Last-modified: 2012-08-01 (水) 22:26:52
件名投稿日2012-08-01 (水) 00:26:40

内容

イベント

風邪引きナイトメア

……風邪を引いた。
不摂生か、それとも体を酷使してしまったか。
心当たりは多少あったが、まさか本当に引いてしまうとは。

 

己の迂闊さを呪いつつ、紅魔館の自室にてウンウン唸っていると、

 

「こんばんわ、起きてる?」
「お見舞いに来たわよ。具合はどう?」

 

部屋の扉にノックが響き、続いてスカーレット姉妹の声が聞こえてきた。
見舞いに来てくれたらしい。
はて、学校はどうしたのかと思ったが時計を見れば、既に夕方近く。
学校の方は既に放課後を過ぎている辺りか。

 

熱が出ると時間の感覚もおかしくなるようだ。

謝意を述べ、入室しても大丈夫だと促すと、扉が開いてレミリアとフランが入ってきた。

 

「風邪の方は大丈夫?」
「今朝よりは顔色良くなったかしら。まだ熱はありそうだけど」

 

顔を上げて姉妹の姿を視界に入れた途端、身が固まった。

 

……お二人さん、その格好は一体何なんですか。
そう恐る恐る尋ねると、姉妹の方も身を固めた。
やがて言いづらそうに、

 

「……パチェやメイド達がこうしろって、言ったのよ」
「看病するならこの格好が似合う……って」

 

ナース服装備の姉妹は、照れと不安混じりの表情でそう言った。

 

…………。
目眩を感じるのは、風邪だけのせいではないようだ。
……今はただ、この状況をけしかけた連中に対し、心中に恨み節を込めることにした。

 

「え、えーと。今日学校で配られたプリント持ってきたよ」
「あと夕食。咲夜が、食べやすいようにってお粥作ってくれたわ」

膳を持ったレミリアはそう言うと、神妙な顔で匙をPCの口元に差し出した。
その一杯は粥で満たされている。

 

……えっ
「……風邪だし、一人で食べるの億劫でしょ」
「ほ、ほらっ。モゴモゴしないで口を開けて!」

 

……ナース服姿のレミリアとフランが、顔を真っ赤にしながらお粥を自分に食べさせている。
この状況を第三者が見たら、一体どのような反応をみせるだろうか。

 

そうして冷や汗を垂らしていると、いよいよ業を煮やしたのか、

 

「「あ、開けないと……口移しで食べさせるわよ!」」

 

至急速やかに口を開いた。
もしそれで風邪を移したら堪ったものではない。
……が、言われた通りにしたのに、不満げな表情を浮かべるのはどうしてだろうか。

 
 
 

格好こそ奇妙――少なくとも、シックな洋館の一室で見掛けるような衣装ではない――だが、
二人の看病は丁寧なものだった。

 

枕のシーツを取りかえ、水を含んだタオルを絞ってPCの額に掛け、素肌に張り付いた汗を濡れティッシュで拭き取る。
粥が思ったより熱く、口に含んで舌を軽く火傷した事を除けば、概ね快適な状態だった。

 

「メイド達の真似事だけどね」
「模倣でもそれなりにできるものね。でもなんか緊張しちゃった」

 

そういえば、と思い出したように姉妹が呟いた。
「忘れるところだった。
 パチェから『風邪を早めに治す方法』聞いたんだっけ」
方法……薬とかではなくて?

 

「えーっと……」
そう言ってフランが懐から取り出したのは一本の長ネギ。

 

「確かこれを……どうするんだっけ?」

 

すると、何故かフランは顔を赤くしながらレミリアに耳打ちした。
最初は訝しげに聞いていたレミリアだったが、途中から瞬間湯沸し器のように顔が真っ赤になった。

 

「……『さあ、ケツを出せ! 八回だ!』……」

 

途切れ途切れに聞こえてきた言葉を聞いて、嫌な汗が全身を伝う。
……ケツ? 八回?

 

「……本当に、やるのか?」
「やらないよりは、マシ……だと思う」
「……もしこれで駄目だったらパチェにも同じ事してやる」

 

頬はひどく紅潮していたが、その瞳は強い好奇心に彩られていた。
何に対する好奇心かは伏せる。兎角危ない気配がする。

 

戦いている間に、姉妹は深呼吸。

 

「ふ、ふ、ふつつかものですが……」
「宜しく……」

 

おかしい、その台詞はおかしい。何かいくつかのステップを飛び越えてる。
というかそのネギを一体どうするつもりなのk――――

 
 
 
 

……それ以降の記憶は、はっきりしていない。
ただ、それから熱が少しだけ下がったのと、
その翌日に紅魔館の人員の2/3が風邪を拗らせた事だけはログに確かに残っている。