今、私はこうして今五体満足で夕日を眺めている。
友奈の泣き顔を見たくなかった。
東郷の冷酷な顔を見たくなかった。
風の怒る顔を見たくなかった。
樹の哀しい微笑みを見たくなかった。
あの戦いの最中、私は視覚と―――聴覚と―――右手足を失った。
―――友奈が、東郷が、風が、樹が、『勇者部』がどうやってバーテックスを抑えたのかはわからない。
風に言わせると友奈は頑張りすぎたらしい。
友奈をのぞく4人が失っていた体の箇所を取り戻し始めていても
友奈だけは何も変わらなかった。
私は何のために戦ったんだろう。
全快とまではいかないが感覚の戻ってきている右手を握りながら考える。
「自分一人が犠牲になるなんてそんなの…」
嫌だ―――友奈が居なくなるなんて―――。
東郷は毎日のように友奈の見舞いに行き続けていた。
それこそ面会時間が終わるまで居るのがザラだった。
ただ私は皆よりも症状が重くて、リハビリで遅くなることがあって。
一度だけ東郷が帰った後に友奈の部屋行ったこと事があった。
まるで人形みたいに動かない友奈。
呼びかけても、目の前に経っても。
明るくて、元気で、私の居場所になってくれたあの友奈が。
どうしてこんなことになってしまったのか。
「私は…友奈のそんな顔見たくないわよ…」
気持ちが抑えられなかった。
「私は元気になったんだから…早く友奈も目を覚ましなさいよ…!」
涙が溢れてしょうがなかった。
私は――――――友奈に口づけしていた。
「いやいやいやなんであんなことしちゃったのかしら私は!」
部活動後の誰もいない部室で思い返したらなんだか顔が熱くなってきてしまった。
このことは墓場まで持っていかないと…と決意を改めたところに
「夏凜ちゃーん!」
友奈がやってきた。それだけなら何の問題もないのだけど…嫌な予感があった。
「伝えないといけないことがあったんだ…」
心臓の鼓動がとても大きく感じられた。
「私、ちゃんとね…覚えてるよ?
夏凜ちゃんの声も…夏凜ちゃんの唇も…♥」