アム種_134_062話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:54:17

第六十二話 悪夢



「ええ、ノワールの装備はそれで……はい」



 とるものもとりあえずといった状態で基地を飛び出したアークエンジェルとミネルバ。

 キラやアスランが整備クルーと話しているすぐ側で、一人ジェナスは苛立っていた。



──シンのあの、横顔。



 あれを止めなかった自分を、責めていた。



(無事でいろよ、シン……)



 かつての自分と同じ、憎しみに支配された横顔。

 それで彼は出て行った。たった、一人で。







「はああぁぁぁ!!」



 ビームジャベリンが、横一文字に薙ぎ払われる。

 アビスが回避することなどわかっていたし、こちらの攻撃後の隙を他の連中が狙ってくることも予測済みだ。



 インパルスをジャンプさせた元の大地に、火線が集中する。



「討つ……討ってやる!!俺が!!」



 上空でジャベリンの連結を解き、片方を投擲。

 それを追うように機体を突進させ、アビスへの距離を詰める。



「ハイネを……お前が殺した!!まず、お前をっ!!」



 はじかれたジャベリンは、大地につきささり。

 シンはくるりとインパルスに空中回転させてアビスの右腕へと踵落としを見舞う。

 続けてバルカン。

 キックの衝撃と、指の関節部を破壊されたことで、アビスの右腕から主武装であるビームランスがこぼれ落ちる。



『てんめええぇっ!!』



 接触回線で相手の激昂する声が聞こえてくるが、気にも留めない。

 更に顔面にバルカンを。こちらも相手の腹の複相ビーム砲が機体の顔面をかすめ焦げ目がつくが、メインカメラを叩き割ることに成功した。



「ゆるせ……ないんだよっ!!」



 右肩のあたりに、ジャベリンを深々と突き立てる。

 モニターの隅に、変形し迫るガイアの姿を見たシンは、小さな爆発と共にだらりと肩を落としたアビスを、インパルスに持ち上げさせる。



 そして、ガイアめがけ放り投げる。

 盾、あるいは隙をつくるための動きであったが、ガイアはアビスを撃つことも、避けることもなく、人型へと再度変形してそれを受け止める。



 その間にインパルスの身を翻し、二本の対艦刀を引き抜くシン。



「───はぁ、っ、はぁっ、っあ」



 レーザーの刃を、出力。



 体勢を立て直す前に───まずは、あの二機をやる!!



 ブースト全開、上空から追ってくるビームの雨を振り切りながらインパルスが突き進む。



「死ねええぇぇっ!!」







「──おせえよ」



 やらせるか。

 ダークはビームライフルの照準を的確に相手の大剣へと向けながら、言った。



 発射。

 敵の白い機体は、本体やバックパックへの攻撃は予測していたのであろうが、武器そのもの、細く狙いにくい剣だけを狙うものは想定していなかったであろう。



「タフト」



 一本となった剣で、なおもガイアとアビスに襲い掛かろうとするインパルスのバックパックを、彼からの声を受けたフリーダムが切り落としていく。

 崩れた体勢に蹴りを入れ、つんのめった機体脚部を、カオスとウインダムのビームライフルが吹き飛ばす。



 支えを失い、白い機体が地面を舐め、這い蹲る。



「この戦力差に一人で挑むたあ、いい度胸だけどな」



 二門のフォルティスが、両足を失いそれでも残った剣を手に立ち上がろうとするインパルスを狙い撃つ。

 頭部、そして上半身の装甲版が吹き飛び、コアスプレンダーがむき出しになる。

 キャノピーさえ失われた脱出用戦闘機からは、小さくパイロットの姿が見えていた。

 おそらくはもう、脱出装置として機能すまい。



「そりゃあ、無謀ってもんだろ」



 こちらを向き、なおも機体を起こし戦意を示す半壊の機体へと、ダークはビームライフルを向けた。



「じゃあな」



──だが、彼が引き金を絞る前に。



 黒い機体が、彼と白い機体の間に割り込んだ。







 はじめは、それと気付かなかった。



「──え?」



 モニターを、半壊した機体のコックピットにあわせてみたのは、なんとなくだった。

 相手は、敵は「もうおわり」。

 つまらないと思ったから、操作して、見てみただけだった。



 だが、その先に映っていたのは。



「し、ん……?」

『ステラ、どうした』



 見た瞬間、スティングからの通信も聞こえなくなった。



 だって、そこには。

 半壊したコックピットに座っていたのは。



 血だらけで、ヘルメットすらなくして。ボロボロで荒い息をついていたのは──……、



<<君は俺が、まもるから───……>>



 そう言ってくれた人。やさしくて、だいすきな人。



「シン……?」



 シンが、そこにいたのだから。



「シン……どうして……?」



 その彼へと、ジャスティスのライフルが向けられる。

 シンが、殺される。



「!?」



 ダメ。

 シンを殺すなんて、ダメ。

 シン、ステラを守ると約束した。

 だから、ステラもシンを守らなきゃ。



 思うよりはやく、機体を動かしていた。二機の間にガイアを割り込ませる。

 そして通信機を全開にして、叫んでいた。



「ダメえええぇぇっ!!シン撃っちゃ、ダメっ!!」



 全開になった周波数は、間違いなくシンにも届いていただろう。



「シン、逃げる!!ステラ、シン守る!!」


 
 

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