クリスマスイベント2014

Last-modified: 2018-09-08 (土) 00:44:54

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「酒とレジメントと馬鹿騒ぎ」

いつもは聖女に集められたヘラルド達で賑わう聖女の館。だが今は静寂さを見せていた。
ロビーにあるテーブルで四人の戦士が数枚のカードを持ち、息を潜めてじっと睨み合っている。
そんな雰囲気の中、戦士としては比較的『新参者』であるディノが、レオンの持つカードの中から一枚を選んだ。
「よっ……しゃああああああ!」
「あああああ!」
引いたカードと手持ちのカードを放り投げて喜ぶディノと、悔しがるレオン。
その様子を呆れたように眺めるアベルとリーズ。
「またイチ抜けかよ!こいつの運はどうなってんだ!」
「ヘっヘーん、運も実力のうちってな!」
「畜生!もうやってられん。俺は抜けるぞ」
「俺も抜けるとしよう。済まんな」
「おう、ただの暇潰しだ。気にすんな!」
「わざわざ付き合わせて悪かったな」
アベルとレオンが去っていくのを見送ると、ディノは館の窓から外の景色に目をやった。
灰色の空から雪がちらついているのが見える。
「こんな場所でも雪は降るんだな」
「ああ。だが、急に南の地方のような暑さがやって来ることもある」
じっと外の雪を眺めていたディノの脳裏に、かつての記憶が蘇る。
「なあリーズ、覚えてるか?連隊でよ、三期の連中が入隊してきた時にやった宴会」
「唐突だな」
「いま思い出したんだよ。つっても、それだけなんだけどな」
「そういえば、こんな雪の時期だったか」
「むさい連中だったけど。またあんな風に馬鹿騒ぎをやりてぇな」
ディノは以前を懐かしむように、窓の外を眺めていた。
施設の中でもとりわけ広い場所であるホールに、レジメントに所属する全員が集められていた。オペレーターもエンジニアも、施設にいる全ての人間がホールにいるため、この時ばかりは広いはずのホールが狭く見えた。
酒や食事は、普段支給されるものよりも上等だった。
「忙しい中よく集まってくれた。地上の解放という大儀のために戦う諸君らへの賞賛と労いだ。盛大にやろう」
スターリングの短い挨拶が終わるが早いか、男達は浴びるように酒を飲み始めた。
最近になって入隊してきた男達も、以前からいる隊員達に負けず劣らずの猛者だ。偶然か必然か、酒呑みも多い。
ディノもいそいそと杯を抱え、酒樽から酒を注ぐ。
「おう、お前ら飲んでるかー?」
ディノは杯を持って目に付いた隊員のところに行った。
あまり面識がない隊員達だったが、三期のメンバーであることはすぐにわかった。
「はい!」
「そりゃもう!」
「だはははは、勢いがあるな!俺様はディノってんだ。E中隊に所属してる。よろしくな」
各人が自己紹介を済ませた頃には、あちこちに人の群れができていた。ひたすら飯や酒を食らう者、隊長格の隊員と真面目に話し込む者、ディノのように年齢や入隊期を問わずに騒ぐ者もいた。
ディノは酒や飯を取りに行くついでに別の集団に出入りを繰り返し、普段はない浮かれた雰囲気を楽しんでいた。
「楽しそうだな。ここが一番うるさいんじゃないか?」
リーズとイデリハが通りかかる。杯に酒を入れて元の場所に戻る途中のように見えた。
「そう言うなって!お前らも混ざれよ!」
「そうするとしよう。イデリハ、お前は?」
「……オイは、小隊長に呼ばれてるけ」
「なんだ残念だな。気が向いたら戻ってこいよな」
「そうする……」
イデリハが去るのを見送ると、杯をテーブルに置いたリーズが席に着く。
「初めて見る顔だな」
「三期のベルンハルトとフリードリヒだ。こいつら双子なんだってよ」
「ほう、そうなのか。俺はリーズ。こいつと同じE中隊だ」
「よろしくお願いします」
「お世話になります」
ディノやリーズとそう年齢は変わらないようだったが、どこか気を張っている雰囲気があった。
「堅いねえ。もっと気を抜いたらどうだ?そんなに緊張してたら作戦まで保たねぇぞ?」
ディノは二人の様子を見て、気合を入れるような仕草をする。
「まだこちらに来たばかりですので。少しずつ慣れていこうと思います」
「あははは。さすがに一日や二日じゃ無理ですよ」
ベルンハルトとフリードリヒは一瞬だけ顔を見合わせると、それぞれに答えた。
「まだ所属中隊も決まってないんだ。あんまり急いたことは言わなくてもいいだろう」
「それもそうか。あー、でもその前に面倒な訓練があるんだよな……」
「一体どんなことを?見たこともない機器を使うという話は聞いていますが」
「えーっと、コルベットの操縦だろ、それにコードに繋いだ剣みたいな武器の取り扱いも覚えなきゃならねえしーー」
ベルンハルトに尋ねられ、ディノは自分の訓練時を思い出しながら答えていく。
「あと、アサルトライフルの射撃訓練があるな」
「おう、それだそれ。二人とも銃の経験は?」
リーズに助け船を出してもらいながらも簡単な訓練の説明を終えると、ディノは二人に聞き返した。
「ベルンハルトは猟銃を使ったことがあるよな。俺は苦手っスね」
「ああ。ですが、アサルトライフルのような大掛かりなものは経験がないです」
「ま、わからなくなったらいつでも俺様に聞いてくれよな!」
酒を一気に叩って、ディノは胸を張った。
「ほほう。作戦中にセプターの取り扱いを間違えるような人間が、随分と偉くなったものだな」
後ろにできた大きな影に、ディノはぎょっうとして振り向いた。
影の正体はミリアンだった。
「げっ!ミリアン中隊長……この間のあれは、そのー……」
「いい機会だ。三期の訓練に混じって、もう一度基礎から兵装の取り扱いを学び直してきたらどうだ?」
しどろもどろになるディノに、ミリアンは何とも言えない笑みを浮かべるとそう言い切った。
「勘弁してくれーっ!」
ミリアンの発言に、ベルンハルトとフリードリヒから笑いが漏れた。
ディノのお調子者ぶりが早くも露呈してしまった瞬間だった。
「せっかく後輩にいいとこ見せようとしたらコレだよ。ったく」
「無理して先輩面する必要もないだろうさ」
リーズからの追撃もあり、ディノは今度こそ肩を落とした。
「作戦での活躍、期待してます!」
「俺達に手本を見せて下さい!」
「だ、そうだ。ディノ、恥ずかしくない振る舞いを頼んだぞ」
「くっそー!作戦のときにピーピー泣いても、ぜってー助けてやんねーかんな!!」
楽しかったことついでに、思い出さなくてもよかった恥ずかしいことまで思い出してしまい、ディノは項垂れた。
「うーわ。俺様超ハズカシー」
「ははは。記憶が戻るときには、そういうことも往々にしてある」
「俺様、記憶が戻らないままの方がいいのかも……」
「そうでもないさ。俺達にはやることがある。だから記憶を取り戻さなければならない。それはわかるだろう?」
「いや、そりゃそうなんだけど。なんつーかよ、地上に戻らなきゃならねえっつー焦りだけがあるのが気持ち悪くて」
「いつかわかる日が来るさ。それまでは導き手に従うしかない」
「俺様、本当にこのまま聖女とやらの言うことを聞いてるだけでいいんだろうかね?」
「いま取れる最良の手段がそれだからな」
リーズの言葉にも、ディノは腑に落ちない思いのままでいた。
ある程度の記憶を取り戻しているリーズ、レジメントの隊員だったくらいのことしか覚えていないディノ。この世界での自身のあり方について、二人には多少の温度差があった。
「ま、気楽にやりますかね」
ちょうど導き手が休憩を終え、エヴァリストに連れられてロビーへ戻ってきた。
「お、お嬢ちゃん。ちゃんと休んだか?」
ディノの言葉に導き手は小さく領くと、ディノとリーズ、そし てエヴァリストの服を引っ張る。
「導き手はすぐに出発するそうだ。二人とも準備はいいか?」
エヴァリストに言われてディノとリーズは立ち上がる。旅の準備はできていた。
「ああ」
「任せとけ!」

「―了―」