シナリオ/世界移動シナリオ-中世聖騎士編のイベント。
弓張月の七色翼
夜更けの参入者
夜も更けようという頃。
城の一室にて、主人公はあったたかいベッドに包まれ、幸福な睡眠を享受していた。
思えば、ここに来るまでは極寒の地で闇の王に迫まられたり崖下にダイブしたりと散々な目に遭ってきた主人公にとって、掛け布団の温もりはまさしく神の賜物の様荘であった。
分刻みの仮眠ベッドだったとしても構わない。自分にとっての幸せはいまここに体現されている……!
ちょいちょい
布団の先を引っ張られた。
やめてくれないか。そういう唯一ぬにの聖骸布を引っ張る様な事をするのは。
ちょいちょい
聖骸布を頭から被り直し、拒絶する。
「ねぇ、起きてる……?」
か細い声が耳に入って来た。
「いくらなんでも遅かったかな……」
このまま耳元でゴニョゴニョされるとたまらないので聖骸布からのろのろと抜け出す。
目の前にはフランが立っていた。窓の光に照らされ、不安げな表情が見える。
なんだこの添い寝もしくはギャルゲ的シチュエーション。
……何か用かな?
眠気を堪え、尋ねると、フランは眉尻を上げ、真剣な表情で答えた。
「お願いがあるの」
「……私と、剣を交えてくれませんか」
主人公は驚いた顔を見せたが、わたしの顔を見つめると、真剣な表情でやがてゆっくりと首を肯定の形に傾けた。
『貫き通してきなさい。貴女のありたっけの想いとすべてを』
姉はわたしにそう言った。
正直に言うと、この感情を言葉で、主人公に向けて伝えるのは至難の極みだった。
最初に言葉は出るけど、きっと二の次が出てこない。
だから、代わりに剣を交えたい。戦いから伝えたい。
そう姉に言うと「……それ、好意を伝える行為じゃないわよね」と呆れられた。
不器用だ。どうしようもないくらいに不器用だ、わたしは。
それでも、バトルマニアと揶揄されてもいい。
戦いの中から、剣戟の音から、武器を振うしぐさから、わたしを知ってもらいたい。
その身のこなし、戦い方の癖、遍く動きの全てから、この人についてもっと知りたい。
だから、
わたしは、わたしの全てを貴方にぶつけます……!
夜のホッカイドゥの城の庭園にて、主人公はフランと真っ向から激突していた。
「――――!」
フランの両手剣の斬撃を躱し、攻撃を打ちこむが、しかしそれは弾かれる。
激戦の合間に、ふと思う。彼女がなぜ自分に対し、一対一の戦いを臨んだのか。
おそらくは何らかの意味がある。少なくとも、彼女は彼女自身の全てを以て自分に挑んでいる。
ならば……自分も、それに応える必要がある。
「証明しましょう」
「……私にも、それができる筈だから」
- VS.フランドール・スカーレット
♪U.N.オーエンは彼女なのか?
彼女のステータスの一部と内部レベルは主人公によって変動、彼女のHPを5割以上削ればこちらの勝利となる。
初ターンにラストワードを発動、次のターンからカウントダウンが「10」から始まり、ターン経過ごとに1減少。
カウントが「1」になった瞬間、全ての行動を封印する技が、「0」になった瞬間、不可避の即死攻撃+蘇生禁止が飛ぶ「Q.E.D.証明終了」が発動。敗北してしまう。つまり、早い話戦闘開始から10ターン以内に彼女のHPを5割以上削らないと勝敗が決してしまうのだ。
状態異常での行動遅延もできず、ラストワード発動時点で全ての攻撃に必中・ディスペルがかかるため、リレイズや空蝉でのやりすごしも一切無効。
先に彼女を倒すかこちらが倒されるかどちらかの、純粋な実力勝負である。
勝利条件を満たしても負けてもそのまま進むが……どうせ戦うのなら是が非でも打ち負かしたいところ。
持てる全てを使い、彼女を打ち破ろう。
「Q.E.D.証明終了、わたしの勝ちよ」
想いへのQ.E.D.
「貴方という人についてもっと知りたかった」
フランが言葉を紡ぐ。本当は言葉で済めばいいのだけど、私は下手くそだから、と。
「だからこの方法しか考え付かなかった。貴方の戦い方から貴方という人物を推測するくらいしか」
最初はどうしてこんなことを? と思った。しかし、戦って解った。彼女は自分に何かを伝えたかったのだと。
それくらいならばわかる。今までの太刀筋には、何かが込められていた。
「普通なら断られるかもしれない。いいえ、夜這い同然の状況からなのに、それでも貴方は快く引き受けてくれた。本当に、本当の本当にありがとう」
なんだか、謝ったりしっぱなしだね、わたし。そう笑うフランに自嘲の響きはなく。
「でもおかげで、少し、勇気が沸いてきた。……やっぱりこればかりは言葉で貴方に伝えなきゃ駄目だよね」
フランの体が主人公の下に吸い込まれ、フランに抱き添われるような形になる。
「好き、です」
擦れ、しかし強い声音で語りかけた。
「あなたの、ことが――――」
「だい、すき」
「……驚いた?」
うん。……本当にデレてたとは思わなかった。
「あ、はは。驚いたって、そっちのことだったの?」
フランは笑って、
「……答え、聞いてもいい?」
暫し悩み、
……わからない。
「わからない、か」
正直、フラグ折れそうな返しだったが、フランは落ち付いた笑みを浮かべる。
「急な事だもの、仕方がないよ」
それから、フランは背後の翼から布上に包まれた棒状の物体を取り出し……いや、今どうやって出した。
「ベクタートラップ」
マジですかフラえもン。……ところで、これは?
「今回の我儘へのお詫び。付き合わせちゃったのに手ぶらじゃ、あんまりだから」
差し出されたものを両手で恭しく受け取り、主人公は両手に持ったそれを見つめた。
布越しからでも強い魔力が感じられる。
「答えは、保留で良い」
「でも……いつか必ず、証明してください。
否定でも、肯定でもいい。……あなたの答えを」
「あっさり結論が付くかも知れない。難しいかもしれない。でも」
フランは主人公の眼前に顔を寄せる。
「待ってる」
「それが、どれだけ長くても、わたしは、待ってるから」
息のかかりそうな距離。
フランドールは口の端を緩ませ、静かに微笑んだ。
「……ね?」
主人公が去ったあと、フランは思い切り息を吐いた。
外面は平然を装ったが、その内心は疲労と興奮とで一杯一杯だった。
ただ、後悔といった思いはない。
結果はどうあれ、行い自体に間違いはなかったと思っている。
(ただ、精神的にすっごい疲れるものなのね……)
フランが後の進展について思案を巡らせていると、眼前に現れる影があった。
「あ……お姉様」
レミリアだ。
「まったく、主人公の奴、曖昧な回答で逃げるなんて……」
そのままレミリアはフランをぎゅっと抱きしめる。
「む、苦しいよ……」
「それは息が? それとも胸がかしら?」
「……」
優しい声音で、レミリアは動悸が止まらないであろうフランの耳元に囁く。
「頑張ったわね、フラン」
「……うん、私なりに頑張った」
しばらくして、フランがレミリアから離れる。
紅潮したフランの表情はどこか晴れがましい。
(……強くなったわね)
以前はあれほど嫌われることを恐れていたというのに。
妹の成長を姉は嬉しく感じる。
「それで、どうする? 主人公の寝込みに討ち入りけしかけるなら手伝うけど」
「……今更過ぎるけど、お姉様って発想とか思考が突飛というか物騒すぎない?」
「えー? 一世一代の告白を濁した奴の顔面に、闇属性の左くらいかましても許されると思うんだけどなぁ」
「誰に。というかわたしが許しません。大体討ち入りって何よ。
『チューシングラー』みたいに読み物の中のお話じゃないんだから」
「厳しいわねー!?」
「お姉様が非常識なだけでしょうが!?」
「逃げるためにわざわざ雪崩起こしたやつの言えることじゃないでしょ!」
フランの表情が固まった。
そこから深い笑みが浮かぶ。
「……ねー、ちょっと待って。何でお姉様がそれ知ってるのかな?」
「……え? あ、いや、宴会の席で主人公にワインをガブガブ飲ませてみたらポロリと」
「……ちょっと主人公を起こしてくるね? お姉様には後でお話があります。覚悟しておくように」
「……うぁー藪蛇だったわー」
漫才をしながら、フランは心中で呟く。
……私、待ってるよ。
- クリア報酬
アクセサリ「ストリゴイリング」(フランを倒した場合)
アクセサリ「レインボーケープ」(同上)
- イベントクリア時の影響
- フランがサンドリア(厳密には、サンドリアに所属しているレミリアの下)に所属する。
- フランをPTに誘えるようになる。姉とは違い、割りかし自由な立場なので行動範囲に制限はない。
また、PTに誘う以外にフランと何度も戦え、勝利することで下記のアイテムを入手可能(それぞれ一回限り)
短剣「アステリア」(PCのレベルが96以上の時にフランを倒した場合のみ)
片手剣「ダンピルソード」(同上)
レーヴァテイン
ミシックウェポンが一。
世界樹ユグドラシルの中に一本だけ生える「災厄の枝」からドゥエルグ族が作り上げたと言われる長杖。
その名は長杖の元となった災厄(若しくは破滅)の枝を意味する。