ジェッド(ストーリー)

Last-modified: 2019-03-05 (火) 14:23:32

ジェッド
【正体】スラムの王。かつてアーチボルトに救われたパランタインの忘れ形見。その能力を求めるマルグリッドに狙われる。
【死因】死んではおらず、アンライトの求めに応じ召喚された。
【関連キャラ】アベル(仲間)、マルグリッド(宿敵)、ミリアン(敵)、アーチボルト(恩人)、ロッソ(敵)、パランタイン(父親)

3390年 「母」

ul_jead_r1_0.png
ジェッドは床に座り、横たわった母親の顔を見つめていた。血が床に染み入っていく。黒い血溜まりに写る顔の口元には、安堵の笑顔があった。
 
「早くするんだよ!うすのろ!」
母親の怒号にびくっとジェッドは体を震わせた。水を汲みに井戸へ行く。季節は冬だ。
昨晩のうちに汲んでおくべきだったと、ジェッドの母親は七歳の彼をひどく殴りつけた。
腫れた頭の傷の痛みは、外の寒さにさらされると少し和らいだような気がした。
一週間以上何も食べ物を口にしていなかった。ふらふらと街の水汲み場へと進む。
冬の明け方、水汲み場には誰もいなかった。目が霞んで立っていられなくなったジェッドは、水を入れた桶を置いて地べたに座り込んだ。運ぶ気力は残っていなかった。
気が遠くなった。
ジェッドは人の気配で目が覚めた。霞む目に写ったのは、亡霊のような老女だった。
「宿業だよ」
その老女はそう言いながらジェッドの額に人差し指をあてた。もし気力が残っていれば気味の悪い老女の指を払いのけていた筈だが、今のジェッドにはこの老女が本当にこの場所にいるのか、自分がどこにいるのか、夢なのか現実なのかもわからなかった。
そしてもう一度眼をつぶった。
眼を開けると、周りには誰もいなかった。ゆっくりと立ち上がって、水を入れた桶を引き摺るようにして家へと戻っていった。
力を絞り、意識を失いかけながら、倒れるように家の扉に寄り掛かって部屋に入った。
そこに母親が立っていた。水を差し出そうとしたジェッドの手から桶をひったくり、彼女はジェッドを蹴り倒した。
小さな体は力なく扉に打ち付けられる。
「遅いんだよ。ほんとうにこの役立たずののろまが!お前みたいな役立たずにあげる飯はないからね!」
口汚い罵りを受けたジェッドは、立ち上がりながら声を発した。
「ごめんなさい、おかあさん……」
顔を上げることができなかった。怒る母親の顔をどうしても見られなかった。
「なにがごめんなさいだ。ほんとに悪いと思ったら態度でしめすんだよ!」
母親は扉を開け、ジェッドの腕をつかんで外へと放り出した。
「そこで反省しな!」
そう吐き捨てられた言葉が終わると同時に、扉は閉まった。
冷たい地面に打ち付けられた顔を、ジェッドはゆっくりと上げた。寒くてたまらなかった。
扉に向かって這っていき、ノブに手を掛けて体を押しつけるが、扉は開かなかった。二度三度、と試したところで力尽きて、ジェッドは座り込んだ。
手と体の震えが止まらなくなっていた。膝を抱えて頭をさげた。
ジェッドはこんな時にいつもするように、昔を思い出していた。まだとうさんがいて、かあさんがこうなる前の。
その思い出の中で、ジェッドは二人の手に引かれて市場を歩いていた。もう父親の顔は思い出せなくなっていた。
ただ、その大きな手の感触だけは思い出すことができた。市場を飾る色とりどりの果物がとても鮮やかに感じられた。
思い出の中のとうさんは自分を抱きかかえてくれて、好きな果物を取るように仕向けてくれた。
ジェッドは大好きな赤い小さな桃を一つ選び、その手でつかんだ。かあさんととうさんが笑っている。
ジェッドは急に暖かさを感じ、そのまま横になった。
しばらくして冷たい雨が降ってきた。廃虚が連なるこのスラムに人通りはまばらだった。軒先で死んだ少年に気付く人はいなかった。
 
ジェッドは目を覚ました。部屋は暗く、まだ夜中のようだった。空腹感で目が冴えた。しかし奇妙な感覚が残っていた。
今の今まで冷たい外で眠っていたかのような感覚が身体に感じられたのだった。そして猛烈な徒労感があった。
はじめは頭の傷の痛みかと思ったが、そうではなかった。とてもジェッドには夢だと感じられなかった。それぐらい、夢は現在の間隔と地続きだった。
奇妙な感覚が残ったままだったが、起き上がって食べ物を探すために部屋をふらつきながら歩いた。ふと空の桶に躓いた。
水を汲まないと。とジェッドは思い出し、母親を起こさないように桶を掴んで扉へ向かった。
しかし徒労感から真っ直ぐ歩くことができず、ジェッドは大きな音を立てて転んでしまう。その物音に母親が目を覚ました。眠りを中断させられた怒りを全く隠さない母親が、ジェッドの傍にやってくる。
「なに騒いでいるんだ!また食べ物を盗もうとしていたね。汚い泥棒だ、こいつは」
母親は横になっているジェッドを踏みつけ、蹴り上げた。
「まったく、本当に役立たずの穀潰しめ」
意識が遠くなっていく。母親はジェッドを引き摺って扉へ向かう。ジェッドはまた、雪の降るスラムの路地に放り出された。辺りに光はなかった。
 
ジェッドはベッドで目を覚ました。外はまだ暗い。今度は自分の夢の感覚にはっきりと気が付いていた。同じ夜だった。
ずっと繰り返されているのだった。また母親に痛めつけられると思うと涙が出てきた。暗い部屋に目をやると、あの桶が目に入る。
せめて水が汲まれていればと思い、痛む感覚の残った身体を引き摺って桶の傍までいく。
桶の中は空だった。
力が抜け、桶の傍に座った。
もう一度桶を覗く。空の桶を眺めていると、別の感情が沸き起こるのをジェッドは感じた。
怒りだった。
桶が空であることの怒り。水を汲まされることの怒り。母親の暴力への怒り。
自分の周りの出来事が、すべて連鎖的に爆発するように連なっていった。
動悸が激しくなり、徒労感が身体から抜けていく。
何かをしなければ収まらない気持ちで頭がいっぱいになった。
部屋の隅のベッドで眠る母親の傍に行く。
心臓の音が彼女に聞こえるのではないかとジェッドは思った。そして、起きた彼女に振るわれる暴力の味と冷たい地面の感触を想像した。想像の痛みは焦燥感に変わり、ジェッドを突き動かした。
机の上にあった酒瓶を手に取る。そして大きく振りかぶり、母親の頭へ振り下ろした。
鈍い音がして、奇妙な音を立てながら母親は息を吐いた。
再び振り下ろす。
夢中で何度も母親の頭の上に酒瓶を落とした。やがて母親の息は止まった。
ベッドの上に黒い血溜まりができていた。
 
朝、ジェッドは窓から指す光で目を覚ました。静かな朝だった。
痛みも徒労感も無かった。空腹すら感じていなかった。
長い夜は終わったようだった。
ジェッドは立ち上がり、戸棚からパンを取り出して、ひとり食事をとった。
そしてとりあえず必要なものを部屋からかき集め、袋に入れた。
一度だけベッドの黒い染みを確認したあと、少年は家を出た。外の世界の光は眩しかったが、とても暖かく感じられた。
「─了─」

3391年 「ギルド」

J2_00.jpg
解放の日が訪れたのも束の間、生活の辛さは日に日に増していた。
家から持ち出した食料と資金は早々に底を突き、空き巣やスリで日銭を稼ぎ、稼ぎがなければ野犬と共に残飯を漁る日々が続いていた。
陽の光がいつも以上に暖かく感じられたあの日は、今や遠い昔のように感じられ、ジェッドから見た世界は再び灰色になっていた。
 
成功すれば当分は食うに困らないだけの金額が手に入る筈だった。が、考えが甘かった。抜き取る場面をはっきりと見つかってしまったのだ。
逃げるだけ逃げたが結局捕まってしまい、悪漢達に囲まれてしまった。
「汚ねぇガキだな」
「俺等の金に手を出したら無事では済まない事は、この界隈じゃ常識だ。お咎めなしじゃ、逆に俺等がナメられる」
ジェッドは虚ろな目で悪漢達のやりとりを見続けていた。この場から逃げ出す気力も体力も既に無い。
「恨むなら」「テメェの」「不甲斐なさと」「不運を」「恨むんだな」
「泥棒は」「いけない事だと」「親に」「教わらなかったのか」「坊主」
「これに」「懲りたら」「ウチを」「狙うような」「事だけは」「止めるんだ」「な」
頭、顔、胸、腹、腕、脚……。 一言毎に振り下ろされる重い一撃がジェッドの体を軋ませる。
口の中に血の味が広がり始め、意識が遠のいて行く。
以前にもあった感覚。あの時と同じような事が起きようとしているのをジェッドは感じた。
「……おい、息してねぇぞコイツ」
「少しやりすぎたか」
「どうせ孤児か何かだろう。ゴミの山と一緒に置いとけば、誰も気にとめねぇよ」
 
理由はわからない。わからないが、あの日起こった事が夢や幻でない事をジェッドは確信できた。そして、それが今も起きていた。
今度はうまくタイミングを見計らって、彼らの金を盗むことに成功した。
前回の失敗を確実に回避したのだった。
そっと路地まで行くと、チンピラどもから掠め取った金を数えた。
これでどうにかまだ生きていけるとホッとしていると、誰もいない筈の路地側から肩を掴まれた。
身構えたジェッドの目の前に、恰幅の良い男が立っている。長い黒髭と縮れた髪が目立つ異様な男だった。
「なかなかやるな。若いの」
男は逃げ出そうとするジェッドの肩をしっかりと掴んで離さない。
「まて、逃げるんじゃねぇ、お前に悪い話じゃねぇ」
ジェッドは男の迫力に観念し、逃げようとするのをやめた。
「良い子だ。最近、ショバを荒らしてる若いのがいるって聞いてな。探してたんだ」
「なに、捕まえてシメちまおうってわけじゃねえ。俺たちしがねえスリにもルールってのがある」
男はこの辺りのスリやコソ泥達を束ねる頭領だと言った。要は盗んだもの一部を上納すれば、この辺りでの活動は許してやろうという提案だった。
「……それで、ボクになんの得があるんだい」
「得ときたかい。その歳で損得勘定ができるってのは重要だ。長生きできるぜ、坊主」
あらためてジェッドの瞳を覗き込むようにして頭領は語った。
「なに、俺たちの仲間に入れば、上がりの少ないときはメシぐらいは喰わしてやるし、下手売って捕まったりすれば、ある程度までなら金も出してやる」
「俺たちの仲間には誰でも入れるって訳じゃねぇんだ。下手糞な野郎が仲間にいれば、仲間全員が損するんだからな」
ジェッドの心は決まった。
「わかった。仲間になる」
「よし、よく言った。俺はお前を一目で気に入ってたんだ、嬉しいぜ。とりあえず仲間を紹介しよう」
スラムの路地をいくつも曲がり、地下を通り、橋を渡り、複雑な道順を通って、ある家に二人は入った。中は小さな酒場になっていた。
「ここが俺たちのアジトさ。入るところを見られちゃいけねえぞ。最初は誰か仲間と一緒にここに来い」
中には自分達の他に四人の男がいて、カウンターの後ろにはバーテンらしい老人が立っていた。
「おう、新入り」「よろしくな」「外で声かけんじゃねえぞ」などと口々に声を掛けてくる。
ジェッドは初めて来た場所だったが、なぜか懐かしさを感じた。決して清潔でも明るくもない部屋だったが、暖かさがあった。
最後に頭領がバーテンの老人を紹介した。よく見ると老人は片腕が無かった。
「ここを仕切ってるフィリップじいさんだ。お前の大先輩だからな。腹が減ってたら何か頼め。クソまずいがとりあえず腹は膨れるぜ」
「なにを言うか。お前さんの腹の肉は、ほとんどこのワシのつくった飯でできとるくせに!」
ふざけた会話に思わずジェッドは吹き出した。
「ずいぶんと若いが、腕はいいのか?」
「ああ、あのめざといダービッド一家のチンピラどもから金を盗み取った。度胸も十分だ」
「そいつは剛毅だ。あのチンピラどもが悔しがってると思うとせいせいするわい」
 
ジェッドに初めて仲間ができた。半年もすると、すっかりギルドに溶け込んでいた。日々の生活は安定し、初めて楽しいと思える時間を過ごした。
ある日、ジェッドは頭領に自分の過去を話した事があった。
「父さんの事は実のところよく覚えていないんだ。母さんには優しくボクに甘い人だったと思う」
「母さんも昔は優しい人だったんだ。でも、父さんがいなくなってから変わってしまった」
「徐々につらく当たるようになってきて、食事も満足にとれない日の方が多かった」
「それでボクは母さんを……」
思い出したくもない朧気で曖昧な話を、頭領は何も言わずに聞いていた。
話を聞き終えた頭領は言った。
「お前は生きたい、そう思ったんだろ。なら正しいぜ。お前のやったことは全部な」
そう言って、泣いているジェッドの頭を胸に掻き抱いた。
 
対立する一味からアジトが襲撃され、頭領と仲間が命を落とした事をジェッドが知らされたのは、自分の家で眠っている時だった。ギルドに加わって一年近く経ち、少しずつ貯めた金で部屋を借りていたのだった。
アジトに向かおうとすると、報告に来た仲間が止める。
「やめろ、相手はダービッド一家だ。一人で行っても勝ち目はねえよ」
「勝ち目なんて知るか!」
ジェッドは仲間の手を振り解いてアジトへ向かった。
 
そして、遅れてアジトへ向かった仲間達が見たものは、折り重なった死体の上に立ち、涙を流すジェッドの姿だった。
 
「―了―」

3393年 「陽炎」

R3.png
ダービッド一家に対してたった一人で報復を果たしたジェッドは、スラム街で俄に注目される存在となっていた。
他の勢力が頭領達とダービッド一家の縄張りを手に入れるには、ジェッドは適役だった。
「最近調子がいいボウズってのは、お前さんか?」
その日もジェッドの元を訪れるゴロツキの姿があった。
「腕は良いと聞いていたが、腕っ節まであるとは知らなかった」
あれ以来、相手は変われと幾度も繰り返された内容の会話。
「どうだ、うちらの傘下に入るつもりはねぇか」
「……いやだね」
無気力な、虚空を見つめるような表情のまま、呟くようにジェッドは答えた。
袖にされ、相手から笑顔が消える。手元に置けないとなれば、下手に実力も知名度もあるジェッドは邪魔な存在でしかない。
「人が下手に出てりゃいい気になりやがって。少し痛い目にあわなきゃ、現状が理解できないようだな」
ジェッドの心は黒い虚しさでいっぱいだった。この現実世界の醜さや残酷さに対して、感情がうまく働かなくなっていた。
ただ独りでいたいだけだった。それなのに多くの者が訪れ、誘いを断ると少なからぬ数が剣を向けてきた。だがジェッドが負けることはなかった。盗賊集団や傭兵団、様々な人々の誘いを受け、そして断り続けた。
その事はダービッド一家への報復以上に、ジェッドの存在感を大きくしていった。
 
いつしか、その事にあやかろうとした者たちがジェッドの傍に集まり始めた。
ジェッドを誘い、断られ、力でねじ伏せようとするも返り討ちにあったゴロツキ達に虐げられていた者達だ。
力はあれど、それを利用して他者を支配しようとしないジェッドは、そんな弱き者達の拠り所となり始めた。
中には勝手に「ジェッド一家」を名乗る者、ジェッドを「スラムの王」と呼び、崇め始める者まで現れていた。周囲にいる人数は以前とは比べ物にならないほど増えていた。
ジェッドは「王」と呼んでくる者達を、その冷たくぼやけた視線で見つめるだけだった。
 
音の無い世界。そこが夢の中であるとジェッドは気付いていた。
夢の中でジェッドは戦場の真っ只中にいた。二つの勢力が争っている戦場だ。
片方は同じような制服と武器を携えた正規軍らしき勢力。もうひとつの勢力はバラバラの服装と武器を携えた非正規軍らしき勢力。
戦況はほぼ互角に見えるが、士気と人数が上回ってるのは後者のようだった。
両軍の兵士、剣、銃弾はジェッドの身体をすり抜け、誰もジェッドの存在に気付かない。
両軍とも旗を掲げていた。どちらも長く使われているようで、薄汚れた旗だった。その旗にはどこが見覚えがあったが、思い出すことはできなかった。
逃げ遅れた兵士を間近で見ることもできた。傷の痛みに苦悶の表情を浮かべる兵士達の姿を横目に、気の赴くまま歩き続ける。
「…………つ………」
音が無いと思っていた世界で聴こえた最初の音。今にも消え入りそうな何かの声だ。
耳を澄まし、声の方向を探る。
「や…………け……」
やはり聞こえる。空耳ではないようだった。
(こっちか)
声を出したつもりが、そうならなかった。ジェッド自身の音さえ消してしまうようだ。
自身の独り言が驚くほど頭の中で響く。
声のした方向に向かって歩き続ける。
「見つ……わ」
ややはっきりと声が聞こえだした。声の主の姿は依然見えないままだった。
ジェッドの周囲では依然、音の無い争いが続いているが、今はそれはどうでもよかった。声の主だけが気になっていた。
方向を変えずに歩き続ける。ジェッドが土を踏む音と謎の声だけが、その世界にある音だった。
そこには何かがいた。陽炎のようなものが漂っており、ジェッドにゆっくりと近づいてきた。
「…々の探……………た」
声の主は女のようだった。
「スー……………ト……………者」
目を凝らすと、声の主である陽炎はヒト型のようでもあった。
ゆっくりと、それはジェッドの元へ近付いてきた。ただ、距離が詰まっても、それの発する言葉が鮮明になる事はなかった。
聞き取る事のできないまま音量があがり、陽炎が広がってジェッドを包み込む。
激しい耳鳴りに襲われて頭を押さえるが、何の役にも立たない。それは次第に頭の割れるような頭痛へと変わっていった。
 
「……!」
跳ね上がるように起きて辺りを見渡す。居場所は紛れも無い自宅のベッドの上。もう夢の中ではなかった。
しかし、奇妙な感覚がジェッドには残っていた。現実の生々しさとは違う、別の感覚だった。
いま自分が生きている現実の方がずっと夢のように感じる。そんな気分にジェッドはしばらくなっていた。
ジェッドの目の淀みには、かすかな光が差していた。

「―了―」

3395年 「跳躍」

R4.png
ジェッドは暗い部屋の中で、膝を抱えて横になっていた。そのまま虚空を見つめながら、夢で起きたことを反芻していた。
夢を見るようになってから随分と時が経っていた。今では、あの生々しい向こう側の世界に耽溺するようになっていた。
それが、仲間を失い、自分を見失ったジェッドにとって癒しとなっていた。そこではジェッドの思うままに世界を操ることができた。
『向こう側』では様々な場所を訪れた。だが、どの世界にも常に争いがあった。ジェッドは気まぐれに敗北した側を助けてみたり、また逆に無造作に滅ぼしたりしてみた。しかし何をしたとしても、どこの世界でも人々は無残に死んでいくだけだった。その混乱に触れ、弄り回しているうちに、ジェッドの中にある種の諦観が生まれた。生も死の儚さも、いずれも世界と分けることはできないものなのだと。
 
夢への旅路を終えると、久しぶりにベッドから抜け出して食事に出掛けた。陽の光といつもの雑然としたスラムの空気を感じることで、現実の世界の感触を確かめる。
とぼとぼと歩くジェッドの元に老婆が駆け寄ってくる。彼の悄然とした姿に気が付かない程、何かを思い詰めているようだ。
「この子をあなたのお力で助けてください。私にはこの子しかいないのです。奇跡をお願いします!」
老婆の腕の中に痩せ細った赤子がいた。顔は紅くなっていて、せわしない呼吸を繰り返している。何かの病に罹っているのだろうか。
ジェッドは赤子の額に手を置いた。熱が伝わってくる。そして、この子が健やかな寝顔を見せている姿を想像した。すると赤子の顔色がジェッドが想像したのと同じように良くなり、落ち着いた呼吸をし始めた。
「ああ、ありがとうございます。ジェッド様」
夢の世界と同じだった。思ったことが形となった。
ジェッドは自分の手を見つめた。
 
『虚無の世界』と名付けた夢の世界を行き来することで、ジェッドは自分の力の本質を理解した。
どうやれば物事の原因と結果、つまり『因果』へ干渉することができるのかがわかったのだ。
物事の結果には原因がある。そしてその原因と結果の間には、可能性の数だけ異なる未来がある。それを想像によって選択するのだ。
ジェッドはこの力に絶対の自信を得た。今までのように訳もなく感情の流れによって偶発的に力を起こすのではなく、自分の意志でその力を制御できるようになった。
そして、夢へ耽溺するのをやめた。
自分のこの力を頼ってくる者がいる、ならばそれに応えよう、と考えていた。
スラムで賤民の王として生きることに迷いは無くなった。二度と仲間を失いはしない、と誓った。
 
ジェッドはスラムの賤民にとって、崇拝の対象とも言える地位にいた。
彼を胡散臭く思う人間も大勢いたが、ジェッドはそんな人間は無視した。あくまで自分を頼ってくる弱い者達のためだけに力を使った。ただ、相変わらずの泥棒家業はやめていなかった。結局、ジェッドにとってはそれしか生き方が無かったのだ。
 
そんな時だった。アベルという男と出会ったのは。スラムのチンピラとは全く違う、経験を積んだ戦士だった。スラムの外の世界にいる人間に興味を持ったのは初めてだった。
だが、二人を巻き込んだ戦いが始まった。自分を頼ってきた弱い者を彼らは虐殺した。
ジェッドは猛烈な怒りに突き動かされていた。
ジェッドの前に女が立っていた。アベルは眼鏡の男と対峙している。ジェッドが二人の戦いに気を取られているうちに、音もなく女はそこにいた。
「こんにちは、ジェッド。私はマルグリッド。はじめましてかしら?ここでは」
恭しい笑みを浮かべて女は言った。まるで道端で見知らぬ子供に優しく話し掛けるかの様な笑顔だ。
「お前がやったのか!」
ジェッドは一歩下がりながら女に問うた。女の笑顔の向こうに、はっきりとした脅威を感じた。
「ええ、手っ取り早くやらせてもらったわ。早くあなたに会いたかったから」
「ボクに何の用だ」
因果を歪めるには相手の力を利用するのが一番良いことを、ジェッドは知っている。この女が自分に何かすれば、その因果に干渉して打ちのめす。そうジェッドは考えていた。
「そうね、ちょっと力を貸して欲しいの。あなたのその力があれば、何だって可能でしょ?」
「なぜ知っている?ボクの力を」
ジェッドはその言葉に身構えた。
「説明が難しいわね。そう、簡単に言えば私もあなたと同じで、向こう側に渡れるのよ」
「向こう側?」
「可能性の世界。因果の地平の彼方。そこではなんだって起こるし、なんだって起こせるの」
「……あの奇妙な夢の世界のことか」
マルグリッドが示唆する言葉に、ジェッドは思い当たるところがあった。
「あなたはあれは夢だと思ったのね。たしかに似ているわ。あそこにはね、選ばれた者しか行けないの。私やあなたのような」
「お前の話が事実だとしたって、ボクはお前を倒す。仲間のかたきは取らせてもらう」
「面白い話ね。力比べも悪くないと思うわ」
ジェッドは傍らの石壁に手をついた。そしてこの壁が倒れてくるのを想像した。利用できる『可能性』はどこにだってある。ジェッドが身につけた力の使い方だった。
「じゃあ、とっとと死ね」
壁が崩れると同時にジェッドは飛び退いた。古い石壁は二人が立っていた場所に覆い被さるように倒れてきた。マルグリッドは微動だにせず、そこに飲み込まれた。
「ざまあみろ」
ジェッドは粉塵の舞う中でそう呟いた。マルグリッドの死を確信し、すぐにアベル達の様子を確認するために周りを見渡した。
「あら、それだけ?」
真後ろでマルグリッドの声がする。背中から衝撃を受けて前のめりに吹き飛ばされる。呻き声も上げられずに、ジェッドは地面に叩き付けられた。
ジェッドは必死で立ち上がろうと足掻いた。その目の前にマルグリッドの足が見えた。
「残念。私はここよ」
 
ジェッドは体勢を立て直そうと藻掻き、マルグリッドの足を掴もうとする。しかしその手は空を切った。
「あら、自分で立たないと駄目よ。もう大人の手を借りなくてもよい歳でしょう?」
次の瞬間、マルグリッドは別の場所に立っている。
「お前ごときに!」
ふらふらとジェッドは立ち上がる。
「さあ、もっと見せて。あなたの力を」
そう言うと、マルグリッドの傍らにあったボールのような浮遊物から光が放たれた。
ジェッドは『光を避けた未来』を選択した。ジェッドの後ろから衝撃音が響く。
「さすがね。この距離で避けるなんて」
ジェッドはナイフを抜いてマルグリッドに切り掛かった。今度は確かにマルグリッドの身体を捉えた。しかしマルグリッドに変化はない。
「幻?!」
「気付くのが遅いわ」
マルグリッドのドローンが強く光ると、マルグリッドの足下から黒く不気味な気体が吹き出してくる。
「ここからが本番よ」
その声と同時に、黒い霧の中から何か蠢くものが姿を現した。
その姿にジェッドは戦慄した。
「そんな虚仮威しにかかるか!」
怒りが恐怖を乗り越えた。ナイフを構えたまま化け物の大口に突進する。
次の瞬間、ジェッドの半身は化け物に捕らえられていた。幾重にも鋭く生えた牙がミリミリと背中と腹に食い込んでくる。
ジェッドがいくら藻掻いても化け物には何の痛痒も与えることができない。どんどんと牙の力は強くなっていく。
化け物は実体としてジェッドの前に存在していた。
「言ったでしょ。本番だ、って」
そんなマルグリッドの囁き声が聞こえたような気がした。
痛みに気が遠くなる。そして、バキンという骨の砕ける音が身体の内部から響きわった。
ジェッドは絶命した。
 
マルグリッドの足下にジェッドはしゃがみ込んでいた。
相手の足を掴みたい衝動を感じる。しかしすぐにこの相手は幻だということを思い出し、自分の足だけで体勢を立て直してマルグリッドに向かい合った。
「すばらしい。いまのが『跳躍』ね」
「……お前、わかるのか?」
時を巻き戻したときに、それに気付く者など今までいる筈もなかった。
「見せてもらったわ。すばらしい力よ。本当の力。現実を改変する力だもの」
「ならわかったろ……お前はボクには絶対に勝てないんだ」
ジェッドは口元の血を拭った。
「ふふ、そうかしらね」
マルグリッドの微笑みと余裕は、ジェッドの姿と対照的だった。
ジェッドは初めて戦いに不安を感じた。だが、こいつらから逃げる訳にはいかない。
 
「遊びははそれくらいにしたらどうだ」
マルグリッドの立つ瓦礫の麓に男が立っていた。隻腕の偉丈夫で、巨大な斧を担いでいる。
「子供とはたっぷり遊んであげないといけないものよ」
マルグリッドは冗談めかして答えた。
「その子供が例のスーパーノートか」
「そう。『跳躍』を行うことができる、ただ一人の子」
男はマルグリッドの仲間のようだ。普段ならば何も恐れることなく立ち向かうジェッドだが、この男がマルグリッドと同じように不気味な技を使うとなれば、一度、体勢を立て直す時間が必要だと考えた。
向かい合う二人に、ジェッドはナイフを素早く投げつける。確実に眉間を貫く姿を想像しながら。しかし、本当に相手を傷付けられるとまでは思っていない。奴らとの間合いを取るための陽動だった。
ナイフを投げ終わると同時に踵を返して、二人の視界から消えようとする。
「逃がさないで」
マルグリッドの命令に、男は黙って瞑目した。虚空に黒い穴が広がり、ジェッドのナイフが二本ともそこに吸い込まれていく。
そしてその黒い穴が急激に膨らむと、ジェッドの影を捉えた。ジェッドは猛烈に引き摺られるように穴に吸い込まれる。力なく吸い込まれると、再びマルグリッドと男の前に転がされた。今度は立ち上がる気力も出なかった。
「どうする?」
「殺しなさい。もっと長大な『跳躍』を呼び起こすために」
言葉を受けた隻腕の男は、斧を大きく振りかぶった。
「さあ、今度こそもっと遠くに飛んでごらんなさい」
マルグリッドは笑みを浮かべながらジェッドを見つめている。
男の斧がジェッドの首へ達しようとした刹那、二発の銃声が響いた。
マルグリッドの周りを飛ぶドローンが火花を散らし、煙を上げた。
男の斧を持つ手の甲に、銃弾が掠めた痕が残っている。男は間一髪で直撃を避けたが、そのせいでジェッドの首はつながったままだ。
「しばらく会わないうちに悪趣味になったな、ミリアン」
帽子を目深に被った無精髭の男が、銃口を向けたままそう言った。
「邪魔をさせないで。面倒になる」
マルグリッドから笑みが消える。
「馴染みの相手だ。任せてもらおう」
「坊や、少しそこで待ってなさい。邪魔者がいなくなってから続きをしましょう」
ちらちらと明滅を繰り返すマルグリッドの姿、それが、ジェッドが意識を失う前に最後の景色だった。
 
「―了―」

3395年 「声」

00.png
ジェッドはベッドの上で目を覚ました。部屋は暗く、まだ夜中のようだった。空腹感で目が冴えた。
母親は眠っているようだ。
暗い部屋に目をやると、空の水桶が見えた。
そうだ、水を汲みに行かなければならないんだ。そうしないと殺されてしまう。
もう一度母親の顔を見た。そこには、既に死んで干涸らびた遺骸があった。
 
やってくる暴漢どもをジェッドは次々とナイフで始末していった。死体が面白いように積み重なった。
しかし、怒りは晴れなかった。
最後の一人を始末しようとした時、そこにいたのは自分だった。
 
今度は沢山の兵士達が殺しあう戦場にいた。片方は反乱軍、片方は正規軍。ジェッドは意気上がる反乱軍に力を貸していた。父親がいたからだった。こちらの世界では何度も父親と言葉を交わしていた。父親に言われた通りに、己の力で戦況を動かした。
ただ、父親は自分の元には戻らなかった。母親を殺したことを悔やみ、傍にいる資格はないと言った。
「薬があるから、お前とこうして合うことも出来る。だが、この薬こそが俺を狂わせる……」
音の無い世界で、ただ父親の声だけがジェッドの耳に届いた。
 
「向こう側のこと、全部思い出した?」
女が立っていた。
「あなたは航海士として我々が作ったの。巨大な力へ接続れた意識なの」
「航海士?」
ジェッドは言葉の意味が分からなかった。
「どんなに巨大な船でも、その動きはたった一人の人間が決める。あなたは力の源にとってそういう存在よ。つまり、あなただけが未来を眺め、進路を決めることができるの」
マルグリッドと呼ばれる女は、この薄暮の世界でも形を保っている。
「ボクはもう、何もしたくない」
ジェッドは項垂れ、しゃがみ込んだ。
「そうね、あなたはよく頑張ったものね」
マルグリッドは膝をついて、ジェッドの傍に来た。その顔には優しい微笑みがあった。
「あなたがどう未来を変えようと、結局、人の心は変わらない。母親を蘇らせても、狂ってしまえば殺されてしまう。父親の野心を助けても、結局は自滅した」
「ボクは全部よかれと思ってしたんだ」
ジェッドは俯いたまま言った。
「人の心は不安定よ。あなたが世界を書き換えれば、相手の心も元のままじゃいられなくなる」
「そうさ、だからもう何もしないんだ」
「そう、いいわ。でも、これからどうするの?」
「死ぬさ。あんたに殺されてやるよ。どうせ何度も死んでいたんだ」
「全部を捨てるのね?」
マルグリッドの言葉は全てを包み込むかのように響く。
「ほっといてくれ。もう、何もかもどうでもいいんだ」
「私はあなたに何も望まないわ」
マルグリッドはジェッドの頭を抱いた。
「でも、いらないのなら、その力、全部貰うわ。『心』だけ死んで頂戴」
マルグリッドの言葉は残酷な内容とは裏腹に、優しい響きを保ったままだった。
ジェッドは目を瞑って全てを投げだそうと思った。だが最後の一瞬、何かがジェッドの中で蘇った。それは自分の為に死んだアベルや、スラムの仲間達の姿だった。
「気が変わった。力はやらない。やっぱり、お前だけは許さない」
ジェッドは顔を上げ、マルグリッドを突き放した。
 
二人は埃っぽいスラムの街角に立っていた。ジェッドの体は強烈な光を放っていたが、段々と暗くなっていった。そこには、既に息絶えた互いの仲間がいた。
「いいわ、ここで決着を付けましょう」
ジェッドの光が落ち着いた瞬間、マルグリッドは笑みを浮かべてそう言った。
ジェッドはそのマルグリッドに向かって駆け出し、幻影を無視して球体を捕まえようと手を伸ばした。
球体は予想していたかのようにふわりとジェッドの手をすり抜ける。
球体の目の前に化け物の口が出現し、ジェッドの腕を喰らわんと、口を閉じようとした。
ジェッドは『化け物の身体を突き抜けて球体を手に掴む自分の姿』を想像する。
その刹那、化け物の口が霧散し、ジェッドの手の中にマルグリッドの本体である球体が『出現』した。
「まだまだよ」
手中に収めた球体からマルグリッドの声がして、一筋の光が放たれると、ジェッドの胸を正確に貫いた。
その直後、ジェッドはマルグリッドの映像の背後に立った。
今までとは違い、頭の中で選択した瞬間に、未来が過程を飛ばして結果として現れていた。
ジェッドの中では既に直感と現実の境を無くしていた。
「この力、必ず私の物にする」
マルグリッドはいま一度、ジェッドとの距離を取った。
「私がここにいる理由、それを教えてあげるわ!」
マルグリッドの操る化け物が、今度はジェッドの足を飲み込むような形で出現した。
ジェッドは『マルグリッドの攻撃を読み切った未来』を選択した。化け物の攻撃は空振り、ジェッドはマルグリッドから離れた所に着地していた。
「次はどう」
化け物がジェッドのすぐ横の空中から現れた。
「無駄だ!」
ジェッドはまるで初めからそこにいなかったかのように掻き消え、マルグリッドの球体の傍に現れる。そして、取り出したナイフで球体を叩きつけるように切った。
火花を散らして球体は地面に落ちた。
マルグリッドの画像が大きく乱れる。
「さす…ね、でも、終わ…じゃない」
マルグリッドはジェッドに向き直ると、再び化け物を呼び出した。今度は二体三体と次々に呼び出し、ジェッドを掴んだ。
「こ…で……終…りよ」
マルグリッドの声は途切れ途切れとなっている。
「無駄さ」
ジェッドが壊れかけてひびの入った球体を踏み潰した。
ガシャリと粉々になる球体、すると、マルグリッドの映像は消えた、そして同時に、周りにいた化け物も同じように、一瞬画像を乱してから消えていった。
「なに!」
次の刹那、ジェッドの足下に潜んでいた魔物が彼を飲み込んだ。
そしてジェッドは、化け物の腹の中にいた。溶けていく身体は、まるで熱に晒されているかのような激痛を生じさせている。
だが、ジェッドは飛ばなかった。
マルグリッドと戦い、何度も殺される自分。その度に現実は吹き飛び、再び戦う。
一体自分は何をしたいのか?
生きていたいのか。あの女を殺したいのか?
それとも、死んだ仲間や友人を蘇らせたいのか?
いや、そもそもこの世界に自分はいない方が良かったのか?
どこまで戻れば、どこにいけばいいのだろうか?
望みとは、何だろうか――。
「痛い。でも、これが現実……」
諦めに似た感情がジェッドを捕らえ始めていた。無力感徒労感が感情を侵食する。
「もう、何をしても仕方ない。結局ここに辿り着くのなら……」
全てを擲ってこのまま死んでしまえば、全てが終わる。面倒な事など、全てがなくなる。
 
ジェッドは目を閉じて、死を待つことにした。
 
闇の中で声が聞こえた。
「戻りたいの」
「誰?」
「お願い」
「もう戻るのはごめんだ。静かになりたい。もう誰にも会いたくないんだ」
「じゃあ、新しい世界を作って」
「そんなことできない」
「じゃあ私が作るから、貴方が手伝って」
「どうしてもボクが必要?」
「うん」
ジェッドは声の聞こえる方に目を向けた。
そこには光があった。
 
光の奔流。
白く染め上げられる視界。音などしない筈なのに、けれども確かにジェッドは声を聞いた。
 
「目覚めよ……目覚めよ……」
 
気が付いたとき、ジェッドは灰色の地面に足を付けていた。
そこには何もなかった。そこには何かがいた。
そこには、ジェッドしかいなかった。
 
ジェッドは周囲を見回して、ここがどこなのかを確かめようとする。
モノクロームの世界だった。見覚えのある風景だが、一度として訪れたことのない世界だった。
ぐるりと見回していると、大きな石造りの館が目に入った。
ジェッドが館を視界に入れると同時に、正面にある重い扉が開く。まるでジェッドを招いているかのようだった。
「呼ばれたんだ……ボクは……」
 
「―了―」