イベント/風の届くところ

Last-modified: 2012-07-25 (水) 19:38:20

シナリオ/世界移動シナリオ-異空幸福追求編のイベント。


風の届くところ

“黒陽”という竜

かつて、荒廃しきったこの世界を巻き込んだ、表向きに知られる事の無い異世界同士の戦争があった。
起源を同じくし、しかしこの世界とは趣きを別とする11の異世界。

 

その異世界の一つに、大気のある宇宙に2つの惑星の持つ世界が存在して「いた」。

 

二体の機械の竜、“黒陽”“白創”
二つの惑星を、戦争初期にて一つを生産用の基地に、もう一つを防衛用前線基地とし、白創を生産用基地に、“黒陽”を防衛拠点に配備された。
戦争初期に“人を護り戦い”、“人の幸せを導く”為に造られた二体の大型機竜を惑星の守護とした世界。

 

“黒陽”はその世界を護るために、造られた。

 

そして激化する戦争の中、“黒陽”が守る世界に異変が発生した。
他異世界の化学兵器による攻撃だった。

 

他異世界の兵器により、苦しみながら死んでいく人々を見た“黒陽”は。

 
 

「すまない。
――メンテ中の“黒陽”に全てを頼んだ。
もし、君達が苦しみ、そして私達が間に合わないようならば――、
星を、――きっと“黒陽”は悩み苦しむだろう。だから――」

 
 

「頑張ってくれ。最後の時間まで。――そして“黒陽”に告げてくれ」

 
 
 

「幸せになれと」

 
 
 

“黒陽”は苦しむ人々を救うために、二つの惑星を滅ぼした。

 
 

人に頼まれたと、人の責任にしないよう、
『誰も死なず、他の世界の人間も殺さない』ように、『世界から争いを無くすため』に、惑星を破壊したと、
そう、理由も何もかもを作り上げて。

 
 

“黒陽”の暴走は『“護るため”の行いで人々を死に追いやった』という矛盾による自壊を避けるためと受け取られた。

 

我々の世界に逃げ込んだ“黒陽”は、“白創”を筆頭に追い掛けてきた生き残りの機竜達と交戦し、北海道湾付近にて撃破、深海の底に沈んだ。
あの関西大震災が起きるより前の事だ。

 

しかし数十年の時間を経て自己進化機能を以て再度復活、1999年に全竜交渉部隊*1と交戦し完全に破壊されたとされる。

 
 
 

大破の直前に己が改竄した記憶を取り戻し、
一番高い場所から、世界を見るために。もう自分を誉めてくれる人はいないのだと、確認するように。
失わせてしまった償いのために。全ての責任を自分に押し付け、天へと昇ったと。

未知の荒神

「ゴッドイーター」として、主人公がアラガミを狩る戦いに身を投じ、名声とそれに見合った実力を得た頃。

 

アラガミ討伐を終えてゴッドイーター達の拠点である極東循環型居住施設「アナグラ」にて待機中の時だった。
急にアナグラ中が慌ただしくなった。

 

なんだ急に騒ぎ出した>>アナグラ

 

どうしたのかと、回ってみるとルーミアに出くわした。
事情を聞いてみると

 

「黒陽ってアラガミを知ってる?」
……聞いたことない。何それ? 黒曜石?
「正式名称はテスカトリポカ。
テスカトリポカ指定接触禁忌種。S.Q.U.I.D.を捕食したことで、既存のアラガミを凌駕した進化を遂げたアラガミだよ」

 

接触禁忌種はアラガミの分類の一つだ。
いわゆる古龍種のような、アラガミの中でも特異な分類で、神機を扱うものでも未熟な腕では接触すら禁じられる。
この接触禁忌種には

  • 接触禁忌種(第二種接触禁忌種)
  • 指定接触禁忌種(第一種接触禁忌種)

の二つに分けられており、指定接触禁忌種が危険とされる。
……が、
「その特異性から与えられた分類は――特例接触禁忌種。
接触禁忌種、指定接触禁忌種のどちらにも当て嵌まらない『指定接触禁忌種すらを上回る個体』に対して暫時的に設けられた分類に当て嵌まるアラガミのひとつ」

 

それが、黒陽だという。
全長は300m超。アーマードコア・ネクストにすら迫る超高度長距離航空能力を持つ既存のアラガミから逸脱した存在。
その危険性から、あの暗黒の騎士達の総力を以て遂に撃破され、黒陽は北海道へと逃げ延びたのだという。

 

そしてルーミア曰く、先程、アナグラから報告が出たらしい。

 
 

北海道方面にて沈黙していた筈の黒陽の姿が確認され、活動の再開が認められたと。
それが、遅々とではあるがアナグマ方面へ進行を始めていると

二の再来

数十時間後。

 

ワンダフルヘヴン、ディバインクルセイダーズ、ロックラックのハンター達、バーテックス、ブラザーフッド・オブ・スティール、そして暗黒の騎士。

 

黒陽の確認を受け、世界のパワーバランスを担う集団、傍目から見ても錚々たる面々がアナグマに集結していた。
招聘された者、望んで向かう者、理由は数々だが、強大な戦力が確かにそこにあった。

 

アラガミの討伐は、本来はアナグマ及びそこに所属するゴッドイーター達の任務だ。
しかし、今回ばかりは話が違った。

 

一見すれば過剰飽和ともいえる程の戦力が集結した理由はいくつかある。

 

黒陽自体が、暗黒の騎士の総戦力を結集して、ようやく大破まで追いこめるような存在だという事。
そして、新しくに確認された黒陽の姿だった。

 

改めて言うけどさー。
思わず傍にいたBOSのメンバーだというメイドさんに声を掛ける。
「Tes.、なんでしょうか」
……なんだこりゃ。
「目測からして、1kmはゆうに在るかと。懐かしい光景であると判断します」

 

スクリーンに写されるその姿は、以前確認された黒陽の姿とは大幅異なっていた。
ただ、漆黒の躯と僅かに窺える面影さえなければわからなかっただろう。

 
 

暗雲の様な巨体を空へと浮かべる、全長1km近い双胴の巨竜。
そして、それらを取り巻くアラガミ達の姿。

 
 

黒陽に酷似した300m級のアラガミ……複製型が、5、6体程度。
それらをダウンサイジングしたような6から20m程度の複製型が百体近く。

 
 

「長い潜伏を経て、自身を修復、自己進化を遂げた、か」

 

アラガミの肉体を構成するオラクル細胞はあらゆる物を捕食することでその性質を取り込み、様々な変化を遂げる。
多様に変化するに関わらず、オラクル細胞そのものの進化は一切見られない。
この変貌は飽くまでオラクル細胞に元々備わっていた能力なのだ。
これをアラガミ研究の第一人者であるペイラー・榊博士はこう評した。

 

単に彼らは「とても勉強熱心なだけ」なのだと。

 

だが、アレは確かに進化している。
そう言わなければ、あれをどう説明するのか。

 

やがて、装甲服装備の男が前に出た。男は両手を大仰に、何故か前に広げ、
「こんにちは全世界諸君。私が現在世界の中心にいる――」
途端に大ブーイングが起きた。
「やれやれ案外セメントだね? ――BOSの交渉役を任されている佐山・御言だ」

 

「以前、我々はあのアラガミとよく似た相手と戦った事があってね。
そして先程、アナグラの諸君からアラガミについての仔細を聞いた。その討伐について、案がある」

 

あの常識をかなぐり捨てた化け物を叩くための手段。

 

コアだ。

 

アラガミにとっての心臓部分と言える部位、コアの優先破壊。
この部位が消失すると、アラガミはその肉体を保てず、霧散する。
いくら通常兵器を軒並み防いだとしても、心臓に直接叩き込まれてはひとたまりもないだろう。
それを聞いた天子が意見する。
「周りの小さな雑魚ならそれで済むかもしれないけど、あのデカイのはどうするの?」

 

黒陽のコアはあの重厚な装甲の奥底に隠されていると予測された。
問題はどうやってコアを晒させるかだったが、それについてもBOSから提案があった。

 

ヴェスパーカノンを使う、と。

 

かつて存在した異世界、5th-Gの概念核を用いられた、非常に強力な兵装であるヴェスパーカノンを。
しかし、
「概念が殆ど力を失っている現状では、今在る賢石をありったけ詰め込んでも一発撃つのがせいぜいだろう。
威力も装甲を吹き飛ばせれば御の字と言った具合だね」
しかし、あのアラガミのコアを露出させるには十分。後はそれをえぐり取るだけ。

 

「だったら、それは私がやるよー」
挙手したのは、ルーミア。
「空を飛んでるけど、私なら追い付けると思う。でも、どうやってそのうぇすたんきゃのんを当てるかだよね?」
「ああ、それについては案ずる事はない。――かつて、“あのアラガミのモデル”を唯一破った人間……雷の眷属がここにいる」

 
 

「彼女自身が、望んでここまで来た」

 
 

前に出たのは、金髪の少女。
そして続く様に、肌が浅黒い日系アメリケン系の青年が前に出る。

 
 

……マジか。
内心驚く。この少女が、かと思ったが、即時に否定する。
それを言ったらルーミアも当て嵌まってしまう。

 
 

少女は一端息を吸い、
「ヒオ。――ヒオ・サンダーソンと申します」

 
 

「幸いを望む為に、ここに来ましたの」

 

「で、彼女の横にいるのがヒオ君の保護者――まぁ、名誉の為にそう言う事にしておこうか――ダン・原川だ。
面倒なので略称でDA☆KARAとでも呼んであげてくれたまえ」
「正しい略称になっていないぞ馬鹿佐山。ああそうか新庄に溺れ続けてとうとう思考回路が満足に動かなくなったんだな貴様」
「フ、何を今更。私はとっくの昔に新庄君に溺れているよ? 新庄君ああ新庄君、昨日の新庄君もじっとりといやらしめ――」
直後、いつのまにか佐山の背後に回り込んだ新庄が地を跳ね、その延髄に身を捻った回し蹴りをぶち込んだ。
某猪木を想起させるそれは、

 

「延髄斬り……!?」

 

ご、ふ、と複数の空気を吐く様な音が佐山の口から漏れ、やがて膝を着き、そのまま地に倒れた。
「さ、佐山さん――!?」
「今のは狂人の狂妄言の狂発言の狂行だからね!? 真に受けないでね!?」
「新庄、お前がこの場で最も過激な狂行を行っている事に気が付いた方がいい」
「……お前らは本当、話の腰を折るのが大得意だよな。感心するぜ、私は見習いたくはないが」

 

それを眺めていたルーミアは、
「ねえ、主人公」
何か用かな。
――大丈夫なのかなこの人達
……どうなんだろうなあ。

望みの朱空

アナグラから近辺の赤い空。その高空を覆い尽す黒い影がある。
黒い巨体を持ったそれは、黒陽と呼ばれていた。

 
 

元々黒陽は、単にテスカトリポカと呼称されていた、今の姿とは似ても似つかぬアラガミだった。
戦車のような肉体と、ミサイルなどに酷似した破壊兵器を持つアラガミの一種。

 
 

黒陽になる前のテスカトリポカが黒陽となったのは、ある物質を喰らった事が始まりだった。
それは、重厚な装甲の一部だった。
それは、巨大な推進器の残骸だった。

 

破壊されたものではなく、自壊か着脱によって解き放たれたものが朽ち果てた様な、機械の残骸。
しかし、それはこの世界にあるモノとは全く異なる物体だった。
おそらく機械、なのだろう。
気が付けば、その物体を喰らったテスカトリポカの姿は急激な変化を遂げていた。

 

戦車の姿とはかけ離れた、喰らった装甲と同じ黒の、竜の姿へと。

 
 
 

黒陽の視界に、小さな影が映った。
眼前に広がる海、その向こうに陸地があり、その傍に大きな施設がある。
そこはS.Q.U.I.D.……テスカトリポカが黒陽と呼ばれる最後の切欠になったものがあった場所だった。

 
 
 
 
 

ヒオ・サンダーソンはアナグラへと迫る黒い機影群を見ていた。
彼女は眉を立てた表情で見据え、敵が迫った事を知り、

 

「……来てください!」

 

空へと声を上げる。
そして凛と放たれた吠声は、ひとつの反応を確かなものとした。
ヒオの上。真紅の空から何かが、ひとつの影が降り落ちる。

 

それは、竜の艦首を持つ戦闘機のような形状を持った、――機竜。
青と白の機竜だ。

 

かつてあのアラガミと同じ名を持ち、人々を想うが故に苦しんだ竜、“黒陽”。
ヒオ・サンダーソンは、ダン・原川と共に暴走した“黒陽”を止め、その最期を見届けた。
異世界、5th-Gの生き残りの人間、“黒陽”の片割れだった“白創”、それらが同化することで生まれた兵器、ヴェスパーカノン。
その力を唯一扱う、彼女達の同志たる機竜を駆りながら。

 

その機竜の名は、

 

「――サンダーフェロウ!」

 

ヒオ・サンダーソン(雷の眷属)の意思を受け、サンダーフェロウ(雷の眷属の同志)が砂の地面へと舞い降りた。

 
 
 
 
 

「うわー……すごい」
サンダーフェロウの操縦席。
突如現れた機竜にヒオ、原川と共に取り込まれたルーミアはその内部、後部座席にて嘆息を上げていた。
本人曰く航行可能とのことだったが、同時に事をこなすならばこの方が都合が良い。

 

『――大丈夫ですの?』

 

その内部にヒオの声が響く。
今、彼女はサンダーフェロウと合一している状態にあるという。
ルーミアにはよくわからないが、操縦席に乗り込んでいる状態とは違うらしい。
ともあれ、
「合一ってなんだかやらしい響きだね」
それを聞いて、何故か原川が盛大に体のバランスを崩した。
「……まさか、君もか? 君もなのか!?」
『は、原川さん!? “も”って何ですの!? “も”って!』
「?」

 

漫才をする彼らを気にした様子もなく、サンダーフェロウが意思を伝える。
『ヒオ。現状、ヴェスパーカノンの使用の際には莫大な量の賢石燃料を消費する。
発射分の燃料確保も入れると、航行に制限時間が生じる』
「どれくらいある、サンダーフェロウ」
『30分。ヴェスパーカノン発射分の燃料を確保しながら、
支障をきたすことなく航行を維持できる時間はそのくらいしか残されていない』
そして、
『それを越えた場合、ヴェスパーカノンの使用は不可能。
例え使用・発射に成功したとしても、燃料を使い果たし航行不能に陥る』

 

『でしたら――』
「簡単な話だよ。さっさとあいつを食べちゃえばいいんでしょ?」

 

会話の合間に、黒陽とその複製機の群が接近する。
そして空中要塞の様相に聳え立つ黒陽から、無数の黒の弾線が放たれ、

 

「行こう、ヒオ・アンダーソン。目指すゴールはあいつだけだ。他の雑魚は彼らが片付けてくれる」
『――Tes.、いきましょう、原川さん』
「スクランブルなのかー!」

 

戦いの火蓋が斬って落とされた。

 
 
 
 
 

突如飛び込んできた白と青の機竜が、口腔より主砲である竜砲を発射し、複製機の群れが作る壁をぶち抜いた。
幾らかは機竜に攻撃を加えるが、大多数は沿岸部へと迫る。
やがて、沿岸部と複製機の軍勢の距離が縮まり、

 
 

《エネルギーライン、全段直結》

 

《ランディングギア、アイゼン、ロック》

 

《チャンバー内、正常加圧中》

 

《ライフリング回転開始》

 

《撃てます》

 
 

突如、地平より放たれた光条が群れを飲みこんだ。
光源は一機の砂蒸汽。それはワンダフル・ヘヴンという名前で、
その左右には砂蒸汽の列が、その前方からは人の列が、空にはネクストを初めとする航空戦力の姿がある。

 

それらは黒の軍勢に向け、
「接敵、用――意――!」
「よく来たな、迎撃する」
「歓迎しよう、盛大にな!」
「いいか、あのゴキブリ共を俺達のケツより後ろへ通すな!」
「何せ、化け物退治は俺達の日課だからな! 殺し損ねたら評判がガタ落ちだ!」
『神機持ちじゃない連中はコアの部位を優先的に狙え!
通常兵器に耐性があっても、バ火力ならある程度は通じる!
間違っても表面にコジマやらニュードやら電光機関なんて与えるなよ!』
「了解!」

 
 
 

それらを見届け、エルダーはビックバイパーから敵の軍勢を見た。
「雑魚はともかく、デカブツはベクターキャノンの直撃でも生き延びてるか……。本当にどうかしてる」
『当たったのは不意打ちに加えて、相手が油断してたから。次からはああはいかない。
アラガミだか現人神だかダカダカダカだか知らないけど本当にどうかしてるわ』
横から飛んできた天子からの追加報告に、溜息をつく。
「物騒な話だ」
『いいえ、殺生な話』
向こうの天子が適当に応答を返すと、
『それでもやることは同じよね』
「まったくだ」
エルダーがビックバイパーの操縦桿を握り、前へ倒した。

 
 
 

「ったく、隠居してたって言うのに人使いが荒いねぇ!」
そう言いながら黒い竜の首を斬り落とすはゴッドイーター第一部隊“元”隊長雨宮リンドウ。
その横では主人公がもう一体の複製機の口に神機を叩き込み、黒ハンニバルよろしく、くぱぁ と両断、晒されたコアに追撃をぶちこんで霧散させていた。

 

ははは、寿引退なんて許されざるよ隊長。いや死んだらすごい困るけど。
「結構根が深いなあ新入り。……いや、もう新入りなんてもんじゃないか」

 

「覚えてるよな? 命令は3つ。死ぬな。死にそうになったら逃げろ。そんで隠れろ」
それで、運が良ければ不意を突いてぶっ殺せ?
「ははは、それじゃ4つだろ!」
まあ、なんだと軽く笑い、
「背中は預けたぜ?」

 
  • VS.黒陽・複製機
    嵐を切り裂いて
    黒陽の子機との戦闘。
    戦うのはその中でも6m~10m級の相手が3体。2体撃破すると随時新規の子機が最大3回まで増援に向かう。
    勝利条件は子機を3体以上撃破したうえで15ターン以上生存すること。
    また、敵は神機以外では満足なダメージを与えられない。一定ダメージを与えるか、クリティカルを叩き出すことでコアが露出。そこを狙う事で神機以外でようやくダメージが通る。主人公を初めとした神機使い達を軸に、上手く立ち回ろう。
    複製機は全身に仕込んだ砲塔を一斉放射する他、単体に大ダメージを与える竜砲を使用してくる。どれも魔法攻撃なのでシェルを使っておくと被害が抑えられる。
     

小型複製機は神機使いを筆頭に徐々に狩られ、
300m級の複製機も、航空戦力の決死の猛火の前に衰弱し地へと近づき、トドメをさされる。
全滅も近いと思われた複製機の大群はしかし、彼方から新たな機影が増援として迫り、数は減る事を知らない。

 

時間を経るごとに黒陽の巨体を構成するパーツが落下し、それが新たな複製機へと姿を変えていたのだ。
アレがいる限り、従属は減る事を知らない。

 

誰かが言う。
もう無理だ、勝てるわけがない。
死ぬ。このままでは死んでしまう。

 

それに誰か、主人公が返す。
逃げるな。
生きることから逃げるなと。

 
 

――空を見ろ!
あれが、あの機竜が見えるか!?

 
 

朱の空を泳ぐ黒陽に挑むものがいた。

 

サンダーフェロウだ。
青と白の機竜が、壁のような砲火を正気を疑う様な速度で掻い潜り、黒竜に攻撃を加えている。

 

その姿を見あげ、誰かが武器を引きずって呟いた。
「あれに乗り込んでいる奴ら、見たよな?
――生きてりゃ、俺の子供もあんくらいの大きさだった」
「ああ。――妹がいたなら、あんくらいだったな」
「嘘言うなよ中年男。しょっぴかれるぞ」
違う誰かが苦笑しながら首を振り、

 

「あいつらが俺達より死地に飛び込んでいるってのに、その俺達が弱音を吐いてどうするって話だ!」

 
  • 黒陽
    Legendary Wings
    黒陽との戦闘は通常のRPGの戦闘とは違って、横シューティング風味になる。
    サンダーフェロウを操作し、黒陽のHPをゼロまで削れば戦闘は終了する。
    残機については某デススマイルズのようなライフ制。被弾するごとに減少し、ゼロになった瞬間ゲームオーバー。また、制限時間があり、それまでに倒せなかった場合も同様。
    開発陣がSTG未経験者のことを考慮しているのか、事前に選択肢で難易度を変更可能。
    EASYから火蜂並の鬼畜難易度まであり、クリアするだけならEASYでいいが、物足りないと思ったなら手応えのある難易度を選ぼう。
     

黒陽の表面に爆炎が広がり、一瞬その巨体がぐらついた。
「隙ができたよ! うぇすたんきゃのん、使うなら今じゃないかな!?」
ルーミアが叫んだ直後に、

 

黒陽の巨体が、バラバラになった。
いや、

 

「……装甲を脱ぎ捨てたの!?」

 

黒陽が行ったのは身に纏っていた追加装甲のパージだった。
進化によって得た巨大な装甲・火力を全て捨て、本来の300m程度の大きさの姿を曝け出したのだ。

 

「そうしないと、こちらを倒せないと踏んだから……!?」

 

そのために防御と火力を捨て、代わりに身軽になった自身という機動力を得た。
直後に、剥げ落ちた装甲が数体の複製型へと姿を変え、サンダーフェロウに襲いかかる。
それらはサンダーフェロウを取り押さえると、

 

『!』

 

好機と放たれた黒陽の竜砲がそれらをまとめて呑みこんだ。

 
 
 

爆炎がもうもうとあがるのを見た黒陽は青と白の機竜を仕留めたとそう考え、
しかしすぐにその考えを撤回した。

 

黒陽の遥か上空から倒した筈のサンダーフェロウが飛来してきたのだ。

 

竜砲に呑まれた筈のその姿に、黒陽が首を跳ねあがる様に上へと向けた。
驚愕を示すかのように黒陽の視覚素子を模した眼が明滅する。

 

上空に飛来するサンダーフェロウ。
その姿が大きく変わっていた。

 

竜の様な姿身を先鋭に引き絞ったかのような、鋼鉄の鏃のような姿に。

 
 
 

「変形できたんだねコレ……!」
操縦席のルーミアが安堵の溜息をついた。

 

サンダーフェロウは自身の身を分解し、別空間に格納していたパーツや武装を自由に組みかえる事によって、形態を変えることができる。
今までの姿は通常機動型。そして形を変えた今のサンダーフェロウは、高速巡航型。
先程の竜砲を逃れたのも、高速巡航型に変形したサンダーフェロウが敵の拘束を弾き飛ばし、真上へと猛スピードに飛び上がったからだ。

 

そしてサンダーフェロウが自身の骨格を形成するフレームを分解して、それを埋める様に長大な砲塔を抱え、一体化した。
その砲塔こそがヴェスパーカノンだった。

 

「On Your Mark」
原川の声を合図に、
「Get Set」
サンダーフェロウと、ヒオの気配が引き締まり、
「――Go Ahead!」
直後に加速が始まった。

 
  • 黒陽(二回戦)
    Rising Blue LightningSteel Of Destiny
    装甲を脱ぎ捨てた黒陽との二回目の戦闘。前戦闘と同じくシューティング風味の戦闘だが、今度は全方位スクロールのシューティング戦となっている。
    操作するサンダ-フェロウは高速巡航型に変形、ライフが減少した代わりに当たり判定がかなり小さく、攻撃力も高くなっている。
    対する敵の黒陽は当たり範囲が小さくなり、絶えず移動をするようになったため、攻撃が当てにくくなった。その割にはHPは前形態と同じ。弾の量は減少した代わりに弾速がかなり上がっている。更に弾幕を展開する以外にも格闘戦を積極的に狙ってくるので用心。また、黒陽のHPを一度ゼロまで削ると、HPバーが1ミリ固定の状態で復活。音楽が変化し、黒陽の攻撃が激化する。この状態に変化してから一定時間経過でヴェスパーカノンの封印がとけられ、これを黒陽に直撃させることで戦闘が終了する。
    ヴェスパーカノンを起動してから当てるまではイベント演出なので、狙いを付ける必要はない。

翼の導き

ヴェスパーカノンから放たれた白線が黒陽の胸部にぶつかる。
それは黒竜の体を貫くまでには至らず、しかしその装甲を溶かし、あるものを晒し出した。

 

黒陽の……アラガミにとっての心臓部分であるコアだ。

 

それを認めたルーミアが叫ぶ。
「操縦席、開いて!」
『え!?』
「はやく! 取り付ける距離も隙も今しかない!」
大気防護に守られ、操縦席が開いた。
『重力操作は――』
「……大丈夫!」

 

そして、ルーミアがサンダーフェロウから飛び立った。

 

「最後を、繋げるよ!」

 
 
 
 

ヒオ達はかつて、このアラガミにそっくりな相手を倒したと、ルーミアは聞いた。

 

そして、アラガミである黒陽……テスカトリポカ指定接触禁忌種と対峙していた時のヒオは、少なからず軋みの気配を滲ませていた。
複製機の存在、装甲のパージ。その時々に軋みの気配は強く。
それらから、きっと、“黒陽”も同じ行動を取っていたのだろうと予測する。

 

……倒したその“黒陽”は、ただの敵じゃなかったってことだね。

 

彼女達とその“黒陽”とやらは何かの関わりがあったのだろう。
ただ倒した者と、倒される者ではない何かが。

 

接近を感じた黒陽が、逃れようと体を蠢き、
大気に煽られ、ルーミアの髪に結ばれていたリボンが解かれる。

 

そしてルーミアの背から、翼が生えた。
歪な形の、鋭い翼が。
直後にルーミアが神機を構え、翼を羽ばたかせながら黒陽のコアへ猛スピードで突っ込む。

 

踏み抜く様な衝撃が、黒陽の巨体を貫いた。

 

「……文通してる友達から、教えてもらったんだよね。オラクル細胞について
榊博士はオラクル細胞と共生した結果、アラガミ化することなく体の構成が変化できる云々って言ってたけど」
突き刺さった神機と、姿勢安定の為に掴まれたルーミアの爪がコアに鋭く食い込む。
「でも。そんなことよりおなかがすいたよ」
そう言うとルーミアは、天使の様な笑顔を浮かべ。

 

「イタダキマス♪」

 

喰らいに行った。

忠竜の面影

コアが破壊され、規格外クラスで巨大アラガミ、テスカトリポカ指定接触禁忌種こと黒陽の撃破が確認された。
母体の存続なしでは存在できないのか、黒陽の消失に伴って複製機も同時に一掃され、危機は終結と言う形で終わる。
全戦力投入の甲斐あってか、甚大な被害がなかったのは僥倖だった。
あんな非常識の塊の様なアラガミが常識的に見えるアラガミが本格的に暴れてしまえば、きっと手の着けようがなかっただろうから。

 

ちなみに離陸したルーミアがサンダーフェロウに駆け寄ったところ、何故か原川がヒオのスカートに頭を突っ込むという奇行を目の当たりにし、汚い大人の世界を垣間見た様な感覚を得たという。
一応の言い訳として、事故だったとサンダーフェロウは証言したが……。

 

なにはともあれ、極東循環型居住施設「アナグラ」。

 

「はふう。もう食べられないのかー」
主人公の目の前に、幸せそうな顔でお腹をさするルーミアがソファの上で横たわっていた。

 

戦祝に腹いっぱい食べまくった訳ではない。
聞いたところによれば、
……コアごと、黒陽の体を1/3近く喰ったとかマジで鉄の胃袋すぐる……。
流石に胃袋が満杯になったのか、動くのも億劫そうだった。
「く、食いしん坊ですのね」
その隣ではヒオが引き攣った笑みを見せていた。
周りも一様に似たリアクションだったのがなんとも。
『……肉、あげるか? 肉。もしかしたらコロッといくかも――』
『なわけあるかこのロリコン野郎』

 
 

「あ、ねぇ。ヒオヒオ」
「は……はい、なんでしょう?」

 
 

「あれは黒陽だけど、“黒陽”じゃない。似ているだけのアラガミだよ」
「……」
「だから、気にすることなんて、ないんじゃないかな」

 
 

ヒオは驚いた顔を見せ、そして口端を緩ませて微笑んだ。
「ありがとう。ルーミアちゃんは優しいですのね」
「それほどでもないのかー」

報酬

両手鎌「テスカトリポカ【黒陽】」
非消費型投擲武器「悪臭の賢石」


*1 後のBOSのメンバーの一部。世界を救うためにヒャッハーした変態集団