暗黒塔の財宝

Last-modified: 2018-09-06 (木) 11:40:50

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「暗黒塔」

自身がいる場所は馴染みのある塔に違いなかったが、そこから見える景色は見たこともないものだった。
様々な土地を無理矢理繋ぎ合わせた、無粋なパッチワークの様だと彼女は思った。この世界に創造主というものがいるならば、その創造主の美意識は受け入れがたい、とも。
何故ここに来たのか。どうやって来たのか。どれだけ考えても答えは見つからなかった。しかし、何を為すべきなのかは、わかっていた。
いくつもの「箱」を創り続けた。彼女一人しか動く者が無かった塔は「箱」で溢れ、溢れ出た「箱」は塔の外へこぼれていった。


ある時、彼女のいる塔に客が訪れた。彼らは箱達を倒しながら、彼女のいる場所を目指しているようだった。本来であれば歓迎したいところであったが、我が子同然である箱を壊すような輩とは、友好関係を結ぶ気になれなかった。
時間の経過と共に、箱達が一つ、また一つと動かなくなっているのを感じ取っていた。


言い様のない喪失感を抱えながらも、彼女は箱を創り出す事を止めなかった。
扉の向こうにいくつかの気配を感じた。それは、彼女がこの世界に来てから初めての来客だった。


グリュンワルドはアスタロトに突き刺した剣を引き抜き、その異形の血を拭って鞘に収めた。
塔の主だった亡骸を一瞥した後、背後にいた存在に視線を移した。そこには、この世界において彼の導き手である、小柄な人形がいた。
「さあ、次はどこへ行けばいいんだ」
人形はグリュンワルドを見つめ返すだけで、何も語る事は無かった。
返答が得られない事を承知済みだったのか、グリュンワルドの気分は害されていないようだ。
「まさか、私が人形達のお守りをする事になるとはな。人生何が起こるか、わからないものだ」
今度は、やや離れた位置にいた少女にも聞こえるように、一人ごちた。 「『達』って何よ。戦う事もできないその子と、ワタシを一緒にしないでほしいわ」
グリュンワルドの言葉が腹に据えかねたのか、ドニタは足下にあった箱を彼の方に蹴り飛ばした。塔の生が創り出し、先程までグリュンワルド達に襲い掛かっていた箱だったが、今は只の大きい箱でしかなかった。並の少女では動かす事もできないであろう質量だが、ドニタもまた、人ではなかった。
飛来してきた箱をグリュンワルドは難なく避けた。が、その背 後の存在にまでは気が回らなかった。
大きな音と共にグリュンワルドが振り返ると、そこには箱の下敷きになった人形が倒れていた。
慌てて箱を退かしたが、人形はぴくりとも動かなくなっていた。


動かなくなった人形を抱きかかえ、グリュンワルドとドニタは塔の階段を下りていた。
人形はそう簡単に活動停止する事はない、ましてこの危険な世界を歩く為に創られたものなら尚更だ。ドニタはグリュンワルドへそう語ったが、彼の抱きかかえている人形は、未だに動き出す様子を見せない。
「本当に大丈夫なんだろうな」
改めてドニタに確認を求めてみたものの、その返事はつれないものだった。
「知らないわよ、そんな事」
登ってきた塔は高く、出口は遠かった。


「一旦休憩だ」
踊り場に人形を置くと、その両脇にグリュンワルドとドニタが座り込んだ。
「しばらくしても目を覚まさないようなら、貴様のパーツを使わせて貰うぞ」
「ワタシの体がこの子に使えるわけないでしょ。第一、使えたとしても渡すものですか」
言い争いが始まり、勢い、二人の顔が近づいた。二人の影が人形にかかると、動く気配すら見せていなかった人形がすっと立ち上がり、グリュンワルドの顎を強打した。
声ならぬ声を上げて、ぶつけた部分を押さえているグリュンワルドと、その様子を嬉しそうに眺めているドニタを尻目に、人形は階段を降り始めた。
人形は何段か降りた所で立ち止まり、振り返った。そして、首を傾げてグリュンワルドとドニタを交互に見つめた。早く来い、と催促しているようでもあった。
「いつから意識を取り戻していたんだと思う?」
「知らないわよ、そんな事」
振り上げた拳の下ろし先を失った二人は、ややバツが悪そうに人形の後を追った。
「―了―」