クリスマスイベント2012

Last-modified: 2018-09-12 (水) 23:07:09

bandicam 2017-08-10 20-51-04-589.png

「異境の道」

「ふーっ」
大剣を地面に突き刺すと同時に、化け物が倒れ込んだ。
アベルの足下には、人型ではあるが、大きな角の生えた化け物が息絶えている。
「ご苦労、ご苦労」
その様子を見ていたレオンが、アベルをわざとらしく労った。
「少しはお前も戦ったらどうだ」
アベルも大げさに悪態をつくが、レオンに詫びる様子は無い。
「勝てたんだからいいじゃねえか。それに、俺に言われてもな」
レオンはやや離れた位置にいる人形に視線を向け、アベルもその視線を追う。
「それもそうだ」


「しかし……」
大袈裟に体を震わせながらレオンは言葉を続ける。
「ここは寒くてかなわねぇ。さっさと移動しようぜ」
寒い場所、暑い場所、時には僅かな距離を移動しただけで気候ががらりと変わる事もあった。そして、気候だけではなく、そこに出現する化け物達も大きく変わった。この世界には統一性というものがまるで無い。様々な世界の継ぎ接ぎ――それが、アベルの感じ取ったこの世界へのイメージだった。
以前、その漠然としたイメージをレオンに話した事があった。
「同感だ。加えて言うなら、この世界の創造主様は、少しばかり趣味が悪い」


アベル達の目の前にいる小さな人形、導き手たるこの人形は、次に行くべき場所を示す事はあっても、この世界に対する問いに答えてくれた事は無かった。
答えたくないのか、答えられないのか。どちらなのかは見極められないままだったが、結果に変わりはない。


「失われた全ての記憶を取り戻せば、貴方達は元の世界に戻る事ができるでしょう」
この世界の創造主に仕えているという、紫色の燕尾服を着た少年はそう述べていた。どうやって元の世界に戻るのか見当も付かないが、この世界にいるという事は、まだ取り戻すべき記憶があるという事だった。


アベルの手の甲に白く小さいものが乗り、すぐ透明になる。雪が降り出していた。


レジメントへ入隊して最初の冬。いつものように目を覚まし、部屋から外を眺めると、辺り一面が真っ白になっていた。初めて見る光景に息を飲んでいると、隊員の一人が雪に足跡をつけてはしゃいでいるように見えた。防寒具も着けていない軽装だった。
「一体、誰が雪なんかで……」
全てを言い終える前に、同期入隊の同居人が室内に見当たらない事に気が付いた。
防寒具を着込んで部屋を出る。同居人の防寒具を手に取る事も忘れなかった。
「レオン!朝から何やってんだ」
雪の上ではしゃいでいたのは、アベルと同期でレジメントに入り、同じ部屋の住人でもあるレオンだった。
「悪い悪い。こんなに積もったのを見るのは初めてなんでな。アベルのいたところじゃ、珍しい事でもないのか?」
「ルビオナは広い。もっと積もる所もあるが、俺のいたところは偶に降っても積もる事はなかったな」
そう言って、手に持っていたレオンの防寒具を丸めて投げ渡 す。
「気が利いてるねぇ。さすが、持つべきものは友だ」
渡された防寒具を着込んだレオンは、再び雪上に足跡をつける作業に戻ったようだった。
「朝飯に遅れても、お前の分は取っておかないからな」
呆れて自室に戻ろうとするアベルに冷たいものが当たる。雪玉だった。
「渦の中でそんなに油断したら、死んでたぜ」
レオンは笑いながらアベルに向かって次々と雪玉を投げ続けていた。
「……!!」
アベルは自室に戻る方針を変え、雪玉を作ってレオンに投げつけた。
「っっめてぇぇぇ!」
何投目かの雪玉がレオンに当たり、レオンが大声を上げる。
声につられて一人また一人と参加者が増えていき、いつしかレジメントの訓練生の多くが集まり、ちょっとした規模の雪合戦になっていた。
そして雪合戦に参加したメンバーは皆、朝食抜きにされた。


「……ベル。アベル!大丈夫か?なにボサっとしてんだ」
レオンの声で、意識を回想から今へ戻される。
「ああ、悪い」
ここはレジメントの施設でも故郷のルビオナでもなかった。一度大きく深呼吸をして身を引き締める。
「さて、次はどこへ行けばいいんだ?」
レオンが傍らにいた人形へ問う。人形はレオンを見つめ返すだけで何も答えなかったが、すぐにレオンに背を向けて歩きだした。
「だとさ」
レオンはそう言って肩を竦めると、人形の後を追った。アベルも続いた。
「―了―」