ⅩⅩⅨスレ483 氏_第01話

Last-modified: 2009-06-07 (日) 18:48:20
 

恐らく以下の成分が含まれる事となると思われます。ご注意ください。

 

・捏造設定多数
・トンデモ設定多数
・キラサイドが結構活躍する

 
 
 

……ギルバート・デュランダルの死亡を確認
……デスティニープランの実行を確認できず

 

………フラグの成立と認定 プログラムを実行開始
………「端末」A1からC3までを起動準備フューズに移行

 
 

かつての遺伝子研究所、人影無きコロニー・メンデル。
その最奥で、再び「彼等」が動き出そうとしていた。

 
 

………端末起動までの推定予想時間 2925時間

 
 
 

「貴様等は脳無しか? 軍が上層の命令を遵守しなくてどうする。
 私はお前らに地球軍と連携せよなどとは言っていない。」

 

あぁ、また始まった。
出撃から帰還すると二度に一度はこれだ。まったく的外れな罵詈雑言。
隣にいるシンもウンザリした表情を…していない。彼は無表情で聞き流してるようだ。

 

L2方面軍第三MS隊隊長のシン・アスカと、副官の私、ルナマリア・ホークは
いきなりの出撃命令を受けて隊を率い出撃。
海賊に襲われた商船の救助任務だ。
敵は海賊にしては結構な数が居て苦労したが、偶然にも演習中の大西洋連邦の駆逐艦が通りかかったので
救援要請を入れ護衛のMSを何機か回してもらい結果撃退に成功。死傷者も殆ど出さずに作戦を終えた。
で、帰ってきてみればこれ。命令違反はシンの…というか私達の隊の十八番だけど、
今回のはどう考えても現場の権限で可能な事だ。
その判断能力を褒められはせよ、文句言われる筋合いは無い。
もっとも此処に配属されて半年、彼がシンや私を褒めた事なんて一度も無いけど。

 

「まったく貴様等の所為で私の計画が…」
計画? また何か馬鹿なことでも考えてたのだろうか。
シンもそう思ったのか、「計画とは何です?」と聞き返す。
それに対してさっきから飽きもせずに罵倒を続けるこの上官、第三MS大隊の副指令は尊大な態度で
「貴様等には関係ない。」と答えた。
だけど、作戦内容にかかわる事なら「関係ない」では済まされない。
一人とは言えうちの隊から戦死者が出ているのだ。
「そう言う訳にはいきません。隊長級にも話せない計画でもあるんですか?
 私は方面軍の作戦会議にも出席する権限を与えられています。その私にも話せない、と?」
シンが食い下がる、それに対しその男はやや焦ったように
「貴様等には関係ないと言っただろうがッ!」と叫ぶ
これは何かあるな…そう思って私とシンが顔を見合わせると、そこに呼び出しの放送が流れた。

 

『ルドヴィック副指令。第七MS中隊が出撃待機状態のためカタパルトの使用に支障が出ています。
 早急にご対応下さい。』

 

それを聞いて副指令の顔が歪む。どうやらその放送は最悪のタイミングだったらしい。
第七MS中隊っていうとこの男の子飼いの舞台よね…
それがカタパルトの使用に支障が出るほどの前から出撃待機、か。なんかカラクリが見えて来た。
考えてみれば私達が出撃した時は整備中の機体がやたら多くて隊員の半分しか出られなかった。
で、その後やたら数が多い海賊と戦闘、例の大西洋連邦が救援要請を受けてくれなければ、
負けはしなかったにせよ結構な被害が出ていたかもしれない。

 

…多分、私達の隊が磨り減った後に、自分の子飼いの部隊がカッコ良く登場、自分の評価を上げると共に
旧議長派の人間が多い私達の隊の不甲斐なさを中央に印象付ける、と。まぁそんなところか。

 

あぁつまり私が訓練したあの子は無駄死にだった訳だ。良い子だったのに。

 

「つまり、アンタは自分の功績のために俺たちを生贄にした訳か? 
 ふざけんなッ!こっちは死人出てるんだぞ!?」
シンもどうやら同じ結論に達したらしく、そう叫ぶが、
副指令も最早開き直ったようで私たちを嘲笑うように言う。
「はッ。旧議長派が何を言う。お前らなど所詮ZAFTには要らぬ人間、私のために利用して何が悪い?
 その死んだ者だって私の為に死ねたのだ、あの世で喜んでいるだろうよ。」

 

その言葉を聞いたとき、私の中で何かが弾けた。

 

次の瞬間、シンの拳がその男の顔面に、そして私のつま先は股間に突き刺さっていた。

 
 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 
 

「と、こういうわけ。」
ルナマリア・ホークがそう話を締めくくると、彼女の周りに居た人間たちから喝采が上がる。
酒が入っている所為か無駄に騒がしい。
「で、その後どうなったんですか?」
誰かが聞くと、ルナマリアはため息を付きながら答えた。
「それがねぇ、その糞野郎は議員のボンボンで、結局私たちZAFTを辞める破目になっちゃったのよ。」
「酷い話ですねぇーホントに。」
「それで地球に下りて、傭兵とか雇われ教官とかやってる訳ですか。」
「そーなの。」
そしてルナマリアは酒盃片手に立ち上がると宣言。
「でもあんまり気にしてないけどね。だってそのお陰で皆と会えたんだから!さぁ皆!飲め!私の奢りだ!」
うぉぉぉぉ、と歓声が上がり、宴会はもう訳がわからない状態に突入した。

 

その僅か五メートル先、酒が飲めない連中がその馬鹿騒ぎを背に料理をつつきつつ談笑していた。
「アスカ教官。あれ、止めなくて良いんですか?」
「あれを止める勇気は俺にも無いぞ。ああなったルナは潰れるまで止まらない。」
若いパイロットに話を振られたシン・アスカは魚のフライを摘みながらそう答える。
「潰れるまで止まらないって、ホーク教官って隊で一番酒に強いじゃないですか。」
「きっと肝機能を強化したコーディネータなんだ、ルナは。」
冗談めかして、言う。もっとも、コーディネーターの肝臓や胃がナチュラルに比べ丈夫なのは事実だが。
ちなみにシンもそれなりに酒は強い。飲まないのはこの国の基準ではまだ彼は未成年だからである。
実はルナマリアもぎりぎり未成年なのだが、それを気にしている人間は本人含めてこの場に居ない。
「さてと、悪いが先に帰る。明日は12小隊の早朝訓練があるし。」
「ホーク教官はどうするんです。 別行動ですか?」
「ああ、ルナは明日は午後からだから大丈夫だろ。」
そして卓の上に紙幣を何枚か置く…それを奢りの意と解した連中が
すぐさま追加注文のためウェイトレスを呼んだ。
そんな光景を背に、シンは店を出ていった。

 
 

C.E.76年8月、終戦から二年。
二度の戦争を経て戦前の七割にまで人口が減った世界は、今だあちらこちらに問題を抱えていた。
元々被害をそれほど受けていない北米や、大洋州はほぼ戦前の状態まで回復し、
経済状況もそれなりになりつつある。
だが、他の地域では散発的な戦闘が起こり、何時戦争に発展するかわからない状況だった。
特に中東や中央アジアが酷い。欧州も一触即発といった状況だ。
そして今シン・アスカとルナマリア・ホークが居るアフリカでは最早惰性とは言え
未だに南北に分かれて戦争を継続している。
元々纏まりがある地域ではなかった事に加え、先の戦争で地球連合の指導力が低下したために、
予てからの民族間の不満が爆発。結果再び南北で戦争をする破目になっている。
プラントでの暴行事件でZAFTを辞めた二人は地球に下り、諸事情からそのアフリカで
傭兵として生活していたのだが、その腕が北アフリカ…アフリカ共同体軍部の目に留まり
MS隊の教官として雇われたのだ。
幸いというべきか、元ミネルバ隊のパイロット、シン・アスカと言えばパイロットの間では
それなりに知られた名であり、コーディネーターとナチュラルという問題はありつつも、
隊員からは慕われるようになっていた。
彼が居るアフリカ共同体の一都市アルジェは戦線から遠く、そもそも戦争自体も最近は小康状態なため
二人は、軍属にしては…シンにとってはそれこそあの連合のオーブ侵攻以来の平穏な生活を送っていた。
しかし…

 

「停戦交渉…ですか?」

 

酒宴の翌日、早朝訓練を終え、書類を担当部署に届けに行ったシンは、
そこで基地指令から呼び出しを受けた。
このアルジェ基地の指令は、黒檀のような肌、分厚い唇、やや縮れた黒髪という
アフリカ系黒人の典型のような容姿をした中年男で、
かつて戦車隊を率いてバルドフェルドともやりあった事があるという古強者である。
第一次ヤキン戦争での終戦間際にはストライクダガー隊の隊長だったそうで、
いちどシンも相手を請われた事があるが、中々の腕であった。
その彼がシンを呼び出して伝えたのは、南北の政府間で予備交渉が纏まりつつあり、
近々本交渉が始まり早ければ二月後には停戦する可能性があるという事である。
「…早すぎませんか? いくらなんでも二月ってのは。」
シンがそう疑問を発する。確かに片方が全面降伏したならともかく、
現在継続中の政府間の交渉期間としては異常に早い。
その問いに司令官はもっともだと頷きつつ、理由を話した。
「知ってるだろうが、この戦争は民族間の不満が爆発したのを巧く強硬派が誘導して開戦に持ってった物だ。
 だが本来民族紛争ってのはでかい国同士でやっても得る物は少ない上に犠牲ばかり出る。
 それで最近はうちも南も政府が強硬派を粛清かけてるらしくてな、大体収束に向かってる。
 で、その癖いままで戦争やってた理由ってのは、ちょうど国境線あたりにある地下資源の
 利権をめぐってだったわけだ。」
指令が言うとおり、そこまではシンも知っていた。その手の利権問題と言うのは容易には解決しない事も。
「で、政府もまだしばらくは続くだろうと考えてたらしいんだが、ここで横槍が入った。」
「横槍、ですか?」
「そう、お前さんの祖国だよ。」
「…オーブがですか?」
怪訝な表情で、問う。先日代表のカガリが「他国の争いに介入せず!」と
あらためて演説したばかりのはずだが。
それに対しため息を付きつつ、指令は椅子の背に体を預け、上を見上げる。
「そっちの祖国じゃない。空の方だ。」
それを聞いたとたんシンはウンザリとした表情になる。どうやらあの桃色女の病気が再発したらしい。
「…ラクス・クラインがまたアホな事言い出したんですか?」

 

終戦当初、彼女は各地で起こった武力衝突を強引に調停していった。
その当該国の了解を得ずに軍を派遣するのはザラで、小規模な武力集団ではラクス・クライン直下の
ドムトルーパー隊二十四機(戦後増員された)に対抗できるはずも無く、
轟音と共にMSが降って来た時点で全面降伏である。
しかも傍目には「颯爽と現れては危ない奴等を撃退する正義の味方」に見えるため
一部からの評判はすこぶる良かったりする。
本人曰く

 

「先の大戦では終戦時に私が姿を隠してしまった事が後に大きな禍根となりました。
 二度と同じ過ちは繰り返しません。やるからには徹底的にやります!」

 

との事。ちなみに今の台詞の最後に付くのは、
エクスクラメーションマークよりむしろハートマークの方がより近い。
いや、シンにも判ってはいるのだ、この台詞にも行動にも全く悪意が無い事は。
だからこそ面倒なのだが。
そんなわけで、彼女の周りの人間は今だ常に振り回されっぱなしなのである。
ある意味戦中と全く変わらない。

 

「…キラさん、ちゃんとあの女の手綱握っとけよ…」
シンが呟く。ラクス・クラインを抑えられるのは現状あの男だけである。

 

そう、ラクス・クラインとは対照的に、キラ・ヤマトは戦後半年で随分変わった。
優柔不断さはまだ残るが、戦中の不可解な言動が消えさり、軍の仕事にも積極的に関わるようになった。
アークエンジェルの操舵士であるアーノルド・ノイマンが言うには、
「まぁ十代中盤でアレだけの力もったら暴走するのも仕方ないんじゃない?
 それが成長したって事かな。」との事である。
今ではむしろラクスを抑える役に回っており、議員連中からもそれなりに信用されてるらしい。
そのキラが抑えられなかったとなると、最近鳴りを秘めていた暴走が又始まったと言う事か…
そんな事を考え難しい顔をするシンに、指令は苦笑しつつ訂正する。

 

「いや、実は今回の件の発起はラクス・クラインじゃないらしい。」
「へ? じゃあプラント政府からの正式な申し入れってことですか。」
「ああ、そうだ。何でも、パナマは不便すぎるからさっさと戦争止めて
 マスドライバー使わせろって事だそうだ。」
シンはこの答えにある程度納得する。
地球上で現在ZAFTが駐留しているのはカーペンタリアとジブラルタルの二箇所だが、
カーペンタリアはオーブのマスドライバー、カグヤを使えるから問題ない。
それに対しジブラルタルは、パナマにあるポルタ・パナマを主に使っているのだが、
少々距離がある上に南北米の打ち上げを一手に賄っている上大西洋連邦所有であり、
当然ZAFTに優先権など無いため大規模な物資の打ち上げは不可能で、大きな問題になっている。
そのためビクトリアにあるマスドライバー、ハビリスが使えれば良い具合に分散出来るのだが、
両軍の睨みあいが続く国境線近くにあるため現在は稼動していない。
「って事はいきなりMS派遣して国境線なぎ払うなんてことはせずに、
 きちんとした交渉で決まったってことですか。安心しましたよ。」
「ま、そういうことだ。南北両政府は対価としてプラントから技術提供を引き出したし、
 資源問題はこちらが譲る代わりにマスドライバーの商業利益の一部を貰い受けることで決着しそうだ。
 …本当に、長かったものだ。」
感慨深そうに、言う。先の戦争から都合三年間…いや、第一次ヤキン戦争の後も、
そして第二次戦争との間も事実上の南北対立状態であったから、
結局は戦争終結まで六年かかった事になる。
この指令の出身地が、六年前から常に前線となっている国境上の街だという事は知ってはいた。

 

「ええと、こういうのも何かおかしい気がしますが…おめでとう御座います。」
「ああ、ありがとう。これでやっと子供に故郷を見せてやる事ができると言うものだ。
 話を戻そう。で、今日君を呼んだのはだな」
プラントの横槍と聞いた時に最初は最悪ストライクフリーダムの相手でもする羽目になるかと思ったのだが、
話を聞く限りはそうではないらしい。
他に何かあるとすれば、MS隊の訓練を急ぐ必要がなくなったために…
「クビですか?」
「いや、違う。というか、君はともかくホークをクビにしたら若い連中に私が殺される。」
それは冗談なのだろうが、確かに若いパイロット達からのルナマリアの人気は凄まじいものがある。
訓練の時も、シンが教官の時とルナマリアが教官の時では熱の入りようが違うのだ。
「では何を?」
「今回、結局は両国の調停をプラントが監視するという形になる。
 式典やら何やらの時にもZAFTが出張ってくるだろうからな。
 君とホークには彼等との調整の補佐を頼みたいと中央が言ってきてな。」
「なんでまた俺達なんかに? 中央の役人の仕事でしょうに、
 この国の人間ですらない俺たちが関わる事じゃないと思うんですが。」
当たり前だが、只のMS隊の教官でしかない自分に出る幕があるとは思えない。
「まぁ上の連中は『補佐』とは言っているが、実際の所はZAFTを牽制しておきたいという所だろう。
 『こっちにはあのシン・アスカと彼が鍛えた部隊がいるんだ、貴様等の好き勝手はさせん』とな。
 ZAFTに対する牽制として君以上の適任は世界中探しても居るまい。」
確かにプラントは国防に置いてMSが占める役割が非常に大きいため、
優れたパイロットは過剰に評価される傾向がある。
特に、デスティニー計画の旗機とも言えるデスティニーを駆ったシン・アスカの知名度は、
MSパイロットとしてはZAFT全体でも五指に入っていただろう。
それはZAFTからすればそれは意識するに足る存在になりえる。
「そういうことですか。もちろん引き受けますが…ただ、知っての通り俺は旧議長派ですから、
 連中の出方次第では めんどくさい事になるかもしれません。」
「そこら辺は何とかしてもらうしかないな。
 向こうさんも事を荒立たせたくは無いだろうから大丈夫だろうとは思う。
 そもそも上もそこら辺の事情は知ってる筈だ。
 むしろ反主流であった君を使うのもプラントに対する牽制の一つだろう。」
「…連中も自分の功績になる事を態々ぶち壊すような事はしないでしょうしね。
 使節団のリーダーは決まってるんですか?」
「まだだ。そもそもこっちの両政府間の調整が済んでない。決まるのは直前になるだろう。」
恐らくプラント代表として議員の誰かが使節団を率いてくる事になるだろう。
中立派のエルスマン議員あたりだと楽なのだが。
「と言うわけでだな、来週から教官職を離れ、カイロの軍本部に出向してもらいたい。
 詳細は後に書面で知らせる。」
「了解。ルナにも伝えておきます。」
シンは一礼し、司令官執務室を去る。今週中に訓練をひと段落付けさせるためにも
先ほど提出したばかりの計画表を訂正しなければならないのだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「…ふぅん。じゃ、あたし達はお偉いさんに混じって色々やんなきゃいけないわけだ。」
「そういう事になった。憂鬱だけど仕方ないな…」
既に夕刻、二人はシンの自室で仕事中である。
といってもルナマリアが担当している分は既にほぼ終わっている。
意外な事に、彼女はこの手の書類仕事は結構得意だったりする。
逆にシンは、苦手ではないにしろ早いとはいえない部類なので、まだ半分近くのこっているが、
実は既にかなりの量をルナマリアに回しているので、
これ以上回すとカッコがつかないと彼女に助けを求める事はしない。
ルナマリアもそれが分かっているのか、シンに仕事を回すようには言わなかった。
シンはキーボードに走らせる手を止めずに、来週以後の事を相談し始める。
「シンは誰辺りが来ると思う? 流石にラクスが直々ってことは無いだろうし、
 マクスウェル議員あたりかな。」
「無難にそのあたりだろ。それより問題は随伴部隊の方だ、旧議長派の部隊が来れるとも思えないし、
 かといって 前にアフリカを占領してたバルドフェルド系ってのも無いだろ。
 無派閥とか中立派だったら良いんだけど、ラクス派だと結構面倒な事になるかもしれない。」
もっとも、シンが言った「ラクス派」というのも曖昧な派閥で、
実体は戦後ラクスに擦り寄った反旧議長派の生き残りが殆どだったりする。

 

そもそも戦中からラクス・クラインに組していた者は三隻同盟関係者とファクトリーくらいなもので、
実質的にZAFT上層を支配してはいるが、派閥と言うものとは微妙に違う。
そのため実際の所、「ラクス派」というのは旧議長派を扱下ろして
自分が旧議長には賛成していなかったと主張したいだけの集まりに近い。
そのため「真のラクス派」とでも言うべき部隊はバルドフェルド系の幾つかの部隊と
キラ・ヤマト指揮下の遊撃隊だけだったりする。
この二種の部隊であれば態々旧議長派に文句を言ってくる事も無く、ある意味楽ではあるのだが、
常に彼方此方に飛び回り、争乱の火種を消して回る遊撃隊がこの手の行事に出張って来る事はまず無い。
そしてシンが言うとおり、かつて北アフリカ占領していたバルドフェルド系の部隊が来るというのも
考えづらい。
となるとそれ以外の部隊、とりわけ「名ばかりのラクス派」が出てくる可能性が大きくなる。
「まあ実際の所、俺たちはMS隊の指揮官として警護につくZAFTとの擦り合わせが主で、
 後は対外向けに立ってるだけに近いだろうから、大した事は起こらないと思うんだけどな。」
「となると、問題はそれ以外よね…。式典を狙ってテロが起こる可能性はあると思う?」
「ありえる。相手国云々よりむしろZAFTに一泡吹かせられるチャンスだし。
 国内よりも外からそういう連中が集まってくるかもしれない。」

 

プラントを憎む者は数多い。ブルーコスモスは縮小傾向にあるが、
それでもエイプリルフール・クライシスからレクイエムの照射まで
プラントの所為で故郷を焼かれ、親しいものを失った人間は億単位でいるのだ。
シンも、プラントに対してではないが、オーブに対して似たような感情を抱いていたので
そういう気持ちは理解できるし、そういう者たちがテロを起こす理由も分かる。
それどころか戦後処理のやり方次第では自分もテロリストの一員になっていた可能性すらあると考えていた。
もっとも実際は、不思議な事に強硬派(と言うのも語弊があるが)のラクスと
それを何とか押さえ込もうとする議員たちのバランスが取れているので、
今のところプラントの対外的な戦後処理は見た目上手くいっているのだが。
「ま、何にしても頭が痛い話だよ。アフリカに来てまでプラントとかかわる事になるとは思わなかった。」

 

ところが、問題の一つ、ZAFTから派遣される部隊については早々に解決した。
とんとん拍子で調整は進み、一ヶ月が過ぎる頃には一般にも停戦が知らされ、
前線での銃声も止まっている。
調停式の日取りも決まり、会場の直接の警備に携わるMS隊の編成が始まった。
そして式典二週間前にカイロの軍本部で引き合わされたZAFT側のMS隊隊長というのが
二人の知り合いだったのである。

 

「リーカ? リーカ・シェーダか!?」
ルナマリア以上のプロポーション、カールを巻いた髪、
なによりコーディネーターとしては極めて珍しい眼鏡をかけた女性。
ガイアの元テストパイロットであり、シンもセカンドシリーズのパイロット候補として選ばれた時に
散々お世話になった。
そのどこかのほほんとした顔を微笑ませ、リーカはシン達に再会の挨拶をする。
「久しぶりねぇ。北アフリカ側のMS隊指揮官が元ZAFTパイロットだというのは知らされていたけど、
 まさかあなた達だとは思わなかったわ。」
「うわぁ~懐かしいな、終戦の時以来か? だとするとまるまる2年ぶりか。」
「お久しぶりです、リーカさん。…何というか、お変わりありませんね。」
「ふふふ、あなたは随分変わったみたいだけどね、ルナマリア。
 少し髪も伸ばした様だし、随分と大人っぽくなった。」
「ははは…そうですか?」
そんな和気藹々とした会話を始めるシン達を見て、傍にいた担当の士官達は呆れている。
逆にリーカの部下であるZAFT側のパイロットは、最早隊長の性格に慣れているのか苦笑しているのが殆どだ。
「あ~、シン・アスカ、ルナマリア・ホーク。
 旧交を温めるのも結構だが、君達の役目を忘れていないかね?」
担当仕官のいささか憮然とした声に、二人は慌てて姿勢を正す。
「申し訳ありません。…北アフリカ側の警備MS部隊の現地での指揮補佐を担当する、シン・アスカです。」
「同じく、ルナマリア・ホークです。」
それに対しリーカも姿勢を正す。

 

「ZAFT、南北アフリカ間停戦調停監視団随伴部隊MS隊のリーカ・シェーダです。
 よろしくお願いしますね、二人とも。」

 
 

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