なのはクロスSEED_第12話

Last-modified: 2007-12-31 (月) 01:32:11

魔法少女リリカルなのはクロスSEED
第12話「真実は、とても残酷な現実、なの」

 
 
 

双方の決着が着き、事態は沈静を迎えた。

 

「……よし、なのは。ジュエルシードを確保して、それから彼女を」
管制からなのはへと伝えようとするクロノ。
「いや、来た!!」「え!?」
エイミィの言葉に驚くクロノ。

 

晴れ渡る空に立ち込める暗雲、その中心に渦巻く紫電の雷光。
その雷光が、一瞬にして降り注がれる。
「フェイトちゃん!!」
「く……う……ん……!」
苦痛に歪む表情。そして紫電を帯びたバルディッシュに伝わる衝撃が、
デバイスモードを維持する事が出来ずに、モードリリースする。
そして、渦の中心へと消えていくジュエルシード。

 

「ビンゴ!尻尾掴んだ!!」
コンソールを叩くエイミィ。
準備していた追尾プログラムが発動し、空間転移したジュエルシードの転送先を割り出す。
「不用意な物質転送は命取りだ。座標を」
「もう割り出して、送ってるよ!」
転送先をコンソールで打ち出して、アースラの転送ポートへと直結させる。
「武装局員、転送ポートから出動!任務は、プレシア・テスタロッサの確保です!!」
「はっ!!」
転送ポートへと集結する多数の武装局員。
その手にデバイスを握り締め、任務を遂行する為に。

 

「げほ、げほっ……!」
床に零れ落ちる紅い雫。それは間違う事なき、血。
プレシアの口から本人の意思に関係なく逆流してくる"それ"を手で押さえて遮る。
「次元魔法はもう身体が持たない……それに、今のでこの場所を捕まれた……」
右にあるディスプレイオブジェへと視線を向ける。
そこに映るのは、白い服を着た小さな少女と、黒衣に身を包んだ"あの子"。

 

「……フェイト……あの子じゃダメだわ……そろそろ、潮時か……」

 

母親の言葉は、遠くにいる娘に届く事はなく、未だに眠り続けていた。

 

「……ああ、あなたも帰ってきてたのね、アスラン」
奥の部屋から出てきたのは、デバイスをモードリリースさせたアスラン。
プレシアの周りに浮かぶジュエルシードを見て悟る。
「……そうか、フェイトは……」
負けたのか。その言葉を紡ごうとしたのを無理に止めた。
「……あなたは、勝ったみたいね」
「……ああ」
握り締めていた左手を開き、自分の分とキラの分のジュエルシードを渡す。
「……もうすぐ、管理局がここに来るわ。もう、時間がない……」
「……俺が出ればいいのか?」
ポケットに手を入れ、その中に入っているイージスを握り締める。
「……いや、あなたはまずその傷を治しておきなさい……あなたの出番はまだ先……」
「……そうか」
そして、奥の部屋へと戻っていくアスラン。
(……アスラン、あの子……一体何を考えている……?)
プレシアにも理解できなかった。
アスランが今考えている事。

 

――それは、本人以外、誰も知らない――

 
 
 

――時の庭園・正面玄関。

 

発現する二つの魔法陣。そこへ転移される十数人の武装局員。
目の前にある奇妙なオブジェを形取った扉。
それぞれのデバイスを握り締め、局員達は歩みを始める。

 
 
 

――アースラ・メディカルルーム。

 

「……う……ん……」
意識が目覚めたキラ。目を開いた先にあるのは、白い天井。
「こ、こは……」
呆然とする脳内に、情報が錯綜する。
そして、今自分がいる場所が、アースラの医務室であると理解し、
自分が今、ベッドに横たわっているのが身体で感じている。
同時に、今なぜここにいるのか、も。

 

「……そっか……僕、負けたんだ……」

 

その言葉を発した後に、自然と零れて来た涙。
頬を伝い、枕へとこぼれて行く。
悔しい。でもそれ以上に、負けた自分が恥ずかしかった。
勝つと約束したあの子に、合わせる顔が無かった。
「……そうだ、なのはちゃん……」
あの子との戦いはどうなったんだろう。
そして自分はどれくらい眠っていたのか。周辺を見渡しても時計らしきものはない。
それを考え始めるといても立ってもいられなくなり、ベッドから起き上がる。
特に痛みが走ることは無く、不思議と身体にダメージは残っていなかった。
そして、机の上においてあるデバイス、ストライクを手に取る。
「……行こうか」
『OK.』
医務室を後にするキラ。
きっと皆はブリッジにいるだろうと思い、そちらへと足を向けていた。

 
 
 

転送ポートから帰還し、ブリッジへと足を運んだなのは、ユーノ、アルフ。
そして……フェイトの姿があった。
そのフェイトの姿は白い服に身を包み、両手を手錠のような物で固定されている。
四人に歩み寄るリンディ。
「お疲れ様……それから、フェイトさん、初めまして」
そういうリンディの表情は優しく微笑んでいたが、
対照的に、フェイトの表情は俯き、暗くなる一方だった。
視線の先、その左手にあるのは傷ついたバルディッシュ。
複雑な気持ちで、その左手を握り締める。
それを見てリンディは正面へと向きを変える。
(……母親が逮捕させるシーンを見せるのは忍びないわ……。
なのはさん、彼女をどこか別の部屋に……)
リンディがなのはへと念話を送る。
(あ、はい……)
「フェイトちゃん、よかったら私の部屋」
ウィーン。と開くドア。
その場にいる全員がその扉へと注がれる。
その向こうにいたのは、キラだった。

 

「「あ……」」

 

顔を見合った瞬間、思わず言葉を発してしまうキラとなのは。
「キラ……」「キラさん……」「キラ君……」
その場にいる全員がキラへと視線を集める。
「キラ君……」
最後に名前を呼ぶなのは。
なのはへと視線を向けたキラは、その前に立つ。
「……ごめん」
「……え?」
「……僕、アスランに勝てなかった……」
言葉を発すると共に俯くキラ。
「ごめん……ごめん……」
ポロポロと俯いたキラの両の瞳から零れ落ちる涙。
余りにも情けない自分の醜態を晒しているのは判っている。
でも、謝るしかない。それしか自分には出来ない。

 

それしか、わからないんだ――

 
 

そんなキラの瞳を指で拭うなのは。
「……泣かないで、キラ君」
「なのは、ちゃん……」
「キラ君も、全力で戦ったんだよね……」
「……」
「精一杯頑張ったキラ君を、誰も責めたりなんかしないし、出来ないよ……」
「!?」

 

"あんた……自分もコーディネイターだからって、本気で戦ってないんでしょう!!"

 

脳裏に蘇る赤い髪の女の子の言葉。
キラ自身、この言葉に深い衝撃を受けていた。
本気で戦っていない。だから何も護れない。
そんな言葉に、キラは縛られ続けていたのだ。
だけど、また負けてしまった。その事でキラの中に生まれた恐怖。
でも、目の前の少女は、自分を責めることなく、涙を拭ってくれた。
そして、その言葉により、キラ自身、少し気持ちが救われた感じがした。

 

「……ありが、とう……」

 

精一杯の感謝の気持ちを込めて、キラは言葉を紡いだ。

 
 

『総員、玉座の間に侵入!!』
「!!!」
通信の声に全員が正面のディスプレイへと視線を向ける。
『目標を発見!』
『プレシア・テスタロッサ!時空管理法違反、及び管理局管制へと攻撃容疑で、あなたを逮捕します!!
武装を解除してこちらへ!』
局員の言葉にも興味が無さそうに肩肘をついているプレシア。
その表情に笑みが宿る。
局員が一斉に動き始め、2グループに分かれる。
1つはプレシアの正面に、もう1つは、奥の部屋と思わしき扉の向こうへと。
「ッ!!!」
奥の部屋へと向かった連中へと注ぐ視線。
そして、扉の向こうで局員が見た光景。
「こ、これは……!」
それは、異様な光景だった。
妙な液体が入った大型の水槽のようなものが幾つも並んでいた。
それに巻きつくツタのような植物がより一層不気味さを増している。
だが、一番奥の中央にある少し大型の水槽。

 

「えっ……!?」

 

ディスプレイの向こうの光景に思わず声を漏らすなのは。
その場にいる全員が声を詰まらせる。
その向こうにある光景。
その中央にある水槽の中に、

 
 

――人間が、女の子が入っていた。

 
 

しかも、その女の子はある人物にとてもよく似ていた。
似ているなんてものではない、瓜二つといっても過言ではない程だった。

 
 

――――フェイト・テスタロッサに。

 
 
 

フェイト自身もその光景には呆然とただ見ている事しか出来なかった。

 

「ぐはぁっ!!」
プレシアの魔法に吹き飛ばされる局員。他の局員も同じ様に床に倒れている。
これが、大魔導師と言われたプレシア・テスタロッサの実力なのだろう。

 

「私の"アリシア"に、近寄らないで!!」

 

その言葉の後に庭園に降り注ぐ紫電の雷光。
その場にいた局員の全てが倒される。
「いけない!局員の送還を!!」
リンディの指示に従い、コンソールを叩くエイミィ。

 

「アリ、シア……?」

 

それは、夢の中に出てきた名前。
母さんが、私に向かって言っていた名前。
でも、どうして……?

 

プレシアは"アリシア"の入っている水槽に歩み寄り、手を触れる。
「もうダメね……時間が無いわ……たったこれだけのロストロギアで、
"アルハザード"にたどり着けるかどうかはわからないけど……でも、もういいわ……終わりにする。
この子を亡くしてからの暗鬱な時間を、この子の身代わりの人形を、娘扱いするのにも……」

 

「「!!!」」
固まる表情のフェイト。それを心配そうに見つめるなのは。
『聞いていて……あなたの事よ……フェイト。
せっかくアリシアの記憶をあげたのに、そっくりなのは見た目だけ……
役立たずでちっとも使えない……私のお人形』
「……最初に事故の時にね、プレシアは実の娘、アリシア・テスタロッサを亡くしているの……。
彼女が最後に行っていた研究は……使い魔とは異なる、使い魔を超える人造生命の生成……」
「「!!!」」
エイミィの言葉に驚きを隠せないユーノとアルフ。
「そして、死者蘇生の秘術……フェイトって名前は、当時、彼女の研究につけられた、開発コードなの……」
『……よく調べたわね……そうよ、その通り……だけどダメね……ちっとも上手くいかなかった……』
愛おしそうにアリシアを、水槽の表面を撫でる。
『作り物の命は所詮作り物……失った者の代わりにはならない……』
すると、こちらへと視線だけを向けるプレシア。
『アリシアはもっと優しく笑ってくれた……アリシアは時々我侭もいったけど、私のいう事をとてもよく聞いてくれた……』
「ッ……!」
「……やめて……」
下を向くフェイト。零れるように言葉を発するなのは。
『アリシアは、いつでも私に優しかった……フェイト……やっぱりあなたは、アリシアの偽者よ……。
折角あげたアリシアの記憶も、あなたじゃダメだった……』
「やめて……やめてよぉっ!」
段々と大きくなるなのはの叫び。
『アリシアを蘇らせるまでの間に……私が慰みに使うだけの、お人形……だからあなたはもういらないわ……。
どこへなりと……消えなさい!!!』
いつしかフェイトの瞳に溜まっている涙。
それは今にも零れ落ちそうな、崩れ落ちそうになっていた。
「お願い!もうやめてぇっ!!」
なのはの叫びも空しく、プレシアは声を上げて笑っていた。
脳裏に浮かぶ優しかったプレシアの姿。
自分の事を、傷つけるプレシアの姿。
あの優しかった母さんの向けていた表情は私にじゃなく……アリシアへ向けての笑顔。
それを知ってしまったフェイトの精神は酷く揺らいでいた。
『ふふふ……いい事を教えてあげるわフェイト……あなたを作り出してからずっと私はあなたが……』

 
 

――――大嫌いだったのよ!!!――――

 
 
 

「ッ!!!」
糸が切れた人形のように崩れ落ちるフェイト。
その手に持っていたバルディッシュは床へ落ち、中心のコアは砕け散った。
力無く崩れ落ちるフェイトを支えるなのはとキラ。
「フェイトちゃん!」
「フェイトちゃん……」

 

そして、ディスプレイに映る一人の少年。
「!!」
「……アスラン……!!」
驚くアルフに、声を上げるキラ。
『……アスラン』
『……』
プレシアに呼ばれ、ただ驚いた表情もなく普通にそこにいるアスラン。
「アスランッ!!!」
思わず叫ぶようにディスプレイの向こうに映る彼の名前を呼ぶキラ。
その声に気付いたのか、ゆっくりとこちらを向くアスラン。
『……キラ』
「アスラン……!!何で……!!何で君はそんな所に居るんだっ!!!」
感情のまま叫ぶキラ。
「キラ君……」
「君はあの子の、フェイトちゃんの為に戦ってるんじゃなかったのかっ!!
今のを聞いていたんだろう!!だったら……何でまだその人に従ってるんだっ!!!」
『……』
「それが君のいう正義って奴なのかっ!!?」
『……』
「答えろよっ!!アスランッ!!!」
声を荒げてディスプレイに映る彼に向かって叫ぶキラ。

 

するとアスランは何も言わず、その場から立ち去る。
「アスランッ!!!……くそっ!!」
キラの言う事に耳も傾けずにその場を去ったアスラン。
もう、彼には僕の言葉は届かないのか……?
その表情には、悔しさがにじみ出ている。

 

「局員の回収、終了しました……」
「た、大変大変!ちょっと見てください!!」
エイミィの言葉の後に変化する正面ディスプレイ。
「屋敷内の魔力反応……多数!」
「何だ!?何が起こっている!!?」
ディスプレイに映る屋敷全体に点在する魔力反応。
徐々に数が増え、大きさを増していく。
そしてディスプレイが切り替わり、屋敷内の映像が映し出される。
そこには、地面より多数出現する鎧の傀儡兵が所狭しと現れる。
「庭園敷地内に魔力反応!いずれも、Aクラス!!」
「総数60……80……まだ増えています!!」
「プレシア・テスタロッサ……一体何をするつもり!?」

 

庭園内全体に響き渡る地震。
正面のポッドに向けて手をかざすプレシア。
それに反応して、水槽に巻きついていたツタが離れていく。
手を上げると、それと同じ様に水槽は台座から浮き上がり、
歩くプレシアの後を着いて来るように浮遊する。
『私達の旅を……邪魔されたくないのよ……』
そして、玉座の間へと戻る。
『私達は旅立つの!』
両手を開き、浮かび上がるジュエルシード。
『忘れられた都……アルハザードへ!!』
「まさかっ!!?」
『この力で旅立って……取り戻すのよ!』

 

――全てを!!――

 
 

宙に浮かぶジュエルシードがまばゆい輝きを放つ。
「次元震です……中規模以上!」
「振動防御!ディストーションシールドを!!」
「ジュエルシード発動!次元震、さらに強くなります!!」
「転送可能距離を維持したまま、影響の薄い空域に移動を!!」
「りょ、了解です!」
リンディの指示に従い、それぞれの役割を務めるアースラスタッフ。
「このままだと次元断層が!!」
「アル、ハザード……」
「馬鹿な事をっ!!」
その言葉を残し、振り返り駆け出すクロノ。
「クロノ君っ!」
「僕が止めてくる!ゲート開いて!!」
エイミィにそれを伝えた後、管制から転送ポートへと走っていくクロノ。
(忘れられた都……アルハザード……失われた禁断の秘術が眠る土地……。
そこで何をしようって言うんだ……自分が失くした過去を取り戻せるとでも思っているのか!!)
懐より取り出したデバイス『S2U』をデバイスモードへとリリースし、右手に握り締める。

 

「どんな魔法を使ったって!過去を取り戻す事なんか、出来るもんかぁっ!!」

 

ディスプレイの向こうでただ笑い続けるプレシア。
「私とアリシアは、アルハザードで全ての過去を取り戻す……!!」
笑い続けるその姿は……とても、悲しいように見えた。
「次元震発生!震度、徐々に増加していきます!!」
「この進度で増加していくと、次元断層の発生予測値まで、あと30分足らずです!!」
「あの庭園の駆動炉もジュエルシードと同系のロストロギアです!
それを暴走覚悟で発動させて、足りない出力を補っているんです!!」
エイミィの分析結果を聞いて、一つの結論に辿り着くリンディ。
「初めから、片道の予定なのね……!」

 

アースラの廊下を走るなのは、ユーノ、キラ、そしてフェイトを抱えたアルフ。
そして、反対側から走ってくるクロノと出会い、走りを止める。
「クロノ君、どこへ!?」
「現地へ向かう、元凶を叩かないと!」
「私も行く!」
「僕も!」
現場に向かうクロノに同行を求めるなのはとユーノ。
「……わかった」
「僕も行く」
少し遅れてだが、キラも申し出る。
「キラ君……」
「……今度こそ、必ずアスランを止めてみせる……!!」
右手にストライクを握り締める。
例え言葉が通じなかったとしても、今の彼を止めないといけない。
取り返しのつかない事になってしまう前に。
「アルフはフェイトについててあげて」
「あ……うん!」
「行こう!!」
「「「うんっ!!」」」
クロノを先頭に駆け出す四人。
「クロノ!なのはさん!ユーノ君!キラ君!
私も現地に向かいます!あなたたちはプレシア・テスタロッサの逮捕を!!」
「「「「了解!!」」」」
リンディの言葉に返答し、転送ポートへと急ぐ。

 
 
 

――アースラ・メディカルルーム。

 

力なく横になっているフェイト。
その目には光が宿っていないように見え、その目の先には何も映っていないように見えた。
そんなフェイトを心配そうに見つめるアルフ。
(……フェイト……)
主は深き眠りについたように、けれど目を開いたまま、ただそこにいた。

 
 

――時の庭園・正面玄関。

 

転送完了後、四人が目にしたのは、大量の傀儡兵。
「……いっぱいいるね」
ユーノが最初にそれを見て感想を漏らす。
「……まだ入り口だ。中にはもっといるよ……」
冷静に言葉を返すクロノ。
「クロノ君、この子達って……」
「近くの相手を攻撃するだけの、ただの機械だよ」
「そっか、なら安心だ」
「うん、そうだね」
レイジングハートを構えるなのは、ライフルを構えるエールジャケットのキラ。
だが、それを遮るように右手を挙げるクロノ。
「この程度の相手に、無駄弾は必要ないよ」
こちらへと向かって動き始める傀儡兵。
『StingerSnipe.』
「はぁっ!!」
デバイス、『S2U』より放たれた青の一閃は複数の傀儡兵を貫通、破壊し、天へと待機する。
「ッ!早い!!」
感心するなのはを余所に、次の魔法を唱えるクロノ。
「スナイプショットォッ!!」
待機していたスティンガースナイプの渦の中心から発射された青の光線は、さらに複数の傀儡兵を貫く。
だが、最後の大型の傀儡兵には弾かれてしまう。だが、
すでにそれは予測済みなのか、クロノは跳躍し、一気に距離を縮める。
「はああああああっ!!!」
傀儡兵の縦一閃を跳躍で回避し、そのまま傀儡兵の頭上へ。
そして着地と同時に、S2Uを傀儡兵と接触させる。
『BreakImpulse.』
S2Uの言葉の後に、頭上から下まで伝わる衝撃。
それは一気に傀儡兵を貫き、破壊する。
見事、としかいいようのない鮮やかで無駄の無い動きで、
一瞬にしてあれだけいた傀儡兵を全滅させるクロノ。
流石は、時空管理局の執務官。アースラの切り札と呼ばれているだけの事はある。
そんなクロノの動きについ見とれてしまったなのは、ユーノ、キラの三人。
着地したクロノはこちらを向いて一言。
「ボーッとしてないで!行くよ!!」
「う、うん!」「あ、ああ!」
クロノの後へ着いていく三人。

 

所々崩壊した床に見える地面の下。
それは、まるで歪みが消えてはまた発生しているという異様な光景になっていた。
「その穴!黒い空間がある場所は気をつけて!!」
「ふぇっ?」
その穴をみていたなのはは疑問の声を上げる。
「虚数空間……あらゆる魔法が一切発動しなくなる空間なんだ!
飛行魔法もデリートされる!もしも落ちたら重力で底まで落下する!二度と上がってこれないよ!!」
走りながら、こちらへと視線を向けながら説明するクロノ。
「き、気をつける……」
「う、うん……」
つまりクロノの説明からすると、
落ちた時点で、ジ・エンド。ということなんだろう。
それを考えるとゾッとしたキラ。

 
 

そして、一枚の扉まで辿り着き、クロノが蹴り開ける。
その向こうに広がるのは、またもや山のような傀儡兵の軍勢。
その傀儡兵の向こうに見える上と下へ通じる階段、そして扉。
「ここから二手に分かれる!君達は、最上階にある駆動炉の封印を!!」
「クロノ君は?」
「プレシアの元へ行く!……それが僕の仕事だからね」
(クロノ君!聞こえる!?)
突如割り込んでくる念話の通信。相手はエイミィにようだ。
(エイミィ?どうしたんだ?)
(それが、どうやら庭園の駆動炉はどうやら二つあるみたいなんだよ!)
(二つ?)
(どうやら、予備の方の駆動炉があったみたいで、さっき稼動し始めたみたいで今レーダーに感知されたの!
それで、予備の駆動炉の場所が、最下層にあるんだよ!!)
(最下層だって!?)
困った。二手に分かれればいいと思って少数で来たのに、三つに分かれるのは危険すぎる……!
悩むクロノ。どうすればいいか、必死に頭を悩ませている。
『……Master.』
そんな中、ストライクがキラに話しかける。
「ん?どうしたの?」
『IfeelthemagicofAthrunfromthelowertier.(下の階層からアスランの魔力を感じます。)』
「……それって」
下の駆動炉の所に、アスランがいる。
そういうことなんだろう。
「……ありがとう、ストライク」
『Itdoesn'treachthebow.(礼には及びません)』
ストライクが僕にだけそれを教えてくれた……その意味は、理解している。
決意を固め、口を開く。
「……クロノ君」
「何だ?」

 

「……下の階層には、僕が行く」

 

「えっ!?」
「キラ君!?」
「何を!?」
キラの思わぬ言葉に三者三様に答えを返す。
「無茶だよ!キラ君一人でなんて!!」
「そうですよ!危険過ぎます!!」
安否を心配するなのはとユーノを余所に、一人冷静な表情を浮かべているクロノ。
「……アスラン、か?」
「……うん。ストライクが、下の階層からアスランの魔力を感知したらしいんだ」
「アスラン君の……」
「ということは……」
キラがどうしてそんな事を言ったのか、その真意を理解した二人。
「……うん、だから僕が行かなきゃいけない……いや」
首を少し横に振り、言葉を区切り、再度開口する。

 

「僕が行って、アスランと駆動炉を止めてくる……!」

 

「……わかった」
キラの言葉を了承するクロノ。
「クロノ君!?」
「……正直、こういう危ない橋は渡りたくないんだけど……でも」
キラの瞳を見るクロノ。
その瞳に宿る真剣さ、そして思いの強さ。
それが、見えてしまったから。
(……僕もそろそろヤキが回ったかな)
普段の僕なら、そんな判断は全力で却下する所だけど、でも、
「……今は作戦を選んでる余裕もない……キラを信じよう」
「……ありがとう、クロノ君」
自分の我侭を二回も聞き入れてくれた、管理局の執務官に礼を言う。
「……」
そんなキラを心配そうに見つめるなのは。
「……なのはちゃん」
スッと膝を折り、同じ目線に合わせるキラ。
「……もう、約束は破らないから」
そういいながら右手をなのはの頭の上に乗せ、優しく撫でる。
「……だから、僕を信じて」
そういってニコッと微笑むキラ。
目を閉じ、数秒思考した後に目を開けるなのは。

 

「……約束だよ、絶対帰ってきてね……」
「……うん」

 

その言葉を交わした後、なのはの頭から手を退け、立ち上がるキラ。
「……僕が道を作るから、その隙に!……ストライク!ランチャージャケット!!」
『OK.change,LauncherJacket.』
紅いジャケットが光に包まれ、緑色のジャケットへと変化する。
左背面の大砲、『アグニ』を正面に構えるキラ。
『Agni,Burst!!』
ズドォンッ!!と放たれる一筋の砲撃が、射線上の傀儡兵を巻き込み、消滅させていく。
そして、ユーノを抱きかかえ、上へと続く階段へと飛行していくなのは。
それに続き、キラとクロノが空白となった直線を進む。
「クロノ君!気を付けてね!!」
なのはの言葉に、笑顔で応対するクロノ。
そして、階段に辿り着き、上へ向かうなのはとユーノ。下へと降りていくキラ。
(キラ君)
そして分かれた瞬間に聞こえる念話。
(……気を付けてね)
(……うん、ユーノ!)
(あ、はい!)
(なのはちゃんの事、頼んだよ!)
(はい!)
その言葉を最後に遮断する念話。
それぞれの行くべき道へと、走っていく。