クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第003話

Last-modified: 2016-02-14 (日) 01:09:04

第三話 『嬉しく思う』
 
 
「なんだって、俺だけ・・・・・まぁ助かったけど・・・・。でもシンのやつ、いったい・・・・」

無重力空間を四苦八苦しながら抜けたガロードは、ブリッジに向かう途中でつぶやいた。
それからブリッジに上がり、その空気に触れると、ぴんと張り詰めた緊張感をこちらも感じてしまう

「ガロード」

先に来ていたのか、デュランダルが椅子に座り、ガロードに微笑んでくる
その隣には、アスランとカガリが座っている

「知ってたの? 俺が・・・・・」

宙間戦闘できないことを、という意味を、ガロードは言外にこめた

「オルバがそうだったから、君も、と思ってな」
「そっか」
「戦闘は君がいなくとも問題ないだろう。アビスは出撃できないが、インパルス、アシュタロン、それにザクもいる
 ガイアは君が戦闘不能にしたのだし、我らが負ける要素はない
 暇ならばゲームでもしてくればいい、ガロード・ラン」

デュランダルはつまり、シュミレーターで訓練してこいと言っているのだった
ガロードはうなづき、笑う

「へへっ、いいとこあんじゃん、おっさん」
「お、おっさ・・・・!」

デュランダルではなく、艦長のタリアがこちらを振り返っていた
だがデュランダルは別にいいと言うように、かすかに首を振る
ガロードはタリアを無視して、そのままブリッジを降りた

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「ふぅ・・・・」

ガロードがシュミレーターの椅子から立ち上がる
シュミレーターは特別製で、オルバが使っていたというものだから、操作系統に差は問題はなかった
問題は結果で、初めてやってみた宙間戦闘シュミレーションは、さんざんな出来に終わる
実戦なら十回は死んでいるような成績だった

「やっぱこのままだと、まずいよなぁ・・・・でもこの宇宙の、ずっと落ちるような感じが・・・・」

揺れはさっきから断続的に続いている。ミネルバも砲撃をしているようだ

ゴゴゴゴゴゴ・・・・

「うわっ!?」

砲撃のものとは思えない、ひどい揺れが来た。ミネルバがなんらかの損傷を受けたようだ
シュミレーターにしがみついたガロードは、ふと考える

(まさか俺・・・・こんなところで死ぬんじゃないだろうな。ティファ・・・・!)

急にティファに会いたくなった。あの長い髪、消え入りそうな声、ガロードへと呼びかける一声一声が、
切なく、悲しく思い出された

「でも・・・・クソッ、俺にできることって!」
衝撃が断続的に続く。ガロードはシュミレーターにもう一度乗り込み、起動させた
「こんなことしか・・・・!」

DXに乗り込みたいという衝撃を抑えつけ、戦闘中ということも忘れようとする
また、宙間戦闘シュミレーターが始まった

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数十分後・・・・

戦艦ミネルバはどうにか敵の攻撃を退けた
一時は敵戦艦の奇襲を受け、小惑星の石に埋もれて身動きがとれなくなったりもしたが、
そこはアスランの機転やシンをはじめとするMS隊の活躍で切り抜けることができた
ただ、本来の目的であるガイア、カオスの奪還を果たしていないので、これは敗北とも言える

シン・アスカ、レイ・ザ・バレル、ルナマリア・ホーク、オルバ・フロストら、
ミネルバ乗員のエリートパイロットが艦に戻る
その姿を見つけた通信士のメイリンが、息を弾ませてブリッジであった事件を報告した

「アスラン・ザラ・・・・あいつが」

シンが、メイリンの言葉を受けてかすかに驚く。
ルナマリアから話は聞いていたが、情報が確たるものになったのだ

「でも、前大戦の英雄が、名前まで変えなきゃいけないものなのかなぁ」
メイリンがそうつぶやくと、
「戦場の英雄なんてのは、つまりは世界を変えられるほど人を殺したやつのことなんだよ
  名前を変えることぐらいはは珍しいことじゃない」
オルバはフンと鼻で笑って背を向けた。そのまま去っていく

「なーに、アイツ?」
ルナマリアが不満そうにオルバの背を見る。

「英雄が嫌いなんだろ、オルバは」シンはさらにつぶやく「俺も、わからない話じゃないしさ
  アスラン・ザラがスーパーエースにになるために、どれだけの人間が犠牲になったか」

「やれやれ、なーんかひねくれてるのよね・・・・どっちもさ」
ルナマリアが、肩をすくめた

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「おい、起きろガロード」

ほんの少しだけと仮眠を取っていたガロードの肩が、乱暴にゆすられる

「・・・・・・くぁ、なんだよ・・・・オルバか? デブリ戦はなんの成果も損害も無かったんだろ・・・
  訓練やってて疲れてんだ、寝かせてくれ」
「いいから来い、緊急事態だ。場合によっては・・・」
「?」
「地球が滅びるかもしれない」
「い、いぃ!?」

その言葉で一気にガロードの目が覚めた。ベットからはね起き、ザフトの赤服に着替えると、
オルバに従って部屋を出る

「説明しろよ、オルバ」
「詳しいことは、メイリンが教えてくれる。ただ先にこれだけは言っておく」
「なんだ?」
「サテライトキャノンの存在は伏せておくんだね
  MSパイロットや整備士連中はもちろん、デュランダル議長にもだ」
「いきなりなに言ってんだよ
  伏せておくもなにも、この世界にマイクロウェーブ送信施設がないだろ
  サテライトキャノンは今、ただの筒だぜ?」
「いや、エネルギーの直接供給を行うことで発射はできるはずだ
  昔、GXシリーズのサテライトシステムを開発した科学者たちは、
  マイクロウェーブなしでサテライトキャノンを発射できるよう、
  Gファルコンという支援兵器を作った。GXシリーズはGファルコンという
  巨大なバッテリーと合体することで、一発だけサテライトキャノンのエネルギーを『ためること』に成功した
  それと同じ要領で、DXに巨大なバッテリーを連結するなりしてエネルギーを供給すれば、
  サテライトキャノンの発射は可能になるはずだ」
「・・・・・理屈はわかったけどよ、なんでおまえはサテライトキャノンにこだわって・・・・・」

ミネルバの休憩室につくと、ガロードはオルバと共にそこへ入った
中ではミネルバのクルーや、パイロットが顔をそろえている

(そういや、俺とこいつら、あんまり年が変わらないよな。軍人ってもっと年いってると思ったけどよ)

ガロードはなんとなくそんなことを思った。しかし周囲の人間は軍服が似合っている
ガロードなど、詰め襟つきの服をしているだけで息がつまりそうだった

「ガロード・ラン!」
メイリンが声をかけてくる。他のシンを始めとした人間たちも、一斉にこちらを見た
「なにがあったんだ? オルバに無理矢理連れてこられて、よくわかってねぇんだ」
「ユニウスセブンの軌道がずれて、地球に向かっているそうです。このままでは墜落するって・・・・」
「敬語はいいよ、俺、多分みんなより年下だしさ。それよりユニウスセブンってなんだよ?」

ガロードの発言に、休憩室にいたパイロットたちは顔を見合わせていた
よほど的外れな発言だったのだろう。オルバが、ガロードの足を踏んづけた

「いてっ!」
「ガロード。地球での任務が長いからといって、勉強をしなさすぎるそのクセ、治した方がいいんじゃないかい」
「・・・・・・・・・。」
「ユニウスセブンは先の戦争の発端、『血のバレンタイン事件』が起こった農業用コロニーだ。
  まったく、君の無知には時々呆れさせられるよ」
「・・・・・・・。」

ガロードは少し驚いた。なんとオルバはガロードをかばったのである

「でも地球への衝突コースだっていうのは本当なのか?」
気を取り直して、シンが発言した
「本当らしいよ。バートさんがそうだって」
メイリンが答える
「はぁ〜、アーモリーでは強奪騒ぎだし、それもまだ片づいてないのに今度はこれ? どうなっちゃってんの」
ルナが愚痴はこぼしていた

「・・・・・で、俺たちはどうしたらいんだ?」
ガロードはとりあえず聞いてみる
「ユニウスセブンを、砕くしかない」
答えたのは沈黙を守っていた、同じザフトの赤服、レイである。
自己紹介はしてないが、ガロードも名前は聞いていた
長いさらさらの金髪が、印象的な男だ
「砕くって、あれを? 直径八キロあるんだろ?」
誰かが声をあげる
「しかし軌道の変更は不可能だ。衝突を回避したいのなら、砕くしかない
  それに衝突すれば地球は壊滅する。そうなれば何も残らないぞ。そこに生きるものも」
レイの声は落ち着き、よく抑えられていた

「じゃあ、地球・・・・滅亡・・・・かな・・・・」
また、誰かが言った

・・・・・・・・・。

しばらく休憩室を沈黙が支配した
「はぁー、でもま、それもしょうがないっちゃあしょうがないかぁ?」
誰かが気楽そうな声をあげる
「不可抗力だろ? 地球が無くなれば、変なゴタゴタも綺麗に無くなって、案外楽かも。俺達プラントには…」
それに応ずるように、声が続く

「・・・・・なぁ」

ガロードがいきなり声を上げる。それからつかつかと窓際まで歩いて行って、地球を見た

「ここから見える地球って、綺麗だよな。やっぱり緑とかがいっぱいあって、生き物もたくさんいるんだろうな
  『あの』地球は」

・・・・・・?

休憩室に奇妙な間が起きた。ガロードの発言の真意がわかった者は、オルバをのぞいて一人もいない

「俺さ、とんでもない環境の場所にいたからさ、よくわかんないんだけどさ。
  宇宙に出ても、やっぱり人間のふるさとは地球なんじゃないか
  ふるさとはちゃんとあった方がいいよな
  自分が帰れる場所ってヤツがさ・・・・」

「ガロード」
シンがこちらにつかつかと歩いてきていた
「なんだよ、シン」

ぐぃっ。急にガロードは、シンに胸倉をつかまれる

「故郷の話なんて二度とするな。地球が俺たちコーディネーターの故郷なんかであるわけないだろ!」
「な・・・・・? コーディネーター・・・・?」
「別に地球に滅びて欲しいわけじゃないし、そんなことを誰も本気で言っちゃいないけど・・・・!
  でも地球に裏切られた俺たちは、宇宙で生きていくしかないんだ!
  地球が俺たちのふるさとだって・・・!? ふざけるなッ!
  ガロード、おまえの綺麗事は吐き気がする!」
「わけわかんねぇこと言うなよ! 離せ!」
「シン!」
レイが仲裁に入ろうとした、その時だった

「地球がおまえたちを裏切ってるわけないだろう!」
にわかに険悪な空気となった休憩室に、女性の声が飛び込んできた。
ガロードが入り口を向くと、カガリと名乗るお偉いさんと、アレックスと名乗ったアスランという青年がいた
声の正体は、カガリのようだ

「なんだと・・・・!? あんたは・・・・オーブの!」
シンがガロードから手を離し、カガリをにらみつける
しかしカガリはひるまない
「デュランダル議長がナチュラルとの融和を考えているのに、そんないじけた考えでどうするんだ!
  その少年の言うとおり、地球はおまえたちのふるさとなんだぞ!
  あれだけの戦争をやって、まだコーディネーターとナチュラルを差別しようっていうのか!
  地球がなくなれば、ごたごたも無くなるだと!? プラントが楽になるだと!?
  新しいザフトは、そんな考えなのか!
  地球を共に護ることで、ナチュラルとコーディネーターも一緒に歩いていけるって、なんで考えない!」
「よせよ、カガリ」
激昂するカガリをなだめるように、アスランがその腕を引く

「別にヨウランも、本気で地球がなくなればいいって言ってたわけじゃないさ。そんなこともわからないのか、アンタは」
シンが馬鹿にするような感じで、カガリを見る
「シン、言葉に気をつけろ」
「レイ・・・・。ああ、そうでしたね。この人偉いんでした。オーブの代表でしたもんね」
「おまえ・・・・!」
よほど頭に血がのぼっているのか、カガリがシンに詰め寄ろうとする、その時だった

バキッ

シンの横からこぶしが飛んできて、それが見事に命中したのだ
「へっ、悪かったな、綺麗事でよ。でも喧嘩を最初に売ったのは、おまえの方だぜ!」
「ガロード・・・・! おまえ・・・!」
「あー、やだやだ。エリートさんってのはなんでこうもひねくれてんのかね!
  人が死ぬより、死なねぇ方がいいに決まってんだろ」
「死なない方がいいだと・・・・・!? おまえになにがわかるって!!」
ガロードへ殴りかかろうとしたシンを、とっさにレイが抑える
「よせ、シン。大事な作戦前に、営倉行きになる気か。ガロードもだ
  お互いに意見もあるだろうが、バカな真似はやめろ」
「チッ・・・・・。ガロード、せいぜい次の作戦では足引っ張るなよ!」
シンはそう吐き捨てると、肩をいからせながら、休憩室を出て行く

「最初につかみかかったシンも悪いが、最初に殴った君も悪い」
こぶしを握り締めたままのガロードに、レイが声をかける
「・・・・・・・・・・・・」
「シンは昔、地球で家族を失っている
  そのことに関する話題が出ると、血が上ってしまう。理屈もむちゃくちゃで、誰彼構わず当り散らす
  あいつの悪い癖だ。優秀なパイロットであるのは、確かなんだがな」

そう言いながらレイは、自販機からジュースを一つ買うと、ガロードに投げてよこした

「とにかく、これでも飲んで落ち着け」
「へへっ、すまねぇな」

プシュン

ガロードがジュースを開けると、すっと手が差し伸べられた。握手を求めているらしい
手の正体はカガリだ。さっきまでの様子とは変わって、少し微笑んでいる

「ザフトにもおまえのように思ってくれる人間がいたことを、嬉しく思う。私はカガリ・ユラ・アスハ。おまえ、名前は?」
「え? あ、ああ・・・ガロード・ランだよ」
「ガロード・ランか。アーモリーワンでは助けられたな。アスランから話は聞いた。
  そのことも含めて礼を言う」
「え、いや・・・まぁ・・・どういたしまして」

顔を少し赤くして、ガロードはカガリの手を握り返した。やはり美人にこういう風な扱いをされると、照れてしまう
まだ、少年は十五才だった