◆BiueBUQBNg氏_GジェネDS Appendix・序_05

Last-modified: 2014-03-10 (月) 16:16:58
 

 /16th scene

 

「今回の任務はあくまでも偵察だ。『マハー・カーラー』から何らかの攻撃があった場合は撤退する。いいな、深追いは禁物だ」

 

 中隊長の声がコックピットに響く。

 

「「「了解!」」」

 

 同時に返答する声が続けて聞こえた。無論、コウ自身の声も含まれている。

 

「ウラキ大尉!酒が抜け切ってない上にあんだけの大暴れをしでかした後だ。お前は特に気をつけろよ!」
「了解です。ライデン中佐」

 

 別に、悪気があって言ってるわけじゃないよな。そう思った矢先に

 

「間違ってもあのロリコンのほうの赤見たいなスタンドプレーは許さん!絶対にだ!」

 

 鋭さを増した声で叱咤とも罵倒ともつかない台詞が飛んでくる。

 

「ですから自分はロリコンでもシスコンでもないと何度も言ってるじゃないですか!」

 

 言い返した直後、機体が僅かに左側に傾くのを感じた。左後方の機体が百式の左肩に右手をかけたのだ。

 

「大目に見てやって下さいよ小隊長。アクシズの一件以来、中隊長は今まで以上にシャア大佐が嫌になったんです。只でさえ赤が被るってのに、叛乱を起こしたんですからね。お陰で大佐と同じ性癖すら、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いって奴で……」

 

「ワイズマン准尉、よもや卿までが私をロリコンだと……」
「私語は慎め、もうまもなく散開座標だぞ」

 

 ライデン機からの割り込みを機に無線を切る。散開時に中隊長機がミノフスキー粒子を戦闘濃度まで散布するので、つけていても意味が無いのだ。幸い、着信もそれきりつくことは無かった。口調の乱れをこれ以上拡散させないで済んだ。中隊長もショックの余り錯乱したのに気付いてくれたらしい。
 全く、こんな状況でもなかったら思う存分写真を撮りまくっている所なのだが。コウは左後方を振り返った。
 経験豊富で機転も利くが、いまいち性格が不器用な憎めない男、バーナード・ワイズマン。一年戦争後期に学徒動員でジオン宇宙軍に入隊してパイロットになる。どうした因果か、連邦の女パイロットと恋仲になって二人で脱走し、戦後共にアクシズに身を投じた。その彼が乗っている機体は、ハマーンの第一次ネオ・ジオン崩壊後没収されたザクⅢ改であった。
 ジオン共和国軍の軍制ではモビルスーツ4機で一個小隊とする。彼の指揮下にあるもう2機は、ネオ・ジオンに引き続いて共和国軍に制式採用された、ザクⅡの衣鉢を継ぐ名機ギラ・ドーガだ。とはいえ数が揃わない為、Rジャジャ、ドライセン、量産型バウ、ガブスレイ、メタス等等の雑多な機体によって員数を合わせているというのが実情だ。今偵察行動においては4個小隊がライデン中佐の指揮下に組み入られているが、その中には何とジェガンのみで構成された小隊もある位だ。コウのようなモビルスーツマニアには垂涎のシチュエーションといえよう。
 外から見る分には理想的な状況なのに、まさか自分自身がその一員だとは。コウは何となく納得できないものを感じていた。リリー・マルレーンに着艦したあたりから歯車がズレたか…。そう思って数十秒後、散開座標に到達した。無線を開いて予定通り散開行動を行うよう指示し,すぐスイッチを切る。所々が不気味に発光する巨大な黒い塊へと、単機接近していく。久しぶりの戦闘行動だ。

 
 

 /17th scene

 

 リリー・マルレーンといっても、一年戦争時のコロニーへの毒ガス攻撃や『星の屑』作戦で名を馳せたザンジバル級ではない。旧リリー・マルレーンは老朽化が激しいため解体され、現在シーマが座乗しているのは、艤装が開戦に間に合わず放棄されていたのを戦後サイド3で完成させたレウルーラ級の一艦である。コウとトリエを送った後、ガトー・シーマ・マツナガ、それにミネバは一目散にポートへと向かったが、折り悪く出撃可能体勢にあったのがリリー・マルレーンのみであったのだ。資金不足が理由である。
シーマの好戦的な性格が幸いしたといえよう。彼女は乗艦の戦闘能力を確保するために最大限の努力を払っていたのだ。サイド3の各コロニーのポートで発進を待つ各艦艇・モビルスーツのレーダー上では、現在このリリー・マルレーンはザビ家の家紋で表現されている。
総司令官ミネバ・ザビの座乗を示しているわけだ。

 

「心配かい?」

 

 シーマは心細げに『マハー・カーラー』のある方向を見つめるトリエに声をかけた。トリエが頷く。仕事でモビルスーツに乗っていたコウとは違い、トリエにはニタ研でのシミュレーションを別とすれば長いブランクがある。そのため着艦後すぐ、発艦前に凍結を解除され運び込まれたトライアに騎乗して短い慣熟飛行を行ったのだ。彼女の操縦はブランクを感じさせなかった。着艦後即座にブリッジに向かい、ジオン式パイロットスーツを着たまま窓の外を見つめている。

 

「……ン……」
「それにしてもガトーの野郎、趣味の悪い冗談を吐いちまったねぇ。気にするこたないんだよ、あんな奴」

 

 トリエが床に視線を落とす。不愉快に思ったのではなく、コウが腹を立てていたことを思い出したのだ。

 
 

 リリー・マルレーンに着艦し、ハッチを開けると、早くも仰々しい格好に着替えたガトーが白紙を手にタラップを上がってきた。労をねぎらうでもなく開口一番、逮捕礼状でもあるかのように白紙を構えつつ

 

「コウ・ウラキ、飲酒運転、窃盗、銃刀法違反、傷害罪で逮捕する。なおお前には黙秘権が有り……」

 

 話している途中、フロントシートに座ったトリエの格好が目に入った途端眉をしかめ、

 

「……それに児童福祉法違反、強制猥褻罪も付く。懲役10年は堅いな」

 

 と付け加えた。
 数ヶ月間土に埋まっていたわりには、百式改の不具合は少なく、その後僅かなメンテナンスで即座に偵察部隊に編入された。数少ない例外の一つが冷暖房である。どうした不具合か、後ですぐに解決されたのだが、コックピット内の気温が35度にまで達していたのだ。そのためコウは上半身裸、トリエも羽織ったワイシャツを脱ぎ捨て、スポーツブラにスパッツという格好だった。ガトーの方ではコウの良心の呵責を和らげるための軽い冗談の積もりだったが、コウは予想以上にロリコンだのシスコンだのと呼ばれる事にムカついていた。

 

「帰る」

 

 ハッチが閉じる。

 

「おい待て!この程度の冗談に大人気ないぞ!!」
「……駄目な男供だねぇ……」

 

 シーマが外野から突っ込む。

 

「ハマーンもよくシャアを駄目な男だといっていたぞ。だがいなくては困るとも。あの二人もそうなのか、マツナガ?」

 

 ミネバが尋ねる。

 

「全く以って、頼りになる、愛すべき男達ですよ」

 

 ハッチをこじ開けようとするガトーを見ながら、マツナガは応えた。

 
 

 /18th scene

 

 ガトーの怪力によってハッチが開きかかり、このままではフレームが歪みかねないと判断したコウは素直に扉を開けた。不意打ちを食らったガトーは派手に転んだが、即座に立ち上がり、何事も無かったかのように

 

「では、ブリーフィングを始めましょう」

 

 とマツナガに向かっていき、言った。マツナガも、一連の出来事を見なかったような冷静極まりない態度でうむ、と応えた。全員が一列になって会議室へと歩き出す。軍人は歩くのが速い。ミネバは既に家庭教師の待つ部屋へと送られている。トリエルだけが、男達の集団から取り残されて小走りで追う形になった。
コウもコックピットの中で自分で脱いだジャケット、シャツ、それにトリエの脱ぎ捨てたワイシャツを脇に挟んでその中に混じっていたが、トリエがいないのに気付き、振り向いた。流石にこの格好ではまずいと思い、ジャケットをトリエに羽織らせる。

 

「すいません、更衣室どこですか?」

 

 前の方に声をかけた。

 

「二つ目の交差点を左だ。真っ直ぐ進むと、『士官用更衣室』と書いてあるドアが見える」

 

 とガトー。

 

「この艦には制服のスペアも用意してある。連れてってやるよ」

 

 とシーマ。
 シーマを先頭に3人並んで歩く。トリエは相変わらずパタパタと小走りで、追いつくのがやっと、という風に見える。
それでも先導するシーマは遅めに歩いている方だ。制服が置いてある酒保に近づいてペースを遅くする。ふと後を見遣ると、一番後ろにいるトリエが上半身裸のコウを凝視していた。左手でジャケットの前を合わせ、右手は口元においている。
目を細め口元を緩めた如何にも幸せそうな表情で、袖口の匂いを嗅いでいる。

 

(……どうやらこの娘の方が色々と重症らしいね……それに気付かずズンズン一人で先行くなんて、どんだけ鈍感な男なんだい。健気なのに気の毒な娘だねぇ……)

 

 シーマは、むしょうに靴でウラキの頭を引っ叩きたくなっていた。

 
 

 /19th scene

 

 着替えを済ませてから会議室に向かう。おろしたての制服のぎこちなさ以上に、ジオンの制服を着ている、という事実にコウは違和感を感じる。会議室の中にはマツナガ、ガトー、それにリリー・マルレーン艦載モビルスーツ隊隊長のジョニー・ライデンが上座に座り、その他に小隊長クラスの将校など、計20人程がいた。マツナガの隣に坐っている秘書官らしい男がコウの目の前まで歩いてきて、告げる。

 

「元地球連邦軍中尉、コウ・ウラキ。非常事態を以って、臨時にジオン共和国軍大尉の階級を与える」

 

 階級章を渡された。マツナガとガトーが重々しく首を縦に振るのが見える。敬礼を返す。

 

「では、揃ったところで状況の分析を始めよう。まず、分かっている範囲を全て説明してもらいたい」

 

 マツナガが口を開く。クラシックなジオン式の軍装の男が立ち上がり、モニターの前に立つ。部屋が暗くなった。

 

「……昨日の2334、第二警備艦隊が正体不明の小惑星の存在を感知しました。周知の通り、これは極めて異例な事態であるため、当該艦隊は警戒レベルCを打電し、その後対象への探査行動に入りました。
 日付変わって本日の0107、襲撃を受けたため戦闘行動に入ると通告。0153、艦隊を構成する全艦艇・モビルスーツからの信号が途絶しました。その間に本部へと送信された画像は以下が全てです」

 

 ざわ、と暗い会議室にどよめきが走る。スクリーンに続けて映し出されたのは、まず歪な卵のような形をした真っ黒な小惑星。その存在そのものではなく、周囲を取り囲む星の光を覆い隠す闇として、見るものを不安にさせる。次に見せられた写真では、所々に点のような光が写っている。3枚目、楕円形の小惑星の中心から少し右下に離れたあたりに、局所的に強い光を放っている部分がある。4枚目には小惑星から集中砲火を浴びてスペースデブリと化しつつある艦艇とモビルスーツ。型式は分からないが、小惑星から発進とおぼしきモビルスーツらしい影も見える。
 重々しい雰囲気を打ち破ってマツナガが口を開いた。

 

「この写真と交信記録を分析した結果、対象は約3宇宙キロ、つまり標準的な火砲の射程距離内に入った人工物に対し、無差別に攻撃を与えることが分かった。それだけならば放置しておいても何の問題も無いが、現在対象はこのサイド3を通過する軌道をとっている。計算によると5日後にはサイド3に到達する。そうなればコロニーや資源衛星との衝突、そこまではいかないとしても強大な重力場によって位置関係が狂った結果月への落下や互いの衝突や空域からの離脱の発生など、いずれにしても甚大な被害が予想される。
 なお、現時点を以って対象を敵と認定し、以後マハー・カーラーと呼称する」

 

 空気が一層沈鬱となった。

 
 

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