友友疑似姉妹デートだよ~

Last-modified: 2017-10-11 (水) 22:15:02

ひらりと頬に触れた紅葉に微笑みながら、高嶋友奈は両足を遊ばせて鼻歌を唄った。
10月も半ば。空間いっぱいに敷き詰められた秋は色彩を極めて世界を彩っている。
吸い込む空気も収穫の匂いを取り込んで、豊かに香っていた。
「風流だなぁ」
この一つ一つが、勇者の守った景色。この一つ一つが、勇者が守っていく景色。
その美しさに心を奪われるようにして、高嶋友奈はかれこれ約束の一時間前からここに居座っていた。
移り行く風景と共にフレームに捉えられたその姿は、一枚の絵画のようだった。

「あ、来た。おーい、結城ちゃーん!」
二段跳びで石段を駆け上ってくる結城友奈を見つけて、高嶋友奈は大きく声をあげ手を振った。
秋らしく暖色でまとめられた結城友奈のコーディネート。
間違いなく似合っているが、やや動きづらそうにしているのは慣れないブーツを履いているからだ。
たぶんきっと、ほぼ確実に東郷美森の仕業だろう。高嶋友奈は出発前の二人のやり取りを想像して苦笑した。
「ごめん高嶋ちゃん、お待たせ!」
「全然待ってないよ。それじゃ、行こっか」

意気揚々と入店した結城友奈は、これ見よがしに高嶋友奈に腕を絡ませてみせた。
一瞬動揺した高嶋友奈もすぐに察し、二人してオーバーな即興芝居をレジ前で展開する。
「おねーちゃんっ♪」
「おお妹ちゃん、ちょっと気が早いんじゃないかなー?」
背の高い店員は二人の目的を一見して悟ったが、それでも店内マニュアルに記載された通りの動作を行った。
「いらっしゃいませ。お二人は……」
「「ハイ!姉妹です!」」
「……はい、間違いありませんね。ではこちらへどうぞ」
瓜二つである二人に対して身分証の提出を求めるほど、店も店員も野暮ではなかった。

「シスターズデーなら、姉妹で来店すればそれぞれ800円でスイーツ食べ放題なのよ」
こんな話をノリノリの犬吠埼風から聞いたのが一週間前。
十月からの和菓子・マロンフェアが内心ちょっと気になっていた高嶋友奈にとって、結城友奈の誘いは渡りに船だった。
皿の上に丁寧に盛られたモンブランを、一噛み一噛み味わっていく。
「おいしいね、おねえちゃん!」
高嶋友奈の眼前には前人未踏の高さまで積み上げられたスイーツの山を凄まじい速さで削り取っていく『妹』が、満開の笑顔を向けていた。
「ホント、美味しい。誘ってくれてありがとね、結…妹ちゃん。ハイ、お姉ちゃんからお礼の一口」
高嶋友奈は手元のモンブランをフォークで一掬いし、向こう岸の『妹』へ差し出した。
瞬間、彼女の顔が紅葉より紅く染まる。

「あっちょっ……ちょっと待ってね!わわわ……」
『妹』は何やら慌てふためいた様子でテーブルに鞄を置いたり降ろしたりと不自然な動作を繰り返している。
一応今は姉妹なんだから、そんなに気にする事もないと思うけど。そんなところも可愛いと、高嶋友奈は妹を慈しんだ。
結城友奈にしてみれば予告無しの奇襲攻撃に他ならない。
ようやく心と体の準備を終えて見つめ返すと、変わらない高嶋友奈の笑顔が視界に飛び込んできた。
窓際の席、午後の光に照らされた優しい微笑みをフレームに捉える。
「はい、あーん」
「あ、あーん……」
フォークの先端が唇に触れる。至福の始まりを告げるファンファーレが頭の中でかき鳴らされていた。

そこから先、結城友奈の記憶はない。
時間は過ぎたしお腹は膨らんだが、何がどうなった一日だったのかまるで覚えていない。
ただ、ものすごく幸せだった事は覚えている。
夢見心地のまま高嶋友奈と別れ、結城友奈は一人、部屋の真ん中でぽおっと記憶を振り返っていた。
「勇気、出してよかったぁ……」
鞄からレンズだけ覗かせていたスマートフォンを取り出し、画像閲覧アプリを起動する。
内部に収められた百数十枚の画像データを眺める結城友奈ただ一人を連れて、秋の夜は更けていった。