イベント/夜に虹をかけ、流星の雨

Last-modified: 2014-12-15 (月) 20:29:43

シナリオ/世界移動シナリオ-中世聖騎士編のイベント


夜に虹をかけ、流星の雨

血の海

サンドリア市街は血の海に蝕まれていた。
といっても市民に直接の害が及んだ訳ではない。
冒険者や旅人は宿や教会に非難し、全ての民は固く家の門扉を閉ざしている。

 

蠢く血だまりが文字通り、サンドリア王都に攻め込んでいるのだ。

 

血だまりからはあの鎧の騎士が這いあがり、攻め込もうとしてはサンドリア騎士団と交戦していた。

 

『血血血血血血血血血血血!』

 

「ほんと、こんな夜にカチコミをかけるなんて……」

 

まったくだと目をこすりながら主人公は突き進む。

 

主人公とフランドールが戦の中心地に駆けつけると、場の注目がこちらに移る。
その中にはサナエやテンシなど、見知った顔がいくつかある。

 

「あ、主人公さん! それと……」
「フランドールじゃない。え、なんで?」
「何度か任務の拝命を受けてる主人公はともかく……キミも来るなんて!」
「ええと、一気にしゃべらないで。積もる話は……」
「おおーい!」

 

ふと、騒がしい声が戦場の一方から放たれた。
一人の騎士が竜血騎士を弾き飛ばし、または隙を突いての致命で倒しながら向かってくるではないか。

 

駆け寄ってきた騎士は……なんと、ソラールであった。
何度か竜血騎士と交戦したのだろう、剣や盾に返り血が付着しているが、しかしまったくの無傷だ。

 

「遍歴の騎士ソラール、微力ながら助けに参上した!」

 

「誰!?」
「あ、もしかして、詰所でも最近噂になってる……」
「……バケツ頭の騎士か」

 

なんでソラールさんがこんなところに……

 

「おお、無事でなによりだ。何故かって? 俺がおせっかいな変人だからさ!」

 

そう言いながら、手なれた動きで竜血騎士を捌く。
周りのサンドリア騎士団の面々は突然の乱入者に驚いた様だが、一度だけ目礼すると再び侵略者と剣を交えた。

 

「俺は太陽の騎士だ。それなりに頼りになると思うぜ。
 む? それはそうと、そなたは……」
「こんばんわ、ソラールさん。奇遇ね」
「おお、おお。これは驚いたぞ。貴公も有事には剣を執る騎士だったとは」
「サンドリア騎士団ではないけどね。これはソラールさんも噂に聞いてなかった?」
「ウワッハハハ、これは失礼。
 俺は可愛らしい店主ということくらいしか聞いていなくてね」

 

フランドールは肩をすくめて大地を這う血だまりを睨みつける。
直後に、血だまりからまた一人、騎士が飛び出してきた。
奇襲の様に姿を現した竜血騎士は剣を振り抜いて、フランドールに躍りかかる。

 

対するフランドールは素早く前に乗り出し、片手で掬いあげるように剣を振り上げる。
剣と剣がぶつかる瞬間、竜血騎士の剣が内側から爆ぜるように砕け散った。

 

『!?』

 

騎士が驚愕するのとほぼ同時に、吸血鬼の鋭い爪が甲冑をたやすく貫いた。

 

巻き上がる血煙を踏みつけ、フランドールは手首を軽く振る。
その手の内に一枚のカードが現れた。

 

「スペルカード」

 

取りだしたスペルカードをもう一度手首を振って、見せる。
そのまま無造作に背後へ放り捨て、

 
 

――「ゲーツオブハデス」

 
 

魔剣を地面に叩きつけた。

 

「開け!」

 

宣言と同時に、血の亡者の足元に地獄の門が開かれた。
巻き上がる爆炎が流血騎士の直下に顕れ、これをなぎ払う。

 

『コ、カァ……―――ッ!?』

 

しかし、渦巻く血の海を蒸発させるには至らず。沸騰させるのが関の山だった。
それを認めたフランドールの横顔が苦々しい色に染まる。

 

「市街で大っぴらに撃てるのはアレが限度……
 ここがウルガランだったらよかったのに」

 

その一部始終を見ていたソラールは兜越しから冷や汗をかいた。

 

「これは、頼もしいな……」

 
 
 
 

「……竜の血を求めて、だと?」

 

交戦の最中。
騎士を屠りながら語るフランドールと主人公の言葉にカインが兜越しから顔をしかめた。
そういえば、カインはサルヴァ調査隊に加わってたそうだが。

 

「当然、飛竜もそこに……?」

 

返った答えは肯定。

 

「……サンドリアで竜にゆかりのある場所は他にもあるはず」

 

例えば、ブルーゲイルやカインが故郷としている領地。竜騎士の聖地と謳われる地。
例えば、ランペールに御された不死龍が潜む地。サンドリアには縁深い森の奥底。

 

「王都以外にリンクシェルによる開戦報告は聞いていない。
 連中が攻め込んできたのは王都……良くも悪くもないな」

 

他の場所に被害は無い。しかし、よりによって王都に攻め込んだと来た。

 

「王都までやってきたという事は……」

 

フランドールはカインの傍で奮戦する飛竜をちらりと一瞥する。
まさか、奴らはサルヴァからサンドリアに帰還する竜騎士たちを追ってきたのか……?

 

「そんなまさかね」

 

奴らを全て倒す。今はそれで良い。
血みどろ騎士をまた一匹、もたげた疑問ごと血の海に沈める。

 
  • 大規模戦闘
    U.N.オーエンは彼女なのか?
    勝利条件:敵の全滅
    敗北条件:味方ユニットが一体でも戦闘不能になる
    備考:竜血騎士は5ターン毎に1ユニット増援
     
    敵は竜血騎士がソロで5ユニット。スケルトン族がソロで10ユニット。
    味方戦力は前戦闘の主人公とフランドールに加えて、
    近衛騎士団、神殿騎士団、王立騎士団のネームドキャラとソラール。ナイトだらけの大乱戦になる。
    竜血騎士は一定ターンごとに増援するので、ゾロゾロ増える前に根絶やしにしよう。
    ただし内部レベルが多少上がっているので、舐めてかからないように。
     
    「ランペール王が出陣する前に片づける。……サンドリア騎士団を舐めるな」
    「サンドリア騎士は戦支度が早いの。別にパトロールの最中だったわけじゃないわ」
    「何者かは存じませんが、王都を脅かせはしませんっ!」
    「血糊でしょ? 今時そんなんじゃ、誰も驚かせられないわ!」

鮮血の英雄

竜血騎士を粗方叩き潰した。
血の海はいまだ健在だが、もう増援が現れる兆候は見られない。

 

「……今倒したので、最後なのか?」

 

ブルーゲイルが懐疑を込めて呟くと血の海から、鋭く尖った何かが飛び出してきた。
それは真っすぐに、ブルーゲイルの愛竜を狙……

 

「無礼者め! 俺のMikanたんに手を出すなッ!」

 

……う以前の問題で、ブルーゲイルがその槍技であっさり弾き飛ばしてしまった。

 

弾かれた鋭いものの正体は、血に染まった、ひどく長大な槍。
それは、あらぬ方向へしなると血だまりに引っ込んだ。
次の瞬間、凄まじい勢いと速度で騎士団に襲いかかる。

 

嵐のような突きだ。
ある者は体制を崩し、ある者は槍に手足を貫かれ、ある者は盾を砕かれる。

 

「……好き勝手しないで!」

 

音速を超える早さでフランドールが槍に襲われる騎士たちの前にはだかった。
フランドールは繰り出される突きの乱舞を外套で流し、
ガントレット、あるいはグリーブで弾き、剣で槍を受けとめる。

 

翼を広げ、空を飛びながら、両者は激しく打ち合い続ける。
吸血鬼の七色の羽が月明かりに照らされ、月下で幻想的に煌めく。

 

「主人公、ソラールさん、みんな! いまのうちに、元手を…… ッ!?

 

しかし、ついに槍の突きがフランドールの胸を串刺しに、彼女を捕まえた。
そのまま槍に串刺しにされ、はりつけにされた様に宙ぶらりんに漂う。

 

「……ぐ、あっ、あああああ!」

 

『……強イ 生 二 溢ルル 血』

 

血だまりの奥底から声が響く。
底冷えする様な不快な声の重なりが耳に障る。

 

『魔性 ノ 血
 神聖 ナル 竜 ノ 生キ血 デハナイ』

 

「悪、かったわ……ね、神聖じゃなくて……っ」

 

フランドールは槍を掴み、握る。

 

「で、も……勝手に、わたしの血を啜るなっ!」

 

何かを握りつぶすように、五指を思い切り掴み、
そして、竜血騎士の剣が破壊された時のように、その赤い槍も爆ぜるように砕け散った。
槍の戒めから解け、フランドールはそのまま地面に落ちた。

 

ふらつきながら身を起こす彼女を案じ、主人公たちが駆け寄る。

 

「だ……大、丈夫……少しでしゃばりすぎただけ……」
「大丈夫って……手当てしないと不味いわよ!」

 

テンシが蒼い顔でケアルを唱えようとするが、遮られた。

 

「……大丈夫、だから」

 

『妙 ナ 術 ヲ 使ウ』

 

声と共に血だまりから姿を現したのは、またもや竜血騎士だった。
しかし、これまでの騎士とは違って先程の長槍を肩に担いでいる。
血で濡れているのでわかり辛いが、鎧の装飾も華美なものである。

 

「貴様、あの連中の親玉か」

 

怒気を押さえたカインの言葉に、偉そうな竜血騎士は鷹揚に頷いた。

 

『……私 ハ 竜血騎士団 団長 ヨア
 英雄 ト 讃エラレル 者』

 

ヨアと名乗るその竜血騎士は大仰な動作で両の手を広げた。
ともすれば、その動作は一同に会した騎士たちを呆れかえっているように、主人公は思えた。

 

狂ったように血を求める手下と違い、こいつはまだ会話が成立する……そう考えた主人公はヨアに追及する。
なぜ、王都に攻め込んできたのか。
サルヴァで起こした惨事がその手によるものであるならば、その凶行に駆り立てたものは一体何なのか。
その返答は簡潔だった。
そして……ある意味予想できていたが、理解に苦しむものだった。

 

『真理 ヲ 保チ続ケル 為 デアル』

 

真理、ときた。
竜血騎士も似たようなことを繰り返しのたまっていたが。

 

『竜 ノ 生キ血 ヲ 啜リ 浴ビタ 事デ
 我ラ ハ 真理 ヲ 得タ』

 

「真理だと……?」
『肯』

 

ソラールの言葉に、ヨアは己の行いを誇る様に嘯いた。

 

『此レマデ ノ 卑小 ナ 生命 ヲ 凌駕スル
 命 ノ 神秘 生 ノ 到達点』

 

竜血騎士の軍勢が再び血だまりから姿を現した。

 

『脆弱 ナ 人 ノ 肉身 ヲ 捨テ 神聖 ナ 血 ニ 依ッテ ナル 命ノ形
 故 ニ 我ラ ハ 滅ビル コト ハ 無イ 
 仮初 ノ 躯 ガ 果テヨウト 再ビ 血 ニ 還ル』

 

先程まで精強なるサンドリア騎士団に蹴散らされていた連中だが、サルヴァという一国を滅ぼしたのだ。
それは、倒しても倒してもあの血の海から再生するという……終わらない増援によるものだった。
『血』。彼らはその一文字の単語をただひたすらに輪唱する。

 

『血 血 血 … … 故 ニ 血 ヲ 浴ビル
 更ナル 真理 ヲ コノ身 ニ 宿サン ガ タメニ』

 

「……それだけの理由で、竜のみならず無関係な民まで殺したというのか」

 

憤激を押し殺したカインの声が低く、とても低く響いた。

 

『人 ノ 姿 ヲ 借リル 竜 ガ イル
 人 ノ 身 ナガラ 竜 ノ 血ヲ 流ス 者 ガ イル
 【超越者】タル 存在 ガ イル』

 

『竜 モ 人 モ 流ルル 血 ハ 皆 赤イ
 判別 スルニハ 浴ビル シカ アルマイ?』

 

『ダカラ 皆 殺スノダ
 コレ ハ 当然 ノ 道理 デ アロウ』

 
 

…………

 

狂気がそこにはあった。

 

雄弁にうねる血液の塊を見て、主人公……否、一同は口を閉ざす。
どれだけ崇高な思想に基づいていようとも、どれだけの熱望に焦がれていたとしても……
ああなってしまっては終わりだ。

 

貪欲に血を求め続け、醜悪に歪んだ渇望の窮てがそこにあった。

 

『我ラ 竜血騎士団 ニ 生キ血 ヲ 捧ゲヨ
 深紅 ノ 血 燃エ滾ル様 ニ 赤イ 魂 ノ 中身 ヲ』

 

武器を構える血塗れの騎士団。
それを嘲笑う声があった。

 

「それの……どこが真理だって言うのよ」

夜の虹

誰もが声の主を見る。

 

それは、荒く息を吐くフランドールだった。
押さえた胸元からは赤い血がとめどなく流れている。

 

「フランドール、無理しないでって! 体に穴があいてるのよ!?」

 

主人公やテンシの制止をやんわりと止め、
手負いの吸血鬼は険しい表情で竜血騎士団を睨む。

 

「人間であることを辞めて、殺して奪った血液で、
 無理やり生き永らえてるだけじゃない……!」

 

『心ノ臓 ヲ 抉ッタ ツモリ ダッタガ イマダ 健在 トハ 畏レ入ル』

 

俯くフランドールに、ヨアは首を傾げた仕草をとった。

 

『何故 人 ニ 与スル
 貴様 ハ 人 ノ 血 ヲ 糧 ニ スル 存在ダロウ』

 

俯く彼女に、嘲笑う言葉が投げ掛けられる。

 

『吸血鬼』

 

他者から血を吸い、生きる魔物。
竜血騎士団の所業も、自らの行いこそ神聖視しているが、やっていることは吸血鬼と違わない。
だからこその嘲りなのだろう。ともすれば盛大な自虐とも言える嘲笑に、フランドールは眉をひそめた。

 

「理由……?」

 

血を拭って、フランドールは前に歩を進める。
足取りは不確かだが、その歩みはけして弱弱しいものではない。

 

「馬鹿馬鹿しい」

 

血が無いと生きていけない癖に、上から目線とは。
これが自惚れか。
大体、人に害を成す筈のわたしたちが好んで人間と関わる理由なんて限られているだろう。

 

「そんなの……わたしが、人間を好きだからに、決まってるじゃない」

 

ヨアのみならず、友軍の騎士たちの動きが一瞬固まった。
ああ、そういえば公言してなかったなと一瞬だけ思ったが、知ったことかと目の前の暗愚との距離を詰める。

 

『好キ … … ?』

 

その返答は想像していなかったのだろう。素っ頓狂な声音でヨアは聞き返していた。
思わず可笑しくなってフランドールは苦笑する。

 

「そりゃ、ね……そうも思われるでしょうね」

 

『… … 滑稽
 人間 ナド 惰弱 デ 脆イ 肉 ノ 器』

 

お前たちもそうのたまうか。いいや、
だからこそ人間であることを辞めたのか。

 

口元から零れる血を拭い、フランドールは彼方の敵を冷やかに睨む。
足を地に踏み締め、仁王立ちのように大地に根を下ろす。

 

「……ええ、惰弱ね。
 お前たちを生みだしたのはまぎれもなく、
 竜血騎士団という愚か者の人間よ」

 

『… … 何?』

 

「でも……それは、どうでもいいわ。
 人も悪魔も、間違いは犯す。愚か者に区分なんてない」

 

悪人なんてごまんといる。自分勝手な人間なんてあまねく程いる。
自分と違うからって、徹底的に排除する人間も嫌というほど見てきた。
眼前の竜血騎士団のように、もはや救いようの無い人間さえも。

 

第一、人間に焦がれてはいるが、今のわたしはどちらかといえば性悪説派だ。

 

「だからこそ……清濁を含めて、人間が私はいとおしい」

 

「テンシのように、自分を曲げない強さを持った人。
 ブロントさんのように、守り通す強さを持った人。
 カインさんとセシルさんのように、公正な人。
 ソラールさんのように、あたたかい人」

 

「傲岸不遜だけど人の良いメイド長とその軍団。
 わたしの正体を知っても、恐れず手を差し伸べてくれた友人。そして……」

 

そして、わたしを一番最初に認めてくれた、大切なあのひと。

 

「懸命に生きるあの人たちの姿は、私にとって何よりも貴いから」

 

幼い頃、絵本で見た人間の"王子様"。
彼らの真っすぐな姿は、何時か見たあの真っすぐな姿そのものだった。
だから、

 

「人間を好きになる理由も、お前たちから彼らを守る理由もそれで充分よ」

 

魔剣を突き付ける。
炎熱を秘めた大剣は、赤熱するように光輝を夜闇に発散していた。

 

『… … 戯言ヲ』

 

フランドールの啖呵に、ヨアはぽつりと呟いた。
ヨアの無言の号令で竜血騎士が殺到する。

 

フランドールはそれらを不敵に睨みつける。
夜の闇に、その深紅の瞳が爛々と輝いていた。

 

そして、両者の間に割り込んでくるものがあった。
武器を構える竜血騎士に盾を叩きつけ、怯んだ隙に致命の一撃を叩きこんだそれは、剣を携えたテンシだった。

 

「……テンシ?」

 

フランドールからはテンシの表情は伺えない。
彼女の視線もまた、眼前で血を喚起する連中を向けられている。

 

「忘れてない? 戦ってるのはあんただけじゃないのよ。
 そう簡単に死なないからって、突撃するやつがいるかっての。
 ちょっとは反省しなさいよ!」
「あ……その……ごめんなさい」

振り返らず、胸を張るテンシにフランドールは委縮する。
テンシは軽く鼻を鳴らすと、剣の刃を盾に噛みあわた。
刃が盾の表面を擦るたび、キャリキャリと火花が散る。

 

「まったく」

 
 
 

「あんなことを言われて、私たちが黙っているわけ無いじゃない」

 
 
 

「貴いと言われるほど、大層な生き方はしていないのだがな……」
「でも、好きだと公言されると……流石にこそばゆいな、うん」

 

テンシに続き、前に出たブルーゲイルとセシルが竜血騎士に槍の一投を叩きこんだ。

 

「それでも、仲間には違いないね」
「そういうわけだ。勝手な真似をさせるつもりはない」
「……笑いたければ、壁にでも言ってろ」

 

そしてセシル、オルステッド、スコールが喚き立てる騎士を斬り捨てる。

 

「フランドールさんってお姉さんとは違った意味で変わり者ですね。気が合いそうです」
「ええ、あなたが我々を守ると言うのであれば、
 我々もあなたを守りましょう。サンドリアに生きる者として」
「え、えーっと……歓迎するよーっ!」

 

そう言って神殿騎士団が、竜血騎士どもの前を阻む。

 

「太陽は常に貴公を見守っている! 夜も吸血鬼も関係はない!」

 

ソラールが無茶苦茶なことを言いながら、竜血騎士の背中に強烈な刺突をぶちかます。

 

「……」
「何ボーっとした顔してるのよ?」

 

自分を守ってくれている光景に少々茫然としていた。
テンシの叱責で我を取り戻す。

 

「えっと……なんだか、嬉しくて」
「そう? ま、ああ言われると私も悪い気はしない」

 

隣でフランドールの名前を呼ぶ声が聞こえた。

 

「……主人公」

 

自分を吸血鬼でなく、闇の王の娘としてでなく、
フランドール・スカーレットとして見てくれたその人の顔を見る。

 

心臓近くを貫かれた傷は未だ治らない。明らかに動きが鈍っている。
思えば、前にも似たようなことがあった。あの時は利き手で、同行していたこの人に迷惑をかけてしまった。
あの時、自分はどうしただろうか。

 

確か、仲間だと誇ってもらえるように、この人の仲間だと誇れるように……

 

頑張った筈だ。

 

では、今、この瞬間自分はどうするべきか。

 

フランドールは頷いて、剣の柄を強く握り返した。
そして目を瞑ると、深く息を吸い、抉れた胸元に掌を叩きつけた。
がしゃん、と何かが壊れる音が響き渡り、傷が、鎧が元通りに戻る。

 

『何 … … !』

 

もしヨアにれっきとした目があるなら、目の玉をひんむいているのだろうか。
しょうもないことを考えながら、フランドールはサンドリアの騎士たちに並ぶ。

 

「……今宵、火の遊びを」

 

ヨア、竜血騎士団を葬り去るために。
この街の人たちを守るために。

 
  • 大規模戦闘
    Shake your Heart
    勝利条件:ヨアの撃破
    敗北条件:主人公とフランドールの戦闘不能
    備考:竜血騎士は5ターン毎に1ユニット増援
     
    敵は撃破対象の竜血騎士団長「ヨア」が1ユニット。取り巻きに竜血騎士がソロで6ユニット。
    更にスケルトン族がソロで6ユニット。味方戦力は変わらず。
    ヨアを撃破すればその時点で戦闘は終了となるが、敵が増援する点もやはり前戦闘と同じ。
    取り巻きを速やかに片づけ、ボスを攻略したい。
     
    ヨアは装備武器が槍にも関わらず、片手剣や両手剣のWSも使用するトンデモボス。
    属性耐性が高く、状態異常も効きづらい。ただし防御力自体は竜血騎士より低い。
     
     

騎士たちが武器を振るうたびに、竜血騎士たちが倒れ、血に還る。
倒れても竜血騎士は何度も蘇るが、その都度跳ねのけられる様に打ち倒され続ける。
そんな激闘の中心で、フランドールとヨアは目まぐるしい剣戟を繰り返していた。

 

多様多彩な技術を見せつけ、圧倒せんとする竜血騎士団長。
対するフランドールはヨアの槍術を剣で捌き切るだけ。
しかし、魔剣に叩かれるたびに槍は壊れ、そして一秒足らずに元の姿へと戻る。

 

『無駄 ダ ! イクラ 倒シタ トコロ デ 我ラ ハ
 何度 デモ 血 ノ ナカ ヘ 回帰 ヲ 繰リ返ス !』

 

それは何度も倒しても蘇ること。
剣戟の最中で破壊と再生を繰り返している、ヨアの槍と同じ。

 

フランドールの戦意は削げない。淡々と、容赦なく剣をヨアに叩きつける。
槍を弾かれたヨアの首が刎ねられ、断たれた根元から新しい首が生え変わった。

 

『言ッタハズダ コレガ 真理 ダト !
 竜血騎士団ハ 不滅
 我ラ ハ 全 ニ シテ 一 一 ニ シテ 全 ナノダ … … !』

 

両手を広げ、哄笑する。
そう、故に敗北はあり得ない。
お前たちが疲弊して、蹂躙されるのが先だとヨアは哂う。

 

それを聞いたフランドールはため息混じりにヨアの甲冑に剣の切っ先をぶち込んだ。

 
 
 
 
 
 

「さっきの『妙な術』の種明かしをしてあげる」

 

『……』

 

「全てのものには『目』ってものがあってね。万物における綻び目になってる。
 それが物理的なものだろうが、事象的なものだろうが……綻びが壊れれば、どうしようもない」

 

『……』

 

「わたしの目は、その『目』を見つけて、破壊することができる」

 

「さっきお前から貰った胸の傷も『壊して』なかったことにした。
 少しでも間違えれば心臓ごと壊すから、もうやらないけど」

 

『… … 莫迦 ナ
 ソン ナ 理 不尽 … …』

 

フランドールの刺突は
ヨアの……否、彼らを生み出す血の海「竜血騎士団」そのものの『目』を穿っていた。

 

「手下も含めて、何度も死にすぎよ。おかげで『目』がようやく見えた」

 

これは竜血騎士と戦っている彼らのおかげだ。
自分だけではこうはいかなかった。

 

フランドールは剣を握る手にもう片方の手を添え、思い切り胴を払う。
ヨアが血の海に膝をつき、地面に広がる血の海もじわじわと涸れ始めた。
蘇った他の竜血騎士もその形を失いかけている。

 

『何 故 … … !』

 

『何 故 貴様 ガ ココ ニ イタ !
 我ラ ガ 魔性 タル 貴様 ニ 何故 敗レル ! !』

 

ヨアから背を向け、歩き去るフランドールに、血の塊が吼えた。

 

『血 … 血 … …  血 ヲ オ オ オ … …』

 

酸素に触れた血液は黒く凝固する。
赤黒い彫像となった塊はそのままガラス細工のように砕け散った。
血の怪物の嘆きに、振り返らずにフランドールは告げた。

 

「夜は吸血鬼(わたし)たちの世界。
 その夜の安息を守るのは当たり前でしょう?」

 

それに、と独り言のように呟く。
向こうで手を振る主人公たちを見て、フランドールは淡く微笑む。

 

「今のわたしには、一緒に戦ってくれるひとたちがいる。負けるがわけない」

 

塞翁が馬

あれから数日。

 

「じゃんじゃじゃ~んっ、もらっちゃった!」

 

無邪気に紅い推薦状を見せられ、ついつい閉口してしまった。
フランドール曰く、あの時に共闘したサンドリアの騎士達から推薦状を受け取ったのだそうだ。
快復したパン屋の本来の店主も元王立騎士団だったらしく、是非、と強く勧められたのだとも。

 

「騎士学校に行かなきゃダメらしいけど……
 でも、これでわたしもこの国の騎士になれる……のかな?」

 

そう言って騎士学校入学のための必須アイテムを片手に首を傾げる。

 

……騎士になる前に、悪魔も号泣する様な地獄の訓練が待ち受けているのだが。
とりあえず、フランドール次第だと肩を叩いた。

 

「う、うん。……頑張る!」

 

そういえば、結局パン屋のアルバイト続けるのか?
主人公がそう尋ねると、フランドールは恥ずかしそうに微笑んだ。

 

「うん……すっかり、やめにくくなっちゃった」

 

フランドールが助けたチンピラが外で売り子をしている姿を見て、苦笑いを浮かべる。
いつの間にかパン屋の看板娘として、一定の立場を形成してしまったようだ。

 

「しばらくは騎士とパン職人の修行かな。
 店主さんが言うにはクリスタル合成じゃ、本当においしいパンは作れないんだって」

 

たまたま鉄火場に顔を突っ込んでしまった結果、色々な状況が好転してしまった。
人生塞翁が馬というが、本当に何が起こるかわからない。

 

ただ、フランドールはとても幸せそうな笑みを主人公に向けていた。

 

「『夜の安息を守る』……なんて啖呵切っちゃったから。
 真剣に考えないとね、サンドリアの夜を守る、って」

 

「勿論パンも。もし、納得いくものが作れたら、その時はあなたに食べてほしいな!」

 

しばらくは忙しそうだけど、この忙しさがとても嬉しいのだろう。
黒い鎧に引き籠っていた頃の彼女を思い出し、主人公は今のフランドールを目一杯祝福した。

 
 

「……あ、主人公! 忘れちゃってた。これ、受け取って!」

 

市街に出る前、そう言ってフランドールからプレゼント箱を渡された。

 

「あなたに助けてもらったお礼、まだだったから。パン以外のお礼がしたいから、準備したの」

 

首を傾げる主人公に、フランドールはムスッとした顔で詰め寄った。

 

「前にパン屋で絡まれてたわたしを助けてくれたでしょう? もーう。忘れちゃったの?」

 

……そういえばそんなことがあったなあ。厳つい顔でパン屋をアッピルするチンピラを見てひややせかく。
そんな主人公を見てフランドールはおかしそうに吹き出した。

 

 
  • クリア報酬
    • 頭装備「アルメリアリボン」
      フランドールが主人公のために贈ったリボン。
      アルメリアの花言葉は「思いやり」
    • 両手槍「ヨアの槍」
      竜血騎士団長ヨアの置き土産。
      毒への耐性の他、槍以外のWSを使えるという特殊な能力を持つ。
    • 一式装備「竜血シリーズ」
      竜血騎士団が身に着けていたイケメン装備一式。
      漆黒の鎧を包み込むマントは竜の血への憧憬を表しているらしい。
       
  • イベントクリア時の影響
    • イベント終了からしばらくまでの間、フランドールをPTに誘い辛くなる。
      何らかのイベントで力が必要な場合はこの限りではない。