イベント/冥宮に座す不滅の王

Last-modified: 2015-01-18 (日) 06:26:09

世界移動シナリオ-中世聖騎士編のイベント

三魔君

PCと霊夢たちは、カゲロウとカセンと協力して大冥宮の攻略を進めた。
その傍ら、フトは図書館でエアリーが言っていた『三魔君』について調べた。
それによると、闇の眷属の王、つまりハデスに仕えた魔物の項目にそれらしき記述を発見した。
猛毒、暴風、不浄を纏いし3体の魔物…それが三魔君であろう。

 

また、森では新たな異変が起きていた。
毒で倒れる者、突然の暴風に襲われる者。
間違いなく、エアリー以外の三魔君が目覚め、活動を開始したのだ。

 

その話を聞いた時、カセンは神妙な顔をした。
カセンは、初代王の時代に三魔君と戦ったことがあるのだ。

 

カセンに連れられ、カミール山の頂上…ハーサーカに会いに行く一行。

 

「へー、本当に龍だ」
「また増えたな…お前たちが信用した相手であれば、まあ、良いが」

 

ハーサーカは呆れたような声色だったが、本題を切り出した。

 

「森の気配が変わった。三魔君共が目覚めたのだな」
「既に異変が起こり、被害者も出ている」
「だがな、人間。三魔君やハデスが完全に復活したのなら、今程度の異変では収まらぬのだよ。言うなれば前兆に過ぎぬ」

 

だとしても、脅威であることには変わらない。
フトは、エアリーについて話した。

 

「エアリー……いや、心当たりはない。新たな不死君か」
「そいつのことは一先ず後回しにしましょう」

 

後回しでいいのだろうか? 危険な相手には違いないのだが…。

 

「他の三魔君とはかなり性格が異なるようだ。
 つまり、効果的な対策が分からぬ。対処療法的になるが、出会ってから行動する他あるまい」

 

仕方がないか…。

 

「残りの三魔君だけど…猛毒は『変妖君ドクマク』。暴風の方は『怪霊君アシュラック』ね。
 話を聞く限り、恐らくこっちは当時のままみたいね」
「三魔君とやらは、森のどの辺りに行けば見つかるのでしょうか?」
「そういうことは、森に訊くのが一番ね」
「は?」

 
 
 

場を世界樹へと移した一行。
そこでは、緑色の光と出会った。

 

『よくきてくれた……』

 

…ひょっとして、キングか? その姿は…。

 

『もはや実体を持たない体だ…こんな格好ですまん。
 三魔君についてだが……ユグドラシルの根が、森の異変を全て察知している。
 森を呪う邪な気配を断ってくれ…』

 

任せろ、お前は安心して森を守っていいぞ。

 

『頼む…』

変妖君ドクマク

初代王の時代、この毒沼(ドクマクが出現する以前は、普通の湿地だったのだが)で、ドクマクは倒された。
王の11人の仲間の、半数を道連れにして。

 

「ヴィヴ…誰。敵! 殺!」

 
  • 大規模戦闘
    猛毒を纏う奇怪な魔物。生きとし生けるもの全てに害なす存在。
    技には全て特殊効果があり、悪疫、ヘヴィ、静寂と多彩な状態異常を与えてくるが、やはり最大の脅威は毒。
    通常攻撃に猛毒の追加効果がある上、一部の攻撃にはフィールドそのものを毒に変えるものがあるため、毒対策は必須。
    ドクマク以外には、エリンギャーが8体、モルボルが4体出現する。
    戦闘ではカゲロウ、カセン、霊夢、ルーミア、WOL、そしてフトが参戦してくれるため、戦力的な不足はないが、状態異常によって無力化されてしまうことため、回復アイテムを多めに買い込んでおきたい。
 

「冥王様ァァァァ!
 嫌……だ。暗いところに戻る、のは嫌。
 嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌……」

怪霊君アシュラック

初代王の時代、この不穏な森で、アシュラックは倒された。
だが死んだその後も、強烈な麻痺毒を撒き散らす毒花の種子を飛ばした。

 

「感ジルゾ…。我ノ嫌イナ奴ラノ気配ダ…。我ハ、あしゅらっく。冥王ガ三魔君ノ一柱ナリ…。
 汝ラノ魂ヲ、我ガ君ヘノ供物トシテクレヨウ!!」

 
  • 大規模戦闘
    暴風を纏う無機質な魔物。生きとし生けるもの全てに害なる存在。
    風と雷の力を操り、風属性と雷属性を吸収する。
    ドクマク同様多彩な状態異常を使いこなす。
    下僕として8体のオルトロスを引き連れている。
    味方も注意点もドクマクの時と同じ。
 

「タトエ、ココデ倒レヨウト、我ハ滅ビヌ…。光アタルトコロヘ、必ズヤ闇ガ、我ラガ生マレルノダ!
 冥……王、様ッ!」

大冥宮の天守閣

二柱の三魔君を倒した一行は、一度世界樹へ戻ってきていた。
PCの体から、紋章のような光。
それを見てカセンが言う。

 

「それが、三魔君を倒した証…大冥宮の最奥へと進む鍵になるはずよ。
 準備が整ったら、大冥宮に乗り込みましょう!」

 
 
 

大冥宮は粗方探索し尽くした。
ただ1つ、この大きな扉の向こうを除いては。
その扉が開かれる時が、ようやく訪れた。

 

…はずなのだが、カゲロウとカセンがなかなか来ない。
しばらく待つべきか、ということを仲間内で話していると、狼モードのカゲロウが焦った様子で駆けてきた。
遅刻する奴は心が醜い。

 

「そこから離れて! 進んじゃ駄目!」
「へ?」

 

カゲロウは何らかの忠告をしたようなのだが、どうやらそれは時既に遅かったらしい。
足元に印が浮かび、それに巻き込まれたカゲロウ含む全員が、扉の奥へと転移した。

 
 
 

扉の向こう、玉座に座するは…意外にも、人間だった。
いや、姿が人間なだけで、人ならざるモノに違いないのだが…。

 

「……ハデス」

 

「人は皆、心に闇を抱えている。無知、驕慢、怯懦、嫉妬、憎悪…。
 それは生まれ持った呪いのようなものだ」

 

なんだ急に語ってきた>>冥王

 

「よく言うだろう? 輪廻転生、とな。人は死んだとしても再び生を受ける。
 そして前世の記憶は忘却され、初めから無駄な時を、延々と繰り返すんだ…」

 

お前、もしかして……人間だった……のか?

 

完全な死……肉体のみならず、魂までも滅却する死こそ、救済なのさ」
「1人で勝手にやってなさいよ!」
「なにがいけない? 死は破滅じゃない、新たな生だ」

 
 

「時折、特別な者が生を受ける。僕は勝手に『魂の覚醒』と呼んでいるんだけどね。
 ショウトク王もそうだ。
 世界に名だたる聖人、偉人、変人、奇人……何かに突出した者たち。
 それがこの時代には多すぎる……」

 

心当たりがかなりいるな…。

 

「ふ、ふふ…僕はいったい、何を語ってるんだろうね?」
「知るか!」

 

自嘲気味にハデスが苦笑する。
彼が何を考えているのか、全く分からなかった。
そしてその感覚は、始めてのものではない。
今まで何度か、似たような者に会ってきた。

 

それは、人間の寿命を遥かに超えた悠久の時を生きる者特有の達観。
何事にも興味を持てず、暇を持て余す近しい相手もおらず。
今まで会ってきた者たちも、一歩間違えばハデスのようになっていたのか?

 

「さて、君たちは僕に挑みに来たのだろう? 無謀にも程があるが、ね」

 

ハデスの背から、見たことのない形の羽根が現れる。戦闘モードといったところか?
各々が武器が構えようとすると、どこからかカセンが現れた。
斧の一振りは、ハデスのバリアに防がれた。

 

「カセン!?」
「今の私たちじゃ、ハデスに勝てない!」

 

えっ!?

 

「逃げて!」

 

こちらに向かって叫ぶカセンの元に、ハデスが飛び込んでくる。

 

「よそ見してる場合か?」
「愚図々々してないで、早く!」
「わ、分かった!」

 

カセンが吹き飛ばされるのを尻目に、皆は背を向けて走りだした。

 

「皇帝に会って!」

 

…皇帝!? 皇帝って…彼のことか? だがどうして今、その名前が出るのだろう?
だが今はどうやら、考えている時間はなさそうだ。
カゲロウに急かされ、足を急がせる。

 

カセンを斧を振り下ろすが、ハデスはそれを回避し、一瞬でカセンの視界から外れ、横腹にニーキックを入れる。
再び吹き飛ばされたカセンは斧を手放し、ぐったりとして動かなくなった。

 

「……おまえさま……っ」

 

カゲロウにとっても苦渋の決断だったのだろう。苦虫を噛み潰したような、うめき声のようだった。
大冥宮の最奥にカセンを残したまま、一行は脱出した。
奇しくもその状況は、かつて初代王がカセンとハーサーカを逃した時とよく似ていた。

 
 
 

大冥宮を脱した一行を、マティウスが迎えた。待ち構えているかのようだった。

 

「マティウス殿? なぜここに?」
「…1人欠けているな」
「え…?」

 

大冥宮の入り口で待ち構えているマティウス。一瞬、ハデスの仲間かと思ったが、カゲロウがそれを否定した。

 

「彼は私たちの味方よ」
「詳しい話は後にしよう。悠長に話せるような場所でもなかろう。
 丁度いい、ハーサーカの所へ行こうか」

 

…何でハーサーカのことを知っているんだ?

 

「来れば分かる。さっさと来い」

 
 
 

「今こそ、全ての謎解きをする機会だろう。さて、何から話すべきか」

 

ハーサーカの元へ到着するやいなや、マティウスが話し始めた。

 

「ではまずは、何故冥王を倒せないのかということからにしよう。
 冥王は自らを護るため、三魔君の魂それぞれに印を刻んだ。
 冥王の聖痕とでも言おうか」

 

冥王の聖痕…大冥宮の最奥への扉を開いた、あの印だ。
それがある限り、ハデスは倒せないと言うのか。

 

「聖痕は大冥宮の鍵であると同時に、冥王を護る鎧でもある。
 聖痕を刻まれたモノ…即ち、三魔君がいる限り、冥王に対する災厄は、三魔君が一方的に肩代わりすることになる」

 

肩代わり…強制かばうとかチートだろ…。

 

「マティウス殿は、何故そこまで三魔君について詳しいのですか?」
「それは当然だ。私はかつて、冥王の聖痕を刻まれていた時期がある」

 

…ん? 冥王の聖痕は、三魔君に刻まれる印だと言った。
かつて聖痕を刻まれていたということは…?

 

「そうだ。こやつが初代王の時代の三魔君が一柱、元『不死君』にして、現在では『不死公』と呼ばれる者だ」

 

マティウスが、不死公だったのか…!?

 

「そう、カセンや、ここにいるハーサーカと共に、初代王の時代からずっとアドゥリンを見守ってきた。
 そしてカセンがあの場に遅れたのは、私の責任でもある」
「責任?」
「あの時に、カセンを引き止め、真相を伝えた。先に説明した通り、聖痕がある限り冥王は事実上無敵といっていい。
 知らず戦えば一方的に消耗し、食い尽くされるだけだ。
 だから私はカセンに言った。もしも、準備が整わぬ内に冥王との戦いを始めた時は、お前が逃げるための犠牲になれとな」

 

……!

 

「…カセンは、何と言っていたの?」
「『私の命であの子たちを救えるなら安いもの』と」
「…………おまえさま」

 
 

「纏めると、三魔君を全部倒さないと、ハデスは倒せないのね?」
「つまり…まずは、エアリーを倒さなければならないということか」

 

しかし、あいつがどこにいるかは分かるのだろうか? また世界樹に訊けばいいのか?

 

「その必要はない。私が案内しよう」

 

マティウスは案内役を買って出た。

 

「同じ不死君、聖痕を刻まれた者同士…かすかだが、今の不死君の行方は察知出来る」
「マティウス殿、お願いします」

 

ところで…フトとマティウスは知り合いだったのか?

 

「街にはよく来ていたからな、何度か話したことがある」

昔話

マティウスの案内を受け、大冥宮へと戻ってきた。
このどこかに、エアリーがいるはずだ。
しかし、マティウスが察知できる気配は希薄だ。
冥王の魔力のせいで、正確に探せなくなっているのだ。

 

探しまわる途中、マティウスは昔話をしてくれた。
ショウトクのことは既にカセンやハーサーカから聞いていたので、ハデスのことだ。
ハデスもマティウスも、かつては普通の人間だったらしい。
ショウトク王と同じように並々ならぬ才覚と神性を持つ……ハデス自身が言うところの、『魂の覚醒』をした者だった。
野心家だったハデスは研究に研究を重ね…ついには輪廻の理から外れ、人間であることを超えた。

 

その研究とは、ひんがしの国に伝わる幻の秘薬『蓬莱の薬』に関することであった。
有り余る才知を使い切り、ついにハデスは、自力で蓬莱の薬を再現することに成功したのだ。
最も、1回限りの奇跡のようなものらしく、二度とは作れないようだが…。

 

その後ハデスは旅をして、とある異世界を発見した。
ハデスによって『タルタロス』と名付けられ、その頃からハデスは冥王を自称し始めたという。
タルタロスには星は瞬いていなかった。
空はどこまでも暗く、狭くはなかったが、閉ざされていた。
最初、冥界と同じ場所かとも思われたが、話を聴く限り、どうやら黒き神オーディンが支配する異界、『冥界(ヴァルハラ)』とは、全く異なる世界であるようだ。

 

タルタロスには多種多様の闇の魔物が棲んでいた。
ハデスはタルタロスから思うままに手下をかき集めた。
この世界にはいない、数多の闇の眷属、魔君と呼ばれる者たち。
ドクマクも、アシュラックも、マティウス以外の6体の七支公も、ハーサーカも、そして恐らくはエアリーも、全て元々はタルタロスの魔物なのだ。

 

その頃、ハデスは変わった。
人間の限界を超え、人智の及ばぬ力を手にしたことで、何らかの変化があったのだろうとマティウスは推測する。
ハデスは言った。

 

『永遠に消えない魂に刻まれし闇より、全ての者を救済すべく、死による全から一への回帰を行う』

 

話を聞いていた皆には、まるで意味が分からなかったようだが、それは当時のマティウスも同じだったようだ。
しかし、ハデスから『お前が必要だ』と言われ、彼から異能の力を与えられ、一喜一憂したという。
初代・不死君の誕生である。
そうして不死君・マティウスは、タルタロスで冥王の下僕となる魔物を下し続けたのだ。
延々と……延々と……終わりのないかと思われる時を過ごしながら。
それは彼の思考回路を焼き切るには、十分な時間だった。

 
 
 

「……死は他人から勝手に決められ、押し付けられていいものではない」
「当たり前でしょ」
「そうだな、当然だ。当時の私には分からなかったがな。
 それを気付かせてくれたのが、ショウトク王だ。その時には、ハーサーカよりも輝いて見えた。
 …ふ。ハーサーカの奴が聞いたら、嫉妬するだろうな」
「初代王にゾッコンのヤンデレ龍だからねぇ」

 
 

「さて、昔話はここまでだ。どうやら、この先のようだ」

 

マティウスが示した道は…よりにもよって、冥王のいる最奥だった。

 

「…確かに、ハデスの隣が奴にとって最も安全な場所だろうが、な」
「厳しい戦いになるぞ」
「異変は今もまだ続いている。時間がないということだ。迷ってはいられない」

 

…そうだな。行くぞ!

冥宮に座す不滅の王

印に反応し、大きな扉が開く。
その向こうに、敵は座していた。
あの憎たらしい蟲野郎の姿は見えない。
代わりに、愛らしい妖精がいた。

 

「性懲りもなくまたやってくるとはな…」
「来るわよ。勝つまでやるのが博麗霊夢のルールなんだから」
「救いようがないな」

 

ハデスが玉座から立ち上がり、異形の羽根を生やして飛び立つ。
エアリーもまた、それに続く。
一行の前で、降りてきた。

 

「ハデス…エアリー!」
「怖い顔しちゃ駄目よ…国の民が悲しむわ、フト。
 うふふ、見て。ハデス様から与えられた新しい体を!」

 

エアリーの姿は、またも変わっていた。
人間と同じ程の大きさ、蝶のような羽根、魅惑的な肢体。
肥え太った芋虫のような醜い姿ではなく、愛らしい妖精としての姿に似ていた。
…最も、あの時は隠されていた邪悪な気配は、今では露骨までに放たれまくっているわけだが。

 

「みなぎるパワー、溢れんばかりの魔力…どう、綺麗でしょう?
 これがハデス様から与えられた…無敵の力!」
「ああ、綺麗だよ、エアリー。だから…綺麗なままで葬ってやるとも」
「ありがとう! それじゃあ貴方たちも、苦しまずに殺してあげるわ!」

 
 

「裏切り者の入れ知恵があったようだが…まあ、いい」
「ハデス……」

 

ハデスはマティウスを見ていた。

 

「ここまで来れたのは本当に見事だよ。今までだって、何度も死にそうな目に遭って来たんだろう?
 不死の肉体も持たず、よくぞそれを乗り越えてきたと言いたい」

 

そりゃどーも…。

 

「……で、それがどうした? それで条件が対等…だとでも思ったか?」
「悪役ってのはどうして人を苛立たせるのが好きなのかしらね?」
「負けるつもりでこんな所まで来たりはしない」

 

ハデスは1つ、嘆息した。

 

「おめでたい連中だ。そして、大きな思い違いだったと知るべきだ。
 僕だって、いつまでもこんな茶番を続けたいわけではないんだ」
「あら、奇遇ね」
「冥王……カセンをどこにやったの?」

 

カゲロウが毛を逆立たせながら問うた。
だが、その質問は…。

 

「どこ…? 何を言っているんだ、お前は?」
「どういう意味よ…」
「そこは、『返せ』…と言わなければならなかった場面だろう?」
「…………」

 

こいつ…!

 

「いやいや、しかし…『亡骸を返せ』等とは中々言えるものでもないか」
「……!」
「海の見える綺麗な丘にでも埋葬するのか?」
「お前……ッ!」

 

カゲロウの怒りのボルテージは、今や気圧される程に高まっている。
それに呼応するかのように、徐々にその身体が金色の光を帯びていく。

 

「分かっているんだろう? 死んだよ、あいつなら。
 だが、考えてもみろ。あいつの生に何の意味があった?」
「何だと!?」
「あいつが何を成したのかということだよ。人の世に介入せず、ただひたすら見守り続けるだけの存在…滑稽だね。
 はっきり言ってやろう、無駄死だ! 存在そのものが…塵だよ!」

 

ハデスの言葉が終わるのを待たず、カゲロウが遠吠えをした。
金色の光が一層強まり、雷電のようにカゲロウの身に纏われる。

 

「ほぉ、懐かしい光景だ。その光は知っているぞ。魂の煌き…自身の命を燃料の如く燃やす技だったな…」

 

黄金狼男を先祖に持つというカゲロウ。
今、彼女が使った技が、先祖が使っていた技であるならば、これが黄金狼男の黄金の毛の秘密だというのだろうか。

 

黄金狼が地を蹴ると、雷が落ちたかのような轟音が冥宮に響き渡る。
ハデスの体を引き裂き、先ほどまで冥王が座していた玉座が破壊された。
黄金狼は、破壊された玉座を蹴り、更に背後からハデスに爪を突き立てる。
だが、その動作をちゃんと確認できた者が、この場に何人いただろう?
これらは全て、瞬きの間に行われたことなのだ。

 

一瞬の後に、ズタボロのハデスと、消耗した様子のカゲロウ。
だが、何が起きたかを察するよりも早く…先ほどのカゲロウの超高速の攻撃よりも、更に速く、ハデスの肉体は再生していく。

 

「いきなり奥の手を使うなどと…ご主人様に教えられなかったか?
 『考えなしに無闇に突っ込むな』と」

 

遠吠えをするカゲロウを前にして、ハデスはパチンと指を鳴らした。

 

すると、宙からカセンが現れた

 

今まさに飛びかかろうとしたカゲロウはカセンに気を取られ、完全に隙を晒してしまう。
…だが、ハデスやエアリーが、その隙を突いて攻撃することはなかった。
その代わりに、思いっきり邪悪な笑みを浮かべた。

 

「いたたた…私は確か…って、ちょっと! なんでここにいるのよ、カゲロウ!」
「……おまえさま!?」

 
 
 

時が止まる。
止まった時間の中で唯1人エアリーだけが自由に動くことが出来た。
エアリーがハデスの真似をして指をパチンと鳴らすと同時に時間が動き出す。
だがそこは、カゲロウとカセンしかいない、どことも知れぬ謎のファンシー空間であった。

 
 
 

BGM:仰空

 
 
 

カゲロウはカセンに歩み寄り、匂いを嗅ぐ。
本物なのか、確認しているようだ。

 

「…本当に、おまえさまなの?」
「それ以外の誰に見えるっていうのよ」

 

カゲロウがカセンにじゃれつき、甘える。

 

「ったくもう、カッコつけてるけど、甘えん坊なんだから。
 そんな奴はこうだ! おりゃおりゃ」

 

カセンもまた、軽くネックロックをかける。

 
 

仲睦まじい2人の光景は微笑ましくもあったが…忘れてはいけない、ここは敵の牙城であり、倒すべき敵が、目の前にいるのだ。
だが…。

 
 
 

「カゲロウ! カセン!? おい、聞こえないのか!?」
「どう考えてもおかしいでしょ! 目を覚ましなさい!」
「敵のまやかしだ! 騙されるな!」

 
 
 

そういった仲間たちの声は、もうカゲロウの耳には届かないのだ。

 

そしてカセンは、最初は軽かった腕の力を、徐々に強めていき…。

 

「がッ、おまえさ、ま……ッ!?」
「言ったろ? カセンなら死んだと」

 

カゲロウの首を締めるカセンの力は万力のようであり、どれほど足掻いても全く抜け出すことが出来なかった。
いや、そもそもまともに力を入れることすら出来なかった。

 

何故なら。

 

カゲロウとカセンは既に、大きな穴に落下していたのだから。

 

だが、カゲロウがそれに気付いたのは、エアリーがもう一度指を鳴らした後だった。
そしてそれは、手遅れであるということを意味していた。

 
 
 

「大好きな主もろとも果てろ」

 
 
 

落下し続ける2人目掛け、複数の水晶の槍が飛んできて、貫いた。

 

フトが目を背けると、大穴は閉じていき、元の広間に戻った。
もう、カゲロウもカセンも見えない。

 
 

「フト、目を逸らしてる余裕なんかあるの?」

 

ハデスとエアリーは、今度こそ戦闘態勢だ。邪悪なオーラが目に見えるようだった。

 

「1名…もとい、1匹脱落しちゃったわよね。大丈夫? そんなんで」

 

「……。…お前たちは絶対に許さん!!

 
  • 大規模戦闘
    勝利条件:ハデスの撃破
    敗北条件:主人公、またはフトの戦闘不能
    BGM:Hades
     
    敵は一番奥に冥王ハデス、そのやや前に完全体エアリー、周囲にエレメンタル類のアンブリル族というモンスターが8体。
    アンブリル族は物理攻撃全てと闇属性を半減してしまうが、土・火・光属性を弱点としている。フトやWOLの攻撃が有効だが、逆にルーミアは殆どの攻撃が半減されてしまう。使用する技には全て麻痺効果が付随しており、放っておくと非常に危険。
    エアリーは広範囲への魔法攻撃を主体としており、特に、属性耐性を弱体化させる「アケディア」には注意が必要。また、ハデスにダメージを与えるには最初にエアリーから倒さなければならないのだが、HPが半分を切るとハデスに全回復されてしまう。ただし、これを2度繰り返せば以降は回復しなくなる。火属性が弱点。
    ハデスはエアリーを倒さない限り、戦闘後に全回復してしまう。エアリーを倒さないと話にもならない。HPが75%、50%、25%を切る毎に強化され、25%以下だと2回行動になり、極めて危険。弱点はないが、火・雷・光属性が軽減されずにダメージを与えられる。
    味方では、フト、霊夢、ルーミア、WOL、マティウスが参加する。
    「さあ、仲間の後を追うがいい」

神の座へと至る方法は

 

「うっ! くっ……この力は……!? 貴様もッ、貴様もだというのか……世の理が生みし、特別な存在……魂の覚醒……いや、あり得ぬ。
 我が名はハデス! 大冥宮の主にして、輪廻の輪から抜けし者!!
 永遠に囚われ続ける心の闇より、全ての者を救済するのだ!!」

 

ハデスはよろよろと覚束ない足取りで後ずさる。

 

「心の闇からの救済…? それがお前の目的だというのか?」
「ハ、ハデス様…」

 

ハデスの足元に、傷付いたエアリー。

 

「お、お助け下さい…力を……」

 

ハデスがエアリーを見る目に、一瞬だけ慈悲の光が宿る。
しかし、ハデスが一度頭を横に振ると、もう光を感じ取ることは出来なかった。

 

「まだ、人の身であった頃の甘さが残っているというのか…」
「ハデス様……?」

 

ハデスには逡巡の色が見えた。
人であった頃のハデスと、人を捨てたハデス。
今エアリーは、板挟みになるハデスの心中の試金石とされていた。
そして、ハデスが出した答えは。

 
 

「人の弱さなど要らぬッ…!」

 
 

宣言すると同時に、エアリーはハデスの手から放たれた魔法を受け、消し飛んだ。

 

「この身も心も…全て要らぬッ!!」

 

ハデスの体から波動が迸る。
波動の正体は邪悪なものではなく、一瞬エアリーを助けようとした人間性である。
ハデスは己の中に残る、慈悲や迷いといった、ほんの僅かな人間性を捨てたのだ。

 

ハデスの身から放たれた波動によって視界を塞がれる。
次いで、上空の空間から孔が開き、そこから禍々しい力が注ぎ込まれた。
君は知っている。よく似た孔を知っている。
あれは…闇の王が魔力を解き放った時に、それを吸い込んだ、あの孔と…。
だが、それは冥界(ヴァルハラ)とは違う異世界…『タルタロス』から注ぎ込まれるもの…!

 
 
 

冷たく無機質な闇はハデスを包み込むと、人間の身を溶かし始めた。
闇が注ぎ終わり、晴れた時にそこにいたのは、人間の体を持つハデスではなく、中身も無く動く黒い鎧だった。

 

止めどなく吹き付けられる闇の力は、闇の王に匹敵する。
しかし、人間性を捨てきれなかったからこそ暴走した闇の王とは違う。
むしろ、最初から人間性を持たぬ存在であった彼の白き神にこそ似ていた。
あるいは……自ずと死を望む男神が、ハデスの体を借りて降臨したとでも言うのか?

 
 

ハデスだったモノは、両手にミラーボール状の魔力を込めると、爆発拡散させた。
魔力によって、皆が吹き飛ばされる。

 
 

「願エ 願オウ ウツシミノ終ワリ ヲ」

 
 

続けて攻撃を行おうとした所で、闖入者があった。

 

この暗い大冥宮で、一際輝く白い翼。
…ハーサーカ!

 

ハーサーカはハデスに爪を立て押し出し、攻撃を中止させる。

 

「来たか、ハーサーカ!」
「来るさ、そう約束したからな」

 

マティウスが嬉々として声を上げ、立ち上がる。

 

「さあ、お前たちも立て。呆けている場合ではない」

 
 

ハデスが一瞬力を溜めると、両目からビームを発射する。
ハーサーカは、その巨体からは想像できない俊敏な動きで、広間を目一杯に使ってビームを避け続ける。
そしてわずかな隙を見つけると、素早くハデスを倒し、押さえつけた。
更に、口に光を集める。ドラゴンのブレスだ。
それを至近距離から、ハデスへと照射する。
直撃だ。普通の相手であれば、一溜りもないだろう。
ハデスはそれに対し、まるで応えた様子もなく耐える。
やがてハデスよりも先に地面が耐えられなくなり、大穴が開く。
先ほど、カゲロウとカセンを落とした、あの穴だ。
両者は落下はしなかった。
ハデスは鋭い剣にも似た翼を生やし、ハーサーカも翼をはためかせた。

 

だが、それまでだった。

 

「ハーサーカ!」
「グッ、不覚……!」

 

ハーサーカの巨体は、やはり先ほどカゲロウたちを貫いた水晶の槍で、全身を釘付けにされていたのだ。
ハデスは悠然と広間に戻り、地面の穴は再び閉じられてしまった。

 

「聞こえているか、ハデス!
 心の闇を晴らすことに専念するあまり、お前自身が闇に囚われていると気付かんのか!」

 

マティウスは、既に以前の面影の全くないハデスの前に立ち、大声で言った。

 

「お前を苦しめているのは、お前自身だと、目を覚ませ!」

 

ドン、とハデスは片足を鳴らした。
それは意味のない行為だったのか、それとも、マティウスの言葉に怒りを感じたからなのか?

 
 

「集エ 集マレ 我ガ 救済ノ光ノ下 ヘ」

 
 

ハデスの眼が光り、ビームが発射され、マティウスの身を貫いた。
しかし、不死公たるマティウスは、痛みを堪え、仁王立ちを続けていた。

 

「…残念だ。お前はもう、自分自身すら認識できぬのだな。
 せめて朋友として…お前の魂を、心の闇を、ここで斬り捨ててやろう」

 

ハデスがまたもビームを放とうとした時、地面を突き破って、光の龍がハデスを打ち上げた。

 

「ハーサーカ!」
「私たちもいるわよ!」

 

ハーサーカの背から、舞い降りるのは、カゲロウとカセンではないか。

 

「お前たち! 無事だったのか!?」
「あんまり無事でもないけど…でも今は戦う時よ!」
「……ああ、頼む! 力を貸してくれ!
 これで最後にするために…皆の力を…!」

 
  • 大規模戦闘
    The Price
    勝利条件:ハデスの撃破
    敗北条件:主人公、フト、マティウスのいずれかの戦闘不能
     
    ハデス第二形態と、アンブリル族20体との戦闘。
    ハデスは、各属性及び状態異常を持つ多様な技を使用する。
    行動パターンを読みづらいものの、特に危険な石化や麻痺の対策だけはしておきたい。
    味方では先ほどの面子に加え、カゲロウ、カセンが加わり、そしてマップ外からハーサーカが光のブレス攻撃で援護してくれる。
    難易度で言えば、他のシナリオのラスボス程の強敵ではない。
    「謳エ 歓喜セヨ 在ルベキ姿ヘノ回帰ヲ」
 

ハデスは力尽きたように、膝をついた。

 

「倒したのかー?」
「いや、まだだ。様子がおかしい」

 
 

「渦巻…… キ ……逆 巻ケ 常闇 ……ノ 奔流 ヨ」

 
 

呪文めいたハデスの言葉は相変わらず分からないが、ハデスの体は浮き、先ほどの孔からまたしても強い闇の力が溢れようとしている。

 

その時、フトの腰の七星剣が光り始めた。

 

「これは…!」

 

フトは考えるよりも先に七星剣を天に掲げた。
刀身が眩い光を放ち、孔へと光の筋が伸びる。
更に、ハーサーカがそれを追うように孔へブレスを放った。

 
 
 

一瞬、誰かの影が見えた。
影は孔から現れたように見えたが、よく確認する前に、光の剣がハデスを斬り裂いた。
すると孔から溢れようとしていた闇の力は落ち着き、闇に解けたハデスの人間としての体が落ちてきた。

 
 
 

「ハデスの姿が元に戻った……」
「見ろ、あれは誰だ!?」

 

ハデスを抱きかかえていたその人物は、彼を丁重に下ろすと、立ち上がってこちらを見た。

 

「これは奇跡か…」

 

ハーサーカが呟く。カセンやマティウスもまた、その人物から目を離せないでいた。
この2人が驚くほどの人物…もしや?

 

「ショウトク……!」
「えっ!?」

 

アドゥリン初代王の名を、マティウスは呟いた。
確かに、それらしい格好をしていたが…しかし、その人物は…。

 

「本当に、ショウトクなの…?」
「迷惑を掛けたな、友よ」

 

ショウトクは、カセンに手を差し出した。
カセンは手を掴んだまま、泣き崩れるように膝を付いた。
ショウトクはカゲロウを見た。

 

「君が彼の子孫か。君は私のことなど知らぬだろうが、よく似ている…」

 

カゲロウは、知らず泣いた。
どうして涙を流したのか、自分でも分からなかった。
彼の言う通り、カゲロウ自身はショウトクとは面識も何もない。だというのに…。

 

マティウスは孔を見上げた。

 

「マティウス殿、あの孔は…?」
「タルタロスに繋がっている。しかし、先ほどの影響で、暴走しかかっている。このままでは周囲一帯がタルタロスに飲み込まれるやもしれん」
「ハデスへの魔力の供給が止まっていないのだな」

 

ショウトクが一歩前に出た。

 

「友たちよ! 我が志を受け継ぎし者たちよ! 早急にここを離れるのだ!
 ハーサーカよ! この場にいる皆を乗せて飛べるな?」
「無論だ、我が王よ!」
「頼むぞ」

 

皆がハーサーカの巨体にしがみつくように乗って行くが、ショウトクは動く気がないと見えて、フトが振り返った。

 

「ショウトク王! 貴方はどうするのですか!?」
「私は残って、孔を封じる。一緒に行くわけにはいかん。
 …地上でどれほどの時が流れたのか、私には分からぬ。
 古き王が戻ったところで、迎える家臣も…愛する妻も子も、もはや…地上は私の還るべき場所ではない」

 

「君は、モノノベの子孫なのだろう?」
「は、はい!」
「私の子孫によろしく言っておいてくれ。よくぞ血を絶やさず紡いでくれた、感謝している。
 それと、呪ったりして済まなかった、と」
「必ず伝えます!」
「…あれは、ちょっと私に似すぎたな。頑固者だった。ま、私の子孫であれば致し方あるまい」
「ははは…」

 

「カセン、ハーサーカ…今度こそ今生の別れだ。後のことは頼む」
「……承知した、我が王よ」

 

「そして…君」

 

ショウトクはなぜか、君にも話しかけてきた。
自分こそ本当に何の関係もないはずなのだが…。

 

「この場にいる誰よりも眩しい輝きを放つ君を、無視はできない」

 

ショウトク王に褒められるとは…。

 

「君の名を聞かせてくれないか」

 

君は名乗った。

 

「最後に君のような人と会えて良かった。後は私が引き継ぐ…」

 

マティウスがショウトクの横に並び立った。

 

「どうした、友よ」

 

「ハデスは私にとって友人だ。ショウトク、お前と同じように」
「……君もここに残ると?」
「どれほどの悪行を重ねようとも……思い出の輝きは消せないものだ。
 私にとってこいつはな、今でも友なのだ」
「……そうか。分かった。
 私とマティウスが力を合わせれば、タルタロスの孔も、時間は掛かっても封じることが出来るはずだ。
 後は任せろ」

 

ショウトクの言葉を聞き届けると、皆を乗せたハーサーカが飛び立ち、その場を後にする。

 

「さらばだ、我が王よ」
「ああ、悠久の地で、またいつか」

 
 
 

「……とうの昔に死は覚悟したつもりだったけれど、今の時代を生きる者たちを見ると、どうしても嫉妬してしまうな」
「稀代の天才も、嫉妬をするのだな」
「人間だから、ね……」

 

「……だったらお前も、不死になればいい」

 

目を覚ましたハデスが起き上がり、声を掛けた。

 

「そうはいかん。私は人間のままでいたいのだ、我が宿敵よ。
 生きて死ぬ。心の闇を抱えながら……次の生で、また新しい友を見つけたい」
「……意味がわからぬ。友など、死なずとも見つけられるだろう」
「友に先立たれるのも、先立つのも、一度だけで沢山だ。
 それに、時代は新しい人間が作る。変化できない古い人間は舞台から去るべきだよ」
「……それは僕のことを言っているのか?」
「何年も暗い所に引きこもっていると、頑固になるからねぇ」

 

マティウスはくくく、と笑っていた。
ハデスは不快そうにそっぽを向いた。
それを見て、ショウトクは大笑いした。

 

タルタロスの孔が光の爆発に包まれ閉じていく。
光に飲み込まれた3人の姿は、もう誰にも見つけることは出来ない。

変化の風

ハーサーカに連れられ、安全な場所で降り、ハーサーカ、カゲロウ、カセンと別れた。
彼女たちとは、またいつでも会える。

 

街へ戻ったフトは、しばらくはごたごたに巻き込まれるだろう。
しかし、それはほんの少しづつではあるが、平和へと向かうはずだ。
心配は要らないだろう。

 

「私たちは先に帰るわ。報酬も貰えたし」
「予定額より大分落ちちゃったけどねー」
「うるさい」
「また会えるといいな。出来れば、何の事件もない時にな」

 

霊夢たちとも別れを告げ、城へ戻ってきた。
ミコの部屋に向かう途中、フトは言った。

 

「お主は凄いな。お主の周りは変化の風が吹いている」

 

変化の風?

 

「そうだ。お主と関わると、人は変わらずには居られなくなるような、そんな何かがある。普通ではあるまい」

 

喜んでいいのか、何なのか…。

 

「喜べ。お主こそ、『不変』に風穴を開ける『変化』をもたらす救世主だ」

 

救世主って、流石に褒めすぎだ…。

 

「大袈裟でもない。本当のことだ」

 

フト、もうその辺で…。

 

「ふふ、まあよかろう」

 
 
 

十二家会が集う広間。
そこに彼女はいた。

 

「この姿で会うのは随分と久しぶりだな、諸君」

 

ミコ。
初代王ショウトクの血を引く、現当主。
人間の姿だった。

 

「ミコ様…よくぞご無事で…!」
「あんな姿でも、活躍はずっと見ていた。よくやってくれたな…」

 

「遅かったな、フト」
「トジコ…」
「ようやく揃った文殊の知恵だ。お前が居なければ我々は始まらん」

 

その場には、エアリーに取り憑かれていたアニエスもいた。

 

「もういいのか、アニエス?」
「ええ…もう大丈夫です。エアリーのことは、まだショックが抜けませんが…」

 

「ずっと何かしら欠席者がいた十二家会も、ようやく全員集結というわけだ」

 

エドガーが皆を見渡して言った。
12人、確かに全員いる。
色々あったが、全員生きている。

 

「開拓推進派…反対派…もうそんな垣根は不要な時期だ」

 

取り仕切るように、ミコが中央に立つ。

 

「大地の理について、もう一度考え直す時が来た。自然と人との関係をな。
 焦ることはない。少しずつでも歩を進めていけば、な」

 
 
 

「もう行くのか」

 

海を見ていた君を、フトが呼び止めた。

 

「元を辿れば、冒険者なのだったな。無理もない。いつまでもこんな狭い群島に留まっている玉でもないのだな」

 

なんだか申し訳ないな。

 

「気にするな。あれだけアドゥリンのために頑張ってくれたお主だ。我儘も許されるだろう」

 

フトの背中には、何故か毛玉が乗っかっていた。
それは…ミコ?

 

「ああ…長い間毛玉になっていたせいなのか…自由に姿を変えられるようになってしまったらしくてな。よくこうして遊んでいる。
 トジコは物凄く複雑な顔をしていたがな」

 

それは…そうだろうな。

 

「アドゥリンのこと、思い出したら、たまにはまた会いに来て欲しい」

 

分かった。きっとまた来るよ。

 

「そうしてくれ。皆も喜ぶ」

 
 

「そうだ、ミコ様から預かっている物があるのだった」

 

預かり物?

 

「報酬だよ、諸々のな」


  • 報酬
    指装備「アドゥリンリング」
  • フト、カゲロウ、カセンをパーティに誘えるようになる。