――シンは闇の中、夢想する。(仮)

Last-modified: 2016-07-03 (日) 22:25:12

――シンは闇の中、夢想する。

 

 コズミックイラ 71年

 

 戦争の音が遠いオーブに暮らすアスカ家の面々にとって、一月一日
に母親が作ってみせる『おせち料理』とやらは恐怖の的であった。少なくとも、
く離れた場所で行われている連合とザフトとの戦争よりは、余程間近に迫った
問題だった。大晦日の深夜から、普段は洋食ばかりを作っている母親は、ここぞと
ばかり滅多に手にしないような食材を取り寄せ、レシピを片手に奮戦し、そして
毎年のように敗北していた。

 

 負けたのを認めたくない母が、これが伝統の味よ、と言って元旦早朝の食卓に
それを並べるのでアスカ家の全員が止むなく食べることになる。本物を食べた
ことの無いシンと父親にとってすれば、『本物はわからないけれど間違っている
ことは分かる』料理を食わされるのは、新年早々に課せられる試練のようなもので
在った。

 

 近年は大きくなった妹のマユが作業に加わり、ある程度の改善が見られたものの、
年明けからよくわけの分からない、数々の伝統料理とやらを食わされるのは、ある
意味アスカ家の伝統行事と化していた。何故母がここまでこだわるのか、シンが
父親にみると、彼はほとんどあきらめつくした顔でこういったものだ。

 

「オーブに渡った日系移民も、三代過ぎればルーツが恋しくなるんだろうね」

 

 新年の太陽が地平線の向こうから昇り終えたぐらいの時間。母親が原色のきつい
重箱"風"容器に、妙な香りのするおせち"風"料理を盛り付けて持ってくるのを、
父子は顔を引きつらせながら見守った。

 

 今年もひどいようなら、マユが食べなくてもいいように、父とシンとで食べ
尽くそう。そう確認した決意が、段々としぼんでくるのを感じていた。

 
 

 ――シンは夢想する

 

春の湖畔

 

 週末のキャンプに一家でやって来たシンは、桟橋で父と並んで釣り糸を
滴らしていた。遠くのキャンプ場では、母と妹のマユが、バーベキューの
準備を整えている。

 

 シンは、所属する陸上部で、テトラスロン――長距離四種種目の大会に、
ミドルスクールの代表として選ばれたことを報告した。まだマユにも言って
いない事だ、家族の中で一番応援してくれた父に、先ずは一番に知らせるべき
だと思ったのだ。

 

「すごいじゃないか、努力が報われたな。……三年間練習し続けた甲斐が
あったものだ。後で母さんにも教えてあげるんだぞ……マユには?」
「うん、まだ教えてないよ。ひょっとしたらどっかで聞いてるかもしれない
けど、俺の口から言うのは、先ず父さんからにしようって思って、さ」

 

 水泳、自転車、持久走、山地踏破の四つの種目を一日でこなす。オーブで
開かれる陸上大会のうち、最も厳しいとされる競技をわざわざ選び、代表に
選抜されたシン。ずっと応援し続けた父親は、"努力"と"練習"の二つの単語
を、意識的に強調した。

 

「おまえなら、練習さえしっかりすれば勝てるだろう。道具は――新しい
バイクを買ったりしなくて良いのか?」
「いや、今の奴が使い慣れてるから、自転車も靴も、今使ってるので行こう
と思ってる。部門がCだから、油断はできないけど、優勝を狙うよ」
「そうだな、目標は高く持つに越したことは無い。でも、無理はするんじゃ
ないぞ、怪我をしたら意味がないからな」

 

 成長期のシンは、季節が変わるたびに靴やバイクを買い換える必要があった。
そんな息子を父は本当に楽しそうに応援してくれていた。シンは知らないこと
だったが、父親はシンの使っていた古い道具を殆ど、倉庫の中に大切に仕舞って
いた。

 
 

 コーディネイターとナチュラルが共に住まうオーブでは、運動分野における
ほぼ全ての公式大会で、出自によって部門を別に設定していた。シンが口に
した部門Cとは当然、コーディネーターが出場可能の意味である。

 

「大会は、見に来てくれるかな? マユのほうは、学校のイベントなんかで
応援に来るらしいんだけど」
「どんなに忙しくたって、必ず行くさ……楽しみに待っている。母さんと一緒
に、一番いい席で応援するよ。――スケジュールを合わせないとな、いったい
いつに大会があるんだい?」

 
 

「――――うん、今年の夏。――八月の初めにあるんだ」

 
 

 ――シンは夢想する

 

 冬のオーブ

 

 島国には珍しい、記録的な大雪になったせいで、陸上部の練習が早めに
切り上げられたシンは、日が昇っているうちに家に帰ることができた。
平日にはここのところ、滅多にないことだった。

 

 日中も振り続けたおかげで道路に、道路にも厚く雪が積もっているのを
踏みしめつつ、家に帰る道の途中で、シンは後方から駆け寄ってくる気配
を感じた。足音を消しているつもりなのだろうが、積もった雪が踏まれて
圧される音がはっきり聞こえた。正体が分かっているので脅かしてくる
のを待ち、精一杯驚いた振りをしてやろうと心で構えていると、小柄な影
が、シンの背中に全速力でぶち当たり、シンはバランスを取る暇もなく
顔面から雪に突っ込んだ。

 

 シンを転倒させた影――小柄な少女もまた、勢い余ってシンの横に
転げる。

 

「やっほーー、おにいちゃん!! 油断してたでしょー」
「マユ!!」

 

 シンは、妹に手加減という言葉の意味を教えてやる必要性を、ひしひし
と感じた。

 

 再び粉雪の舞い始めた家路を、兄妹二人で歩く。妹はこれでもかと言う位
にしゃべった。今日学校で起こったこと、話した事、考えたこと。どうせ家
に帰ったら、同じことを両親も揃う食卓で話すのだろうが、おかげでシンは
家に帰り着く前に、マユの今日一日を殆ど把握した。今日マユの学校は
大雪で沢山の生徒が休んで、授業が殆ど中止になり、合同で体育――全校生徒
入り乱れての雪合戦になったこと、最初から最後まで雪を丸めて
投げっぱなしで、へろへろになるまで遊んだこと。次から次へと、マユの
友達の名前が出てくるので、シンは妹の人間関係に大分詳しくなったが、
一日に起こった出来事の前後関係を掴むことは殆どできなかった。

 
 

 道の端っこに作られた雪だるまを蹴飛ばしたり、踏み固められて凍った所に足を
取られ、シンに支えられたりしながら、マユは学校で返却されたテスト用紙を見せ付けた。
殆どが満点で、「良くできました」や、「congratulation!!」の文字が躍っている。

 

「すごいでしょー、マユがクラスで一番だったんだよ、期末試験。二番目は
ね、ショウコちゃんだったの」
「――マユ、お前そのテスト、皆に自慢したりしたのか? 俺や父さん母さん
意外に見せびらかしたりしなかったか?」
「ううん、してないよ……………………私がコーディネーターだから?」
「――!!」

 

 妹の頭の回転に、シンは一瞬言葉が詰まった。

 

「お兄ちゃんは、私がテストでいい点取ったり、足が速かったりしたら――――――嫌?」
「そんなことはないよ、勿論嬉しいさ」
「――じゃあ、私がそれを自慢してたり、したら――私を嫌いになる?」
「俺がマユを嫌いになるわけ、ないだろ。たださ、あんまり自分ができるって事を
見せびらかすと、周りの人がよく思わないことが……多いんだ」

 

 シンは、「コーディネーターだから」という論法で能力を隠せだなどと言わないように
気をつけながら、妹を諭した。だが実際のところ、コーディネーターとナチュラルとの
間には能力に統計的な差があるのだ。コーディネーターがナチュラルの間で暮らすならば、
コーディネーターとして平均的であることは、かえって過ごし難くなる要素だと、シンは
考えていた。一般のコーディネーターが、順調に平均的に成長すると、ナチュラルの尺度
ではその成長過程の殆どにおいて、全ての面で"A"かそれに近い評価を得てしまうのだ。
――特別な努力を必要とすることもなく。

 
 

「だからさ、マユがいろんなことが出来るっていう事よりも、マユがいろんなことを
頑張ってる事の方が、マユの周りの皆は――俺や父さんたちじゃなくてクラスの友達なんか
は、誉めてくれたり、認めてくれたりして、嫌に思われることが少ないんだ」
「……努力するところを、人に見せるっていうこと?」
「――うん、そうだよ」
「……どうやって……どんな風に見せるの?」
「例えばさ、人が面倒くさいなって思うような勉強とか、きついなって思うような事なんか
を、そこからやっていくんだ。ちゃんと努力してるし、練習してるから出来るんだっていう
ところを、周りの人に見て貰うんだよ」

 

 オーブで暮らすコーディネーターはむしろ、偏った適性を持っていたほうが都合がいいと、
シンは思っていた。何事もそつなくこなしてしまうと周囲の反感を買う。それよりは、
大方の分野ではせいぜい平均のあたりの成績をとっておき、自分の得意な分野に全力を
集中し、そこでだけ多大な成果を挙げる。このほうが、周囲からは専門家として扱いやすい。
それがどれだけ困難な事で、生まれ持った資質に左右されるのかを、専門性と必要な労力
を隠れ蓑にして、まわりからわからなくしてしまうのだ。

 

「それって、お兄ちゃんが陸上部で毎日練習してるみたいに、頑張るっていう事なの?」
「ん? ああ、そう。例えばそんな感じ――かな」
「お兄ちゃん、そのためにテトラスロンなんか始めたの?」
「――いや、全然違うよ。俺は、走ったり泳いだりが好きだったから。学年があがると、
冬でも温水プールで泳げるんだぜ、水泳部と一緒に」

 

 シンは、このとき少しだけ嘘をついた。妹には「コーディネーターだから」という理由で
いろいろな事に制限をかけて欲しくなかった。ほんの少しだけ、プラント、という言葉が
頭をよぎる。家が、兄妹の家が近づいてきた。

 

「分かった!! それじゃあ私、学年が上がってクラブに入れるようになったら、
お兄ちゃんと同じ陸上部に入る!!」
「おいおい、こんなとこで決めちまっていいのかよ。厳しいんだぞ、練習」
「いいのいいの!! だって、お兄ちゃんと一緒に練習できるんでしょ?きっと大丈夫だよ」
「いいけど、もし本当に入部したら、一番厳しく練習させるからな、本当に、覚悟しとけよ」
「えへへ、センパイ、お手柔らかにお願いします!!」

 

 マユは自宅の門を一足先に抜けると、妹はシンに向き直り、大仰な動作でシンに頭を下げた。
お下げ髪が背中から、垂れる。自宅の庭では、こちらもまた早めに帰宅した父が、一抱え
もある雪玉を転がしていた。家の中からは、母親の作るシチューの香ばしい香りが漂ってくる。

 

 ほほに触れる雪にも、何処かしら暖かさを感じる。冬の日の事だった。

 
 

 ――シンは思い出す。
 母は、もうあの個性的な伝統料理を作ることはない。
 父が、大会で走る自分の姿を見ることは、とうとうなかった。
 妹が、自分と一緒に走る日は、来なかった。
 マユの学年があがる事はもうない。
 マユが大きくなる事はもうない。
 続くと思っていた家族の日常は、戦火の中に焼き尽くされた。
 シンの手の中に残った『家族』は、思い出と、妹の携帯電話の中だけにある。
 マユの携帯電話、自分が持ってきてしまったじゃないか、あんなに大切に
 していたのに。あれから何度マユの番号に掛けても、電話に妹が出る事は
 ――――――なかった。オノロゴ島の森の中に落としてしまってから、
 まだ見つけていないのだろう。困って泣いていないだろうか。

 

 ――シンは思い出す。 
 砕けた大地、砕けた父、砕けた母、砕けた妹

 

 ――シンは思い出す。
 焼ける大地、焼ける父、焼ける母、焼ける妹

 

 ――シンは思い出す。
 震える天空、しゃべらない父、黙ってしまった母

 

 ――シンは思い出す。
 全身を吹き払う熱風。握っても握っても冷たくなってゆく妹の手。

 

 ――シンは思い出す。
 上空で、戦い続ける、数体の影。家族が死んでしまったのに、戦いを
 やめない影、モビルスーツ――――――仇。

 

 ――シンは思い出す。

 

 ――シンは、忘れない。  

 
 

 シンは闇の中で、かつての記憶に思いをはせながら、目の前にある暗黒と
自分の呼吸にのみ、集中していた。時計を見ることすら許されない暗闇の
中で、宇宙用パイロットスーツが呼吸のために空気を循環させる音だけが、
シンの存在する証であった。

 

 どれくらい時間が経った頃だろうか、シンは突如として、視界にまぶしさを感じた。
暗闇に慣れた目に、『open a hatch』の表示が突き刺さる。シンは手探りでコンソール
を手元に引き寄せると、手袋越しに操作して、ハッチを開放させた。真空の宇宙に
浮いている練習用機体のハッチがかすかな振動と共に開き、操縦席内に残留していた
僅かな空気がハッチと機体の隙間から漏れて、コックピットの内部が真空にさらされた。

 

 開放されたハッチの外で、緑の宇宙服を来た教官が、シンに向かって
マニューバーユニットを手渡しながら、言った。

 

「おめでとう、シン=アスカ。――明日から君は赤服だ」

 
 

 二週間かけた、ザフトレッド選抜試験の最後を飾るのは、練習用の機体に乗っての
高難度機動試験――ではなく、その直後に説明もなくいきなり放り込まれる
閉鎖環境試験だった。試験空域から帰る途中で前触れもなく機体の全動力が停止し、
「ハッチを開放せずに外部の救助を待て」の指示がきっかり120秒間だけ前面
ディスプレイに表示された後、消滅。候補生は完全な暗闇の中で救助を待つ、という
状況に取り残される。パイロットスーツが空気を循環させ続けられる時間は、
予備も含めて凡そ20時間。

 

 急激な事態の変化にパニックへと陥る者、情報が不足している事への不安に
耐え切れなくなった者から、指示を待たずにハッチを開放し、「機外の致死的な
放射線に被爆」して死亡という判定を受けた。

 

 シンはシャワーを浴びてくると、試験の合格者が集まる部屋へと通された。
先に待っていたのは男女が各一人ずつ。シンの同期の候補生であるレイ=ザ=バレルと、
ルナマリア=ホークであった。椅子にもたれて疲労困憊という様子を隠そうともしない
ルナマリアと、涼しい顔をして姿勢を崩さないレイが対照的で在ったが、シンはレイの
端正な顔にも、目の下に薄く隈が出来ているのを見逃さなかった。

 
 

レイ、それにルナ、と。オレを入れて三人……残ったのはこれだけなのか?」
「今回の試験、合格者は最終試験まで残った十名のうちの三名だけだった、
俺はそう聞いている。お前が合格したのなら、そうなのだろうな」
「まったく、あんな試験だって聞いてなかったわよ。高難度機動試験だけだったら自信が
あったのに、暗いやら息苦しいやら……臭いやら。わたし、合格者の中に一人、最初から
最後まで一言もしゃべらないで、呼吸も心拍も殆ど変わらなかった人が居るって教官に
聞いたんだけれど、それってレイなの?」
「……いや、俺は待っている間中、詩を暗誦したり、鼻歌で気を紛らわせていた。
……正直に言うと暗い所は苦手でな。それはシンの事なのだろう」

 

 ルナマリアがシンのほうに向かった。

 

「すごいじゃない、あんな急な試験で冷静さを保つなんて」
「――ああ、いや、オレは機動試験で目茶苦茶疲れてたし、すぐにああ、これは
試験なんだなって分かったからさ、後は殆ど寝てたんだよ」
「意識を失った事が分かった者は、すぐに救出された筈だ――不合格者として、な。
成る程、シンは深い瞑想状態で体力の温存を測ったと、そう判断されたのだろう」
「はは、そんなもんじゃないって、レイ。オレ、寝相のよさには自信があるんだ」

 

 シンは、本当のところを軽くぼかした。死んだ家族の事を思い出していたら、いつの間にか
二十時間経っていた。――――言えるか。恐らく即座にPTSDと判断され、自分は
訓練所からセラピストのもとに逆戻りだ。

 

 シンは、それぞれが与えられた情報に違いがある事に気づいた。シンは教官から、不合格者
のうち三人は、初めの十分間のうちにハッチを空けて飛び出した、と聞いただけだ。
軍隊という組織は、同じ立場に居る兵士には同じ情報を共有することを求める筈だから、
この違いはつまり、合格者たちで話の種にしろということなのだろうな。シンはそう判断した。

 

「――その、よろしく」
「――?」
「どうしたのシン? いきなりじゃない」
「ああ、いや。ルナもレイも折角同期で一緒に残ったんだから、と思ってさ」
「――そっか、今更水くさいって感じもするけど、確かにこれからわたし達、赤服を
着るんだしね。……でも、三人が同じ場所に配属されるとは限らないわよ、最悪、
全然ばらばら、地球とプラントと月に飛ばされるかも知れないじゃない」

 

 ルナが、人手不足のザフトでは最もな予想をすると、横からレイが情報をもたらした。

 
 

「それについてだが、俺たちはこれからアーモリー・ワンで開発中の、新型
モビルスーツのテストパイロットをやるらしい……三人一緒にだ」
「え!! それって、噂のセカンドシリーズの事かよ!! 本当にオレ達みたいな新人が?」

 

 シンの疑問に肯定したレイは、ルナマリアに情報の出所を聞かれ――わたしはそんなこと、
全然聞いてないわよ、何処から聞いたの? 白状なさい!――風の噂だ、忘れてくれ、
と付け加えた。

 

「へえ、それじゃあレイの話が本当だとして、もう暫くは三人で顔を合わせる事になる
わけね、訓練所からこっち、長い付き合いになりそうだわ」
「――ほう、それは俺やシンの顔をもう見飽きた、ということか?」
「そんなわけないでしょうが、レイ。毎回思っていたんだけれど、赤服を着たら、まじめな
顔で冗談言うの、やめなさいね。本気かどうか区別が全然付かないんだから」

 

 了解した、とレイは両手を挙げた。実際のところ、シンにも時折、この冷静な
候補生が本気なのか冗談を言っているのか測りかねるところがあった。

 

「それにマラソンでは未だにシンに勝てないし、レイだって格闘訓練の借りは
忘れたわけじゃないでしょう? 配属が変わったって、服が赤くなったって、
まだまだ付き合ってもらうわよ」
「これでも元、テトラスロンの代表だぜ? そう簡単に風除けにはさせないよ」
「短距離ではわたしが完璧にぶっちぎってやったじゃない。わからないわよ」
「――射撃の分野で勝とうとは思わないのか? ルナマリア」
「人間、向き不向きっていうものがあるのよね。これで、砲戦用のモビルスーツ
を割り当てられたらと思うと、ぞっとするわ」

 

 そんな感じで、ルナマリアは一人で同期を打倒する目標に、決意を固めていた。
明日は今日の続きであると、信じて疑わない、強い意識を感じた。シンは、自分も
それを、かなりはっきりと望んでいるのを感じ、それについて少しだけ驚いた。

 

 シンにとっては今日は昨日の続きではない。この三人そろっている光景が、何時
までも見られるとは思っていなかった、日常とは重ねられた一日一日の蓄積であって、
また来る明日の約束ではないのだ。シンが、レイが、ルナマリアが、いつの日か
変わってしまって、日常が只の思い出に変わってしまうことがあるかもしれない。

 

 部屋のドアがモーターの駆動する音と共に開き、教官が部屋に入ってきた。
候補生三人は、姿勢を正し、敬礼で以って教官を迎える。

 

 新しいキャリア、新人のザフトレッドの誕生を宣言する教官の声を聞きながら、
シンはそれでも、この日常を戦火の中に焼かれはしまいと、一人決意を固めた。

 

 もしそれをなそうとする者があるならば、今度は自分が、そいつをなぎ払ってやる。

 
 

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