シナリオ/世界移動シナリオ-中世聖騎士編のイベント。
深淵の主
狼の遠吠え
闇の中から、遠吠えが響いた。
ここに来て初めて聴く――狼の遠吠え。仲間との連絡手段であるウォークライだ。
寂寥を帯びた悲しそうな遠吠えが、闇の奥から聞こえてきた。
「……呼んでいるのでしょうか」
「……まさか、私達を?」
サナエ達は狼の後を追った事が切欠となり。自分の窮地を救ってくれた。
少なくとも、その狼が自分達に害を与えるモノとは考えにくい。
目配せすると、二人が無言で頷いた。
……慎重に歩を進めることにする。
- 大規模戦闘
勝利条件:敵の全滅
敗北条件:主人公の戦闘不能
ゴブリンがソロで1ユニット。ゴーストがソロで1ユニット。スケルトンがソロで3ユニット。計5体。
対する此方の戦力は主人公を含めて3名だが、このイベントを発生している時点で数の利を覆す程度の実力は身に付いている。
例えゲーム難易度を高めに設定しても、敵の質は前イベントのボス連中に比べると否応がなく霞がち。サクッとなぎ払ってしまおう。
Prepare To Die
狼の遠吠えを頼りに、闇の奥を突き進むと薄い光の靄に突き当たった。
サナエは不審気に首を捻っていたが、主人公とフランは見覚えがあった。
各地に現れた星座の騎士の討伐にて、似たものを見掛けたことがある。そして、それは敵の本拠地に繋がっていた。
その事を思い返し、眺めていると、靄が一瞬霞む。
次の瞬間、巨大な掌が靄から突きだし、襲いかかった。
掌に生えた口吻から涎を撒き散らし、不気味な腕は再び獲物を捕まえようと五指を広げ、掴みかかる。
しかし、掌は空を掴むだけだった。
何度も同じ手を食うほど此方も未熟ではなかったのである。
回避行動をとったサナエが口吻目掛け、
「タル爆弾です!」
爆発に怯んだ次の瞬間、手が苦悶にのたうち回った。明らかに爆発によるものだけではない。
と、薄靄から凄まじい絶叫が轟き、腕は薄靄の彼方へと引っ込んでしまった。
耳に殴り込んできた絶叫に目を白黒させながら、逃がすものかと、飛び込む。
薄靄を突き抜けると、そこにはあの鎧の騎士が、雄叫びをあげ暗闇の先へと対峙していた。
地面には大量の血がぶちまけたように飛び散り(量を見るに、騎士のものではないだろう。明らかに人一人の致死量に近い)騎士が対峙する先には、幾つもの赤い目が闇の中で爛々と光り、騎士を睨み付けている。
「……――!」
隻腕に等しい姿で血に濡れた大剣を担ぎ、騎士が吠える。
姿を見せろ、主人公はそう言っているように感じた。
騎士の叫びに応じたのか、やがて闇の奥から思い足音と重苦しい喘ぎを伴い、目の主が姿を見せる。
そいつはゴリラとヘラジカといった生物をくっ付けて、とびきり醜悪にしたような、おぞましい生き物だった。
暗闇でゆらゆらと振り回しているその尾は長く、どこかハ虫類を思わせる。
ヘラジカのものを禍々しく捻ってくねり、伸ばしたような角が頭のみならず、肩から背中までにかけてびっしりと生えている。
頭に生える角からは赤く発光する眼球のような気管を大小幾つも備え、闇の中から此方を睨み付けるように灯りを発していた。それがあの赤い目の正体だった。
口は穴のように空きっぱなしで、口腔の中は黒一色で塗り潰されている。
左手には骨のような質感を持つ棍棒のような杖を握りしめ、片方の腕は肩から手首の先まで不気味に波打ち、騎士に手傷をつけられたのか、しきりにどす黒い血を噴き出す。
その手首から掌は異常に大きかった。まるで槌のようだ。
そして、その掌を騎士に叩きつけんとする様に見覚えがあった。
怪物の右掌には藤壺のような歯と口吻が生えていた。
二度襲いかかってきたあの不気味な掌そのものだったのだ。
騎士が、怪物に対し意味ある叫びをあげる。
「マ ヌ ス……!」
マヌス。
それが、あの怪物の名だった。
- VS.深淵の主マヌス
Manus, Fatder of the Abyss
勝利条件:深淵の主マヌスの撃破
敗北条件:主人公及びNPCの戦闘不能
備考:NPCとして深淵歩きの騎士が参戦
備考にもあるが、この戦闘ではNPCとして深淵歩きの騎士が参戦する。
単純な味方キャラではなく、戦闘対象に入る。マヌスの相手に夢中になっているため、普通にマヌスらと戦闘していれば此方を攻撃してくることはないが、邪魔をすると手痛い一撃をお返ししてくる。刺激しないように。
NPCの戦闘不能は敗北条件にも入っているが、NPCはボスモード時とほぼ同等の状態であり、HPは60000程度と非常に高いので簡単にやられはしない。むしろ雑魚の掃討を任せてしまってもいい。
…が、NPCに任せて何もしていないとマヌスらが此方を集中攻撃してくるようになる。ズル休みはいけない。
多段攻撃は単発の威力こそ低めだが、対象の防御力が低いとかなり響く。
また、体力が少なくなるとマヌスは闇属性の魔法「追う者たち」を使ってくるようになる。この攻撃は威力が高く、また命中率も非常に高い。シェルをかけておくか闇耐性を上げておこう。銀のペンダント?ないから頑張れ!
苦痛の叫びを漏らしながらマヌスが左手を振りかざし、なぎ払った。その掌に薙がれるよりも早く、騎士が地を大きく跳ねる。
マヌスが反応し、見上げたときには、剣を突き立てようとする騎士の姿があった。
マヌスの脳天を、騎士の大剣が貫く。
動きが、止まった。
騎士が剣を引き抜くと共に、頭部から噴水の様に血が溢れ、マヌスの巨体が揺らぎ、地に沈む。
マヌスが死ぬと同時に、闇が少しずつ晴れていくことに主人公達は気が付いた。
あのマヌスと呼ばれた怪物こそが、この「深淵」の主だったのか。
そして闇が晴れたその場所は、古い戦いの跡が残る古びた石造りの空間だった。
「ここは……シェルターか避難通路みたいなところみたい」
「タブナジアの人達が戦火を逃れるために通った……といった所なんでしょうか」
分析していると、荒い息遣いが響き渡った。
見れば怪物の死骸に降り立ち、あの騎士が肩で息しながら此方を見ていた。
「……貴、公……達は……」
息こそ絶え絶えだが、騎士が言葉を発した。
獣のような正気を逸したものではない、理性ある言葉だ。
正気を取り戻したのか……?
「サンドリア神殿騎士団に所属するサナエ・コチヤです。正気を失っていたとはいえ、先程の剣の冴え、只者ではないとお見受け致しました」
「あー……。サンドリア騎士見習いのフランドール・スカーレット……です。貴方は……」
立場を明らかにする二人であったが、騎士は苦しそうに呻くだけだった。
「あ、あのー…… ……!?」
慮って近づこうとして、そして、見た。
騎士の足元に、黒い霧――「深淵」の闇が纏わりついていたのを。
制止を促すように首を横に降り、騎士が、捻り出すように呻く。
「……逃、げ……ろ……!」
全身を「深淵」の闇が覆い――騎士が咆哮をあげた。
「яЛОООООООО………!!」
絶命したマヌスの死骸を踏みにじり、狂気の絶叫に震えるその姿に、最早理性や正気などなかった。
徒手にて死せず
- VS.「深淵歩き」アルトリウス
Knight Artorias
ステータスは前回の戦闘と変わっていないが、使用する技の種類が幅広くなっている。
中でも「ジャンプ斬り」は命中率こそ低いが非常に威力が高い。
物理攻撃力を上昇させる「深淵纏い」も脅威だがこれは一定ダメージを与えるか、怯みやスタンといった行動を潰す状態異常で無効化できる。
ただし阻止しないとチャージ後にアルトリウスは必ず物理攻撃を使い、即死級のダメージを叩き出してくるので何としても阻止しよう。
強敵だが、守りを念頭に入れて戦えばある程度は安定する。
そしてアルトリウスのHPが50%を切ると……
獣声を喚き、騎士が歩を進める。
「かなり追い詰めた筈なのに……!」
「……くっ」
半歩後ずさる。
その時、
あの狼の遠吠えが聞こえてきた。
しかし今度は遠吠えだけではなかった、
白くぼんやりと光る灰色の狼が、主人公達と騎士の間に入るように忽然と姿を現したのだ。
「あの狼……」
騎士が振るう大剣と酷似した直剣を口に咥えた大きな狼だった。あれがサナエ達が後を追った狼なのか。
足元に剣を置き、狼が騎士に向けてか細く鼻を鳴らした。
尾を垂らすその姿はまるで主人の様子を慮る忠犬のようで――
狼の姿を見た騎士は、一瞬動きを止め――
「ОООО……――!」
咆哮で返した。
拒絶するように放たれた咆哮に弾かれたかのように後退り、狼は悲しげに頭を垂れた。
「もしかして、あの狼は……」
……まさか、あの騎士を主としていたのだろうか……。
項垂れていた狼は、やがて地面に置かれた剣を静かに咥えた。
そして咥えた剣を、ぐるん、と振り回し構える。
それは丁度、狂戦士と化した主人に対峙する形だった。
主の誇りを守る為に、剣を抜いたのだ。
- 騎士は徒手にて死せず
Great Grey Wolf Sif
前の戦闘との違いは灰色の狼シフがNPCとして参加すること。NPCだからかHPがかなり高く(20000弱)、アルトリウスの攻撃を上手く引き付ける。
騎士が膝を地に着き、屈した。
剣を支えに荒く息をあげるその姿に最早戦意も狂気も感じられない。
しかし、あげる息は明らかに死の匂いが混じっていた。
彼を蝕んだ狂気を解くには、致命の一撃しか他ならなかったのか。
狼が、主人に近づいた。
目尻を下げ悲しげに主を見つめる狼を、騎士もまた見つめる。
その左肩が上下に震えているのは、動かなくなってしまった左腕を狼に伸ばそうとしているからか。
狼はボロボロになった左肩に、鎧の穢れに汚れるのも構わず頭を擦り付け、くんくんと小さく鼻を鳴らす。
騎士の体から光が漏れ、溶ける。それに気が付いた狼が騎士を見上げた。
その姿を見つめながら――騎士は光に霧散した。
跡には、鎧と騎士が最期まで振っていた剣が地面に刺さっていた。
「……」
どうしようもない気持ちを感じながら、主人公達は狼の傍に寄った。
あの騎士が何者だったのか、狼と騎士がどのような関係だったのか、はっきりと理解した訳でもない、わかったところで何が出来る訳でもない。ただ、主従を別つことになった悲劇を前に無言で立ちすくむ事だけはできなかった。
そうして近づこうと歩を進めると、狼が振り向いた。
前足を地面に着き、後ろ脚を屈ませ、所謂お座りの姿勢で主人公達を見つめている。
主人公が狼に手を伸ばそうとした瞬間、狼は一声、遠吠えを発した。
悲痛な咆哮は地下の空間に大きく響き渡り――
その咆哮が止む頃には、狼の姿は影も形もなかった。
まるで、幽霊かなにかのように。
代わりに、狼がいた場所には
ボロボロとなって傷ついた鋼製の大盾が遺されていた。
サンドリアに戻った主人公達は、カナコらに事の次第を報告した。
「深淵」と呼ばれる地帯が消失したことに賞讃の言葉を贈り、内部で起きた出来事を興味深そうに聞いていた上司のうち、エルパラシオンがこんなことを尋ねた。
「貴公らは「深淵歩き」アルトリウスの伝説を御存知か?」
知らない。誰それ?アーサー王?歌?
「闇の住人を狩ったという英雄の御話でしょうか?」
「あ。その話、私も聞いたことある……あります」
……知らないのは自分だけだったようだ。
「数百年も昔に伝聞されたという御伽噺。知らぬのも無理はなかろう」
項垂れる此方を快活に笑いながら宥め、エルパラシオンが語ったのはこの様な話だった。
「深淵歩き」アルトリウスはある偉大なる王に使えていた四騎士の一人だった。
強靭な意志により決して怯まず、
大剣を振るえば、まさに無双であったという。彼は闇の者達を狩る為に深淵の魔物と契約し、闇の魔物が支配する深淵へと渡った。
「深淵歩き」と呼ばれた由縁はそれだ。深淵の魔物を討伐したという彼の行いは伝説として遺されている。
しかし彼は孤独であり、生涯において友と呼べる者は白い魔女の猫と灰色の狼しかいなかったという。
その話を聞いて、強いデジャヴを感じた。
大剣、深淵、灰色の狼って――
実際に目にした筈の自分達すら疑うほどハマっている。だがしかし、――時代が噛みあわない。
「……前の星座の騎士の時みたい」
あの騎士達も、大昔の伝承に伝わる存在と非常に酷似していた。
結局、彼らが一体何者だったのか終始もやもやしたままだったが……。
「いや、済まない。混乱させるつもりはなかったのだが……。
ふと思い出して、戯言を口に出してしまったようだ。忘れてほしい」
その後、彼らから再度労いを受けた。
「深淵」を消滅させた今回の功績は大きく、
神殿騎士団の面々から囲まれたサナエは困惑しながらも嬉しい悲鳴を上げていた。
フランドールは面白い出来事と聞いて飛び込んできた姉やメイドに今回の出来事を語っている。
自分も同様に仲間達から何があったのか、詳細を尋ねられた。
「深淵」の内容についてはともかく、あの騎士について、どう説明したものか分からなかった。
最期に光に霧散したあの騎士。彼は結局何者だったのだろうか。
ただ、あの時の騎士と狼。
その別離の瞬間だけは忘れられなかった。
- クリア報酬
両手剣「深淵の大剣」
深淵歩きの騎士が最期に遺した剣。
深淵の闇に黒く汚れてしまっている……。
大剣同様、深淵歩きの騎士が遺した装備一色。
深淵の闇に濡れそぼっている……。
灰色の大狼が残したボロボロの盾。
深淵の闇によって朽ちているが……。