クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第033話

Last-modified: 2016-02-15 (月) 23:49:47

第三十三話 『さすがだな』
 
 
==========================

テクスの話が終わる。短いと思ったが、すでに二時間が経過している
アスランは沈思したまま、言葉が出てこなかった
しかしこの場にいる人間は、自分の返事を待っているだろう

ヤタガラスのブリーフィングルームだった
主なクルーは全員集められ、話し合いが行われている

「にわかには信じられない、というのが本音です。ドクターテクス」

ブリーフィングルーム最前列の席で、アスランが言った

「うむ・・・・・私も逆の立場なら、信じはしないだろうな」

話し終えたテクスは、苦笑を浮かべていた

「しかし・・・・まさかこの状況下でそんな作り話をするわけがない
  するならもっとマシな作り話をするでしょう。現実感がない・・・宇宙鯨のような話だからこそ、
  それゆえに真実味があります。ガロードやDXが、『異世界』から来たというのは」

ざわっと、ブリーフィングルームがざわめいた

そう、そうなのだ。
今まで聞いたのは、ここではない『どこか』の話
十五年前の戦争によって、荒廃した世界で生きる人々の話
ニュータイプという新しい人類、そしてDXを始めとしたMSの数々

なにもかも遠い世界の話だった。正直なところアスランは、
物語を聞いたような感想しか思い浮かばない
現実感が希薄な話だ

「もしも我々のことを厄介と思うのなら、遠慮せずに言うといい、艦長
  シンゴもトニヤもキッドも、そしてガロードも・・・・いつでも出て行く心積もりはできている」

テクスが言うと、シンゴやトニヤもうなずいていた。しかしアスランは首を振る

「俺は、出自が怪しいぐらいで有能な人材を放り出すほどバカな艦長じゃありません
  あなたがたは優秀だ。下手なコーディネイターよりはるかにね
  それはこれまでの働きが証明している・・・・。ただ、問題はそちら側でしょう」
「・・・・・・・」
「一つ確認しておきたいが、やはり目的は元の世界に帰ることか?」

アスランが、AW世界から来た人間を見回す。ガロード、キッド、テクス、トニヤ、シンゴ
全員と一つ一つ目を合わす

「そりゃ、いつかは帰りてぇよ。この世界はあそこに比べりゃはるかにマシだけどさ、
  それでもどうも落ち着かないんだ」

キッドが言う。シンゴはうなずいたが、トニヤは口元に手を当てて考えていた

「んー、でもさ。悪くはないと思うわよ、ここも・・・・・。
  あたしたちも向こうじゃ、ずっとフラフラしてたし。今の状況が不愉快ってわけでもないのよ
  それにいいこともあるしさ。戦争してるって言っても、こっちの方が物も豊かだし、娯楽も多いし」
「ま、そうだな。それに元の世界に帰ろうったって、その方法がわかってるわけじゃないし」

シンゴの言葉は、真実だろうとアスランは思った。しかし・・・・・

「・・・・では、帰る方法がわかれば、帰るのか? すぐにでも?」
「「あ・・・・・・」」

アスランが言うと、シンゴもトニヤも沈黙した

「・・・・・・いや、別に責めてるわけじゃない。むしろこの世界の戦争に、あなたがたは巻き込まれた形になっている
  ただ、もしも帰る方法がわかれば、どうするのか・・・・早めに決めて欲しい
  シンゴにしろトニヤにしろキッドにしろ、いきなり降りられるとヤタガラスとしても困る」
「まぁ・・・正論だな、艦長。我々もこの世界に関わりすぎた・・・・。いまさら異邦人だからと、 
  背を向けるのは褒められた行為ではない」

テクスが、ずれかけたメガネを直し、つぶやく。アスランもうなずいた

「その通りだ。ガロード・ランの名前も、この世界に鳴り響いている。キラ・ヤマトと並ぶほどにな
  俺の望みを言えば、せめてこの戦いが終わるまではヤタガラスにいて欲しい
  ・・・・・・ガロード、君はどう思う? 『FAITH』でもザフトの軍人でもない、ただのガロード・ランの意見を聞きたい」

アスランはガロードを見た。やはり怪我のせいもあるだろうが元気がなく、ここまでほとんど発言していない

「俺は、よくわかんねぇ。戦争とか、そういう難しいことはよくわかんねぇ
  でも、一個だけどうしてもやんなきゃいけねぇことがある」
「・・・・・・レジェンドか?」
「ああ」

話は聞いていた。ニコルと共にいたレジェンドには、ティファというガロードの想い人が乗っていたらしい
しかもなんらかの形で、操られているようなのだ

(ただ・・・・・悪いカードじゃない)

アスランはそう思う。ならば少なくとも、ガロードと自分はニコルという共通の敵を持っていることになる
それならば協力し合うこともできるはずだ。ただ、気がかりはある。DXが大破していることと、
ガロード・ランにこの世界のMSを使える技量がないということだ
ならば下手をすると、お荷物になりかねない

「・・・・・難しいな。さてどうするか」

アスランはつぶやいた。その次の瞬間だった
ブリーフィングルームに、ブリッジに残しておいたはずのメイリンが飛び込んでくる

「大変です! ロドニアに戦艦が接近中! ち・・・・近づいているのは・・・・」
「なんだ、メイリン?」
「エターナルです!」
「なんだと!?」

アスランは立ち上がった。信じられない。エターナルは宇宙用の戦艦で、いつ大気圏航行に適応させたのか
いったいいつ、どこで、誰がそんな作業をやらせたのか
ただ、それに乗っているのはほぼ間違いなく・・・・・

「キラ、ラクス・・・なにを考えているんだあいつらは! 総員! 戦闘配置につけ!
  シン、ルナマリア、レイ、MS隊発進準備! メイリン、ロドニアの友軍に敵の接近を伝えろ!」
「あ・・・・はい。でもエターナルは敵なんですか・・・?」
「敵だ! 警告はするがな! シンゴ、すぐにヤタガラスを浮上させろ!
  あいつらはどれだけこっちを引っかき回せば気が済むんだ、まったく!」

アスランは叫び、すぐにブリッジへ行こうと足を向けた
その時、激しく動く人の中で、ぽつんと座っているガロードがいる
しかし今は、それに構っている場合ではなかった

==========================

急いでパイロットスーツに着替え、MSデッキに向かう。しばらく戦闘が無かったため、
油断していたが、まさかこういう形で戦闘になるとは思わなかった

シンはただ、戸惑っていた。テクスの話は荒唐無稽で、とても信じられない
だが信じられないような話だからこそ、信じられるのだとアスランは言った
しかしやはり自分は、信じられない

この世界とはまったく別の世界、別の地球があって、そこでガロードたちは生きていた
それはCE世界がかわいく見えるほど荒廃した世界で、
ほとんどの人間は戦争で死滅したのだという
これをどう解釈すればいいのか。

(ナチュラルなのか・・・・・)

アカツキに乗り込み、シンは計器のチェックを行いながら考える
ガロード・ランはナチュラルである。しかしナチュラルが、キラ・ヤマトに勝った
それはコーディネイターである自分の常識を、壊しかねない事件だった

「レイ」
ふと思って、同じようにグフに乗り込んでいるはずのレイに通信を入れた
エターナルの接近まではまだ時間がある
『なんだ、シン?』
「コーディネイターって、本当にナチュラルより優れてるのかな?」
『それは、間違いなくそうだろう。同い年のナチュラルとコーディネイターを集めて、
  体力テストや知能テストを行えば、間違いなくコーディネイターが勝つ』
「・・・・・でも、ガロードはキラ・ヤマトに勝ったぞ」
『ガロードは一人でフリーダムに勝ったわけじゃない
  ただ、生まれながらに素質を持っているのかもしれないな、ガロードは』
「素質か・・・・」
『そうだ。単純に『才能』と呼ばれるものが、ガロードの遺伝子に刻まれていたんだろう』

レイの言うことはわかる。ただ、シンはなにか釈然としなかった
例えば自分が、ほとんど砂漠化して、ろくな法律もなく、保護してくれる存在もないようなところへ、
いきなり放り込まれたらどうなるだろう。とても生きていく自信は無い

「・・・・今はそんなこと、考えてる場合じゃないか」

レイとの通信を切って、アカツキの最終チェックを終える
いったいなんのためにエターナルはやってきたのか。
シンも、それに乗っている人間が誰かおおよその見当はついていた
アークエンジェルを失ったため、代わりにエターナルを運用しているのだろう
しかしフリーダムはほとんど修復不可能の状態まで破壊した
ヤタガラスに抗しうる戦力をエターナルが持っているとは思えない

(でも、相手はキラ・ヤマト、だ・・・・・)

どういうMSを使ってくるにしろ、戦闘になるなら油断は禁物だと、シンは思った

==========================

ロドニアの飛行場。そのシャトル発射場を使って、エターナルを宇宙に上げる

ラクスがそう言ったとき、ほとんどの人間は驚いた。ロドニアには親オーブ、親プラントの軍が集結しており、
そこへ指名手配されているラクスが飛び込むのは危険極まりない

それにロドニアにはヤタガラスが駐屯していた。
DXが大破しているという情報をつかんではいたが、それでも油断のならない相手である

「それでもわたくしたちは、顔を上げて堂々と行くべきなのです。顔を隠し続けていれば、
  デュランダル議長が我々に貼り付けた濡れ衣は、いつか真実になってしまうでしょう
  それにアスランからも、逃げるわけにはいきません」

難色を示すマリューやロアビィに、ラクスはそう言った

「仕方ないよ。こうなったらラクスはてこでも動かないからね」

エターナルのブリッジでキラが苦笑する。ロアビィは顔をしかめて、肩をすくめた

「勘弁してくれよ。俺、自殺志願者じゃないぜ?」
「あら、わたくしもそうですわよ? ロアビィさん」
「じゃあ今からでも遅くない。さっさと進路変更しようや。それに俺はヤタガラスとやりたくない
  あそこには昔の仲間がいるからな」
「ロアビィさん。大丈夫ですわ、わたくしたちは戦闘をしにいくわけではありません
  それにヤタガラスの艦長、アスラン・ザラもまた、わたくしたちにとって仲間なのです」
「やれやれ、歌姫さんは強情だね」

ロアビィが諦めたように首を振っていた。

「ラクス。僕はストライクフリーダムで出るよ。最低でも護衛はいるからね」
「ええ・・・・お願いしますわ、キラ」
「大丈夫です、ロアビィさん。僕は誰も殺しはしませんし、殺させもしませんから」
「・・・・・そう上手く行くかね」
「だから大丈夫ですよ、ロアビィさん。ラクスは・・・・ラクス・クラインですから」

ロドニアが近づいてくる。そこは臨時の拠点として使われている飛行場で、
発進準備をしているMSや、エターナルへ砲身を向けてくる陸上戦艦などが見えた

そしてその中央にあるのは、アークエンジェルの後継者、
神鳥の異名を持つ最強の戦艦、『ヤタガラス』
漆黒の船体を持った『それ』は、悠然と飛行場から浮上し、こちらに艦首を向けていた

「ロドニア軍の総勢、MS120、戦艦16、空母3!! エターナルに向かってきます!」
オペレーターのミリアリア・ハウが叫んでいる。そしてほとんど同時にエターナルへ、
専用回線で通信が入ってきた。専用回線を知っている人間となると、限られる
キラの脳裏に浮かんだ人物と同じ人間が、ブリッジのモニタに映った

『ロドニア方面軍総司令、タカマガハラ第一部隊ヤタガラス艦長、アスラン・ザラである
  ・・・・やはりおまえたちか』
「アスラン・・・・・」
『つくづく・・・・つくづくなめた真似をしてくれるな、キラ』
「・・・・・・・・僕らは!」
『一応、降伏勧告はするが、どうするラクス?』

アスランが威圧的な視線を送ると、ラクスはすっと艦長席から立ち上がった
そして彼女は目を閉じる

ぱぁぁぁん

ラクスの『種』が割れる音が、キラには聞こえた。同時にラクスはミリアリアを見る

「全チャンネルを開いてください。わたくしがロドニア軍に呼びかけます」
「あ・・・・はい!」

ミリアリアが操作して、通信回線を開いていく。それが終わると、ラクスは胸元に小型マイクを取り付け
軽く息を吸った

「皆様、お聞きください。わたくしはプラントのラクス・クラインです。ここ、戦艦エターナルに乗艦しております
  ・・・・・まずお聞きしますが、あなたがたの敵は一体誰なのでしょう?
  ロゴスですか? 地球連合ですか? ただ一つはっきりしていることは、
  わたくしたちはあなた方を敵としていないということです。それだけは確かなことです
  私、ラクス・クラインは宇宙へあがります。今、英雄と称えられているギルバート・デュランダルの真意を、
  確かめねばならぬからです。民衆の熱狂は危険です。デュランダル議長は英雄視されるあまり、
  その行動に疑問を感じる者はいません。ですがそれでよろしいのでしょうか?
  旧世紀のヒトラーを例とするまでもなく、あまりに支持された為政者が、結局は道を誤るというのは、
  歴史に数多くあります。それゆえわたくしは、見極めなければならないのです
  皆様はわたくしの悪行を、いろいろと聞いているかもしれません
  しかしそれはすべて偽りであり、濡れ衣です。そしてその濡れ衣をわたくしに着せたのは、
  他ならぬデュランダル議長なのです。そういうことをされる方は、本当に英雄なのでしょうか・・・・
  皆様、どうか道を開けてくださいませんか。世界をゆがんだ方向へ導かぬために、
  皆様がこの世界を愛する想いをお持ちならば、どうかわたくしに道をお開けください・・・・」

ラクスが言う。心に、入り込んでくるような言葉だった
初めてこういうラクスを見る、ロアビィも驚いているようだ
ラクスの言葉には、人を動かす力がある

ロドニア軍の動きが、にぶくなった。エターナルは速度を落とさずに飛行場へ進入していく
誰もエターナルに攻撃してこない。ラクスの言葉を、聞いてくれたのだろう
こんな風に、ラクスの言葉をきちんと聞いてくれる人が限り、まだ世界はおかしな方向に向かわないはずだった

『相変わらずの力押し。相変わらずの傍若無人。さすがだな、ラクス』

モニタに映っているアスランが、こちらを冷たい目で見つめている

「アスラン。カガリさんを忘れて欲しいとはいいませんわ。しかし、世界をおかしな形にしないためにも・・・
  どうか今一度手を取り合いましょう・・・・。それが、平和を作る道ではありませんか?」
『ラクス。おまえにカガリをどうこう言う資格があると思っているのか・・・・?
  ヤタガラス、MS隊を発進させろ! 戦艦エターナルは敵であり、ラクス・クラインはテロリストである
  ロドニア軍迎撃開始! タカマガハラは、犯罪者に対してしかるべき処置を取る!』
「アスラン・・・・・どうしてなのですか? なぜわたくしの声が届かないのですか・・・?」

次々と発進してくるMSを見つめ、少し呆然としたようにラクスがつぶやく
さすがにショックだったのだろう。キラは少し微笑んで、ラクスの肩を叩いた

「大丈夫。きっとアスランもわかってくれる。そう言ったのは、ラクスだったよね?」
「・・・・・・キラ」
「僕たちが正しいことをやっていれば、きっとまたわかりあえるよ
  じゃあ、後はなんとかやってみる。ラクス、君は貫いてよ
  ロドニアでエターナルを上げるんだろ?」
「はい・・・・・」

キラはうなずくと、ブリッジにいるメンバーを見回した

「バルトフェルドさん、ロアビィさん、シャギアさん。僕はストライクフリーダムで出ます
  後はここをよろしくお願いします」

そう言い残し、キラはMS格納庫に向かった