
あの騎士もその長い時間の中で大切なモノを徐々にすり減らし、変わり果てていくかもしれない。
仮にそうなったとして、それを目の前で受け止められる覚悟が自分にはあるのだろうか?

 

……無い。だから自分は、この道を選ぶ。彼と相対し、その手にかかって自ら滅ぶ道を。
サクヤや他のメイド達には悪い事をしたと思う。でも・・・

 

自分はブロントさんに魅入られていた。
とうの昔に、彼に狂っていた。
もう、自分ではどうしようもないくらいに。

 
 
 

「……かなわないなぁ」

 

空から引きずり降ろされ、地に伏し、レミリアは血混じりに息を吐きながら呟く。
激突する際の言葉に違わず、彼女は全力で騎士に立ち向かった。
持てる力全てを以て挑むからこその思惑。そして彼ならば本気の自分すら打ち破るだろうという不思議な確信。
実際に、あの騎士はやってのけた。たった一人でこのスカーレットデビルを退けて見せたのだ。

 

受けた傷は致命傷に至るほど深刻ではない。しかし、戦いの結末は最早明白だった。

 

「でも……悪い気はしないか」

 

首を傾け、前を見る。
紅い満月の光を背に、紅い……月光を受け紅に染まった白銀の鎧を身に纏った騎士がそこにいた。

 

「……」

 

月明かりに照らされ赤く染まる騎士。月を背負うその姿はまさに一枚の絵画のよう。
その憂いを帯びた顔を見て、ふと思う。
(かっこいいな)

 

叶わない願いだった。それでも
(……できればずっと、このまま……私の騎士様で……いてほしかった……な)

 

……傲慢か。我儘な自分にしては十分殊勝だと思うが……もう末路は見えている。
後は目の前の騎士の手にかかる以外、できることは残されていない。

 

「貴方に殺されるなら……本望、ね」

 

「……」

 

返答は無かった。
レミリアは瞼を閉じ、騎士の聖剣が己を刺し貫くその瞬間を待った。

 
 
 
 

「……殺せない」

 

騎士の絞り出すような一言が静寂を打ち破る。そこに普段の奇天烈な口調は微塵も含まれていなかった。
ブロントさんはレミリアの傍で膝を折り、傷ついた彼女をそっと抱き寄せた。

 
 

――何でだ?

 

――何で殺し合わなけりゃいけない?

 

――何をしてるんだ、俺たちは?

 
 

「俺には……レミリアを殺せない…!」

 

「馬鹿……私を殺さなきゃ、帰れないわよ…?」

 

ノブレス・オブリージュ。
それは高貴ある立場が背負うべき義務。
高貴なる者であるが故に行わなくてはならぬもの。
だが……

 

「待ってるんでしょ……大勢の人間が……貴方を……」

 

「俺は、厭だ」

 

「……それは私が許さない」
吸血鬼は強い口調で騎士の言葉を遮る。

 

「貴方は私を倒した。だから貴方には"そうする"義務と権利がある」
「ああ、「」確かに俺は『スカーレットデビル』を倒した! だが『レミリア・スカーレット』を殺すことはできない!

 

ブロントさんはレミリアの華奢な手を握り締め、彼女の主張をそれ以上に強い口調で拒否する。

 

(『レミリア・スカーレット』は殺せない、か)
その言葉がどれほど嬉しく、悲しく響くことか。

 

「……私に恥をかかさないで。御願い、誇らせてよ」
「出来ないと言っているレミリア! ……例え剣と盾をへし折ったとしても!」

 

ブロントさんは殊更強い語調で拒絶。握りしめた手に力が入る。
……騎士の誇りの象徴である盾と剣を天秤にかけて尚、駄目だと言い切るのか。
彼は絶対に折れない。そう知った時、思わずレミリアは深い溜息をついた。落胆の色はない、諦観と若干の困惑が含まれていた。
駄々っ子の世話に疲れた親の気分とはこういうものなのか、そう考え、内心で一笑する。

 

「たかが吸血鬼ひとりよ……? 貴方は……どうして、そんなこともできないのよ……」

 

疲弊した声で投げかけられた問い。

 

「――………………」

 
 
 
 

「……レミリアが好きだからに決まっている。好きなやつ手にかけるとか俺のシマじゃノーカンだから…………言わせんな恥ずかしい」

 

その問いにブロントさんは真剣な表情で黙し、タイムラグを経て言い切った。
先程までの躊躇う様な態度とはうって変わった堂々とした口調に、嘘偽りなど一切含まれてはいない。

 

レミリアが目を見開く。
ブロントさんは、レミリアの顔を真正面から見つめ、言葉を続けた。

 
 
 

「そるにやり残したことがある。盾のお礼も返させずに勝手に命ロストしようとかあもりにも勝手すぐるでしょう?」

 
 
 
 

「だから、」

 
 
 
 

「だから、生きてくれ」

 
 
 
 

「俺と一緒に生きてくれ」

 
 
 
 
 
 
 
 
 

「……アテはあるの?」

 

「えっ」

 

淡々とした声で問いかける。
告白からのいきなりの質問に、ブロントさんは虚を突かれたようなか鬼なった。

 

「お礼のアテ。貴方9ギルしか持っていないじゃない」

 

そう言って口を尖らせる。突然過ぎる話題の転換。
きょうきょ投げかけられた問いに、ブロントさんはしどろもどろに森を探し回って赤い薔薇を見つけ、今はサクヤに預けてあると言って
「これで大丈夫ですかねぇ?」とチラッと心配そうにレミリアを見た。

 

先程まで壮絶な大立ち回りを見せたのに今はオドオドしている。その姿を見るだけでクスリと笑みが浮かんだ。

 

「大丈夫。素敵なお礼よ、ブロントさん。でもそれだけじゃ足りないわ? 私は欲張りなんだから」

 

悪戯っぽく囁くと、彼は申し訳なさそうに顔を伏せた。

 

「すまにい。俺は甲斐性なしのロクデナシのクズでウズノロだからよ……」

 

思わず吹き出してしまった。そこまで卑下することはないのに。
しゅんとするブロントさんの顔が見ているとなんだか申し訳なく、たまらなく愛おしくなって。
……先程まで壮絶な覚悟や決意を以て彼との死闘に望んだ筈なのに、今となってはなんだか馬鹿らしくなってしまった。

 

まぁ、いいか。そう呟くとレミリアはブロントさんの頬に両の手を添えて、語りかける。

 
 

「ブロントさん」

 

「?」

 

「足りない分、要求するわ」

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「私と一緒に生きてくれる?」