友園その2だよ~

Last-modified: 2017-07-23 (日) 01:42:54

「ふう」
ぺたんとアヒル座りで自室の天井を見上げる
そのまま首を後ろに反って伸びをして腕を回すと痺れるような痛みが走った
大赦から送られてきた大量の資料の整理と消化が最近の園子の趣味と化している
この世界について矢面に立たされていたとは言え私達は余りにもこの世界に対する理解が少ない
その為にもどんな糸口でもいい、情報が欲しいと大赦に頼んでみた所送られ始めたのがこの資料の山だ
大抵が保管されていた蔵書であり表面に検閲済みの印が入っていない物は存在しなかった
内容はと本の口を開けば一面の黒塗りは珍しくない、資料的価値を求めている訳ではないからいいんだけれど
新しく届いたダンボールの山から一つ選んで封を切り、コーヒーを体育座りした足の軒下に隠して壁を背に読み耽る
ふぁ…と欠伸を噛み殺す。本来の趣味である執筆活動の筆は遅くなってしまうが勉学には差し支えないからいいのいいのと言い訳する
読み終えた黒塗りされた報告資料の控えの様な物をバインダーにし舞うと次の獲物を求めて手をダンボールへ差し込む
「……およ?」
黒いプラスチック片の様な物が目に留まる、それは真新しいUSBメモリだった
 
「勇者適性検査合格者名簿…?」
内容を確かめるべく愛用しているラップトップパソコンに接続する
パスワードの類は掛かってない事を確かめフォルダを開くと内容物は誰かが纏めた簡単な報告書の様で
ページを捲る度に毎日顔を合わせる友人達の情報が流れてゆく
最初は何か不味いものでも見てしまったのではないか、と思っていた
しかし画面をスクロールして文章を読み進めるとなんて事はない、ただの勇者部六人の経歴だった
羅列された情報は8割以上勇者部に所属している以上知っていなければおかしい物ばかり
勇者適正値と言う物もまるで学校の小テストの如く100段階評価の数値が表記されているだけで
そもどういった基準で選定されているのかも書かれていない
うーん?と首を傾げながらコーヒーを啜る。目新しい情報は確かにない、が
「こうして見ると…」
考えながら口を噤む。そのまま再度ファイルのページを一番最初まで巻き戻した
目新しい情報を探す事にしか注意が向いてなかったが良く考え直すと一人一人の経歴はバーテックスと少なからず因果がある
確かに始まりは家柄であったり本人が記憶喪失になっていた場合もあるし自ら志願して勇者になった場合もある
それでも初陣までに少なからず因縁がある事を示していた、ただ一人を除いて
「ゆーゆ」
結城友奈、勇者適性最高値である最近出来た友人の経歴は不自然な程に普通だった
 
 
「…………すやぁ」
「起きて、そのっち。次の時間は移動教室よ」
少し強めに揺さぶられる事で頭がある程度覚醒する。ありがとわっしーとお礼も忘れない
「園ちゃん最近おねむさんだけど何かあったの?」
教科書ノート一式を机の中から取り出して一纏めにしていると机の水平線から友奈が頭を出した
そのまま机に手をかけて立ち上がるのをまだ眠い目でぼんやりと眺める
「最近古い本を読むのがマイブームなんよ~」
「古い本?」
「古書の類を読む趣味なんてあったのね」
知らない一面だわ、と腕を引いてくれる美森の肩に顎を載せて簡易型おんぶの姿勢になる
そんなに眠いなら顔洗ってきた方がいいんじゃないの?と気を遣ってくれるのが優しくて嬉しい
「小説のネタにいいと思ったんだけど、とんでもない量なんだよ。ダンボールで山の様にあるんだぁ~」
「そんなに」
腕を広げてわーっと大げさに表現すると友奈は目を丸くした
「せめて読みやすいように整理しようとしたんだけどねー」
「もう、そのっちは昔から朝弱いんだから生活リズム変えちゃダメよ」
「大変だねぇ」
廊下をずるずると引きずられるままに歩いていく
本当はもう普通に歩けるけれど暫くわっしーに甘える事にしよう
「本当に大変だよ、猫さんの手も借りたいくらいだよ~」
言ってからあっと気が付くがもう遅かった
「勇者部五箇条!」
「悩んだら相談、よ」
 
 
画して休日に園子の家に勇者部の面々が揃う事となった、目的は大量の資料の整理と探索である
思えば自分一人で検分するのは余りにも視野が狭かった
思い思いの資料を手に取ってもらい彼女達の思う所を聞かせてもらえれば新たな発見があるかもしれない
ちょっとした期待を抱きながら自らも目の前の資料を紐解いた
「う~ん」
この資料の山に付き合いだして解った事は検閲の方向性くらいだった
嘗て、鷲尾須美と共に教室で読んだ歴史書によると敗戦したこの国の教科書を検閲したと言う事があったらしい
国民に対する教育方針が固着化されてしまうのが人権を狭めてしまう、とかなんとか
改めて目の前の山をその前提を持って崩していくと受ける印象は真逆である
大赦が言うにはまだほんの一部だという分量なのに裁量基準に当てはまる絶望や達観を執拗に塗りつぶしている
まるで、バーテックスを殲滅せんと鍛冶師達に長年鍛え上げられ続けた日本刀の様だ
ちらり、と東郷美森の顔を覗き見る。鷲尾須美はこの事を知ったらどんな感想を抱いたんだろう?
記憶の中の横顔を重ねながら眺めていると彼女は慌てて立ち上がり
「友奈ちゃん、皆、ちょっと来て!」
と周囲を見渡した
 
 
「じゃ、晩御飯の買い出し行ってくるわねー」
踵を入れるために靴のつま先で地面を蹴りながら風が振り返る
「友奈、ちゃんと園子の手伝いするのよ」
と茶化しながらその後ろを樹と共に夏凜が追いかけていった
「酷いなぁ、ちゃんとやるよ!」
「あははー」
珍しい友奈の悪態がドアが先に閉まった為に部屋に木霊して帰ってきた
あの後、折角休日に集まったんだからお泊り会もしちゃおう!と決定するのが勇者部の凄い所だと思う
結局、休日を消化してまで整理した資料からまともな記録は見つからなかった
新たな切り口が見つかったと言えなくもないが何処か決め手に欠けている気がしてもやもやしてしまう
そんな事もあり申し出は有難かったし一人じゃないのは素直に嬉しかった
客間と言う名の書庫と化した部屋から敷布団とカバーを人数分運び出す
わっせわっせと口ずさみながら廊下の壁に擦らない様に気を付ける
敷居を跨いで部屋に入ると丁度寝室の整理が終わったらしく友奈が横を通り抜けていった
「園ちゃん、ダンボール移動終わったよー!」
「ありがと、ゆーゆ~」
部屋の角に積み上げるとピサの斜塔の如くに不格好になってしまって慌てて上から慣らそうとするが駄目だった
むむむ、と眉を顰めて唸っているとぽこん、と額に走る衝撃
「もう、園ちゃん美人さんなんだからそんなしかめっ面してちゃダメだよ」
「はーい」
笑って笑ってーと茶化してくれる友奈を前に次の手をひたすらに模索していた頭を空にする 
「あれ、そう言えばわっしーは何処行ったの?」
「調理器具が足りないから家から持ってくるって言ってたよー」
「そっかー」
部屋に一応掃除機を掛けながら取り留めない会話を楽しむ
楽しい、うん楽しい。隠しきれなくてどうしてもニコニコしてしまうのが少しだけ恥ずかしかった
「ねぇねぇ園ちゃん、今度はどんな小説書くの?」
「ミステリー小説に挑戦したいかな~」
「みすてりー!?」
「霧の街で起きる怪事件、言葉と言う密室に隠された秘密を名探偵が解決するんよ」
シーツをばっと広げてマントの様に羽織って見せる
「かーっくぃー!」
同じ様に自らの敷布用のシーツを羽織って二人で並んでポーズを決める友奈
不思議な事に並んでみるとなかなか様になっていてそれがとても可笑しかった
「完成したらゆーゆにも読んで欲しいな~」
「いいの?」
「当たり前だよ~」
だって、と口にしようとして続く言葉を失念した
私はちゃんと友達が出来ているのだろうか?ふいに浮かんだその疑問に楽しかった熱が少し醒める
「楽しみ!」
くるくると表情を変える彼女を前にして何でこんなにも後ろめたさを感じてしまっているのだろう
隠し事をしている訳でも騙している訳でも悪意を持って接している訳でもない
一歩引いた場所から眺める癖がどうしても抜けなくて輪に交じり切れないのは自覚している
それをどうしてこの子と話すと浮き彫りにされるように感じてしまうのか、解らない
あ、ベッドメイクしなくちゃとふと呆けていた自分に気付いて前を向くと頬を染めて動かない友奈の姿があった
「ゆーゆ?」
呼ばれてあわあわと手を空に動かした後ばつが悪そうに頬を指で掻いている
「あのね、前に園ちゃんの事を見るとドキドキするって言ったでしょ?」
頷く。意外な言葉が印象深くてよく覚えていた、あれは友奈の部屋にお泊りした夜の事だったはずだ
「園ちゃん美人さんだから物憂げにしてるとすっごい絵になるんだよ、だから不意に見せられるとドキドキしちゃうんだ」
はて?と首を傾げる。昔からぼーっとする事は多いけど…と唐突な告白が可笑しくて途中から笑ってしまった
「さっきもシーツに包まってる姿がまるで童話のお姫様みたいで…え?なんで笑われてるの!?」
余りにもありきたりな少女の反応である事が可笑しくて、可笑しくて。
どうしてこんなただ普通女の子に我が儘を止められたのかまるで理解出来なくて息を忘れる程笑う
自分が何故笑われているのか理解できない顔がまた可笑しくてシーツを纏ったままダイブしてやった
「わっ、わっ、園ちゃん前が見えないよ!?」
そのまま妖怪の如く纏わりついてシーツごと抱きしめる
ほんの少しだけでいい、何も考えたくない
与えられた束の間の休息を享受していると自らの顔を覆い隠す物を手繰り寄せて友奈が顔を出した
「もう!何するの!」
「ごめんね、ゆーゆ~」
名残惜しいがまた何時もの私に戻らなくてはと微笑んだ
そうか、嬉しかったんだ。勇者部のみんなは私に本心から話してくれるから
「みんなが勇者な理由が解った気がするよ~」
「?」
 
 
「結局園子さんが欲しかった資料は見つからなかったんですね、残念です…」
「ごめんねイッツん。一杯手伝ってくれたのに」
風お手製の力肉うどんを夕餉にしながら今日の成果について話しているとねえ、と夏凜が手を挙げた
「いっその事大赦に全員で出向いてやりましょうよ、向こうさんも資料を送る手間省けるし一石二鳥でしょ」
ぶっ、お出汁を吹き出しそうになるのを必死に耐える
「そうね、やっぱ一度くらいはお偉いさんの顔拝んでやらないと嘘よね」と頷く部長を前に
「お姉ちゃん」と何か言いたげにジト目で睨む樹
「私はちょっと顔を出しづらいのだけど」と乗り気じゃないのが美森
もはや「みんな凄い事考えるねぇ~」と心からの感想を述べるしかなかった
夢中になってうどんを味わう友奈の意見も聞きたくて「ゆーゆはどう思うー?」と聞いてみると
「園ちゃんがやりたい様にやればいいと思う、かな」と当たり前の様に言ってくれた
友奈の言葉に少しの間が開き、どうする?と言う一同の視線が集まる
本心から私がやりたい事、決まっていた次の手を口にする事にした
 
 
「うーん、そうだねぇ―――」