東郷せんせいその2だよ~

Last-modified: 2017-08-04 (金) 22:32:38

「東郷~?安芸先生が備品整理の件で話しがあるって。手が空いたら園長室行ったげてー」
「あっ、風先生。わかりました、子供達を寝かしつけたら向かいますね」
時刻はお昼過ぎ、昼食を取り終えた子供達はお昼寝の時間だ。午前中力一杯遊びまわった子供達は、満腹になってうとうとし出す頃だろう。そして一眠りしたらまた午後に大はしゃぎする、子供の体力にはつくづく驚かされる。
安芸先生の用事も気になるし、自分も一息つかなければ午後のちびっ子勇者たちの相手は務まらない。ここは早く寝かしつけてしまおう。そう思い立ってお昼寝の準備を進めていると、今にも寝落ちそうな程うとうとした子供達が集まってきた。今日は寝かしつけるのには苦労しなさそうだ。
「みんなー、もうすぐ用意できますからね。お腹を冷やさないようにちゃんとブランケットかけてねー」
そう声を掛けると、皆それぞれ返事もそこここに自分のお気に入りの寝床へ向かっていく。よく日の当たる場所、本棚の間の狭い空間、お気に入りのあの子の隣、etc…
そんな中、ちょこんと座り込んで目を爛々と輝かせている子が一人。どうやら午前中によほど楽しい事があったらしく、未だ興奮覚めやらぬといった様子だ。
これは…苦労しなさそうという前述の考えは捨てた方が良さそうだ。
「…友奈ちゃん?どうしたの?みんなもうお昼寝始めているわよ?」
「せんせ!あのね、たかしませんせいにおしばなおしえてもらったの!!すごくきれいでかわいくてね!めずらしいおしばなも…」
予想以上のハイテンションだ、このままでは他の子達まで起きてしまう。慌てて友奈ちゃんの口に指を当てると、息を潜めてしーっと静かにするようジェスチャーをしてみせる。
「友奈ちゃん?お話の続きは午後に聞きますからね。今はお昼寝の時間だから、静かにしないとみんな起きてしまうわ。わかってくれる…?」
ハッとしてちいさな両手で口を塞ぐ友奈ちゃん。その仕草があまりに愛らしくて、思わず笑みが溢れてしまう。
ひとまず落ち着ける事には成功したし、このまま寝かしつけてしまおう。そう思い友奈ちゃんを寝っ転がらせるが、元気充填100%の瞳だけがぱっちり開いておりやはり微塵も眠る気配がない。
このままでは埒があかない、ここはあの手を使うか…
私は友奈ちゃんの横に寝転がると、胸元にそのちいさな頭を抱き寄せ背中をポンポンと軽く叩いた。
「わぷっ!?」
「友奈ちゃん眠れなさそうだから、先生が一緒に寝てあげますからね。はーい、友奈ちゃんはよいこ~」
秘技、わっしー布団。この技を受けて眠らなかった園子ちゃんと銀ちゃんは居ない。東郷先生の豊満な体を利用した十八番である。柔らかな感触と暖かな体温、それに心臓の鼓動の音が安心感を生み、貴方の安眠を約束致します。
「ふわ…せんせー…あったか…すぅー…すぅー…」
「…友奈ちゃん?よかった、眠ったみたいね…」
ようやく寝かしつける事ができ、安堵のため息を漏らす。さあ次の準備に取り掛からねばと立ち上がろうとして、胸元に違和感を覚えた。
どうやら友奈ちゃんがエプロンをガッチリと握りしめたまま眠ってしまったようだ、意外と力が強くて引き離せない…
それに今無理に引き剥がせばせっかく眠りに落ちたお姫様を起こしてしまう。
それにしても…なんて愛らしい寝顔なのだろう。子供の寝顔は天使という喩えがあるけれど、元々天使のような友奈ちゃんの寝顔なら尚更可愛らしい。
それに友奈ちゃんの規則正しい寝息を聞いていると…胸元の友奈ちゃんの体温も相まって…なんだか自分も眠たく……

 

「…ごう!…東郷!!起きなさい!」
「あら…風先生…そうか、私眠ってしまっていたんですね」
「ええそりゃもうグッスリよ…ところで東郷、私の伝言覚えてる…?」
血の気が引く音が聞こえた。心臓をぎゅっと掴まれたような錯覚さえ覚える。
まずい…非常にまずい。
園長室の方角に目をやると、冷たくも恐ろしい気配がこちらまで伝わってくるようだ…
「アタシも行って謝ってあげるから…その、ドンマイ!」
風先生の励ましを聴きながら、最終決戦に赴く心境で私は立ち上がった。