にぼ園だよ~

Last-modified: 2017-07-17 (月) 01:09:06

夢を見る。

イネスのフードコートで、3人でジェラトーを食べている夢。
でも、そこにいるのは中学生になった私達だ。
ミノさんも背が大きくなっていて、髪を少しだけあの頃より伸ばしていて。
しょうゆ豆味のジェラートを美味しそうに食べていた。

ミノさんが冗談を言って、私がそれに乗っかって、わっしーがツッコミを入れて、皆が笑う。
そんな、夢。
帰り道、ミノさんがまたねと言って、遠ざかっていく。
いつもそこで、目が覚める。

毎晩そんな夢を見るものだから、眠った気にならない。
寝不足を感じて、いつも以上にお昼寝の回数が増えた。
増えていたのだが、最近では昼にも夢を見るようになった。
神樹様が生み出した不思議な世界、そこで奇蹟のような再会を果たしてしまったからだろうか。
気づかれないようにするために、気を使う日が続いた。

「園子、随分調子が悪そうだけど、大丈夫なの?」
そんなある日、にぼっしーに心配されてしまった。
二人だけのタイミングを見計らってくれたのは、皆を巻き込んで話を大きくしないようにしてくれたのだろう。
「大丈夫だよ~」
気を使わせないよう、極めて普段どおりを意識して返事をする。
でもきっと、ダメだろう。
にぼっしーは優しくて、聡いから。
「…全然そんな風には見えないわ」
あの端末を受け継いだ彼女。
どうしても重ねてしまう。
そんな彼女が、心配そうに眉根を寄せているものだから。
だから、つい喋ってしまった。

「それで、どうして私がにぼっしーとお泊り~?」
借りた寝間着―少し胸がきつい―の袖を摘みながら、頭を捻る。
にぼっしーは、頬を染めて顔をそらしながら早口。
「か、悲しい夢なんて一人で眠ってるからよ!誰かと楽しい話をして!明るい気持ちで眠ればそんなの大丈夫!」
だから、誘ったのだと。
「迷惑…だったかしら」
不安そうにこちらを覗くにぼっしーに、首を振る。
「にぼっしーは優しいねぇ~。まるでお母さんだ~」
そのまま、二人でお話して、眠気にまかせて眠った。

夢を見た。
目の前には星座の名を冠したバーテックスが12体。
私の横には、大きくなったミノさんとわっしーがいた。
ミノさんが軽口を言って、わっしーが窘める。
さぁ行こうと、3人で変身しようとしたら、私はいきなり倒れた。
気づけば、左目しか動かなくなっていた。
だが、わっしーとミノさんは変身を終え、バーテックスへと歩を進めている。
待ってと叫ぶ。
振り向く二人の顔はとても穏やかで。
こちらを見ながら。
またね、と。

目を覚ました私が居たのは大赦の、私が祀られていた空間で、
そこには誰もいない。何もない。
さっきまでの夢は?勇者部の皆は?
アレも夢だったのか、まさか…?
パニックになる。
ミノさんと、わっしーそれから皆の名前を叫ぶ。
部屋に虚しく響くだけ、返事が返ってくることはない。

「…子!園子!」
そこで、目が覚めた。
全身の汗がひどく、呼吸も浅く、早くなっている。
瞳からは涙が溢れていた。
「…にぼっしー?」
涙で滲んだ視界に映る彼女。
その顔はとても不安気で、こちらを心配そうに見つめていた。
「急にすごい魘されて…起こそうとしたんだけど、全然起きなくて…」
気づいたら、私はにぼっしーに抱きついていた。
「そ、園子!?」
「…怖い夢、見たんだ」
「…ええ」
「今こうしているのも夢なんじゃないかって、そう思っちゃうような、夢…」
あの孤独を思い出して、肩が震えだす。
「本当は、私はまだ一人で、あの部屋に…一人で」
そこまで言ったところで、にぼっしーに抱きしめられていた。
片手で頭を撫でられる。
「…大丈夫、私たちはちゃんとここにいるわ」
体温のぬくもりに、また涙が溢れだす。
「…本当?居なくなったり、しない…?」
「しない」
「死んじゃったり…しない…?」
「しない」
「本当に…?」
「私は完成型勇者よ。信用しなさいっての」
悪夢であんなに冷え切っていた心が、すっと穏やかになっていく。
「…にぼっしーは温かいねぇ」
「何よそれ…もう、大丈夫?」
「もう少しだけこうさせて欲しいんよ…ねぇ、今日は手を繋いで寝てくれないかな」
悪夢は、見なかった。