雪にぼその4だよ~

Last-modified: 2017-07-24 (月) 00:18:38

人を好きになるって言うのは結局その人とどれだけ互いを分け合いたいかなんだと
あの日に話していたのは何ちゃんだったかな。
丁度通っていた小学校の昼食時に、何人かで机をくっつけて、食事の合間にされる他愛の無いおしゃべりで。
その子が白いプラスチック製の箸の先端に刺さった黄色い卵焼きを上下に振りながら、自説を披露したのを今も所々覚えてる。
確かその説によれば、人間関係って言うのは知りたい・知ってほしい・合う・合わないからなるそうで
互いの価値観が合う個数が多い程それは相性がいいと仮定して。
その人間と自分がどれだけ相性がいいかを知りたくなるかで好きが決まるんだったかな。
要するにどれだけ自分や相手の深い所を、それこそ普段は知りたくない様な事や知られたくない事に至るまでを分け合って
互いに受け入れられるかを試したくなる度合いでその相手に対する本気が決まるって事。
好きを証明するには一歩間違えれば関係を破滅させる様な事まで分け合わないといけないと言うのは、いかにも子どもらしい純粋でその分乱暴な理論。
その時はあまりピンと来なくて何となく曖昧に笑って当たり障りの無い事を言った気がする。

 

あの日の謎子ちゃんの理論を不意に思い出したのは、つい今しがた。
ビニール越しに葉先や茎を子細に眺めた後に、どうやら良さそうな韮を一束選び出して棚から黄色い買い物籠に収めた時の事だった。
今私が制服姿で買い物に勤しんでいるのは、何時か夏凛と交わした約束を果たす為――と言えば大げさだけど
以前渡された合い鍵のお礼にラーメンの一食を作る約束の為だった。
事前に適当な理由で届けを出しておいたので、勇者部の活動には顔を出さずにそのまま直帰。
前日に用意しておいた分と併せて夏凛が戻る前には作り終えられる計算で。ふと思いついた食材を買い足す為に帰る足で寄ったスーパーでの買い回り中。
冷たい空気の充満した野菜棚から韮を引っ張り出した時に、不意に小学校の頃の記憶を思い出したのだった。

 

はてどうしてだろうと考えて、自分が抱いた少しの緊張と奇妙な期待に気が付いた。
それはある意味手料理を振る舞う人間としては当然の思いに似て非なる物。
これから自分はレジに並んで、料金を払って、少し暑さの残ったアスファルトの帰り道を歩き、夏凛の部屋に着くだろう。
汗をぬぐって壁の時計を見て夏凛が帰って来るまでの時間を逆算する。そうして料理に取り掛かって
準備万端整えて夏凛の帰宅を待って――勇者部の活動が長引けばいつもより少し遅くなるかもしれない。それから一緒にいただきます。
当然としてその感想を期待する訳だけど、私はおいしいと言って欲しい。
それは味や料理に対する称賛が欲しいと言うよりは、私が好きな物と夏凛が好きな物に「共通な物があればいい」と言う思い。
とても些細な物だけど。謎子ちゃんの理論で言えばお互いの価値観を探る取っ掛かりって事になるんだろう。
言ってみれば好きの始まりって奴?何それ、全然実感が湧かない。
もしそうなら、これから私は夏凛との答え合わせに勤しむ事になるんだろうか。何時かは心の奥まで見せ合って?
人より見せたくない物は持って居るつもりなんだけど。これはあの子にとって受け入れられる物だろうか。
見たら、どんな顔をして、どんな反応をするのだろう。
小学生の謎子ちゃんは行きつくところまで行った後の事を話してくれなかった。
それから何かが始まるの?終わるの?どっちにしてもせめて後味が甘ければまだしも救いがあると思う。
なんて。ばかばかしい。見せる気になっても居ないのに。

 

私はこれからレジに並んで、通いなれた部屋に行って、約束をした料理を作る。
夏凛の帰宅を待ってそれから一緒にラーメンを食べるんだろう。
最後に感想を聞く前に、いつも以上におどけていられればいいと思う。