いぬぼうさきけだよ~

Last-modified: 2017-08-05 (土) 19:39:25

この物語は、犬吠埼家の平凡な日常を淡々と描く物語です。過度な期待はしないでください。
あと、部屋は明るくして、画面から1メートルは離れて読みやがって下さい。
 
 
 
暑中お見舞い申し上げます
梅雨も明ける間もなくの猛暑の日々ですが、お変わりなくお過ごしでしょうか。
姉妹ともども暑さに負けぬ様、勉学に勤しむ毎日です。
この度は結構なお中元の品を頂きまして、誠にありがとうございます。
まだ暫くは酷暑が続きますが、くれぐれもご自愛ください
神世紀三百年盛夏
 
「こんなもんかしらね」
ポキポキと肩を鳴らしながら後ろに大きく背伸びをして唸る
この世界においても例年届く親族や今まで勇者部が協力をしてきた皆さんからの暑中見舞いは届くらしく
勇者部部長として対応にひーこら言う羽目になるとはまったく想像していなかった
「うーん、風が吹かないなぁ」
クーラーが効いた我が家のリビングは作業場として大変過ごしやすいらしく
昼食が提供されるうえに昼寝も出来てこれは天国だわと気が付くと結構な人数が居座る毎日だ
いや、許可したのはアタシか
「ねぇねぇ、フーミン先輩。午後ティーのレモンとミルクどっちがいい~?」
勝手知ったる我が家と言わんばかりに冷蔵庫を開きながら乃木園子が聞いてくる
執筆活動に煮詰まっているらしく、先程から何度もノートパソコンを前に行ったり来たりを繰り返していた
生まれが違うのか、来訪する度にちゃんとお土産として大量の消耗品や飲食物を置いていくので大変ありがたい
今グラスに注いでいるのも彼女の持参品だった
「ありがとう、レモンがいいわね」
わかったーと微笑む彼女に軽く手を上げて隣の部屋を覗くと夏凜が丁度大の字で床に倒れこむ所だった
「畜生!何で勝てないのよ」
「無駄にレザブレを振り過ぎなのよ、EN容量とジェネレーター出力には限界があるから」
ふふん、と自信あり気に微笑む千景は携帯ゲーム機を一度スリープ状態にしてこちらにやってきた
「お母さん、私も飲み物欲しいわ」
「誰がお母さんか」
「勇者ジョークよ」
突っ込みながら新しいグラスを用意して差し出すと嬉しそうに受け取る
 
悔しいから外走ってくるわ!と外に駆け出して行った夏凜を見送ってから少し経つと
喧騒に誘われて樹もリビングにやって来たのでアイスココアを作ってあげると大変喜んで対面に座った
妹特権なんだから感謝しなさいよと思いながら四人で机を囲んでいると不意に園子が手を挙げた
「ねぇねぇ、目玉焼きに何かける?」
「目玉焼きって……」
「何、派閥争いしたいの?」
三人とも何となく怪訝な表情をしながらお互いの間合いを測る
「違うんだよ。えっとね、これ読んでくれる?」
雰囲気に自らが着火しかけた事に気が付いて慌てて否定する園子が差し出した画面を覗き込む
ふむふむと読み進めると成る程ねと納得がいった
 
"宇宙ファミレスで昼食を摂ろうと角の席に座るサンチョの耳に怒声が走った。
「なんだこの目玉焼きは!こんなクソみたいなもん食った事ねぇや!」
やれやれと肩を竦めると騒ぎの元凶に対して聞こえるように声を張った
「○○を目玉焼きにかけて食べる奴なんて信じられんね、悪食にも程がある」
「なんだァ?てめェ……」"
 
「さっきからずっと考えてたんだけど全然思いつかないんだよ~」
それでみんなの食べ方を参考にありえない調味料を思いつけるかなってと思ったそうな
うーん、目玉焼きか…
「塩コショウ、醤油、ソースはよく聞くわよね」
指を折りながら千景が数える。確かにその三つは三大勢力だ
塩のみ、コショウのみ、マヨネーズ、ラー油、オイスターソース、オタフクソース等も聞いた事がある
園子が望んでいるのは恐らくここに挙がりもしないすっとんきょんな調味料だろう
そうなると……成る程、確かに難しい
「あの、相性で考えてみましょう」
樹に視線が集中した。中々にいいアイデアを出すではないか我が妹よ
卵が使われていてかつ、相性がよいポピュラーな料理を適当にチラシの裏に書いてリストアップしてみる
「茶碗蒸しはだし汁でしょ、卵焼きは砂糖醤油かだし汁でしょ、ゆで卵は塩かマヨネーズ…」
「卵かけご飯は醤油・ラー油・味の素・山葵醤油、スクランブルエッグは生クリームかマヨネーズ…」
「そもそもマヨネーズって酢と卵よね」
なかなかの盲点だ。かといって酢のみと言うのもどうかと思うけど
「後はお菓子とかにも使われてるから砂糖もありなんじゃないかな~」
「塩分が恋しくなりそうだけれど食べれない事は無いでしょうね」
一通り書き終わり眺めてみると料理のさしすせそで登場していない存在が一つ思い浮かんだ
「……味噌は?」
全員が嫌な沈黙をする中園子がそっと席を立ち
熱したフライパンにそっと冷蔵庫から取り出した卵を割って投下した
ジュウ…ジュウ…と焼けていく音をしり目に今度は冷蔵庫から合わせ味噌のパックを取り出し
スプーンで一さじ程抉り取るとフライパンにペッと投下してそっと冷蔵庫に戻した
こうして出来上がったのが目の前のブツである
「で」
「どうするのよこれ」
「食べてみない?」
ニコニコと笑いかけてくる園子に対して三人で顔を横に振っていると
玄関からただいま、と犠牲者候補の声が響いてきた
 
 
「それで、結局何にしたの?」
「うーん、味噌かな」
後日、納豆と心太でも同じように議論になったけど
その度に夏凜が園子の肩を押し留める様になったのはまた別のお話