神秘的ななつみー?だよ~

Last-modified: 2017-10-26 (木) 02:33:39

トロレルゥロルラルロルレン トロレルゥロルラルロルレン(スマホの鳴る音)

「っ!」「な!?」
突如、平和な勇者部部室に樹海化警報が鳴り響く。
大規模な襲撃はこのところなく、あったときもしっかりと神託があって、それに備えることが出来た。
だがこれはどういうことだ。ひなたは何も――!
「ひなた!」
「ええ、完全に不意を突かれました。丁度今神託が告げられたところです」
「場所は?てか、それ次第じゃかなりヤバいことに……」
「……はい。歌野さんと水都さんが買い物に行くと遠出したまさに、その場所です」
「くそっ!」
最悪だ。最近平和すぎて、或いはこれだけ多くの仲間が居て慢心していたのかもしれない。
忘れてはならなかった。ここは敵地のど真ん中だということに。
「……!すまん、若葉。私は行く!」
「お、おい待て棗!早まるな!」
ひなたの言葉を聞いた途端、棗さんが飛び出して行った。むぅ、思わず呼び捨てで呼んでしまった。
……なんて場合ではない!
「私たちも棗さんの後を追うぞ!これだけの規模、いくら歌野が猛者でもいつまでもつか判らん!」
そう、スマートフォンに表示されるバーテックスどもの数が明らかにおかしい。
歌野たちがいるであろう場所が、悉く奴らの反応で塗りつぶされている。
「気をつけてください、若葉ちゃん。この分だと道中にも潜んでいるかもしれません」
「ああ、わかった。いいな!」
「はい!先鋒はこの三ノ輪銀にお任せあれ!」
「討ち漏らしや梅雨払いは私らにお任せってね!」
「うん!みんなで歌野ちゃんたちを助けに行こう!」
こんな非常時でも、勇者の皆は本当に頼りになる。
「うむ。ここに居ない者たちも各自向かっているはずだ!遅れるな!」
待っていろ、歌野――!

―――――――――――――
 
「なんだ、これは……」
全速力で襲撃地点へ向かいながら、思わず呟く。
私達勇者のスマートフォンのアプリには、バーテックスだけでなく何処に勇者の誰が居るかまでリアルタイムに表示される。
普段の戦闘での連携や戦況の確認などが、これのお陰でスムーズにいき助かっているのだが……
「どんだけ飛ばしてんのよ……棗さん」
そうだ、棗さんの速度が明らかにおかしい。
私たちも全力で向かってはいるのだが、彼女を示すアプリ画面の点はその二倍三倍の速さで襲撃地点へと進んでいる。
足は私が勇者の中で一番早いと思っていただけに、これは軽くショックだ。
……では普段の戦闘での彼女は、手加減していたと言うことか?
「うわぁ……見てくださいアレ」
そう言って銀が指す方を見れば、恐らくこの道中で襲ってくるはずだったであろう星屑やバーテックスの残骸が転がっていた。
さながらそれは花道の様でもあり、仮に本物の花であったならばかなり立派なものになるはずだ。
それほどまでに、奴らは無残にも蹴散らされていっている。
「……急ごう」
彼女は、棗さんはこんな力を持っていたのか?
持っていたとして、なぜ今まで出してこなかったんだ?
疑問は尽きないが、今はそれより優先するべきことがある。
星屑どもの傷口が焼け焦げているのを気にかけながら、私たちは先を急いだ。

―――――――――――――
 
「チェストォー!みーちゃん、大丈夫?」
「う、うん。なんとか……でも無理は」
「何言ってるの!みーちゃんを守るときに無理しなきゃ、どこで無理するのって話よ!」
「うたのん……」
ってかっこつけてるけど、結構バッドな感じなのよねー。
みーちゃんとショッピングを楽しんでたら急に警報が鳴って!次の瞬間にはもう目の前に星屑なんですもの!
訳のわからないまま変身してなんとかやり過ごしたけど、それからくるわ来るわで大盛況!あっという間に囲まれた私は自慢の鞭を振るって耐えているけど……
「どうしよう、どうしよう……!何か私にできることは……」
バーテックスめ、ナンセンスよ!私じゃなくてみーちゃんを狙うなんて!
「大丈夫、みーちゃんは私が守るから!それに、きっとみんなが助けに来てくれるわ!」
鞭を振るいながら檄を入れる。そう、諏訪では一人だったけど、ここにはみんなが居る!
「っ!うたのん、あそこ!」
「なに、って!」
ジーザス。なんてこと。
みーちゃんが指した先に居たのは大型バーテックス。それも私たちの間で射手座と呼ばれる固体だ。
「大丈夫!守ってみせる!」
「でも、私だけなにもしないなんて……!」
そう言って、蹲りながらもみーちゃんが自分のバッグをあさり始めた。
何かあるのかしら、かなりあわてて捜している。
シット!矢まで降ってきたわ!
「……あ、あった!」
果たして、それは……よくわからない物体だった。
「ちょっとみーちゃん!?何その不気味なThingは!?」
「お守り!……らしいよ」
「らしいって!?」
気になるから今は襲ってこないでバーテックスたち!
「実は前、私が落ち込んでたときに棗さんに話を聞いてもらったの……その時去り際に『よければ貰ってくれ。私の大事なお守りの一つだ』って言って持たせてくれたの」
「そんなことが、あったのね!知らなかったわ!」
ばぁん、ばぁんと次々向かってくる星屑をなぎ倒す。でも待ってあなたたち!気になるから!
「それでね、『自分が危機的状況になったときはこのお守りに力を貸して、と念じるんだ。巫女である水都ならあるいは』って」
「じゃ、じゃあそれで――きゃあっ!」
「うたのん!?」

―――――――――――――
 
「うたのん!?」
それまでずっと私を守ってくれていたからか、疲労が出てきたところで星屑に紛れた突撃形バーテックスの群れにうたのんが弾き飛ばされてしまった。
必然、私は無防備に敵の群れに放り出された。
「そ、そうだ、お願いしなきゃ……!」
棗さんから渡されたナメクジのような形のお守りを胸に抱いて、強く念じる。

助けて、助けて、助けて――!

「このぉっ……!みーちゃんに、っきゃあ!」
「うたのんっ!」

お願い、お願い、お願い――!
助けて、力を、貸して――――!

「……っ!」
私に、うたのんに射手座の矢が降りかかる刹那――――突然辺りが闇に包まれた。
「な、なに……?」
次第に、闇の中が無数に小さく煌き始め――それがそのまま、群がる星屑もバーテックスも迫り来る大量の矢も全て飲み込んで、押し返した。
「……」
「……サイキック・パワー……」
何が起きたのか理解できず呆然とする私に、うたのんの間抜けな呟きが聞こえたとき、
「水都っ!!」
蒼い一筋の光が、孤立した私達を月の様に照らした。

―――――――――――――
 
「どうなっているの……」
理解が追いつかない。突然辺りが暗くなったと思ったらそこには星が沢山輝いてて
今度はそこからレーザー?みたいなのが出たと思ったらそれが敵を押し返して……
しかも棗さんが凄まじい速度で文字通り飛んできた。
も、もうなにがなんだか……

「母なる海よ!今一度私に神秘を!我が神よ!今一度私に大いなる天啓を!おお、宇宙は其処に在り!空とは、海とは――!」
そう蒼く妖しく輝く彼女がバーテックスに手を振り上げて、
「これぞ海神の一撃――――!!」

そう振り下ろした瞬間、私の視界は白一色に染まり、次に恐ろしいまでの轟音と振動が身体を襲った。

ようやく視界が晴れたとき、それまで無数に蠢いていたバーテックスや射手座型は跡形もなく消し飛んでいた。

―――――――――――――

「何があったんだ……」
私達がたどり着いたときには、もう既に決着は付いていた。
バーテックスの影は何処へも見当たらず、歌野や水都に怪我は見られず、周りの建物や地形にも被害はないようだった。
ただ一つ不気味であるとするならば、何事もなかったかのように歌野や水都に手を伸ばす棗さんだった。
「いやー、棗さん早すぎ!私ら結局何も出来なかったじゃない」
「すごいっす!まさか、あれだけの大群を全滅させるなんて!流石諏訪と沖縄を守った勇者!くぅ~!」
「あ、アハハ、まぁねー……」
銀に褒められぎこちなく頭を掻く歌野。見ると、彼女の身体にこそ精霊のお陰でキズはないが、表情が限界だと物語っていた。
……これ以上ここに居ても仕方がない。一旦ひなたのところへ戻ろう。
「歌野、水都、そして棗さん。遅れてすまない。動けるか?」
「私は……ごめん、肩貸してくれる?」
「任せろ、それぐらいはさせてくれ。棗さんは……」
「大丈夫だ。水都を背負うぐらい、訳ない。鍛えているからな」
ぐっ、と力瘤を見せ付ける彼女に、多大な頼もしさと、少しの恐怖を覚えた。

―――――――――――――

「あの……」
「どうした?」
棗が水都を背負い拠点である讃州中学に帰る道中、神秘を目の当たりにした水都が思わず棗に小声で尋ねた。
「あの、お守りなんですけど……何なんですか?」
「……あれは、古くから私の家に受け継がれてきたお守りだ。また、触媒とも言う」
「触媒……?」
「私にはその才能がなかったから終ぞ見えることはなかったが……私が着く直前の光、あれは水都が念じて生じたんだな?」
「は、はい。力を貸して、助けてって念じたら、暗闇から星みたいな光が……まるで、宇宙みたいに」
「そうだ、その触媒は使用者の体力と引き換えに、宇宙の力を引き出すことが出来る。……すまない、危険なものを」
「いえ、これのお陰で助かりましたから……」
やがて何かに安堵した棗は、器用にも背負った水都の頭を撫でた。
「ありがとう。……それは水都に預けておく。でも、積極的に使ってはいけないぞ。それは最終手段だ」
「……わかってます。今も、身体に力が入りませんから」
「それでいい。今は、一刻も早く休もう」
水都は返事の変わりに体重を棗の背中により掛け、棗はそれを担ぎなおすと少し速度を上げた。

自分でも不思議なほどに心地よい揺り籠に揺られながら、水都は思い出していた。
「(あの姿……いや、あのものは棗さんだったの?)」
棗が駆けつけた際に彼女が放ったバーテックスを一掃したあの光……その光の中に、微かに見えたそれ。
「(鎌とも違う、あの形……悲痛な叫びと、沢山の雷)」
水都には少しだが見えていた。彼女には才能があった。彼女は、人にして神と触れあっていた。
彼女は、その手で神秘に見えた。故に、見えていた。
「(そして恐ろしくも艶めかしい、あの――)」

――――――海の神が。




「ふーん、なるほどねぇ。あれが棗さんの“神”か」
「うちの神様たちも結構奇抜だと思ってたけどにゃあ……ネウサラさんはどう思う?」
「うん、うん……ええっ」
「“神”としての成り立ちがまるで違う?日本のものではない?」
「えー、じゃあギリシャとか北欧とか?」
「……宇宙から?」
「どうなってんの棗さん……ホントに沖縄ってバーテックスに滅ぼされたの?」
「何故って……だって宇宙から来たってなるとなんかバーテックスにも対抗できそうじゃない?ほら、あの数を瞬殺だし」
「……まぁいいか。敵じゃなく味方なんだし頼もしい限り。だね」
「大丈夫、変な気なんて起こさないよ。私が呼ばれたのは造反神を倒す為、でしょ?」
「……うん、ありがと。またね」