Ξ-seed◆DmsClFFZO6氏第01話

Last-modified: 2007-11-29 (木) 21:57:19

ハウンゼンは、衛星軌道を周回しながら重力の井戸の底へとその機体を降下させていった。
「……あら……」
前の方で若い少女のすっとんきょうな声があがった。
「……なんです?」
ひとつ席の空いた向こうの席から、落ち着いた、文学青年風の男が尋ねる。
と、いきなり、ドウッ!と激しい振動がハウンゼンを揺する。
「ギャーッ!」
「おおっ!」
このハウンゼンに乗り合わせた地球連邦政府の高官達の悲鳴が機内に響く。
ケネス・グレッグ大佐は、シートベルトが太股に食い込む痛みに耐えつつ、冷静に様子を確認する。
シートベルトを着用していなかったであろう女性が、天井にぶつかって落ちるのが見える。
「……ホワイト……ベース!?」
 青年が驚愕の声を上げる。

 ケネスはその声につられて窓の外を見る。視界には白い大型の艦船がすれちがったのが僅かに見えた。
「何処の馬鹿だッ!このハウンゼンにニアミスするなどッ!」
あの船の乗組員は出世は望めないな、いや、軍法裁判ものだと思いつつ、怒号を上げる。
 通過していった機体のスーパーソニック・ウェーブで、ハウンゼンが揺さぶられたのだ。
揺れが収まると、あの青年がシートベルトを外すのが見える。負傷者の救護でもするのだろうか。点数稼ぎにはもってこいだな、とケネスも追従する。
無事に負傷者の手当てが済むと、ケネスは青年に尋ねる。
「何故さっきホワイトベースと?」
「チラリと見ただけですが、そう見えたんです」
 青年はハキハキとした口調で答えた。
長年軍に馴れ親しんだケネスにとって、その口調は好意的に思える。
「しかし、よりによってホワイトベースとは…君も古い機体を知っているな。あれは君が産まれる前の物じゃないか?」
 ホワイトベース。一年戦争時に幾つもの伝説を残した機体。有名であっても余程のマニアしか分かるはずはない。
「……父が乗ってましたから……」
青年は先程の口調から一転し、うつ向きかげんに呟く。
「ホワイトベースのクルー?だとすると…君はノア大佐の?」
元ホワイトベースのクルーで、このハウンゼンに身内を乗せることが出来る人間は数少ない。いや、一人しかいない。歴戦の名艦長、ブライト・ノアだけだ。
「はい。僕はハサウェイ・ノアです。…そろそろ席に戻りませんか?」
ハサウェイは話題を切り上げたいのか自分の席に向かう。
ケネスは肩をすくめハサウェイに続いて席に向かう。
もうすぐオーストラリアに着くだろう。ケネスはその地での任務に思いを巡らせた。

……しかし、彼達は永遠にオーストラリアに着くことはなかった。彼達が着いたのは……。
続く

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