東郷せんせいと夏祭りだよ~

Last-modified: 2017-08-06 (日) 17:07:06

茹だるような暑さの夏の日、そんなものは関係無いとばかりに子供達は目を輝かせていた。
それもそのはず、今日は夏の一大イベントである夏祭りの日だからだ。
屋台の食べ物の制覇を目指す子、金魚を救い出すことに力を注ぐ子、花火を楽しみに待つ子。
皆思い思いの祭りを堪能すべく話に花を咲かせていた。
そんな中、浮かない顔の子が一人。彼女は数日前から今日のことを楽しみにしていた筈なのに、何かあったのだろうか?

 

「友奈ちゃん、どうかしたの?お祭り、楽しみじゃない?」
「あっ…とーごーせんせー…。せんせーあのね、夏まつり行きたかったんだけどね、きょうおとーさんもおかーさんも急におしごといかなくちゃいけなくなって…」
成る程、そういうことか。道理で側から見て分かるほど気落ちする筈だ。
あれ程楽しみにしていたのに急に行けなくなったとなればさぞ辛かろう。
ならば、わたしの取る道は一つだけだ。
「友奈ちゃん、それなら先生と一緒にお祭りいきましょうか?先生が一緒なら、友奈ちゃんのご両親もお祭り行きを許可して下さると思うわ。」
その提案を聞きぱぁっと花が咲いたように笑顔になる友奈ちゃん。しかしその笑顔はすぐに萎んでしまう。
「せんせーほんと!?…けど、めいわくじゃない?」
この子は偶にこういう所がある。変に遠慮がちというか…もっと子供らしく甘えてくれていいのに。
優しい友奈ちゃんの首を縦に振らせるには…よし。
「先生もお祭りに行きたかったの、けれど人混みの中を車椅子で移動するのは大変で…誰か助けてくれると嬉しいなぁ…?」
そう言って小首を傾げて友奈ちゃんの顔を伺う。すると意図を察してくれたのか、友奈ちゃんはびしっと手を挙げて身体いっぱいの了承を伝えてきた。
「せんせー!ならわたしがおてつだいするね!」
「本当?ありがとう友奈ちゃん、友奈ちゃんはやっぱり優しい子ね」
そう言って頭を撫でてあげると、くすぐったそうに首をすくめる。友奈ちゃんの顔に笑顔がようやく戻ってきた。
さてと、そうと決まれば準備をせねば。祭りに挑むのならそれ相応の準備というものがある。
友奈ちゃんのお母様に引率の件を伝え、了承を得た私は準備の為に友奈ちゃんを自宅へ招いた。

 

「えーっと…確かこの辺りに…あ、あったあった」
「うわあ…!!浴衣だ!それせんせーの?」
「そう、子供の頃の物だから少し古くなっているけれど…うん、着るのに問題はなさそう。おいで友奈ちゃん、着せてあげる」
「ほんとう!?!?わぁーい!!ありがとーせんせー!!」
青い生地に菊の花の模様があしらわれた浴衣を、友奈ちゃんは気に入ってくれたようだ。
喜びのあまり早速下着姿になってしまった友奈ちゃんに、浴衣を着せてあげる事にする。
子供の頃は好んでこういった格好を選んでいた事もあり、着せるのはお手の物だ。
「友奈ちゃん、ちょっと苦しいけどがまんしてね?」
帯をギュッと引きしぼり、リボンの羽根を形作って…完成!
「はい、これで完成よ友奈ちゃん」
「おおおおお…!」
姿見の前に立たせ、完成姿を見せてあげると友奈ちゃんは満開スマイルとなって身振り手振りで喜びを伝えてくる。今朝の憂鬱顔はもう何処かへ飛んで行ってしまったようだ。
「それじゃあ先生も着替えるから、少し待っていてね?」
ベットに腰掛け、スルスルと服を脱いでいく。真っ白に透き通った陶磁器のような肌が露わになり、友奈ちゃんがうひゃあと裏返った声を上げた。
「せんせーお肌きれい…」
女の子同士なのだからと気にしないでいたけれど、見られるのはやはり少し気恥ずかしい。
さっさと終わらしてしまおう。友奈ちゃんの熱い視線を浴びながら、私は準備を急いだ。

 

そうして準備を終え会場に着く頃にはすっかり日も暮れて、辺りはお祭りムード一色となっていた。
車椅子を押してくれている友奈ちゃんの方を見ると、早く遊びに行きたいと顔に書いてあるかのようなワクワク顔がお出迎えしてくれた。
「友奈ちゃん、今日はどんなことがしたい?」
「えっとね!りんごあめたべたり、綿あめたべたり!あと焼きそばとチョコバナナと…」
「ふふっ…友奈ちゃんったら食べ物ばっかり。それじゃあまずはりんご飴を買いに行こっか?」
「うん!」
人混みの中をすいすいと進んでいく友奈ちゃん、いつもお手伝いをしてくれるので車椅子の操作はお手の物だ。
程なくりんご飴の屋台を発見し、大小様々なりんご飴にお出迎えをされる。どれもライトに反射して赤い光沢を放っていて、まるで宝石のような輝きを放つそれに友奈ちゃんのテンションは最高潮といった感じだ。
「友奈ちゃん、どのりんご飴が食べたい?」
「えぇ~っと…あの真ん中のいちばんおおきいやつがいい!」
友奈ちゃんが指差したのは、他のものより一回りくらい大きい果実を使用したりんご飴。いくら食欲旺盛とはいえ、子供一人が食べるには少し多いような気もするそれに、友奈ちゃんは釘付けとなっていた。
「大丈夫?結構大きいみたいだけれど、一人で食べられる?」
心配になりそう声を掛けるが、友奈ちゃんは首を横に振り違うよと訂正してきた。
「せんせーといっしょにたべたかったの。はんぶんこにしよ?」
成る程、そういうことか。友奈ちゃんの可愛らしい提案に得心いった私は、店主に件のりんご飴を注文し友奈ちゃんへと手渡す。
すると、何を思ったのか友奈ちゃんは私の膝の上によじ登り、膝に跨ると私の顔の前にりんご飴を掲げた。
「いっしょにたべたいから…せーのでたべよ?」
そういって小首を傾げて見つめてくる友奈ちゃん。
ああ神樹様…素晴らしい糧をお与えくださりありがとうございます…!
心の中で神樹様に拝礼しながら、私は友奈ちゃんとりんご飴を堪能した。

 

次は綿あめを買い、これも二人で食べる。
どうやら二人で食べるという事が友奈ちゃんの中では重要らしく、とてもご満悦顔だ。
「このわたあめ、大きくてふわふわのモフモフだからとーごーせんせーみたいだね!」
「じゃあさっき食べたりんご飴は友奈ちゃんかしら。赤くてまん丸で可愛らしかったから」
「えへへ~…せんせーにたべられちゃった♪」
「!?!?…東郷先生が、、友奈ちゃんを食べ…!?」
その時、背後から何か落としたような大きな物音がしたので振り返ると、見知った顔がそこにはあった。
「あら伊予島先生、先生もいらしてたんですか?」
「ええ…その…私今回のお祭りの見回り当番で…あの…お邪魔しました!!」
そう言うが早いが駆け出してしまう伊予島先生。一体どうしたのかしら?

 

「あっ、友奈ちゃん。そろそろ花火が始まるわ、移動しましょうか」
やはり花火はよく見える場所で見なくては。子供の頃からよく利用していた穴場へ友奈ちゃんを伴って移動をすると、既に人が集まりだしていた。
「なんとか打ち上げ前には間に合ったみたい。友奈ちゃんおいで?」
少しでも見やすくなるよう、友奈ちゃんを膝の上に座らせて抱きかかえる。
すっぽりと腕の中に収まった友奈ちゃんと夜空を見上げていると、打ち上げ開始のアナウンスが聞こえてきた。
夜空に炸裂音が響き、色とりどりの花が咲き誇る。
今年の花火は花がテーマらしく、山桜や朝顔、オキザリスにサツキなどを模した花火が次々と夜空に咲いていった。
袖をギュッと掴み、その光景を食い入るように見つめる友奈ちゃんの瞳は夜空の花火に負けないくらい輝いていて。
「友奈ちゃん、今日は楽しかった?」
そう尋ねると、今日一番の笑顔が返ってきた。
「とっても楽しかった!またでーとしようねとーごーせんせー!」

 
 

「まさか…東郷先生と友奈ちゃんがそんな関係だなんて…どうしよう、どうすれば…!?生徒と先生の禁じられた愛だなんて…!!や…やっぱりダメよね?けどけど応援してどうなるかもみてみたい…うううう!!」