モーガン

Last-modified: 2019-11-14 (木) 22:29:35

モーガン

3377年 「賊徒」

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「おう、お前ら。集まれ」
陽が傾き、野営の準備が大方終わった頃、集団のリーダーであるモーガンがテントの中から姿を現した。
「夜営の準備は終わったぜ」
「肉を調達してきたぜ。肉!」
「馬は休ませてきた。状態は良好だ」
各々が自らに与えられた役目について報告していく。
それを一通り聞き終えたモーガンは、右目で一瞥する。
「よし、今日は解散だ」
モーガンの号令と共に、男達は適当な場所へ散った。
早々にテントで寝る者、持ち込んだ武器の手入れをする者。 様々だ。
「何をやろうと構わねえが、明日、時間通りに起きてこねー奴はケツに弾ぶち込むからな」
彼らの背中に、モーガンは物騒な言葉を投げ付けるのだった。
 
――芽月十九日 朝――
モーガン達は山にめり込んでいる《渦》を見つめていた。
《渦》は徐々に非活性状態から半活性状態に移行している。
「姐さんの予測どおりだ」
「だな。でも、姉貴にはカラダとこれくらいしか取り柄がねえんだ。ちゃんと当ててもらわなきゃ困るぜ」
モーガンはおどけた様子で笑う。
「おいおい、ジュディス姐さんがそれを聞いたら、怪我じゃ済まされねえんじゃ?」
男の一人がモーガンの言葉に半笑いで返した。
「……チクッたらぶっ殺すぞ」
剣呑な視線が男に突き刺ささる。モーガンの右手は、既に腰に携帯している拳銃に置かれていた。
「わ、わかってるって」
「お頭、姐さんから連絡が来たぜ」
「わかった。よし、お前ら、そろそろ配置に着け」
モーガンの一声で、男達は予め決めていた場所に身を潜めた。
 
モーガン達は今日の午後にこの山道を通る隊商を狙っていた。
理由は特に無かった。強いて理由を挙げるとすれば、情報屋がこの隊商に関する情報を売ってきたということぐらいか。
それだけの理由で、モーガン達は隊商を狙っていた。
「商人どもの死体はどうする?」
「その辺に転がしとけ。どうせ夜になれば、この辺は全部渦に飲まれちまうんだからよ」
「手間が掛からなくていいな」
「ああ。災厄だなんて言われてるが、俺達にとっちゃ便利なごみ箱みてえなもんだ」
「違えねえ」
男達はゲラゲラと笑う。しかし、声こそ笑っているものの目つきは鋭く、どの目も一切笑っていなかった。
獲物の隊商がグランデレニア方面の山道からこちら側へとやって来るのが見えた。
「よし、行くぞ!」
モーガンの合図と共に男達は馬を走らせ、まずは隊商の行く手を阻んだ。
ほぼ同時に、半活性状態であった渦が活性状態へと移行する。
「おい、どうなってる!渦は非活性状態じゃなかったのか?」
「何が起きてるんだ?おい、前から来るあの連中は何だ?」
隊商の中から動揺する声が聞こえてくる。
「おら、早いモン勝ちだ!殺せ殺せ、潰しちまえ!」
モーガンの号令に男達は呼応し、歓声を上げながら隊商へ突っ込んでいった。
隊商の背後にも同様に待機していた男達が現れ、隊商の退路を塞ぐ。
山脈には《渦》が半活性状態で鎮座しており、その反対側は馬車が通る道すら無い山林。前後左右、どこにも逃げ道など無い。
 
最初の餌食となったのは、隊商内で一番大きな馬車の御者台にいたストームライダーであった。
モーガンの銃はエンジニアの技術の結晶ともいえるアサルトライフルである。元々《渦》の魔物を倒すために作られたものだ。それを魔物ではなく人間に向けた場合はどうなるか。
答えは簡単だった。ライフルの過ぎた力によって、ストームラ イダーは砕け散るようにバラバラになった。
「ちっ、楽しむ間もねえな」
砕け散った死体に舌打ちすると、モーガンは一般的なライフルに持ち替え、呆然としている別のストームライダーの腹を撃った。
痛みにのた打ち回るストームライダーに近付き、撃った腹を重点的に痛め付ける。
絶叫と共に動かなくなったストームライダーを蹴り飛ばして転がすと、ぐるりと周囲を見回して次の獲物を見定める。
だが、既にあちこちでモーガンの仲間達が隊商の面々を蹂躙していた。
獲物がいないことにガッカリしていると、一台の馬車が音を立てた。
「ひいいいいい!」
馬車の中から中年男性が悲鳴と共に転がり落ちてくる。男性の服にはべっとりと何者かの血が付着していた。
その様子にモーガンはニンマリと笑い、その笑顔のまま中年男性に近付いていく。
「た、助けてくれ!積荷は全部やる!だから命だけは!はひゃぎゃああ!」
モーガンは命乞いする中年男性の両足を、躊躇なく両断する。
中年男性はこの世のものとは思えない悲鳴を上げ、芋虫のようにのたうち回った。
「抵抗する奴もしない奴も全員だ!全員殺せ!ヒャハハハハ!」
中年男性の悲鳴に被さるように、モーガンは歓喜に笑い転げていた。
中年男性を適当に蹂躙していると、背後から仲間の声が聞こえた。
「お頭!一人あっちに逃げたぜ!」
「追い掛けろ!逃げた罪には罰が必要だ、酷い目に遭わせてやれ!」
モーガンはピクリとも動かなくなった中年男性を投げ捨てると、笑い声と共に仲間に言い放つ。
「おうよ!」
二人の仲間が馬に飛び乗り、逃げた男を追って山林へ分け入っていった。
モーガン率いるこの集団は、誰も彼もが大なり小なりの残虐性を持っている。逃げた男は捕まれば最後、彼らの玩具となるしかないだろう。
 
「何ともまあ手応えのない連中だねえ」
馬車の中から全身が返り血に塗れたジュディスが顔を出した。
手には肉の塊があり、それを紙屑でも投げ捨てるように放り出
「姉貴、中で何やってたんだよ」
「見りゃわかるだろ?ソイツで遊んでたのさ」
ジュディスは先程投げ捨てた、人間だった肉の塊を顎で指した。
「お宝を傷モンなんかにしてねえだろうな?」
設しげにジュディスを見上げたモーガンの頬を、鞭のような何かが掠めていった。
頬のすぐ傍を通り過ぎていったそれは、鞭と呼ぶにはあまりにも重すぎる音を立てながら地面へ突き刺さる。
「アタシがそんなヘマをやらかすように見えるのかい?」
「わ、悪かったよ。だからそいつを仕舞ってくれ、頼む」
「フン」
ジュディスは鼻を鳴らすと、馬車の中に残った肉塊と荷物を全て放り出した。
この肉塊が隊商の何であったかなど、モーガンは気にも留めなかった。
隊商を率いていた商人やストームライダーの全員が絶命して静かになった山道に、鋭く突き刺すような悲鳴と笑い声が響き渡った。
程なくして、満足げな表情を浮かべながら二人の仲間が戻ってきた。
馬の胴には麻縄が結わえられており、その麻縄の先には事切れた逃亡者らしき残骸が括り付けられていた。
逃亡者は引き摺られたのだろう。全身の皮膚が剥げており、絶望を通り越したような表情のまま固まっている。
「案外時間が掛かったな」
「ちょっとお楽しみが過ぎちまった。すまねえ」
「ふふ、最終的にぶっ殺せたんならそれでいいんだ。問題はねえ」
「そりゃそうだよな、はは」
満足げな仲間二人と大笑いをしていると、馬車からジュディスの声が聞こえてきた。
「お前達、撤収するよ!もうすぐ渦が活性化する!」
ジュディスの言葉を合図にモーガン達は手早く準備を整え、グランレニアへと続く山道を走り去っていったのだった。

「―了―」