東銀だよ~~

Last-modified: 2017-07-17 (月) 01:06:41

「なあ、……なあ早く返してよ須美」
銀は珍しく泣き目で東郷へ詰め寄った。
「駄目よ、銀。これだけは返せないわ、まだね」
東郷も含みのある言い方で言うが顔は真面目である。
その手には水着が握られている。サイズ的に銀の物だろうか。
「日焼け止めも塗らないで川で泳ぐなんて。そんなのは絶対にダメだわ」
そうここは学校近くの川である。
今日は非番である小学生組とその引率で東郷が一緒に来ている。
というか東郷も部室内で暇をしていたので勝手についてきたのだ。
そこで銀がさあ泳ごうとした時東郷がストップをかけた。
「銀、日焼け止め塗ったのかしら」と。
原因は銀が持ってきた水着にあった。
そう銀は一人だけ水着を持ってきたのだ。
「焼けたって健康的だからいいだろー」
「いい訳ないじゃない。焼けすぎても健康には悪いのよ」
この時の意見には須美も園子も賛成なので口を出さずに離れて遊んでいる。
「さあ、往生際が悪いわ。覚悟しなさい」
東郷は持ち前の器用さで銀の体を押さえつけ脱がす。
「安心しなさい。ここならほかの人に見えないし存分に塗れるわ」
「そういう問題じゃないだろー。清楚な須美はどこに行ったんだ!」
「世の中清楚だけじゃダメなのよ……」
遠い目をする東郷。
そして東郷は日焼け止めを手に持ち銀の背中の上に標準を合わせる。
「行くわよ、銀」
東郷の手に垂れた日焼け止めは入念に伸びて銀の体へと落ちる。
「へっ、……うぇ」
「なあに、銀。変な声出して」
東郷は知る由もないが、東郷の手の動きはいやらしかった。
これには友奈のマッサージを長年に受けていたことが原因だがそれは本人自身にもわからない。
「な、なあ。須美これってこの動きって…ヒゥ」
愛撫と化した東郷の入念な日焼け止め塗りに、銀は反応してしまっている。
まるで楽器のようだ。
「? 変な銀。…背中は塗れたわよ」
銀の顔が希望を見つけたように明るくなる。
「じゃあ、今度はお腹ね。銀ったらしっかり塗らないと」
東郷の一言に絶望に変わった。
「いやいやいやいや。須美さんよーそんなとこまでいいだろう!」
「問答無用。行くわよ」
東郷の掌が銀の脇腹、お腹、脇と縦横無尽に動き回る。
「――っ!? ―――ッ」
その動きに銀は為すすべもなく悶絶する。
それはまだ未発達の銀には早すぎる所業であった。
快楽と呼ばれる未知が銀の頭を駆け巡る。
「東郷さん、何やっているんですか!」
熱中していた東郷に聞きなれた自分のような声が聞こえた。
それは先ほどまで向こうで水遊びをしていた須美であった。
「何って、銀に日焼け塗りを……あっ」
一言でいえば熱中しすぎて銀の容態に気付かなかったのだ。
銀は自らの体を抱き締めて、足は内またで閉じて荒い息と赤い顔に涙目で東郷を見つめている。
「銀!? 何てこと誰がこんなことを…」
「貴方がしたんですよ! 東郷さん!!」
錯乱する東郷へ須美がツッコミを入れる。
過去の自分に説教されるという何とも言い難い空間を作っている。
そんな二人にうわ言のように銀が言葉を発する。
「須美お、姉さまぁ……そんな嫌って言ったのに」
「銀何言っているの!?」
東郷は焦る。そんなこと言ったら過去の自分が何をするかは明確だからだ。
「須美ちゃん、これは違うの!」
「友奈さん。私です、須美です。実は――」
既に遅かった。
須美は一仕事やり終えたような顔押して電話を渡してくる。
「友奈ちゃん、あのね、違うの」
「何が?」
冷たかった。非常に冷たかった。
所在なく目を動かしていると銀と目が合う。
銀は目だけでニヤっと笑ってきた。
――ハメられた!?
東郷は急いで銀に声をかけようとしたが……。
「今から行くから、待ってて」
終わった。
地獄からの最終勧告が出されたのだった。