なのはASTRAYS_02話

Last-modified: 2009-08-06 (木) 18:18:01

──世界を安定に導いた三人の若者はその世界を眺め続けました。
何年も何年も世界を眺め続けた若者達は、いつの間にかお爺さんお婆さんになっていました。
それでも彼らは思いました、”もっと永く世界を見続けていたい”と・・・。

 

【研究施設外部】

 

指揮通信車内で局員の指示に当たっていた男”マービー・プロシード”は焦っていた。
今手元にある保有戦力に対して、かなり大規模なガジェットドローンの群れが押し寄せてきているからである。

 

「くっ!第9小隊、被害状況を報告しろ!」
「こちら第9小隊、負傷者多数!増援はまだなのか!?」
「あと十数分で到着するはずだ!なんとか持たせろよ!!」

 

研究施設外部では陸士386部隊の局員達がガジェットと戦い続けている。
しかし、既に満身創痍の彼等と疲れを知らない機械では勝負の行方は目に見えていた。

 

「隊長、大変です!施設内の人物がこちらに向かってきています!!」
「なにっ!魔力も持たない民間人のはずだろ、なにやってんだ!!」
「それが・・。さきほど内部の人物に魔力反応が突然現れ、徐々に大きくなっているんです!
げ、現在推定ランクB+」
「なん・・・だと?」

 

マービーは一瞬オペレーターの言っている事の意味が解らなかった。
そもそも魔法の資質は先天的なもの、つまり生まれてきた瞬間に決まるものなので
”資質がない人間がある日いきなり目覚める”という事は本来ありえないはずである。
(自身の魔力の隠蔽?そんなものは聞いたこともない。
それにそんな事をする必要性も感じられない。
ならばリミッターがかけられていた?それでも”魔力反応無し”はおかしい)
マービーがどんなに考えても、目の前に迫る”有り得ない現象”に対する答えはでなかった。
そんな時、ふと研究施設周辺の魔力の流れがおかしい事に気付いく。

 

「ま・・・さか。 おい、今すぐ施設近辺の大気中の魔力反応を調べろ!」
「──これは!大気中の魔力がどんどん内部の人物に集まっていってます!!」

 

やはり、と洩らしながら顔を顰める指揮官。
(周辺の魔力を吸ってやがる!中にいるのはどんな奴らなんだ)
先ほどまで”保護すべき対象”だった者達はいつの間にか”敵か味方かもわからない
得体の知れない何か”に変わっていた。
そんなマービーの苦悩も知らずに中の人物はどんどん戦闘区域に近づいてくる。
入り口近辺で戦っていた局員”カルタス・パイザー”は、中から出て来たものに驚愕した。
出て来たそれらは確かに”人型”であったが、むしろ人間というよりロボットに近い見た目で、

 

それぞれ赤と青のフレームに白い装甲を付けていた。
敵か味方か判断できない”ソレ”に局員の動きが一瞬止まる。
しかし、その瞬間を見逃さなかったガジェットからレーザーが放たれた。

 

「うわあぁあああ!」

 

ただでさえ満身創痍のカルタスの体は思うように動かず、完全に防御が遅れていた。
カルタスが”直撃する!”と思った瞬間、青い方の機体がカルタスとレーザーとの間にナイフを突き出してきた。
ナイフに当たったレーザーはバシュッ!という音を出しながら進行方向を変え、他のガジェットに直撃する。
レーザーが当たったガジェットが動かなくなるのを確認した青い機体が、カルタスの方を向いて話しかけた。

 

「大丈夫か?」
「あ、あんた達はガジェットの仲間じゃないのか?」
「ガジェット?この機械どもの名前か?」

 

劾の質問にカルタスは頷く。

 

「仲間では無い。むしろお前達の援護に来た」
「何者なんだ、あんた達は!?」
「フッ!通りすがりの傭兵とジャンク屋だ」

 

先ほどレーザーを放ったガジェットが仲間を呼んだのか、
6機のガジェットが劾達に向かってレーザーを一斉砲撃した。
劾は両手にナイフを構えると、自身やカルタスに当たる軌道のレーザーだけを
ナイフで反射しながら後部のブースターを吹かせて距離を詰める。

 

「ベクトル変化は上手くいっているようだな」
『The problem is not in the waste energy(廃熱も問題ありません)』

 

確認するように言って、劾はあえて囲まれるような形でガジェットの群れに突入すると
、同士討ちを避けるためにガジェットの砲撃がピタリと止んだ。
ガジェットは砲撃の代わりとして近づいてきた劾に触手を伸ばそうとするが、
劾はそれよりも早くガジェットのど真ん中にナイフを突き立てる。
ガジェットが停止するのを確認しつつ、近くにいた別のガジェットにも次々と肉迫し、ナイフを刺していく。
完全に機能を停止したガジェットたちは、ホバー能力も失われて地上に転がった。

 

「・・・すごい」

 

感嘆の声を洩らすカルタスにロウが近づいてきた。

 

「よう、にいちゃん!大丈夫だったか!?」
「ああ、お蔭で助かった。
あんた達はよくガジェットとやりあうのか?」

 

「いいや、今回がはじめてだ」
「は!?」

 

ロウが負傷したカルタスと話していると、その足元に劾が倒したガジェットから取り外した武装を放ってきた。

 

「そのパーツはまだ使えそうだ。収納しておいてくれ」
「なるほど、小型ミサイルにバズーカね・・・。オッケー!」

 

レッドフレームが頭部のセンサー部分から緑色の光を放ち、武装を収納した。

 

『収納完了!』
「よし!ちゃっちゃと片付けるか。
あんたは一旦下がって回復してくれ」

 

提案するロウに対し、カルタスは食い下がる。

 

「いや、しかし!あんた達は民間人だろ!?」
「まぁ戦闘は元の世界でもちょくちょくあったし、なんとかなるさ。
それよりもあんたは本部に行って俺達のことを報告してきてくれよ。
後ろから撃たれたくは無いしな!」
「・・・・・わかった。無茶はするなよ」

 

カルタスは自身に戦闘力が殆ど残っていない事を考えて、渋々ロウの提案に頷く。
たのむぜ!と笑いながら話すロウに背を向け、カルタスは急いで指揮通信車に向かった。

 

「さて、それじゃぁ一暴れするか!」
『魔力残量は十分ある!思いっきり行け!』

 

ロウは先ほど作った刀を両手で構えた。
そして、近づいてくるガジェットに狙いをつけると、一旦目を閉じて神経を集中させ

 

「はぁぁぁぁ、・・・はっ!」

 

目をカッと開き、一気に後部バーニアを吹かせ、すれ違いざまにガジェットを一刀両断した。
真っ二つになったガジェットを見つめながらも、ロウは作った刀の切れ味に違和感を覚える。
今の斬撃は普段ロウがガーベラストレートで行っている”刀の鋭さで斬る”というよりは
C.E.初期のモビルスーツであるジンに装備されていた重斬刀による”刀の重さで斬る”という感覚に近かった。
しかし確認する暇を与えないかのように、次々にガジェットが襲いかかってくる。
迫り来る触手を刀で弾き、ロウはガジェットに向かって容赦の無い蹴りを放つ。
よろけたガジェットはロウに攻撃しようと向き直るが、そこにレッドフレームの姿は既に無かった。

 

「せいやぁ!」

 

蹴りを放った直後に真上に跳んでいたロウは、落下の勢いをそのままに、縦にガジェットを斬りつけた。
ガジェットの内部で火花が散り、小さな爆発と共にただの残骸となったそれが地面に転がる。

 

さらに刀を振り下ろしきったロウの隙を突こうとするガジェットを文字通り返す刀で斬りつけた。
斜めに一閃されたガジェットは機能を停止したが、休む間もなく今度は三つのレーザーがレッドフレームに降り注ぐ。
ロウは後退しながら腰の後ろに装備してあるライフルを咄嗟に構え、引き金をひいた。
しかしライフルからは何も発射されず、ガジェットの放つレーザーがレッドフレームの肩を掠める。

 

『何やってんだ阿呆!!』
「いつもの癖でつい・・・」
『そいつはただの飾りだってさっき言っただろ!』
「解ってるって!」

 

ロウはライフルを腰の後ろにマウントし直すと、ちょうど縦に並んだガジェット三機を刀で一気に突き刺した。
突き刺したガジェットが爆発するのと同時に、刀からピシッと音がしたがロウと8はそれに気付かなかった。
彼らが近くにいた敵を片付けて一息つき周りを見渡すが、まだ30機近いガジェットが動いている。
その一角では劾が次々とガジェットにナイフを突き刺していたが、その彼は戦っている最中に一つの疑問を覚えていた。
(魔導師が介入してくるにせよ、ここの研究施設を落とすには十分過ぎる戦力・・・。
それだけの物がここにはあるのか?いや、それは無い。
あったのはこのデバイスのコアのみ、他の研究室には何も残っていなった。
ならこのコアが狙われて?それならば研究所ではなく俺達を狙ってくるはずだ)
規模はどうあれ武器や兵器を使う戦いには金が掛かる。
傭兵の劾にはそれが痛いほどよく解っていた。
それ故に劾は考える。
敵の目的を。
この戦いの意味を。
そして──、劾は一つの仮定に辿りついた。
(転送ポイントか!)
少なくとも劾達が使ったゲートの転送履歴は第4研究室だけだった。
(この世界と俺達の世界を繋いだことがある場所は、他にそうそうあるとは思えん。
ならば転送ポイントを一つでも潰せばそれだけ後続のリスクが少なくなる、と・・・)

 

「っ!」

 

考え事をしていた劾だが、敵の動きが少しづつ変化していってることに気付き思考を一旦ストップさせる。
先ほどまでは固定砲台のように動かずに射撃、敵が近づいてきたら自身も近づき触手で攻撃という戦闘スタイルをとっていたガジェットだが、
そのパターンが常に一定の距離を保つように動きながら射撃し続けるという戦法に変わりつつあった。
現在、両フレームには接近戦用の武器しか装備されていないので、距離を開けられると相手を倒す方法がなくなってしまう。
特にレッドフレームはブルーフレームの様に攻撃のベクトル変化機能がついていないので完全に何もできなくなる。
敵の動きに苛立ちを隠し切れなくなったロウが叫んだ。

 

「こいつら、ちょこまかと!!」

 

『フルブーストで行くぞ!』

 

レッドフレームの背部から大量の魔力が噴射され、爆発的に加速する。
ロウはそのまま一気に接近し反応が遅れたガジェットに対して容赦なく刀を叩きつけた。

 

『「!!」』

 

ガジェットが両断されるのを予想していたロウ達だが、その予想は大きく外れてしまう。
衝撃に耐えられなかった刀の方が、キィンという音と共に折れてしまったのである。

 

「ちっ!やっぱり折れやがったか!?」
『強度に問題があることは把握していたが・・・マズイぞ!!』

 

ロウと8はこの刀を作ったときに強度や切れ味に問題があることは承知していたが、まさかこんなにも早く使えなくなるとは思っていなかった。
使える武器が無くなったレッドフレームに対して、ガジェットのレーザーが容赦なく降り注ぐ。
ロウはそれをなんとか回避しながら次の手を考えるが、武器がない現状ではどうしようもない。
一方では、劾もガジェットとの距離が詰められずに苦戦していた。
ブルーフレームに装備されているナイフは敵の懐に入らなければ効果は発揮されず、敵も黙って懐に入らせるような事はしなかった。
ガジェットもブルーフレームがナイフでレーザーを反射してくるのを学習したのか、
レーザーによる攻撃から小型ミサイルやバズーカによる攻撃に切り替えている。
流石のベクトル変化能力も爆発による他方向への衝撃には対応できない。
徐々に追い込まれていく二人は、一旦合流して対策を練ろうとする。

 

「どうする、劾!?」
「打つ手がないな。サーペントテール、何か手はないか?」
『It might be difficult to break down the current state.
but there is a scheme.
(現状を打破するのは難しいです。しかし打つ手はあります)』
「・・・その方法とは?」
『It requests it from her though it is not possible to say in detail.
(詳しくは話せませんが”彼女”に依頼します)』
「「彼女に・・・依頼?」」

 

サーペントテールの言葉にロウと劾は首を傾げる。

 

『I am sorry, a story cannot be told in detail.
However, the new features included can be added to red and blue frame if going well.
(申し訳ありませんが詳しくはお話できません。
 しかし、上手くいけばレッドフレームとブルーフレームに新機能を追加できます)』
「新機能の追加か・・・。面白そうだな!」
『おいおい、喜んでいる場合じゃないぞ!?』
「今はこれに頼るしかないか・・・。サーペントテール、やってくれ」
『Consent.
(了解)
wird vorübergehend Frost des Kontrollcharakters des Hauptkörpers abgesagt.
rufe dafür, über die Angriffsmagie zu berichten.
Die Erlaubnis.
(本体及び管制人格の凍結を一時的に解除。
 攻撃魔法の情報提供を依頼。承諾)
The selection of the arms material begins.
Uniting and synchronization begin.
…Additional arms Completion.
(武器素材の選定を確認。同期化と結合を開始。・・・兵装の追加が完了しました)』

 

どこかに通信をしていたサーペントテールは完了を知らせる電子音と同時に、レッドフレームとブルーフレームに膨大な量のデータを流してゆく。
そして、両フレームの腰にマウントされているライフルの模造品や、元の機体では背中についていたビームサーベルにあたる部分が激しく光りだした。
光が辺りを包み込むことで一瞬ガジェット達は目標を見失い、数秒間の沈黙が場を支配する。
徐々に光が晴れてきた瞬間、一機のガジェットを緑色の光線が貫いた。
今までの敵の戦闘方法からはありえない光景に、ガジェットたちの思考回路が一瞬停止する。
それを見逃さないレッドフレームとブルーフレームのライフルから緑色の光線が連続で発射された。
光線は吸い込まれるようにしてガジェットに直撃し、一撃で破壊してゆく。

 

「すげーな!このライフル」
「多重弾殻魔力砲か・・・。なかなか便利だな」
『これならガジェットのバリアも効かないしな!
しかし魔力は結構消費するから無駄撃ちするなよ!!』

 

先ほどまで劣勢だったのが嘘のように次々とガジェットを破壊していく二人。
ガジェットも応戦しようとはするが、二人の動きに付いていけずに攻撃は空を切るばかりだった。
気が付けば二人を囲んでいたガジェットは一機残らずジャンクと化していた。
遠くにいたガジェットも次々と後退を始めている。

 

「勝った・・・のか?」
「少なくとも近辺の敵の反応は全て消滅したな」
「よし、ならさっきのにいちゃんと合流するか!」

 

劾はそうだな、と相槌を打ちながら手元にあるライフルを眺めた。
(これほどの武装を一瞬で設定するとは・・・。
サーペントテールには無視できないレベルの秘密がありそうだな)
劾がサーペントテールに話しかけようとしたとき、劾の考えを察したかのようにサーペントテールは言った。

 

『Mr. I think your question is, however, please believe me now.
(劾、貴方の疑問はもっともですが、今は私を信じてください)』
「・・・了解した」

 

完全に出鼻を挫かれた劾は、心に引っかかるものを感じながらも了承せざるをえなかった。

 

「お~い、いくぞー!」

 

劾は離れた所で手を振っているロウに相槌を打ちながらその場を後にした。

 

【指揮通信車付近】

 

 劾に助けられたカルタスは焦っていた。
自身が消耗しきっていたとはいえ、ガジェットとの戦いを素人である二人の民間人に現場を任せてしまったのである。
(本来なら守るべき対象である民間人に・・・。俺はっ!)
仮設されたテント内で回復魔法を受けながら、一刻も早く現場に戻ろうとはするものの、未だに体は思うように動かなかった。

 

「お前はよく戦ってたよ。少し落ち着け・・・」

 

回復魔法をかけていた初老の局員は、今にも飛び出していきそうな後輩をなだめている。
実際、本人を含めて今回出動できた魔導師の殆どが若手であったが、その中でも彼はよく戦っていた。
しかし、実戦経験が余りにも少なかったうえ、AMFを破る術を殆ど持たないが故に追い詰められてしまったのである。

 

「くそっ!もっと俺に力があれば・・・」
「余り急ぎすぎるな。焦りは時として身を滅ぼしかねないぞ」
「しかしっ・・・!」
「お前はまだ若い。これからもっと強くなれるさ」
「・・・はい」

 

落ち着きを取り戻したカルタスは戦闘区域の方向を向く。
(たのむぞ。無事でいてくれ!)
強い眼差しで森の影から覗く研究施設を見ていると、突然真後ろから声がかけられた。

 

「よう、にいちゃん体はだいじょぶか?」
「ぅぉわあ!!」

 

完全に不意を突かれたカルタスは素っ頓狂な声をあげてしまった。
まさか自分の心配していた男が戦闘区域の反対側から現れるとは思わなかったのである。

 

「あんたは!なんで後ろから現れるんだよ!!
ってか声からして、さっき出会った赤と白のロボットの人だよな!?」
「そういえばバリアジャケットが無い状態で会うのは初めてだったっけ?
いや~、迷っちまってな。迂回しちまったらしい・・・」
『人がせっかくルート表示してやったのに!』
「目のすぐ近くで表示されるから見づらいんだよ!」
『フム、要改良だな・・・』

 

目の前でコントを繰り広げる一人と、その手に握られたアタッシュケース状の一機?に半ばあきれながら、カルタスは自分達がまだ彼らの名前も知らないことに気付く。

 

「そういえば自己紹介がまだだったな。カルタス・パイザーだ。」
「俺はロウ、青いのに入ってたのが劾だ。それとこいつが・・・」

 

ロウは8のディスプレイ部分をカルタスに見せるようにして自己紹介を促す。
『私の名前は8だ!よろしくな』
「俺の相棒兼デバイスってとこだ」
「デバイスっていうとさっきの全身を覆ってた鎧のことか?」
「おう!」
『こちらのデバイスは見たことが無いが、性能は引けを取らないつもりだ』

 

そうこう話しているうちにカルタスはふと疑問を感じた。

 

「とにかく無事でよかった。もう一人はどうしたんだ?」
「このキャンプが管理局のか敵のか判らなかったから、少し離れた所からライフルで狙ってる」
「いますぐ止めてくれ!!!」

 

予想斜め上を行くロウの発言に先ほどとは別の焦りを感じながらも、男は二人が無事であった事に内心ホッとしていた。
そうして劾と合流し、部隊の指揮官であるマービーに会うことになり、カルタスは二人を指揮通信車に案内する。
指揮通信車から出てきたマービーは軽い挨拶を済ませると、突然ロウと劾に頭を下げた。
突然の出来事に三人は一瞬たじろぐが、三人が何かを言う前に指揮官が口を開いた。

 

「申し訳ございませんでした!!」

 

ロウと劾はマービーが何のことを言っているのか、すぐに理解する。

 

「いいってことよ。皆無事だったんだしな!」
「しかし・・・。
我々管理局の人間は、本来あなた方のような民間人を守るために存在しているというのに!
しかも人手不足とはいえ、出動が遅れ、大した戦力も派遣できなかった事は弁明のしようもあり
ません!」
「むしろ俺達の方が戦局を混乱させてなかったか?」

 

劾が戦闘中にも少し考えてた事を聞くと、今度はカルタスが答えた。

 

「とんでもない!あんた達が来なかったら、俺は今頃瓦礫の下だよ」
「それに、あの混乱があったからこそ我々も上手く立ち回れました」

 

直属の局員をフォローする指揮官に劾はそうか、と相槌をうつ。
そして互いに事情と現状の情報交換をしようとすると、マービーが首から下げていたインカムに通信が入った。

 

『こちら航空14部隊シグナム副隊長とテスタロッサ・ハラオウン執務官、間もなく戦闘区域に到着
します』
「すまないが色々と事情が変わった。
とりあえず指揮通信車付近に降りてもらえるか?」
『了解しました』

 

マービーはふぅ、とため息をつくと誰にも聞こえないくらい小さな声で「忘れてた」と呟いた。

 

状況が掴めないロウと劾はマービーに尋ねようとするが、それよりも早く紫と黄色の二つの光が自分達に向かって飛んでくるのに気付いた。

 

「あれは飛行魔法か・・・。この目で見るのは初めてだな」
「思ってたより速いな!」

 

二人の感想にマービーとカルタスは違和感を覚えながら、降りてくるシグナムとフェイトを出迎えた。

 

「私が代理で現場の指揮を執っている、マービー・プロシードだ」
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官と・・」
「航空14部隊のシグナム副隊長です」
「早速ですが、詳しい戦況等をお聞きしたいのですが──」

 

フェイトと名乗ったロウと同じかそれ以下位の年に見える金髪の女性がマービーに質問する。

 

「とりあえずガジェットは7割以上を撃墜、残りは撤退した」 

 

予想外のマービーの答えにフェイトとシグナムは顔を見合わせる。
そして、マービーの斜め後ろに立っていたロウと劾の存在に気付いた。

 

「えっ・・・と、そちらが保護した民間人の方ですか?」
「保護した、と言うには御幣が生じるな」
「歯切れが悪い言い方ですね」

 

どう説明しようか迷っているマービーの物言いに、薄紫色の髪に鋭い目つきのシグナムが不機嫌そうな顔つきで見据える。
見かねたロウが、自分達の目的も含めて説明し始めた。

 

自分達が違う世界から来たこと。
不破士郎という人を探していること。
来て早々外で戦闘が起きていたのでデバイスを作って加勢したこと。
──etc。
最初の内は半信半疑で聞いていたフェイトとシグナムだったが、所々にフォローを入れるカルタスの様子や、
実際にガジェットを破壊している二人の映像からこの話が真実であると実感したようだった。
ロウが話し終わりフェイトやシグナムが今後の事を考え始めたころ、マービーが先ほど感じた違和感の正体に気付いた。

 

「まさか、まさかとは思うがあんた等、魔法の初心者なんかじゃないよな?」
「はっはっは、そんなまさ「今日始めて使った」」

 

マービーの疑問を笑い飛ばそうとするカルタスの言葉は、劾の一言で遮られた。
一瞬の後、その場にいた管理局に所属する人間たちの視線がロウと劾に降り注ぐ。

 

「え・・・。いや、確かに前例が無いわけではないけど・・・」
「そうだな。少なくとも私たちは二件知っているが」
「まぁ、そもそも俺らの世界は魔法文化が発達してないからあたりまえなんだけどな!」

 

身近な前例を思い出して落ち着きを取り戻すシグナムとフェイトだったが、そのあとのロウの言葉に凍りつく。

 

「えっと・・・、確認なんですけど、貴方は小一時間ほど前にデバイスを作り上げたんですよね?」
「おうっ!」
「その技術はどこから?」
「向こうにいる俺の仲間が昔こっちで魔導師をやってたらしくて、その人に教わったんだ」
「高性能デバイスを作れる魔導師・・・」

 

ロウが作ったデバイスは、時空管理局の中でも未だに研究中の部類にはいる大気中の魔力を収集し自分の物として扱う機能を備えていた。
フェイトが知っている限り、こんなものを短時間で設計、作成にいたる”魔導師”は存在しない。
ならばその技術を教えた者はいったいどんな人間なのだろうか。
フェイトは一瞬シグナムに目配りするとロウと劾の方を向いて告げる。

 

「話を聞く限り私達がここで事情聴取、そのまま解散という訳にはいきそうに無いですね。
できれば少し落ち着いた所で、もう少し詳しい話を伺いたいのですが・・・」
「俺は構わないが・・。劾はどうだ?」
「構わない」
「ありがとうございます。それでは早速──」
「ああ!わりーがその前に研究室に置いてきた荷物取りにいっていいか?」
「解りました。一応現場を見ておきたいので私も同行しますね」

 

フェイトはそう言うと、ロウと一緒に研究施設へ向かっていった。
二人が歩いて行くのを見届けたシグナムは、この場で待っている劾に話しかけた。

 

「お前は行かなくていいのか?」
「ああ」
「そうか」

 

基本的にそんなに喋らない二人の言葉のキャッチボールは、余りにも短かった。

 

【研究施設廊下】

 

 ロウが第4研究室の片隅に置いてあった荷物を纏めている間、フェイトは研究施設を調べていた。
3、4体分のガジェットの破片が散らばっている辺りが、先ほどのロウの話を裏付けている。
そしてもう一つ、彼女には確かめたいことがあった。

 

「確か第2研究室だったよね。バルディッシュ」
『yes』

 

彼女は第2研究室に入り、辺りを見渡す。
そして彼女は割れたデバイス調整用のカプセルを前にして、自分が求めていた答えに辿り着いた。

 

「やっぱり、バルディッシュはここで生まれたんだね」
『It is so.(そのようです)』

 

フェイトの幼少時、時の庭園がこの研究所のすぐ近くに泊まっていた頃に世話をしてくれていた、
フェイトにとってとても大切な人”リニス”が残していってくれたバルディッシュが作られた場所。
フェイトはとても優しい目をしながらそのカプセルを眺めていたが、すぐ横に落ちていた一枚のデータディスクに気がついた。
拾ったディスクはかなり昔の物な上に規格競争に負けた型だったのでで、現在はプレイヤー自体も希少で手に入りにくくなっている。
(もしかしたらこの研究所の管理者などの情報が載っているかもしれない)
そんなこと考えてディスクを持ち出し第4研究室へと向かったフェイトを、荷物の整理を終えたロウが出迎えた。

 

「よう、そっちの用事はおわったのか?」
「はい、待っていてくださってありがとうございました」
「いいってことよ」

 

満面の笑みで迎えるロウにフェイトも釣られて微笑む。
そして、二人がその場を離れようとした瞬間、フェイトは自分達の頭上にかなり大きい魔力反応を感じ取った。
(これは・・・、転移魔法!?)

 

「ロウさん!すぐにここを離れてください!!」
「あ、ああ!」

 

フェイトに従い、ロウは速やかに部屋から離れる。
それを確認したフェイトもすぐにその場を離れた。
次の瞬間、白く機械的なデザインの鞘に収まった長さ10メートルはあろう巨剣が部屋のドアと壁を突き破って現れた。
あっけに取られるフェイトとは対称的に、ロウはなにやら笑っている。

 

「お前もこっちに来たか!ガーベラストレート」
「あ、あなたの知っている物ですか??」
「元の世界で俺が使ってた刀さ」

 

そう言いながらロウは出てきた巨剣をデバイスの大型収納スペースにしまいこむ。
現場に到着してから立て続けに、声を上げて驚いたり間抜けな顔でポカンとしていたフェイトは
今更になって恥ずかしさに顔を赤く染め上げ、コホンと小さく咳払いすると執務官としての体面
を取り繕うかのように真面目な顔で、「では、参りましょう」と告げた。

 

【研究施設上空】

 

 暫くして戦闘区域付近から人の気配が無くなると、研究施設の上空にこの世界では珍しく
レッドフレーム等に似通ったデザインの装甲を全身に纏った者が現れた。
ソレは移動や転移してきたわけではなく、唐突に姿を現したのである。

 

「やれやれ、一時はどうなるかと思ったが。
流石はサーペントテールのエースと宇宙一のジャンク屋ってところだな。
俺の出る幕は無かったってわけだ」

 

男が言いながら戦闘区域を見渡していると唐突に通信が入り、目の前に紫色の髪にオレンジ色の瞳をした男が写った。

 

『やぁ、面倒なことを頼んで悪かったね。』
「いや、こちらも面白いもんが見れた。詳しくは帰ったら報告するさ」
『ほう・・・、それは楽しみだ。
老人達が送り込んだガジェット達はどうなったかい?』
「こっちの世界に飛んできたばかりの俺の知り合いが全部処理した。
ゆりかごに配備されていた型も含めてな。
結果的にだが、あの世界から繋がる転送ポイントも潰れたぞ」
『・・・』
「あいつ等はあんたが望んでる様な奴等じゃ無ければ、危惧しているような奴等でもねーさ」
『・・・それは良かった』
「あぁ、ただ第4研究室に残っていた研究試料とデバイスの素体は持ってかれちまったみたいだ」
『無意味に広い収納スペースと中途半端な反射機能か、遊びで作ったものだから惜しくはないさ』
「ならいい。今からそっちに帰るぞ?」
『迎えを遣さなくても大丈夫かな?』
「こっちに来て日が浅いといっても自分が世話になってるアジトにくらい帰れるさ」
『なら帰ってくるときにケーキを2ホールほど買ってきてくれたまえ。娘達が喜ぶのでね・・・』
「いきなりハードルを上げるな、辺りは森しかないんだぞ!」
『冗談はさておき、気をつけて戻って来てくれたまえ』
「わかったわかった。ケーキのことも善処するさ。
・・・さて、それじゃ通信を切るぞ?ドクター」

 

そう言って通信を切ると、鎧に包まれた男は始めからそこに居なかったかのようにまた姿を消してしまった。

 

【陸士386部隊 駐車場】

 

 ジープに似た軍用四輪駆動車が、まるで中古の車屋の様に並んでいる駐車場の一角に、
他の車とは一線を画した黒塗りの二人乗りスポーツカーが停まっている。
フェイトが「少しの間ここで待っていてください」と残して隊舎内へと入っていってから7,8分が
経ったころ、沈黙していたシグナムが口を開いた。

 

「待たせてばかりですまんな」
「いいってことよ。流石にいきなりこっちの世界に来てからやり過ぎたとは思っているし・・・」
「軍に所属する以上、なにかと事務的なものがついて回るのだろう?」
「その通りだが一つだけ訂正させてもらおう、時空管理局は軍ではない」
「そうだったな、すまない」
「いや・・・」

 

丁度会話が途切れたころ、隊舎の入り口からフェイトが走ってきた。

 

「おまたせしました。これから首都、グラナガンへ向かいます」
「おう!」

 

三人の後ろにあるスポーツカーに乗り込んだフェイトが空間に表示されるパネルを操作すると、
スポーツカーのトランクに当たる部分が一瞬でシートに変わる。
ロウと劾は、そのできたばかりの後部座席に乗りこみ、シグナムは助手席に座った。
車はゆっくりと発進し、フェイトがシフトレバーを操作するのと同時に速度を上げていく。

 

「この車も魔法の技術が使われてんのか?」
「ええ。技術系のモノに興味が?」
「向こうではジャンク屋やってたしな」
「ジャンク屋?」
「まぁ、修理屋みたいなもんだ!」
「向こうに着いたら車のカタログや雑誌で良ければさしあげますよ?」
「まじか!こっちのメカにも興味あったんだよ」

 

そう言うロウの目はキラキラと輝いて見えた。
フェイトがそんなロウを見てクスクスと笑っていると、隣のシグナムがあきれたように言う。

 

「テスタロッサの部屋には車の雑誌が入りきらないほどあるからな」
「い、いいじゃないですか。この子もスマートでかっこいいし・・・。
首都では人気のモデルなんですよ!?」
「それにしても仕事にスポーツカータイプは、な」
「ちゃんと屋根もつきます!それにこの辺は空気がおいしいので・・」
「わかったわかった」

 

やれやれ、といった感じにシグナムは小さくため息をつく。
そうやって道中とりとめのない話をしながら数時間、首都グラナガンの時空管理局地上本部についたころにはもう日も落ちていた。
既に相当の距離を移動してきたはずだが、さらに二人は地上本部の転送ポートから、一見何処かの施設の一室と思われる場所に連れてこられた。

 

「あ~、どこまで行くんだ?」
「この通路の先の部屋です」

 

異世界に飛んできた初日からかなりハードな移動を強いられたロウは、
最初の内は目新しい技術にはしゃいでいたが、日が落ちていくにつれてゲンナリしていく。
劾も言葉や顔には出さないものの、安全かどうかもわからない見知らぬ土地での長距離移動には参っていた。

 

「いろいろと引っ掻き回してすみません」
「ところで此処は何処なんだ?」
「XV級艦船”クラウディア”の艦長室です」
「艦船って船だよな?俺達いつの間に乗ったんだ??」
「本局の転送ポートで説明しませんでしたっけ?」
『こいつはあっちこっちフラフラして聞いてなかったぞ』

 

8があきれた様に説明すると、フェイトは苦笑いをしながらもう一度説明した。

 

「そちらの用件やこちらの質問などのお話は艦船クラウディアにて、艦長のクロノ・ハラオウン立会いのもとにお聞きします。
そちらのほうが何かと融通が利きやすいもので・・・」
「ハラオウンてことはフェイトの親戚か?」
「あ、えっと・・・クロノは兄に当たります」

 

話をしていると、艦長室のドアが開く。
ロウや劾、フェイトですらクロノが来たと思ったが、そこにいたのはシグナムを除く三人にとって意外な人物だった。
フェイトよりも頭半分くらい小さく、茶色で短髪の女性が立っている。
女性を見たフェイトはびっくりしたように女性の名を呼んだ。

 

「はやて!!」
「ひさしぶりやな、フェイトちゃん」
「どうしてここにいるの?」
「主は機動六課のことでハラオウン提督との会談があってな。
車内で連絡を入れたところ自分もいく、とな」
(気になることもあるしな・・・)
「ん?知り合いなのか?」

 

ロウが質問すると、フェイトとはやては我に返りロウに挨拶した。

 

「はじめまして、時空管理局特別捜査官、八神はやて二等陸佐です。
フェイトちゃんとは幼なじみな関係です」
「俺はロウ、こっちは劾、んでこいつが8だ」
「よろしく頼む」『よろしくな!』
「みんな集まってるようだな」

 

自己紹介をしていると、いつの間にかはやての後ろに長身で黒髪の男が立っていた。

 

「時空管理局次元航空部隊XV級艦船クラウディア艦長のクロノ・ハラオウン提督だ」
「長いからクロノ提督でいいか?」
「クロノでいいさ」

 

クロノは笑いながら自己紹介を済ませ、はやてと共に入室する。

 

「では早速お話を伺いたいのだが、二人はどこまで聞いた?」
「私達はこちらの世界に来た経緯と目的」
「それと、こちらでの戦闘のいきさつですね」
「そうか、なら重複する所もあるだろうが、もう一度説明していただけますか?」
「おう」

 

ロウが今までの経緯を話すと管理局所属の人間、特にクロノとはやての顔が見る見る険しくなってゆく。
聞き終えたフェイト達を代表して、クロノがロウに意見を述べた。

 

「大体の事情は解りました。
ただ我々、少なくとも私はC.E.という年号の世界を聞いたことがない」
「そうなのか?」

 

ロウが他の面子を見回すと、皆首を縦に振る。

 

「時空管理局が把握している次元世界は、およそ8割とされている。
残りの2割は大抵文化レベルD、つまり人が住んでない様な場所だ。
しかし、ロウさんのはな「ロウでいいぜ」・・・ロウの話しによれば文化レベルはB+でもお釣りがくるほどだ。
しかもそれでいて魔法文化無しというのも俄かには信じがたい」
「俺達の与り知らない所で魔法が使われていた可能性は?」

 

劾が懸念していた事を質問すると、少しの間をおいてクロノが答えた。

 

「無いとは言い切れないが、その可能性は低いだろう。
特にその・・・、戦争のような大きな戦いがあったとなれば、その力を戦いに使おうとする輩はどこにでもいる」
「・・・確かにな」

 

劾は連合軍によって生み出された戦闘用コーディネイターやエクステンドを思い出して顔を顰める。
それに気付いたクロノは、自分の迂闊さに自己嫌悪した。

 

「すまない、嫌なことを思い出させたか?」
「いや・・・、これも俺達の世界の事実だ。
今更事実から逃げた所で何も変わらない」
「・・・君は強いんだな」

 

クロノは小さく溜め息をつくと話を戻した。

 

「とにかく、管理局のデータベースにも無い世界となると、君達が帰るときに送り届けることもできない」
「──つまり、俺達は今、帰れないってことか?」
「残念ながら・・・、そうなるな」
「う~ん、さすがにそれは困るな」
「勿論、C.E.の世界の捜索はするつもりだが、早くても数ヶ月は掛かると思う」
「まぁ、ここでグチグチ言ってても見つからないしな!捜索の件、よろしく頼むぜ♪」
「見つからないと決まったわけでもないしな」

 

二人の言葉にクロノを含め、その場にいた者は驚愕した。
普通の人間なら、自分の世界に返れないと聞けば絶望したり憤怒するだろう。
しかし目の前にいるこの二人は、どこまでも前向きである。
そんな二人に抱いた皆の印象は、”この人たちはとても強い”であった。

 

「それと、あなた方の要望なんですが・・・」
「難しいか?」
「不破・・・士郎さんですか。
正直言って30年以上も前の人物となると、見つけるのは至難を極めると思います。
せめて出身世界でも判れば・・・・」
「ああ、それなら多分”第97管理外世界”だ」
「「「「ええっ!!」」」」

 

身を乗り出して驚く4人に、ロウは椅子からずり落ちそうになる。

 

「ど、どうかしたか?」
「第97管理外世界は、私達が一時期住んでいた処だよ」
「えらい懐かしいなぁ」

 

フェイトとはやての言葉に今度はロウ驚いた。

 

「そうだったのか!すごい偶然だな!!」
「偶然にしては出来過ぎているな」
『さすがは宇宙一の悪運・・・で済ませていいのか?』

 

一気に捜索範囲が狭まったことにより、期間のほうも一月もあれば十分とのことだった。
ロウはよろしくたのむと軽く頭を下げ、クロノはそれを承諾する。
そして話題はロウと劾のこれからの処遇になり、クロノが候補をあげる。

 

「最終的に君達は、自分達の世界へ帰還する事を望んでいる。
ここは問題ないね?」
「おう」「ああ」
「その上での選択肢なんだが、一つは世界が見つかるまでの間、専用の施設で待機する事。
行動制限はあるし所持品にも規制が掛かるが、もちろん費用は掛からないし衣食住も保障される。
もう一つは、ミッドチルダに一時的に帰化する事。
こちらの場合は行動制限は一切無いが、資金面は自分達でどうにかしなければならない。
と言っても最初の内は生活補助は出るし、就職先も管理局が責任を持って斡旋する」
「う~ん、どうする?劾」
「ふむ・・・」
「正直、不破士郎も俺達の世界も見つかるまで何もしないのは気が引けるし・・・」
「折角のデバイスを無駄にしたくはないな・・・」
『行動を制限されるのは御免だ!』
『me too』

 

二人は顔を見合わせると

 

「という訳で、ミッドチルダに一時的に帰化させてもらうぜ!」
「わかった。根回しは任せてもらおう」
「助かる」

 

クロノとロウ、劾ががっちりと握手をする。
この瞬間はやての目が光り、すごい勢いで身を乗り出した。

 

「─それなら、ええ斡旋先があるんよ!」
「は、はやて? ・・・まさか!」

 

「そう、来月設立する”古代遺物管理部機動六課”の特別戦闘教育員とメカニックアドバイザー」
「確かに忙しくなりそうだから、もう一人くらい欲しいなって話はしてたけど・・・」
「そやろ?実際フェイトちゃんは外回りで忙殺されかねないしなぁ。
それに二人の手腕は既に実証済みや!」
「でも本人達の希望も「俺は構わないぜ」「ああ」・・・ならいいんだけど」
「ほんなら決まりやな!正直、 これだけの能力を他の課に取られたないし」
(今はどこも人手不足なんで助かるわぁ)
「主はやて・・・。本音と建前が逆になってます」
「まぁ細かいことは置いといて・・・。ロウ・ギュールさん、叢雲・劾さん。
機動六課はあなた方を歓迎します。といっても、まだ始動してないんやけどな」

 

はやては笑顔でそう言い、手をポンと打ち鳴らす。
それに連動して誰かのお腹がグ~となった。
フェイトは少し困ったように笑いながら

 

「そういえば夕食、まだだったね。
話も纏まったようだし、クラウディアの食堂に移動しようか」
「あぁ、悪いがはやてとシグナムは居残ってくれ。」
「わかりました」「了解です」

 

艦長室から、ロウ、劾、フェイトが退室してから暫くの沈黙が続く。
最初に口を開いたのは、はやてだった。

 

「シグナム、こっちに来る直前に転送されたっていう巨剣の話・・・」
「はい。大きさは約15mの太刀・・・所有者、製作者はロウで元の世界で使っていたと言ってました。
それに先程のロウの話、モビルスーツの情報を加味すれば信憑性はあります」
「──やっぱり、騎士カリムの予言に通じる所が多いなぁ」
「もしかしたら、あの二人は世界を守る鍵になってくれるのかもしれないな」

 

C.E.から世界を越えてミッドチルダにやってきた二人の男。
赤いフレームに装甲を纏い戦うジャンク屋、ロウ・ギュール。
青いフレームに装甲を纏い戦う傭兵、叢雲・劾。
彼らはこの世界で何を見て、誰と出会い、そして何を成し遂げるのか。
その答えは誰にも解らない。
そう、C.E.を作った者達にさえも・・・。

 

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