なのはクロスSEED_第11話後編

Last-modified: 2007-12-29 (土) 02:37:34

そして、こちらも対峙する少女達。
幾度もぶつかり合うが、未だにどちらも決定打を打ち込めずにいた。

 

(……初めて会った時は、魔力が強いだけの素人だったのに……もう、違う。
早くて、強い……迷ってたら、やられる!!)

 

改めてなのはへの認識を確認するフェイト。
改めると同時に、自分との実力の差の無さを気付く。
それと同時に、焦りが生じたフェイトは、バルディッシュを握り締める。
目を閉じ集中し、足元から魔法陣を展開していく。
だが、その大きさは通常の魔法陣の大きさを遥かに超える大きさとなり、
「ッ!!?」
空間に点在していく魔法陣。その数は一つや二つではない。
しかし特に何か起きるわけでもなく、展開したと思えば消え、
次々と魔法陣が発生し、消えるといった事が起こっていた。

 

その不可解さに疑問を抱くなのは。

 

魔法陣が展開して消える。その不可解さには一つだけの共通点があった。
それは、"自分の周り"に展開して消えるという事。

 

『Phalanx Shift.』

 

フェイトの周辺に発現する紫電を帯びたフォトンスフィア。
だが、脅威すべきはその数。
正確な数字までは確認できないが、およそ30発以上のスフィアがあると思われる。

 

「!!」
あの魔法は危険だ。となのはも感じたのだろう。
レイジングハートを前方に構る。だが、
「ッ!!?」
構えた瞬間に左手が何らかの力に引っ張られる。それに続き、右手も両足にも。
見るとそれぞれの手首に巻きつくように出現した"ソレ"は、紫電を帯びたリング。
先程現れては消えた魔法陣が瞬間的に発動し、効果をもたらしたといえる。
(ライトニングバインド……! まずい! フェイトは本気だ!!)
(なのは、今サポートを!)

 

「ダメ―――――――ッ!!!」
((!!))
念話を聞き、反射的にこちらを見ながら声を発するなのは。
突然の言葉に驚くアルフとユーノ。

 

(アルフさんもユーノ君も、手を出さないで!
全力全開の一騎打ちだから……! あたしとフェイトちゃんの勝負だから!!)
(でも、フェイトのそれは本当にマズイんだよ!!)
「平気!!」
前を見据えるなのは。
「アルカス・クルタス・エイギアス……疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ……バルエル・ザルエル・ブラウゼル……!!」
詠唱が完了し、目を開くフェイト。その表情が少し苦痛に歪む。
さすがのフェイトもこれだけの数を具現、発動させるのはかなり酷なのだろう。

 

「フォトンランサー・ファランクスシフト……!!」

 

空中に浮かぶスフィアの電気が、相乗効果でフェイトの周辺の空気内へと電導していく。
電導していく周辺の空間が、周りから見ると電導効果により視界に映る光景が歪む。
右手を挙げるフェイト。
準備は整った。目を見開き、なのはを見据える。
「打ち砕け……ファイア!!」
声と共に振り下ろされる右手。
それを合図に、空中に浮かぶ全てのスフィアから発せられるフォトンランサー。
その全てが、なのはへと向かっていく。
「ッ!!」
来る……!
眼前へと迫る膨大な数の雷光の槍。
だが、両手両足をバインドで固められたなのはに出来る事。
それは……。
レイジングハートが何かを訴えているように聞こえる。
でも、もう間に合わない。
だって、もうまばたきする暇もないのだから。

 
 

そして、瞬く間に雷光へと包まれるなのは。

 
 

(なのは――っ!!)
(フェイトッ!!)
互いのパートナーへと向けてそれぞれの名を叫ぶユーノとアルフ。

 
 
 

――ここは……。

 

アスランの目に浮かぶ景色は一面の青。
ここは海中、見える景色は青と太陽の光。
ああ、そうか。さっきの一撃を受けて海へと叩きつけられたのか……。
呆然と浮かぶ考え、息苦しいと感じないのはバリアジャケットによる保護だろうか。

 

――俺は……このまま負けるのか……。

 

ふと肩の痛みが走る。
熱い。身体が冷たいのと反比例して叩き込まれた場所が熱を帯びている。
その痛みが、感覚が訴えている。

 

まだ、生きているんだ。と。

 

――そうだ。

 

俺はまだ、生きている。

 

――死んでいないのに、

 

諦めるのか?

 

――まだ、全力を出し切っていないのに、

 

負けるのか?

 

――嫌だ。

 

ここで、終わるのか?

 

――俺はまだ、何も果たせていないのに、

 

"約束"も"誓い"も、何一つ果たせてないのに。

 
 

――――こんな所で、負けるわけにはいかないんだ!!

 
 

――刹那、アスランのSEEDが弾ける。

 
 
 

「……」
全力で叩き込んだ一撃。あれでかなりのダメージを食らったに違いない。
そしていつまでも浮き上がってこない事を考えると、気絶してしまったのだろうか。
だとしたら、そのまま沈んだまま浮かび上がってこないのも納得がいく。
助けないと……そう思い、海面へと向かって下降しようとした、

 

瞬間。

 

『Master!!』
「なっ!!?」

 

深海を切り裂くように海底から突き出してくる紅い砲撃。
間一髪、ストライクの声で反応したキラは身体を翻し、回避する。
そして、海を裂き、ゆっくりと浮かび上がってくる人影。
その紅き服に身を包んだその姿は、見間違える事はない。

 
 

「……アスラン!!」

 
 

あの一撃では、やはり倒せてはいなかった。
全力を叩き込んだ一撃には違いなかったのだが、
キラ自身、あれでアスランが終わったとは思えなかったのだ。
その予想通り、戦いはまだ、終わってはいない。

 
 

『Limiter release and Full power operation rate 100%.(リミッター解除、魔力稼動率100%)』
「……持続時間は?」
『For about 5 minutes.(およそ5分ほど)』
「5分……それまでに倒せばいいんだろう?」
『Though it is the street……(その通りですが……)』
「なら……倒すだけだ!!」
イージスの言葉を最後まで聞かずに、急加速するアスラン。

 

「!!」
『Master!!』
こっちに向かってくるアスラン。だが、さっきまでとはまるでスピードが違う。
「本気って事、だよね……残り時間は?」
『It is about 3 minutes somewhere else.(およそ、3分程です)』
「時間がない、一気に攻める!!」
『シュベルトゲベール』を構え、キラもアスランへと加速していく。

 

「……真っ向からの勝負か……イージス!」
『OK. Right and Left, Full power saber.』
両手に発生する紅き魔力刃。先程具現した時よりも少し大きくなっていた。

 
 

「はあああああああああっ!!!!」
先程と同じ様に縦一閃を見舞うキラ。
それを先程と同じく両手の魔力刃で受け止めるアスラン。
先程と同じ動作の繰り返しならば、その魔力刃は砕け散り、またもや大剣の重い一撃を食らうのだが、

 

「ぐ……!!」

 

先程と違って、両手の魔力刃は折れる事はなく、持ち堪えていた。
いや、それどころか。

 

「……はああああああああっ!!」
「ッ!!」

 

ガ、キィンッ……!!
アスランは咆哮と共に両手を振り抜き、目の前のキラを弾き飛ばす。

 

「くっ!!?」
弾き飛ばされ、後方へと下がるキラ。
衝撃で思わず塞いだ目を開き、アスランの姿を見つける。

 

両手の魔力刃は既に消えており、代わりに両手の平に浮かび上がる紅く光る球体。
その手の平の球体を身体の中心で組み合わせる。
両手を離し、一つとなった球体は、徐々に変化し、やがて一つの長い槍のような形状へと変わる。
『Right and Left sabre conection, Full power sabre "Halberd mode".』
その中心を右手で握り締め、構えるアスラン。
「……イージス、…………」
『OK, Multiple aria movement.』
「…………頼んだ」
『Consent.』

 

「あれは……!!」
キラの目に映る紅い槍のような魔力の集合体。
そして確信する。その魔力の収束率の高さからみて、先程の魔力刃の比ではない。と。
「ストライク、残存魔力を全て『シュベルトゲベール』へ!!」
『OK. All the remaining magics are poured into the "SchwertGewehr".』
蒼き大剣の輝きがより一層増し、その刀身が蒼く輝く魔力に包まれる。
「……残り時間も無い、この一撃で決める……!!」

 

それぞれの獲物を、その手に握る力を込め、互いの相手を見据える。

 

そして、ほぼ同時に動き、接近し合う両者。

 

「「はああああああああああああっ!!!!」」

 

互いの咆哮と共に振り下ろされ、ぶつかり合う蒼と紅の剣。

 

ガ、ギギギギギ…………!!!バチィッ……!!

 

互いに押し合う剣と剣のせめぎ合いと、弾け飛ぶ魔力の欠片。
だが、互いに残された時間はあと僅か。

 

「う、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「く、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

握る手に、互いの持てうる全ての力を込める。

 

――そして、

 
 

パキィィィィン……!!!

 
 

砕け散る刃。分散する魔力。

 

その場に残った刃は、

 
 

――蒼の刃。

 
 

砕け散ったのは、紅き刃。
散りばめる刃の破片が、幻想的に映し出す。

 

打ち勝った、この一撃で、勝負が決まる!!
砕いた反動で振り下ろしきれなかった『シュベルトゲベール』を再度振り降ろそうとする。

 

――え……?

 

キラの胸に宿る不安。
振り下ろす先に存在する相手の、アスランの瞳が訴えていた。
あの瞳は、

 

――まだ、諦めていない。

 

どうしてそんな瞳が出来る?君の刃は砕かれたというのに。
この一撃を振り切りさえすれば、僕の勝ちなのに。
そう思っていた、

 
 

――刹那。

 
 

アスランの両手が動いた。

 

その手に握っていた魔力刃はすでに砕け散り、
空白と化したその両の手の平に出現する紅き魔法陣。

 

――まさか

 

その手の平を、キラへと向け、

 

――全ては

 

両手の魔法陣が融合し、

 

――この為の、フェイク……!?

 

一つの大きな魔法陣と変化する。

 
 

『Dual Skylla, Full power Burst!!』

 
 

魔法陣から放たれる紅き砲撃。
勝利の大剣を振り下ろし切る前に、キラはその奔流へと飲み込まれていった。

 
 

「はぁ……はぁ……はぁ……」
突き出した手を力なく降ろすアスラン。
全てを出し切った。もう自分に残された魔力は空っぽに等しい。
これでまだキラが立ち向かって来ようものなら、魔力弾一発で自分は沈むだろう。
だから、全てをこの一発に賭けた。
持てうる全ての力をハルバードへと込める"様に"見せ、キラに近接戦を誘い込ませる作戦。
実際にハルバードへと込めたのは残存魔力の70%。
残りの30%を全てスキュラへと注ぎ込む為に、ぶつかり合う前にイージスへと発動待機させておく。
そして、ハルバードが砕かれた瞬間の、一瞬の隙をついたのだった。
結果、作戦は成功した。
『The communication entered from the Strike.(ストライクから通信が入りました)』
「……?」
『It is a defeat here.(こちらの敗北。と)』
「……そうか」
それを聞いた瞬間、アスランは動き出していた。
その先には、降下していくキラの姿。
そして、海面スレスレの所で、受け止めるアスラン。
見るとバリアジャケットは所々破損していた。だが、これといって目立つ傷もなく、
特に外傷もないのは、アスラン自身が非殺傷設定で戦っていたというのもあるのだろう。
『It is a promised Jewel Seed.(約束のジュエルシードです)』
そして、ストライクからイージスへと渡されるジュエルシード。
「……聞こえているか、時空管理局。勝負はついた。結界を解除してもらいたい」

 

「クロノ君……」
「……仕方ない、結界の解除を」

 

ピシ……、パリィン…………!!

 

音を立てて崩れていく結界。
そしてアスランの前方へと現れるディスプレイ。
その画面に映るのは、黒髪の黒衣に身を包んだ少年だった。
『……初めまして、時空管理局・執務官、クロノ・ハラオウンだ』
「……アスラン・ザラだ」
どうせキラから俺の事は聞いているんだろう。と思ったが、
とりあえず名を名乗っておく。
『……君にはいくつか聞きたいこ』「断る」
間髪入れずにクロノの言葉を返答で遮るアスラン。
『な……!!』
驚くクロノを余所に再度口を開くアスラン。
「……そんな事より、キラを回収してやってくれ」
視線を両腕に支えられている戦った相手へと注ぐ。
『……わかった』
アスランに返答する意思はないと判断したクロノはエイミィへと指示を出す。
そして、光に包まれたキラの身体は消失した。
「……俺を捕縛するのか」
『……いや、それはしない』
あまりにも意外な返事を返すので少し驚くアスラン。
『……キラとの約束だから、な』
「……そうか」
その返事の後に、アスランは公園へと飛び立っていった。

 
 
 

「はぁ……はぁ……はぁ……」
全てのフォトンランサーを撃ちつくしたスフィアは、最初具現した時よりも小さくなっていた。
左手を挙げ、残りのスフィアを集束させ、一つへと集める。
目の前に広がる爆発の煙。風に流されて、徐々に霧散し、縮小していく。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
自分の持てうる最高の魔法を撃った。
回避できないようにライトニングバインドで固定させた。
外れている事はまずない。全弾命中しているはずだ。
少なくとも、無傷では済まない筈……!
晴れていく煙の隙間から見え隠れする桜色の魔法陣。
そして、そこには

 

「いたぁ……」

 

バリアジャケットに身を包んだなのはの姿があった。

 

「撃ち終わると、バインドってのも解けちゃうんだね……今度はこっちの……」
両手でレイジングハートを握り、前方へと構える。
『Divine.』
杖の先に集まる桜色の魔力が球体を形作っていく。
「番だよっ!!」
『Buster.』
ズドンッ!というサウンドと共に発射される桜色の砲撃。

 

「はああああああっ!!!」
左手に浮かぶ集束したスフィアを、迫り来るディバインバスターへと向けて投げる。
だが、接触したバスターに跡形も無く消滅させられる。
「ッ!!」
驚愕に浮かぶフェイト。だが、すぐさま左手をかざし、防御陣を展開する。
そして、接触するバスターとシールド。
その重い砲撃に徐々に後方へと押され始めるフェイト。
(直撃……! でも耐え切る……! あの子だって、耐えたんだから……!!)
苦痛に歪む表情。この一撃がどれだけの魔力が込められているか。
その威力を今身をもって体感している。
シールドで防ぎきれない魔力が、フェイトのバリアジャケットへと侵食していく。
手袋は破け、マントは元々あった長さから短くなり、平行な切れ目が乱雑へと変化する。
そして、ようやく砲撃が終わりを迎えようとしていた。
終わると同時に防御陣も消滅する。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」
息も絶え絶えになり、下を向いているフェイト。
そして、頭上から差し込む淡い光。
「ッ!!!」
目を開き、見上げる空にあるのは、あの子の姿。

 

「受けてみて、ディバインバスターのバリエーション!!」
言葉の後、足元に出現し、広がる桜色の魔法陣。

 

『Starlight Breaker.』

 

展開した魔法陣の中心へと集まっていく魔力。
それは周辺に点在する魔力を集束させ、魔法陣の中心の球体が大きく変化していく。

 

「ッ!!」
あの魔法は危ない。今の疲労しきったフェイトに感じる危機感。だが、
「なっ!!?」
動かない、手も足も。見ると両手足の首に巻きついている桜色のリング。
「バインド!!?」
これではまるでさっき自分がとったのと同じ方法……!

 
 

「これが私の、全力全開っ!!」

 

振り下ろされるレイジングハート。その先にあるのは……集束された巨大な球体。

 
 

「スターライト、ブレイカァ――――――ッ!!!!」

 
 

咆哮と共に共鳴するデバイスと集束された魔力。

 

そして、膨大な魔力が蓄積されたその球体から放たれる、莫大な大きさの砲撃。

 

それは、バインドで動けないフェイトへと降り注がれる。

 

フェイトを貫通するように貫かれた砲撃の魔力が、海へと衝突し、霧散していく。

 
 

「な、なんつー馬鹿魔力……!!」
アースラの管制でモニターを見ていたクロノの感想の一言。
「フェイトちゃん、生きてるかなぁ……!!」
思わずエイミィも安否を心配してしまう。
時空管理局の二人から見ても、スターライトブレイカーの威力はそれほど凄いのだ。

 
 

カシューッと音を立てて排気するレイジングハート。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
息が荒くなっていたなのは。無理も無い、あれだけの集束砲を撃ったのだから。
身体に溜まる疲労も相当のものなのだろう。
そして、ゆっくりと落ちていくフェイト。
気絶しているのか、バルディッシュを握ることすら出来ずに、海へと落ちていく。
「フェイトちゃん!!」
それを追う様に、なのはも海へと潜って行く。
青い深海を沈み行くフェイトとバルディッシュを拾い、太陽の光が差し込む空へと昇っていくなのは。
「……う……ん……」
意識を取り戻したフェイト。うっすらとだが目を開く。
「あ……気付いた? フェイトちゃん」
飛行していたなのはが気付いたと同時に停止する。
「ごめんね……大丈夫?」
「……」
首を少し動かして、返答するフェイト。
差し込む太陽の光が海水に反射し、所々輝いてみえる。

 

「私の……勝ちだよね……」

 

「……そう、みたいだね……」

 

悔しいけど、認めざるを得ない。私は、負けてしまったのだから。
『Put Out.』
バルディッシュから放たれ、空中に浮かび上がるジュエルシード。
「……飛べる?」
その問いに行動で返事をするフェイト、なのはからバルディッシュを受け取る。
向かい合う少女達。

 

こうして、互いのジュエルシードを賭けた戦いは終わりを告げた。