仲良し三人組だよ~

Last-modified: 2017-07-15 (土) 12:33:31

「須美、おっきな園子と二人でアタシに何か隠してるんだろ?」
須美である東郷美森にゆっくりと語りかける、木の陰で俯いた彼女の表情を伺う事すらせずまっすぐに
いい機会だった。何を隠されていたとしてももう仲間はずれは御免だとはっきりと伝えよう
「なぁ、アタシらダチじゃんか。それでも言えないのか?」
美森は俯く事をやめて目の前に立ち塞がる三ノ輪銀の問いに何も答えず背後の空を眺めていた
薄く青味がかる白地に桔梗の柄の着物を身に纏い、肩にかかる彼女の特徴とも言える結った髪のリボンを片手でいじっている
暗がりなのでやはりどんな顔をしているかは解らなかった、それでも彼女の瞳は瞬いた気がした
「なぁ、須美!」
それを見た銀はどうしても詰問せずにはいられなかった
 
 
「ねぇねぇ!見て見てミノさん!蛇イチゴだよ、蛇イチゴ!甘酸っぱくて美味しいよ~」
「どれどれ…んー!甘いなこれ!」
「うんうん!一杯取ってきたからお土産に持っていくといいのさー」
「ありがとな、大きい園子」
えへへと微笑む大きくなった友人の頭をそっと撫でる、今後何があっても園子は園子のままなのだろうと安心すると立ち上がる
最初この世界に訪れた後ひなたさんに用意された部屋は一人で使うには思ったよりも広く、私物もないので伽藍としていた
実家はバーテックス達に占拠された地区の先にあり、本当の自室に帰る事も出来ない
須美や園子と貰った部屋を自室・倉庫・予備にして三人部屋にしようかと相談する程物寂しく感じていた
いざ始まった新生活、一日目にしてその不安は露と消えるどころか蒸発する事となる
大きい園子が居候しだしたのだ、私物を大量に持ち込んで
どうして部屋に居座ろうとするのか聞いたならば小首を傾げて「駄目?」と身長だけ伸びたかの如く甘えてくる
こうなってしまうと無下にする訳にもいかないので頭を掻きむしりながら同棲する事を了承し、
度々隣の部屋の同学年の須美と園子と四人で遊ぶ事が増えていく事となる
新・仲良し四人組同盟の誕生であった
これだけならばまだ良かった
「そのっち、蛇イチゴは散歩中の犬の排泄物が付着している可能性があるから注意するのよ」
「ぶっ!?」
「わー、ミノさんの口から赤い水鉄砲ー」
「うぇ…なんで早く言わないんだよ、須美!」
「私が見た時はもう既に食べてたじゃない」
「あはは、大丈夫だよ~この蛇イチゴさん達はうちの敷地内に生えてたものだから誰も犬さんを散歩になんて連れてきてないよー」
水洗いもしたしと念を押す園子を前に美森はにやりと笑って指を立てた
「なら野生動物ね、タヌキが怪しいわ」
「須美さん、もういいから。解ったから」
大きい園子とのお泊り会という名目の共同生活が始まり三日経った頃気が付くと大きい須美がニコニコしながらそこに居た
なんで?と聞く事も億劫になって園子と一緒に頭を撫でてあげると満足げに大きく頷いていた
新・仲良し五人組連盟の結成の瞬間であった
「銀、新しい筑前煮の味付けに挑戦してみたの。味見して貰える?」
「うまー!」
「ミノさんミノさん!向こうの通りに凄く大きなライチアイスクリームを100円で出すお店が出来てたよ、みんなで食べにいこ!」
「つめたー!」
「はい、銀。ぼた餅」
「うんまいなコレ!」
「ミノさんミノさん!ミノさんを主人公にした新しい小説書いたんよ、読んでみて~」
「へー……ヒロインの須美が国防仮面に!?」
「銀、一緒にお風呂に入りましょう。お背中流します」
「大儀である、良きに計らえー!」
「ミノさんミノさん!」
「銀、どうかしら」
「ミノさんミノさん!」
「銀、口にお弁当ついてるわ」
まるで、昔読んだ漫画の主人公の様だと他人事の様に思った
体が足りないと感じる程四方から求められていると頭と言うものは危機感を覚えるのか一歩引いた所でものを考えるらしい
さもありなん、元々甘えん坊だった二人がアタシが知らない時間を経てパワーアップして帰ってきたのだ
でも何でだろう、悪くない気分だ
四人に増えた親友達の頭を軽く撫でてやりながら三ノ輪銀の意識は光の中へ消えていった
 
 
「夏祭り?」
「はい、大赦からの提案です」
讃州中学勇者部部室で定例で行いだした会議でひなたが本日の議題にと提案したのは大きくスクリーンに投影されたその三文字だった
OHPプロジェクターを切り替えながら差し棒を手に持ち何故か眼鏡を掛けている
「霊的観点から取り返した土地の鎮守をしたいそうです、そのお祭りの防衛を勇者に依頼したいと」
「ひなた、その夏祭りも襲撃される恐れがあるのか?」
はい、と手を大きくあげて若葉が質問する、何故か幼く見える
「いえ、神樹様のお告げも大赦側からの予想もありません。あくまで警邏という名目での息抜きです」
良い質問ですねと言いたげに何度も若葉に微笑むひなたを前に歓声が上がった
この一月思えば戦いの日々の連続だった、辛い思いは欠片も感じなかったが
それでもどこか精神的な疲労を感じていたのだろうか、それとも単純に夏祭りが楽しみなだけか
「夏祭り楽しみだね、ぐんちゃん!」
「そうね、金魚すくいしましょうか高嶋さん」
「待て待て待て、金魚すくいと聞かされてはタマは黙っていられないぞ」
「タマっち先輩金魚すくい上手なの?」
「ポイを破らずに水槽を空にした事もあるぞ!」
「それは素直に凄いわね」
「四国の夏祭りかぁ、結城っち一緒に回らない?」
「勿論だよ!棗さんも行こうね」
「ああ」
素直に楽しみな面々を後目に少し離れた場所でひなたと風、夏凜、若葉、歌野、水都が頭を寄せ合い見回るルートと用意する物リストを作成していた
人数分の浴衣は貸衣装屋さんに頼めば用意出来るだろうかと頭を捻っている
大変そうだなぁ、と傍らに居るであろう友人二人に銀は話かけようとして気が付いた
その場に四人の姿が無かったのだ
その日を境に銀は首をかしげる事が増えていった
まず、四六時中ひっついてくる大きな園子と須美が来ない。部屋にはよく居座っているのだが唐突に二人同時に居なくなる
次にひなたから唐突に侵攻ルートの変更が発表された。今までは山に沿う形に土地を解放していこうとの話だったが何故か海沿いになった
どちらか一方側を攻め落としUターンする形で攻め落とそうと言う計画だったのでどちらでもよいと言う話ではあったのだが
元々棗が海ルートを望んでいた事、海水浴が同時に計画された事が重なって変更に異を唱える者は居なかった
最後に大きな須美が使用していない空き部屋の使用権を求めてきたのだ
現在部屋割りは銀・園子(大)と須美(小)・園子(小)でローテーションで毎日入れ替わりでお泊り会状態で確かに部屋が一つ未使用だった
「別にいいけど、何に使うんだ?」と聞いてみてもにやりと微笑むだけだった。大きくなった須美はずるい
余所余所しくされている訳でも態度が変わった訳でもないが、釈然としない悶々とした疑問を少しずつ積み重ね夏祭りの日は訪れた
 
 
「点呼ー」
「いち!」
「二だ!」
「スリー!」
「四だ、行けるぞ風さん」
「大丈夫そうね、各班散開!」
四人で一組の見回り組が四班。残り三人が大赦との橋渡しを担当し夏祭りを楽しむ
その代わりお互いトランシーバーを常備し定期連絡を橋渡し役が纏める
また、三人は一定の時間で交代、班長は常に動き続ける事になる為スタミナがある面子を選出
これが勇者部の保護者達が頭を捻って導きだしたプランだった
三人の椅子取りゲームを一々お祭りの屋台勝負で決めようと言う案もあったが力量格差が発生するので却下された
「ちぇっ、面白いと思ったんだけどなぁ」
「球子さん強そうですもんね」
「そうだぞ、夏の夜のタマは無敵だ!」
任せたへと胸を張る球子に銀は笑顔を向けながら傍を歩く二人の親友の手を取って引いた
方や青地に紫の斜が入った菊の花と性格を表す落ち着いたいで立ち、
方やピンクのグラデーションがかかった白地に色とりどりの朝顔が咲いた年相応な女の子の手を引いて灯篭の坂道をゆっくりと降りてゆく
「二人とも何から遊ぶ?ほれほれ言うてみ」
「そうねぇ…そのっちは何がやりたい?」
「私は射的がいいなー!」
ぴょんぴょんと浴衣なのに器用に飛び跳ねながらはしゃぐ園子を見てよし、と頷くと定期連絡を終えた球子に相談して射的屋さんへ向かう事とした
 
 
「ごめんなさい。友奈ちゃん、夏凜ちゃん」
「ごめんね。ゆ~ゆ~、にぼっしー」
「ううん!気にしないで、東郷さんと園ちゃんの頼みだもん!」
白地に紅く山桜が咲いた浴衣の腕をぐるぐると否定の言葉と共に回してアピールする
夏祭りは思ったよりも人が多く、結城友奈班が迷子の対処に追われ本部として仮設営した運営本部に引継ぎが完了した時二人が別行動をとりたいと言う
どうしても外せない用事なのと言いかける東郷の口に指を押し当て「こっちは大丈夫!」と友奈はガッツポーズ
「まったく、何考えてるか知らないけど二人とも早めに戻ってきなさいよ」と夏凜も不承不承顔をそっぽを向く
白地に赤く咲いたレンゲツツヂが同じようにそっぽを向いた
「でも用事が終わったら二人も遊ぼうね、夏凜ちゃんも二人と遊びたいんだよ!」
「そ!ぅでも無い事もないわね……」
いってらっしゃーいとぱたぱたと手を大きく振って去ってゆく二人の背を見てから二人は顔を見合わせ頷きあった
 
 
「それにしてもひなた、どうして計画を変更したんだ?」
「おや、棗さんは山が良かったですか?」
「いや……私としても海を取り戻す事は望む所だった…」
迷子の女の子の頭を撫でながら棗は座っていた事で乱れた黒地に咲いた日向水木を引っ張るひなたにゆっくり首を傾げた
「神樹様のお告げかと思った」
「ああ、そういった事は一切ありません。たださる発言力がある女の子が海沿いの町に行きたがっただけですよ」
「二人とも、親御さん見つかったよー」
黒地に白い揚羽蝶、白地に青牡丹が揃うとなんとも風流ですねとひなたは雪花と棗に寄り添うべく立ち上がった
 
 
「銀、ちょっといいかしら」
「んぇ?」
ぼりぼりとリンゴ飴を咀嚼しながら園子とチョコバナナ争奪戦を繰り広げながら交代の為にひなた達の元へ戻る寸前、おずおずと話しかけられた
どことなく様子がおかしい…いや須美は何時もちょっとおかしいんだけど…ので足を止め振り返る
「須美、どした?」
「東郷さんから言伝を頼まれたのよ、銀の事を待っているらしいわ」
そう言って端末で地図を表示し、指さされた画面を覗き込む
そこは夏祭り会場から遠くない近場の団地の一角だった
「どうしても銀に来てほしいらしいから行ってきなさい、会場は私とそのっちに任せて」
一体全体何の用なのだろう、ただ最近の大きい須美の行動の謎が解ける気がした
「ごめんなさい、そんな訳でちょっと抜けていいですか?球子さん」
「皆まで言うな、タマに任せたへよ」
ひらひらと片手を振りながら去っていく背中に頭を下げて感謝する
「まさか、アタシに告白するとか……なぁ、須美どう思う!?」
「何馬鹿な事言ってるの」
「アイタ」
行き掛けの駄賃として須美に少しだけ甘えてから決戦の地へと赴く事にした
 
 
ゆっくりゆっくりと坂を上る、そこは町が一望出来る程度のスロープ状の坂道だった
その坂の入り口に東郷美森が座っている事を確認して銀は駆け出した
「おーい、須美ー!」
声を掛けると気が付いたようで腰かけたコンクリートの岩棚からゆっくりと立ち上がる
「珍しく遅刻しなかったわね、銀」
そう言って細く、長い白い手を差し出してくる
「やれば出来る子でしてよ」
「くすっ、そうね」
手を繋いだまま坂を上りきると夜空が一段と近く、星が覆う様な広がりを感じた
そのまま団地の敷地内に生えた木陰へと誘われるままに付いてゆく
傍に並んで立つとどうしても見上げてしまうのが悔しいのを知ってか知らずか敷物のようなものを広げ美森は座った
「それで須美さんや、話ってなんだい?デートに付き合う代わりに教えて欲しいんだけど」
隣に遠慮なく腰かけて茶化しながら問いかける。座高もやはり追いつけないのかと悲しくなった
この須美やおっきい園子はどんな時間、どんな思いを積み重ねてここまで大きくなったのだろう
そんな事を思いながら口を開く事を待ち続けるが何時まで経っても美森は口を開かなかった
「なぁ、須美…………!?」
泣いている
大きい須美が泣いている
ただ一筋両の目からゆっくりと涙を流している
悲しみに震える様子はなく、本望が叶った満足に満ちた表情で手に力を込めている訳でもなくただ絶対に手を放すまいと
喜びに打ち震える訳ではなく、手を離せば消えてしまうのだと理解しているかの如く泣いている
出会ってから初めて見せる表情だ、と銀は思った
見ていられなくてそっと浴衣の袖で涙の跡を拭ってやると顔を俯かせてしまった
「須美、おっきな園子と二人でアタシに何か隠してるんだろ?」
須美である東郷美森にゆっくりと語りかける、木の陰で俯いた彼女の表情をもう伺う事すらせずまっすぐに
いい機会だった。何を隠されていたとしてももう仲間はずれは御免だとはっきりと伝えよう
「なぁ、アタシらダチじゃんか。それでも言えないのか?」
美森は俯く事をやめて目の前に立ち塞がる三ノ輪銀の問いに何も答えず背後の空を眺めていた
薄く青味がかる白地に桔梗の柄の着物を身に纏い、肩にかかる彼女の特徴とも言える結った髪のリボンを片手でいじっている
暗がりなのでやはりどんな顔をしているかは解らなかった、それでも彼女の瞳は瞬いた気がした
「なぁ、須美!」
それを見た銀はどうしても詰問せずにはいられなかった
その言葉をかき消すように背後で大輪の華が咲いた
ドン!と言う音と共に木の背後から「た~まや~!」と叫ぶ園子が姿を見せた
手にはドッキリ大成功!ミノさんお誕生日おめでとう!と書かれたプラカードを持っている
ぽかん、と口を開けながら夜空に広がる花火と園子と美森の顔を見比べる
 
 
「何だよこれ」
「何って」
せーの、と二人は息を合わせた後もう一度
「ドッキリ大成功!お誕生日おめでとうだよ~」「ドッキリ大成功!お誕生日おめでとう、銀!」
と告げた。美森はトランシーバーを手に「我、奇襲ニ成功セリ!」と何処かへ報告している
理解出来ないでいると園子と美森が挟む形で隣に座った
「ほら、ミノさんの誕生日近かったじゃない?でもごたごたが重なってお祝い出来なかったから~」
「お、覚えてたのか」
「勿論だぜ、ミノさんの誕生日を忘れる筈が無いんだぜ」
ほにゃっと笑いかける園子の後ろからサムズアップしながら小さい園子と須美が現れる
「ごめんね、ミノさん~大きい私がどうしてもサプライズしたいって言うから手伝っちゃった」
「でも鬼気迫る芝居だったわね。私も見習いたいわ」
「お、お前ら…」
喜ぶべきなのか、呆れればいいのか、怒るべきなのか、まず何をすればいいのか解らなくて空を見上げ、疑問に思った事を聞いてみる
「あれも須美達の仕業なのか…?」
「黒色火薬をいじるのは流石に肝が冷えたわ…」
と一仕事済ませた漢の顔をしながら額を拭う美森
「一から!?」
合点がいった、隣の部屋はここ最近で花火工場になったのだ
安全面や何故製造方法を知っていたのか?取り扱い免許は?そもそも誰が打ち上げているのだろうか?
疑問は尽きないがもう何も聞かない方がいい気がした。アタシ小学生だから法律なんて知らないし
あ、今は精霊があるから一応安全面は考慮されているのか。それにしたって
「須美も園子もさぁ……いや、もう、うん。ありがとう」
「えへへ、喜んでくれて良かったよ~」
「ケーキ代わりに大量のぼた餅も用意したわ」
どん、と重箱を目の前に置かれるともう笑うしかないのだった