アム種_134_061話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:53:58

第六十一話 Reason



 基地内に鳴り響く警報に、彼女は顔をあげた。

 眼前には屹立する、テストと調整を任された新型があった。



「……?何事です?」

「あ、ハーネンフースさん」

「敵、ってわけでもないでしょう?」



 通った整備兵に聞きながらも一瞬、考えないでもなかった。



 今この基地には、ザフト最新鋭の機体、二機の片割れが極秘裏に運び込まれ調整されているのだ。

 もし襲撃など受けているというのであれば、迎撃せねばなるまい。

 本来想定されているパイロットに機体を渡すまでは、この機体に傷をつけられては困るのだ。



 戦略的価値の低いこの基地を、MS1機のためにわざわざ狙ってくるほどの余裕が連合にあるとも思えないが。



「いえ、なんでもインパルスが無断出撃したとかで……」

「インパルスが?」

「ええ。それで格納庫内滅茶苦茶になったらしくて。まったく、いい迷惑ですよ」

「そう……」



 歩いていく兵士の後姿を見送りつつ、シホは考え込む。

 そして、自分が調整を続けていた機体を見上げる。あとはほとんど、誤差を修正していく程度で済むだろう。



 新機軸のビーム兵器を搭載した機体ということで半ば強引に元のジュール隊から、ビーム兵器の技術者であったという過去と、いざというときにテストパイロットを務めることができるという利点を買われ異動させられた彼女であるが、それなりに頭上の機体に対し愛着もできていた。



「あなたの本当のご主人は、なかなか人騒がせね?デスティニー?」



 まあ、あの「裏切り者」のアスラン・ザラがいる部隊ならば仕方ないか。

 シホは溜息をつき、灰色の機体へとその体をよりかからせた。







「……ん?前方に敵機確認、ありゃ例の白い奴の支援機だ」



 ロドニアのラボが、小さな点となって見えてきた頃。

 ジャスティスのセンサーが、接近する熱源を確認した。

 並列飛行するタフトのジャスティスにも確かめてから、他の僚機にも通達する。



 そのほぼ直後に、前方の小型機からミサイルが発射された。

 だが、それは馬鹿正直に真正面から放たれたもの。

 さして警戒を強めるでもなく、かわすことができる。



──と。



『気をつけろ!!上だ!!』



 スティングが気付き、叫んだ。



 丁度、熱紋センサーとメインカメラの死角。

 太陽の熱と眩しさとで塞がれた位置から。

 若干角度のずれた、離れた位置を飛んでいたカオスだけが気付くことのできた、太陽の真下と部隊とをつなぐ軌道を通り、二振りの剣を装備した小型機が襲い掛かってくる。



 出力されたビームの刃を避けたところに放たれる、反転した砲戦仕様機の二条のビーム。

 6機のMSたちは隊列を崩すことを余儀なくされる。



 並び後退していく二機の戦闘機の向こうには、見慣れた旧敵の姿があった。







 ソードシルエットから、二振りのエクスカリバーが投下され、大地へと突き刺さる。それを見てから、シンはインパルスの機体を上昇させた。



 シルエットフライヤー後部のブーメランを両方とも掴み、投擲。

 同時にシルエットフライヤー自体を特攻させる。



 ブーメランは、一枚は赤紫のウインダムに、もう一枚はガイアによって撃ち抜かれ、特攻させた本体もまた、カオスによって両断された。



「……お前らは……倒す……!!」



 もとより、攪乱以上の効果を期待して放ったわけではない。

 敵が対応している間に、ブラストシルエットをシルエットフライヤーから切り離し、フォース装備のインパルスに腰だめに構えさせる。

 残ったフライヤー部はさきほどと同じように、特攻させた。



「生かしちゃおかない!!ハイネや、トダカさんや!!ルナの怪我だって!!お前らがっ!!」



 即座に、ビームとレールガンを乱射。

 碌に照準もあわせず、怒りに任せ撃ち放し続ける。



 死ね。

 死ね。



 マユを殺したように、死んでしまえ、フリーダム。



 ハイネを殺したように、お前も死ね、アビス。



 トダカさんの死の苦しみを知るがいい、お前達みんな。



 とにかく、死ね。

 今すぐ、死ね。



 俺が倒す、俺が殺す。



 レイやジェナスたちにさえ隠し堪えていた怒りを、シンは怨嗟とともに吐き出していた。



「うおおおおおぉぉっ!!」



 頭の中で、何かがはじける。

 思考と反応がより鮮明となり、乱射されるだけであった弾幕が、次第に敵機への至近弾を増していく。



「!?……くそっ!!」



 が、今にも命中しようかというところで、弾が尽きた。

 砲身から二本のビームジャベリンを取り出し、荷物にしかならないシルエット本体を投げ捨てる。



 特攻させたシルエットフライヤーは、フリーダムのビームを受けて四散していた。



(──そうだ、こいつらは)



 いつも、こうだ。

 こんな風に、なんでもないことのように破壊し、撃ち。奪っていく。



「いっつもそうやって、やれると思うなぁぁッ!!」



 両手のビームジャベリンを振りかぶり、胸の前で連結させる。

 その両端からビームが出力され、シンはそれを手に、憎しみの対象たる敵たちへインパルスのバーニアを咆哮させた。



「お前らは俺が討つんだ!今日!ここで!」



 新鋭機、高性能機のエース部隊を相手に一対六。

 それは、無謀といえば無謀すぎる戦いだ。



 だがシンは、そのようなこと、露ほども考えてはいない。

 憎い敵を、撃つ。ただ、それだけだった。



 そしてそれは、かつてキラやアスランが歩んだ道、ジェナスが踏み出しかけた一歩と同じ道であった。



 撃った相手を、撃つ。

 ただ、それだけの修羅の道。


 
 

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