ぐんたか お泊りだよ~

Last-modified: 2017-07-25 (火) 22:10:57

「えへへ、ぐんちゃんから誘ってくれるなんて珍しいね」
夜、おしゃべりも早々に切り上げて掛け布団の中に潜り込む高嶋さんと私。
私達に用意された寮の部屋は一人用で、当然ベッドもシングルサイズのものだ。
けれど、そんなことはお構い無しとばかりに、私達は寄り添うように一つのベッドを使っている。
「いつも、高嶋さんに誘わせるのも悪いと思って……」
私と高嶋さんのお泊まり会はそこそこの頻度で行われているけど、今までは高嶋さんの部屋に私がお邪魔する形だったため、私の部屋に高嶋さんが泊まりに来るのは今日が始めてだった。
「……ぐんちゃん、変わったね」
「そうかしら……こないだ、乃木さんと上里さんにも同じことを言われたけど、二人とも具体的にどこが変わったのか教えてくれなかったし」
自分ではあまり変わったという自覚はないけど、高嶋さんまでがそう指摘するからにはその通りなのだろう。
「そういうところ」
「……え?」
「若葉ちゃんとかヒナちゃんの話してるぐんちゃん、すごい楽しそうだもん」
部屋を照らしているのは小さな常夜灯のみで、互いの表情なんてほとんど見えていないはずなのに、高嶋さんの言葉は確信に満ちていた。
「ぐんちゃん、最初の頃は自分と他の人では世界が違うんだー、って感じだったのに、今は話し合いにも参加してくれるし」
「……」
「ぐんちゃんが皆と仲良くしてくれるの、すっごく嬉しい。皆、大切な仲間なんだもん。…………ちょっと寂しいけど」
最後の呟きは、恐らく私に聞こえるように言ったつもりではなかったのだろう。
しかし、聞こえてしまった以上、なかったことにするつもりはなかった。
「……どうして、高嶋さんが寂しいと感じるの?」
沈黙が流れる。
追及したのは余計だったかもしれない。
私が口を開きかけると同時に、高嶋さんが話し始めた。
「ぐんちゃんの一番は、私がいい」
ポツリと、非常にシンプルな答え。
しかし、それを聞いた途端に、心臓がバクバクと大きな鼓動を立て始めたのを私は感じた。
「皆と仲良くしてくれるのが嬉しいっていうのは本当だよ。でも、それでぐんちゃんとこうして過ごす時間が減っちゃうのは寂しいな、なんて……えへへ」
これ以上、黙ってはいられなかった。
「私の一番は、高嶋さんよ。今までも、これからも、ずっと」
布団の中で高嶋さんの手を握る。
「私が変われたとしたら……それは全部、高嶋さんのおかげだわ。高嶋さんがいてくれたから。高嶋さんが、誰かと一緒にいることのぬくもりを教えてくれたから、私は──」
胸にポスンと、何かがぶつかった小さな衝撃がきた。
それが高嶋さんの頭だと気づいたときには、私は高嶋さんにぎゅっと抱きしめられていた。
「ありがとう、ぐんちゃん。大好きだよ」
すぐ近くから聞こえたその言葉から伝わってくるのは、少し前の私では感じることもできなかったもの。
「……それは、こっちの台詞よ」
高嶋さんの頭をそっと胸に抱く。
心だけじゃなく、身体全体が不思議な暖かさに包まれていく。
(愛してるわ、誰よりも。あなただけを)
与えて、与えられて。
そんな当たり前の幸せを噛み締めながら、私は深い眠りへと落ちていった。