『てええぇーーーい――!』(仮)

Last-modified: 2017-09-30 (土) 19:50:05

『てええぇーーーい――!』

 

 ルナマリアの気合と共にザクが大太刀を振るった。脚部を狙って繰り出した斬撃はガイアの
反応によって狙いを外されて先端が胴体に直撃――いや、ガイアはむしろ積極的に後方に飛び退り
対艦刀が当たった衝撃を借りてプラントの外壁をぶち破った。PSダウンを起こして灰色の毛並みに
戻った狼が、真空の夜闇に吸い込まれる。

 

『――しまった!』

 

 追い詰める積もりが外に出してしまう。直後にカオスもまた機体の肩から突撃して宇宙に飛び出す。
機体が飛び出した穴へビームライフルを二発撃ちこんだザクの操縦席で、レイはシンの声を聞いた。

 

『待ちやがれ! ――プラントの中を目茶苦茶にして、壁に穴まで開けて、逃がすと思ってんのかよ。
レイ、ルナ、追うぞ!』
「待てシン、ルナマリアのソードで宇宙戦は危険だ。深追いは止せ」

 

 血気に逸るシンを説得しようとしたとき、ザクの脚部がプラント全体を震わす震動を検知した。

 

『――レイ! この震動は何なの――?』
「外部からの攻撃だ、恐らく港が襲撃されている――外に母艦が居るということだ。
シン! こいつらを追っている場合じゃない、ミネルバの護衛に戻るぞ」
『何言ってるんだよ、外にも敵が居るって事だろ! 合流されたら逃げられる。
ここまでされて、黙って見てられるかよ!』

 

 それだけ言うとシンはインパルスを加速させて、漏れ出る空気と一緒に宇宙へ飛び出してしまった。
レイが一瞬、シンに優越する公的権限に任せて制止しようとした隙の事だ。

 

「――仕方ない、俺はシンを追う。ルナマリアはミネルバの直衛に当たってくれ」

 

 了解の通信を返す赤いザクを後に、レイのスラッシュザクファントムは穴を潜って真空へと飛び出した。

 

「――! 何だ? この感覚は?」

 

 首筋に寒気のような違和感を覚えた、心がざわつく。激しく脈動する心臓を深呼吸でなだめ、
レイはインパルスに通信を繋いだ。ザクの背後でコロニーの外壁が自動修復され、穴が閉ざされる。

 
 

「シン、一体単機でどうする積もりだ? カオスが戦闘力を失っていなかったら、敵が伏兵を
用意していたら、お前は死ぬんだぞ!」
『それを確かめるためにも、追いかけなくちゃあいけない、そうだろレイ?
それに――レイが来てくれたじゃないか』

 

 そうじゃない、より危険を回避する選択肢を取れと言っているんだ――という言葉を飲み込む。
首筋に指すような感覚――モニターを見る、違和感、さまざまな可能性が脳裏をよぎる。
 動かない敵機――インパルスが接近してもビームライフルを放とうとしない、余力が無いのか
余裕があるのか? レイの理性が伏兵の存在を――いや違う、この危機感は理屈ではない。
もっと深く本能的な部分から――意識する間も無く叫んでいた。

 

「シン! 下だ!」

 

 それはぎりぎりの反応だった、身じろぎしたインパルスを掠る五本のビーム、そして目視困難な速度で
インパルスとカオスとの間を通り抜ける赤紫の――

 

「モビルアーマーだと――?」

 

 流線型のフォルムを持つそのMAは即座に反転、レイの意識を再び刺す様な危機感が包んだ。
虚空から自分の機体に向かって殺気の線が伸びている、五つの筋が感覚に捉えられて射線が無意識のうちに
予測される。MAの凶悪な加速力――迫る攻撃。

 

「――何だこれは! ――クッ!」

 

 自分に向かって伸びてくる殺意が分かったからと言って、その全てが回避できるわけではない。
MAは巧妙で辛辣だった。本体と四つの機動兵装バレルから迸る五つのビームを時間差を掛けて斉射し、
多角攻撃に翻弄されるレイの回避行動を追い込んで行く。
 そして遂にレイは感覚した、コックピットを狙う必殺の一撃。スラスターによる機動ではもはや
回避が出来ない、ザクに手足を大きく振らせて向きを変え、肩のアーマーにビームを直撃させる。

 

『――レイ! 大丈夫か!?』
「構うな! これが伏兵だが――何かおかしい」

 

 シンと共にビームライフルを放つが、MAは軽やかな機動で射線を回避していく。そしてビームの火線が
途切れた瞬間に再び反転、バレルを本体の周囲に散らす。

 

「――来るぞ! 注意しろ!」

 
 

 レイの感覚に再び捉えられる直線的な殺意の流れ、MAは今度は五条のビームをインパルスとザクの
二機に分散させて連続で斉射する。ザクに3、インパルスに2。
 レイは舌を巻いた。まるで完全なチームワークを持つ五機のMAを同時に相手取っている様に感じる程、
赤紫のMAが放つ攻撃には隙が無い。そしてザフトレッド二人がたった一機のMAに手間取っている隙に、
カオスとガイアは遠ざかっていく。それをモニターの端に捕らえたシンが叫ぶ。

 

『あいつら――! レイ! カオスとガイアが逃げる!』
「追うな、シン! 隙を見せれば俺たちがこのMAに食われる! それよりも敵のエネルギーを測れ、
これだけ撃ち続けてバッテリーが保つ筈が無い、直にこの敵も下がり始める!」

 

 母艦の方へ退避して行く二機を追う余裕は無かった。MAの攻撃方法は加速力を利用した一撃離脱と
決して奇抜なものでは無かったが、その射撃能力と何より手数が違った。一度の接近で五つの砲門から
二連三連と、嵐の如きビームを放ってくる。

 

「ポッドからの射撃で必死になるな、一撃でこちらを落とせるほどには威力は高くない。それよりも
本体のビーム砲に気をつけろ、それ以外は牽制に過ぎない!」
『分かった――!』

 

 反転、再接近してくるMAを見据える。そして周囲にばらける機動兵装バレル。
 レイはあることを確かめる気で居た、先程から明らかに自分はポッドから放出される殺気のようなものを
感じ取り、操縦席のアラートよりもその感覚を信用して回避している。
 もし本当に自分が機械の銃口から出てくる人の殺意や敵意といった物を感じているのなら――

 

「――やってみるさ、幻覚だったとしても、な」

 

 脳裏に走る危機感をレイは全面的に信用する気になった、その瞬間から自分の理性の分野にまで感覚は
侵入して、それまで危機感として感じていたあいまいな殺意が、可視化寸前の感覚として"観えた"。
 宙を走り回る五条の直線一本一本を感じる、いまだ宇宙スケールの遠距離にいるMAとそのポッドは
カメラのズームでも捕らえきれないが、レイはその敵意の先に一体のポッドを知覚した。

 

「――其処だ――!」

 

 迸る敵意の源へ、幻視の直線を遡るようにビームライフルを放つ、直後に虚空の先で爆煙の花が咲いた。
ポッドに直撃したビームが内部のバッテリーを貫き、爆裂させたのだ。

 

『すげえ――!』

 
 

 インパルスのシンから感嘆の声を聞き、そこではじめてレイは端正なかんばせに笑みを浮かべた。
五本が四本に減った火線だが、敵にも遥か遠距離から小さなポッドを狙撃されたと言う驚きがあるのか、
射撃の精度が下がっている、レイもシンもある程度の余裕を以って躱すことが出来た。

 

「もう一度出来るかはわからんぞ――」

 

 空になったビームライフルのエネルギーカートリッジを交換しつつ、レイはシンに答えた。
無いものねだりではあるが、もしレイ機のウィザードが使い慣れたブレイズであったならば、
搭載されたミサイルで弾幕を形成してあのMAが相手であっても十分に制圧することが出来ただろう。
慌ててスラッシュに乗り込んだ愚を恥じる、危うくルナ機に撃たれるところでもあったのだ。

 

『レイ、どうやってポッドの動きを見切ったんだ? 俺にも出来るか?』
「自分でも分からん、なんとなく射線が見えるとしか言いようが無いから、先刻のはまぐれだと思ってくれ。
シン、俺の合図でザクと反対方向に避けろ、挟み撃ちにしよう」

 

 ポッドを一基失ったとしても、MAは直に反転して射撃を行ってきた。まだカオスとガイアが十分離れて
いないということが、その動きからレイにも察せられる。
 レイの感覚に、ザクとインパルスを狙う殺意が伸びているのが捉えられた。タイミングを取り、叫ぶ。

 

「――今だ!」

 

 回避行動を取るインパルスとザク、その間を四条のビームが薙いだ。虚空に吸い込まれてゆく荷電粒子に
続いてマゼンタのMAが駆ける。二機による十字砲火、インパルスのビームライフルとプラント内では
使いどころの無かったザクの肩部バルカン砲が火を吹き、数発がMAの機体に掠る。ポッドがもう一基
ビームライフルの直撃を受け爆散した。
 MAは今度は反転せずに身を翻して撤退した。機動性はともかく加速力でMAに追随できるMAは無い。

 

『追うぞ! レイ!』
「――だからシン! 深追いは危険だと言っただろう、伏兵や敵の増援に気をつけていなければ――」
『気をつけて追いかければいいんだろう、とにかく逃がすかよ!』
「待てと言って――……ええい!」

 
 

 反省はしても反映しない、突撃するシンに毒づきつつもレイは僚機を追いかけて行った。 

 
 

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