友園だよ~

Last-modified: 2017-07-17 (月) 15:19:53

普段、聞こえないであろうカサカサと揺れる葉の音に気が付いて瞳を開く
屋外だ、とぼんやりと思った。当たり前の様にそっと体を起こすと色取り取りの花びらが体の上から滑り落ちた
上掛けの布団から足を抜いて、地に足を立てる。右の手で頭に巻かれた包帯の結び目を解いた
手にしたままゆらりと当てもなく歩き続けると潮騒の音が聞こえてきた
下から吹き付ける潮風が階段を駆け上がり、園子の体を通り過ぎてゆく
手にしていた包帯が空高く飛んでいくのを確かめる事もせず、口を開いた
「それが貴女の選択なんだね、わっしー」
呟いてから自分に唐突に与えられた自由に気づいた。今ならば何だって出来るだろう
でも何をするべきだろうか、二年と言う時間で奪われた物は余りにも多すぎて検討も付かない
あはは、と軽く苦笑する。
どうすればいいか、どうするべきかは何時だって解るのにどうしたいかが良く解らない
ぽんこつだなぁと自分の頭を評価しながら立ち尽して、海を眺める
そうして暫くしていると視界の隅にぽつぽつと白い物が増えてきた
「園子様」
背後、すぐ近くから女性の声。遠巻きに囲まれているだろう事だけは解った
「大丈夫、抵抗しないよ。貴方達に付いていきます」
名残惜しげに天高く聳えるかつての鉄の要塞を仰ぎ見る
彼女は自らの意思で再度戦う事を決意した。その為にも確かめなければならない
 
 
「転入生の乃木園子でーす。へいへいわっしー、驚いたー?」
「そのっち」
ぽかんと口を開いている結城友奈と東郷美森の前に車のドアを開いて飛び出してスライディング着地を決め、一回転
「驚いてる驚いてる~サプライズ大成功だよ」
今日から同じクラスだよーと続けて二人の手を取ってぶんぶんと振る
ぱくぱくと何か言いたげな二人の顔をうんうん、と確認すると即座に後部座席に戻った
「じゃあまた後でね~」
身を乗り出して両の手を二人に振って満足した
あの日、祀り収められた部屋から放り出された以上、やらなくてはいけない事を一つずつ虱潰しだ
幸いにも身体のリハビリはまったくと言っていいほど必要なく毎日がそうであったように動ける
勉学に関しても問題ない、取り戻せる自信がある
家族については今は考えない事にした、嫌っている訳ではないけどそれよりもやる事は沢山ある
大赦は復学したい事を相談すると困らない範囲での援助を約束してくれた、衣食住はこれで問題ないだろう
「……大丈夫かなぁ」
俯いて組み合わせた指を眺める。目下の問題は離別した親友との友人関係だった
また再び仲良くしてくれるだろうかと悩むだけならばよくある話だ
しかし相手は別人と言っていい程に変質していた、嫌われても仕方がない
車が讃州中学の敷地内に入った事に気づいてむん、と鼻息を荒げて前を向く
やる事ではない、やりたい事は沢山あるのだ
 
 
「やるじゃない、園子!」
「ううん、普段からこれらをやってるにぼっしーも凄いよ」
受け入られるかどうかを懸念する必要は全くなく、
初めからそうだった様に欠けた部品が元に戻る如く受け入れられた勇者部で園子は絶好調だ
勇者部も新入部員と親睦を深めるべく奔走する日々が続いている
「私まだまだみんなの事知らないから、お泊り会したいと思うんだ~」
手に持っていた雑誌に折り目をつけて閉じながら提案する。来訪も歓迎するんよと両手を広げてアピール
それはいいわね、と同調してくれた部長を筆頭に全員の了承を得た
 
「うーん、ここはくつろげるね~」
「暇だったら何時でも来ていいわよ」
「わーい」
「園子さん、着替えここに置いておきますね」
「ありがとうイッつん~」
順番に各家を宿泊する
 
「次はわっしーのお家に行くね~」
「あら、家には良く来るじゃない」
「それでも改めての家庭訪問だよ~」
光陰矢の如しだよ~と思う
 
「自分の番が待ち遠しかったよー」
「私もだよ、ゆーゆ~」
友奈の部屋で椅子を借りて置いてあったクッションを膝に乗せ抱き寄せて微笑む
彼女と二人きりでゆっくりと話す事は望みであり淡い期待を抱くに足るイベントだ
嘗ての親友を変質させた原因の一つとして、世界を終わらせようとしたした親友を元に戻した原因の一つとして。
世界を二度終わらせようと企てた園子だからこそそれを相対して防いだ勇者部は特別な存在だ
特に、友奈と言う存在はとても大きく、とても異質に映った
だからこそ
「私、園ちゃんを見てるとドキドキするんだ!」
「…え?」
確かめねば、と念押す頭の思考を切断される
「なんだかお姫様みたいな雰囲気を感じるから…かな?」
えへへ、うまく説明出来ないやごめんねと微笑む友奈に見とれているとベッドに手を引かれていた
「マッサージやってあげるよ、お父さんのお墨付きなんだよー」
「お~それはいいね~少し腰が張ってたんだ」
 
 
「……ちゃん……のちゃん……園ちゃん」
肩を優しく揺さぶられている、優しい香りに安心を覚えて覚醒を渋る
「お母さん、まだ眠いよ~」
そう呻いて枕に顔を突っ伏して抵抗すると耳に掛かった髪を掻き上げられた
側頭部を撫でられながら今までの経緯を思い出そうか悩んでいると頭上でくすくすと笑う誰か
「そう言う所東郷さんと似てるね、もう少し甘えん坊さんする?」
ほらこっちとぽんと膝を叩くのだから抵抗を諦めて頭を載せる、天を見上げると覗き込まれていた
「ゆーゆはさぁ」
「なあに?」
「ゆーゆはこの世界好き?」
部室で行われた文化祭の演劇の上映会は園子にとって普通に楽しめる出来栄えで絶賛されるのも納得出来た
特に好きになったのはラストシーンの舌戦で思わずダビングテープを求める程巻き戻して見た
確かめたかった答えを見た気がした
「好きだよ、みんな大好き」
サラサラと前髪を梳かれるが顔の傾きで何度も思った通りにいかないらしく友奈は何度も続ける
間髪空けずに答える彼女はなんなのだろう、そっと手を差し出して頬に触れたかった
だからこそ私にも変質を齎してくれるのではないか、と
「ゆーゆは優しいねぇ」
顎に沿ってそっと撫でるとくすぐったそうに何度か目を瞬かせるのが嬉しくてそのまま続ける
今まで感じた物を吐露すれば彼女も地に堕ちるだろうか?頭を過るそれはやりたい事では無い
彼女には甘えきってもいいのではと言う考えを否定する為に彼女を見上げ続ける
「そんなゆーゆの事好きだよ~」
どんな顔をするかなと思っていると上から覆いかぶさられてしまって見えなかった
「私も園ちゃん好きー!」
残念だなぁ、と思いながらむくりと体を起こすと驚く程に体の調子は良くなっていた
「寝よっか、ベッドを結城友奈政府に返還するんよー」
「ハハーッ、確かに調印承りました」
二人でくすくすと笑いあって手を繋いだ
これで動機を得る事が出来た、文句なしの理由だ
それならば、ここからは私の得意分野なのだから迷う事も無いだろう
「おやすみ園ちゃん、また明日ね」
「おやすみ、ゆーゆ」
 
 
嘗て自分を変革してくれた二人の友人を思い出す
あの頃の自分に戻る事は無理かもしれない、でもきっと明日はくるだろう
どうか、残酷よ希望となれ