戦艦ガーディ=ルー(仮)

Last-modified: 2017-09-27 (水) 20:16:31

 戦艦ガーディ=ルーが姿を現すと同時に、砂時計の底から砂粒が一つ真空の闇に零れ落ちた。
それはプラントの大きさからすれば酷くちっぽけな存在だったが、近づいてよく見れば、
人の十倍も大きさの在る一体のモビルスーツだった――殆ど骨だけの。

 

 アビス――深淵の名を冠するその機体は、ビームとミサイルの乱舞する宇宙を目立たないように、
ひたすらデブリの振りをしながら母艦を目指して漂っていた。時々直撃しそうになる流れ弾を、
身じろぎ程度に動くことで回避、舞い落ちる木の葉のような動きを繰り返しながら進む。

 

 その狭いコックピットでアウルは鼻歌を歌いながらスティックを操作する。目当ての戦艦を
アビスのモニターに発見すると――

 

「――おりゃ!」

 

 と一声気合を入れてスラスターをふかし進行方向を変えた。画面の中で宇宙船艦の艦影が徐々に
大きくなったかと思うと、最後の推進剤をスラスターに叩き込んで最大加速、自身の体をシートに
押し付けるGを感じながら、母艦に通信を送った。

 

「こちらアウル=ニーダ! 右カタパルトのシャッターを開けてくれ!」

 

 返事も聞かずにベクトルを整えると母艦のレイダー範囲内に滑り込み、アビスを確認して
口を開け始めたガーディ=ルーのカタパルトデッキに無理矢理着艦してしまった。
半開きのシャッターにアビスの巨体を掠らせる事もなく潜り込みネットに引っかかる――減速。

 

「アウル=ニーダただ今帰還しました! ――どうだったよ?」
『――……ナイスランディング』

 

 コックピットハッチに向かって漂ってきた整備員と装甲越しにそんな会話を交わす。

 

「おおっと! ハッチは開かないでくれよな、急いで来たもんでスーツまで着てないんだ。
それから――」

 

 アウルは一旦そこで言葉を切って、気密バルーンを持って飛んでくるメカニックに注意を促した。
戦艦の機動によって内部にGが発生して壁に激突しそうになるのを教えてやる。慌てて壁に吸着して
怪我を回避したクルーが、MSのハッチに空気を洩らさない巨大な風船を貼り付ける。

 

「――ダガーが一機、余ってるよな?」

 

 バルーンに潜り込みながらそう聞いた。

 
 

 コロニーの外壁というものは分厚い場所は非常に堅牢だが、プラント周縁部の外壁は処により
厚さが精々数センチ程度まで薄くなり、かつ脆くなる。
 理由は三つ。分厚い外壁を砂時計の両端に貼ると遠心力が巨大になりシャフト強度と重量の増加が
いたちごっこを始める事が一つ。
 あまり外壁を分厚くすると穴が開いたときの修繕が困難に業るということが一つ。
 そして三つ目は、どうせ大質量の物体が高速で激突すれば貫通されるのだから、余り強固な構造に
するとかえって穴が広がる事。つまりは宇宙と言う環境の潜在的な攻撃力に屈した形である。

 

 だから、数十トンもあるMS――カオスとガイアが外壁に激突したときも、厚さ二十五センチの
強化繊維集合材で出来た壁はさしたる抵抗もせずに崩壊した。そればかりか自律的にセル同士の
連結強度を一瞬のうちに変化させ、MSより少しだけ大き目の穴を開けることで壁面の破壊が
それ以上の範囲に進むことを防いだ。

 

「畜生! 悠々出て行く積もりが、叩き出されちまうとはな!」
『――あの赤い奴、私を撃ちはしなかった……母艦は何処に居るの? 推進剤が足りない!』
「一番激しく戦闘している所だ! ビームの明かりを目指して一吹かししろ、近くに寄ったら
必ずネオがステラを助けてくれる」

 

 スティングのカオスは白いザクと見覚えの無い新型の連携によって追い詰められた。ステラのガイアが
二刀流のザクに弾き飛ばされ外壁を突き破ると同時に、推進剤を吹かして離脱していた。

 

「戦闘の事は忘れろ、ぶっつけにしては随分戦った方だ。ネオも褒めてくれるさ、ちゃんと機体ごと帰ればな」
『そうじゃない、そうじゃないの……』

 

 何か戦況とは別の事を気にしている風のステラを横目に、スティングは自分たちがあけた大穴を
凝視していた。――後少しだけ追ってくることを躊躇しろ、そうすれば穴は勝手に塞がって
遠回りをしなければ追えなくなる、そして自分たちはゆっくり母艦に帰られる。

 

「深追いは危険だぜ? 出てこないでくれよ? 宇宙戦が出来るほどには推進剤もが足りてねえんだ」

 

 スティングの台詞は希望的観測を口に為ただけのものだった。そしてそういった願望は、往々にして
破られるものだ。自動修復機能が働く直前の破壊痕から二機のMSが飛び出してくる。白いザクと
トリコロールの新型機――カオスが追われた形だ。穴から漏れ出す空気の圧力に押された体勢を整える

 

「――ちっ……しつこいんだよ! ――ステラ! ガーディ=ルーの座標は分かるな?
すぐに加速しろ。地上用のガイアじゃあ的になるだけだ!」
『此処に残る積もりなら、私だけ行きたくはない! ネオのところに帰るなら、スティングも一緒に行こう?』

 
 

 ――そんな場合じゃねえんだ。言葉を吐く時間がおしくてカオスにビームライフルを構えさせる。
ザクと新型は穴の近くで二機の様子を伺っているようだった。スティングには考えていることが分かる。
カオスに戦闘を続ける能力があるかを測り、伏兵の存在に気をつけているのだ。
 どちらも存在しないと気付かれればスティングもステラも終わる。

 

「確認しただろうが、しんがりは俺だ! それに逃げるんじゃない、助けを呼んで来いと言っているんだ!」
『――イヤ! スティングが死んじゃう! 逃げるのも、戦うのも一緒が良い!』

 

 そのどちらでもカオスにとって宇宙でのガイアは足手纏いにしかならない、そう言っているのを
ステラは理解はしても納得しようとしなかった。――仕方ない。"禁じ手"を使う覚悟を決めた。
後でアウルに恨まれるかもしれないが、こんなところで二人とも死ぬわけにはいかない。

 

「聞け、ステラ――」

 

 敵機が二人を屠る――或いは捕獲する――ために加速する。スティングは本当の意味で"言葉の暴力"を
振るうべく、僚機に向かって叫んだ。

 

「お前は『死者の行進を――」
『おおっとスティング、それは必要が無いな――』

 

 言葉、そして火線――連続に五本。カオスと目近に迫った新型との間をビームの熱線が走り抜け、
次の瞬間に凄まじい速度でマゼンタのMAが駆け抜ける。一発が新型の脚に掠り、間合いを開かせた。

 

「――ネオ!」
『駄目じゃないかスティング、そんな簡単に"ブロックフレーズ"を使おうとしちゃあ。
ステラからの信頼が少ない証拠だぞ? 上の人間の言うことを聞いて欲しいんだったら――』

 

 そして反転、周囲に散らばしたポッドと共に再射撃、ガイアに迫っていたザクがシールドで受ける。

 

『――先ずは、自分の上官を信用しないと、な?』

 

 部下に薫陶を与えながらも繰り出される、練りこまれ磨き上げられた一撃離脱戦術。
 ネオ=ロアノークはまるで散歩ついでのように、ステラとスティングを助けに現れた。

 
 

「こっちの情報に無い――新型だと!?」(仮) 新人スレ旧まとめ 『てええぇーーーい――!』(仮)