クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第052話

Last-modified: 2016-02-17 (水) 23:49:49

第五十二話 『ジャンク屋になにができる』
 
 
==========================

遠くで爆発が起こる。グフとDインパルスが、ストライクノワールによって破壊されたのだろう
シンは岩陰を見つけると、そこに背負っていたルナマリアを降ろす

砂漠の岩陰でパイロットスーツを脱ぐと、用意しておいた私服に着替えた
それから、砂漠用のマントを見つめる

「仕方ないか。勝手に脱がすけど、怒るなよ」

気絶しているルナマリアに一言断って、彼女のパイロットスーツに手をかけた
他人のパイロットスーツを脱がしていると、なんだか変な気分になってくるが、
そんな場合ではないとぶんぶん頭を振る

「ん・・・・」

ぷるぷるとルナマリアのまゆが動く。シンは水筒を取り出すと、ハンカチに少しだけ水を含ませた
それでルナマリアの額をなでる

「ルナ・・・・?」
「あ・・・・・・う・・・・・シン?」
「大丈夫か。どこか痛くないか?」
「ちょ・・・・あんた・・・・。そうだ、なんで脱走なんかしてんのよ!」

いきなり生気を取り戻したルナマリアが、がばっとはね起きるとシンに詰め寄ってくる

「あ・・・いや・・・・元気、だな、ルナ・・・・」
「質問に答えなさい! 危うく死ぬとこだったじゃない!」
「いや、あれはルナが勝手に・・・・」
「なんか言った・・・・?」

ぎゅぅぅぅうとルナマリアがシンの両頬をつねる。びろーんとシンの口が伸びた

「はんへほはいへふ(なんでもないです)」
「ったく! 本当に・・・・本当に心配したんだからね! ちゃんと説明しなさいよ!」
「説明か・・・・。わかったよ、ルナも巻き込んだからな
  ・・・・ちょっと、信じられないかもしれないけど、俺が言うのは全部ホントだ
  でも歩きながらになるよ。ちょっと、急がなきゃいけないから。ルナ、これ着て」

言って、白いシャツのルナマリアに砂漠用のマントを渡す
シンは私服に着替えているからいいが、ルナマリアの格好はさすがに不自然だった

地図を確認し、岩陰を出てガルナハンの街へ向かう。それからシンは口を開いた

説明する。今のギルバート・デュランダルと、本物の関係
そしてアメノミハシラへ行く理由。自分を殺して、ヤタガラスに舞い戻る
ハイネとアスランが考えたこと。そして自分の意見

「本当なの・・・・? 今の議長が偽者って・・・・」
「それを今から、確認しに行く。宇宙に行けば会えるって、ハイネが言ってたから」
「でも・・・・その話が本当だとして、あんたはどうするのよ?」
「本物の議長をプラントに返す。当たり前だろ?」
「当たり前って・・・。そりゃそうだけど・・・・
  でも、偽者ってさ、偽者だから・・・・ものすごく警戒心が強くて、そう簡単にいかないんじゃない?」
「そうかもしれない。でも、おかしいだろ。デュランダル議長だって、ものすごく苦労して、
  嫌な想いもたくさんして、あの若さで議長になって・・・・それでプラントをここまで立て直したんだ
  なのにいきなり得体のしれない偽者が現れて、Dプランとか、スカンジナビア占領とか、
  好き勝手やるなんて、おかしいじゃないか」
「シン、あんた・・・・」
「ん?」
「まるで議長のこと、友達みたいに言うのね」
「そうかな・・・・・。うーん、まぁ、なんて言うか・・・・。前より議長とかが身近に感じるんだよな
  なんでかな?」

なんとなくシンはそう思った。少し前までは間違いなく雲の上の存在だったが、今はそうでもない
確かに今でもデュランダルは自分よりずっと格上の人間だが、なれ、のようなものを感じている

日が沈む前にどうにか、ガルナハンの街についた。シンたちがここを開放して以来、ここはザフトの要衝である
ハイネがうまくごまかしただろうから自分たちの手配書など回っていないだろうが、
おおっぴらに顔を見せて歩くのにも抵抗があった
すぐに目的の場所へ向かう。かつてテクスが診療所として使っていた場所である

「おう、シン。待ってたよ。久しぶりだなぁ」

ノックをすると、懐かしい顔が出てきた。髪を縛った、褐色の少女。レジスタンスのコニールだ

「ああ、久しぶり、コニール。レジスタンスのみんなは元気か?」
「もうレジスタンスなんかねーよ。俺はただのコニールだ
  あれ・・・・シン、おまえ一人じゃないのか? そいつは?」

コニールがルナマリアを指差す。予定外の人員に戸惑っているようだ

「ああ、こっちはルナ。ルナマリア・ホーク。ちょっと予定がずれこんで、一人増えたんだ
  コニール、なにか問題あるか?」
「いや、俺がおまえたちを宇宙に運ぶわけじゃないから、よくわからない
  ま、とりあえず二人とも家に入れよ。中で話を聞いたらいいや」

コニールにうながされ、シンとルナマリアはかつての診療所に足を踏み入れる
薬剤などや蔵書はそのままで、かつてシンがインパルスと共に地球に落ちてきた頃と雰囲気は変わっていなかった

(そういえば・・・・)

ふと思い出す。最初の頃、自分はガロードが気に入らなくて、ステラは敵だった
いや、宇宙にいた頃の自分は、どれだけ小さな物ばかりに目を向けていたのだろうか
今はそれを、ゆっくりと振り返ることができる。そしてそういう自分に少しだけ、驚く

「おーい、ウィッツの兄貴! 連れてきたぞ!」

コニールに案内されて奥の部屋に行くと、一人の男がソファに寝転んで新聞を読んでいた
金髪で、シンとあまり年は変わらないようだが、アウトローな雰囲気を持っている
少なくとも軍人のようには見えなかった

「おー。やっときたか・・・・。ふぁぁぁ・・・・」

大あくびをして男はソファから上半身を起こす。瞬間、ルナマリアが大きく目を見開き、男の胸を指差した

「え・・・・? ちょ、ちょっと待って! 『FAITH』!?」
「あん? なんだよ、ハイネの野郎、一人だけって言ってたじゃねぇか・・・・。いい加減なこと言いやがって・・・・」

男ががしがしと金髪をひっかき、立ち上がる。その胸には『F』の紋章が光っていた
思わずシンもぽかんと口を開ける。それは間違いなくザフトのトップエース、『FAITH』の証だった

「『FAITH』・・・・なんですか?」

ルナマリアが恐る恐る男に聞いている。すると男は、つまらなさそうに右手をひらひらさせた

「こいつをつけた方が、ザフトの連中相手にする時、便利だって言われたんだよ
  別に俺は軍人でもなんでもねぇ。俺はウィッツ・スー。ただのジャンク屋だ
  で、おまえらは?」
「シン・アスカ」
「る、ルナマリア・ホークです」

かろうじて名乗ったが、正直言って意味がわからない。ジャンク屋の『FAITH』など聞いたことが無いのだ
しかしウィッツと名乗った男の胸あるのは、間違いなく『FAITH』の証である

「で、ウィッツ兄貴、すぐに宇宙行くのか?」
「ふわぁぁ・・・・。ねみ・・・・。いや、とりあえず明日だな。ねみぃ・・・・。俺はとりあえず準備だけしとく」

言って、ウィッツはジャケットに袖を通す
砂漠の町にその格好は暑いのではないかとシンは思ったが、特にウィッツは気にしてないようだ

「ちょっと、シン・・・・」

こそこそとルナマリアがシンのわき腹をひじでつついてくる

「なんだよ?」
「怪しくない、あの人? ほら、見るからにナチュラルの品が悪そうなチンピラじゃない
  私たちのこのこ付いていったら、身ぐるみはがされたりしないでしょうね?」
「俺とおまえが身ぐるみはがされるかよ。バカらしい」

とすん・・・・。瞬間、ルナマリアの顔ぎりぎりのところを、ダーツがかすめた
そしてその先にあった的にダーツが突き刺さる。投げたのは、ウィッツだ

「おい、ナチュラルがどうとか、言ってて恥ずかしくねぇか?」
「ちょ・・・ちょっと! いきなりなにすんのよ!」
「ガロードは一回でも、おまえらを差別したか?」

ウィッツが両手でダーツをもてあそびながら、そんなことを言う
すぐにシンが反応した

「ガロードを知ってるのか?」
「仲間だよ。俺とあいつは。まだまだガキだけどな
  おい、そこの赤色アホ毛、気に入らないならついてくるな」
「なっ・・・! 誰が赤色アホ毛よ!」
「はん・・・・。コニール、留守番頼むわ。ちょっと野暮用片づけてくっから」

眠そうな目でウィッツはそう告げると、部屋から出て行った

その後、コニールが腹減ってんだろと言い、夕食を用意してくれた
羊肉の塊とスパイスを大鍋に入れて煮炊きした、パエリアのようなものを用意してくる
味はややクセがあるが、悪くない

「ガロードはどうしてんだ?」
「ん・・・・あー、ちょっと今、MSがやられて、いろいろ苦戦してる」
「げー。DXがやられたのかよ。『ユニウスの悪魔』だろ、仮にも?」
「世の中には悪魔を倒すやつもいるんだよ。そういうのは、多分もう、人じゃない」

そう言って、シンは気づいた。自分がレジェンドではなく、ストライクフリーダムのことを言っていることに
もぐっと、煮飯を口に運びながら思う。なぜキラはあそこまで強いのだろう
人として不自然なほど強くなるには、なにか理由があったのか。どうしてそこまで強くならねばならなかったのか

食事を終えると、女性陣は早々にシャワーを浴びてベッドに入った
シンも同じように眠ろうと思ったが、眠れず、本棚から本を適当に取り出して読む

『論語』。世界でもっとも有名な思想家、孔子の言葉を載せた本
相変わらず小難しい話ばかりでよくわからないが、最近はこういう本をよく読むようになった
      ワレ ジュウユウ ゴ
「子曰く、吾 十 有 五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑はず    ノリ  コ
  五十にして天命を知る。六十にして耳順う。七十にして心の欲する所に従へども、矩を踰えず」

シンが読み上げたのは、論語のもっとも有名な一節である。

(要するに、年を取ったらいろいろわかってくるってことか?)

適当に解釈する。シンの頭をとらえたのは、天命という言葉だった
天命。それは運命ではない。天から人に与えられた使命であり、己が生まれてきた理由のことだ
人はそれを為すために生きているという思想であり、それに逆らえばおのずと滅ぶというわけだ

論語を閉じて、窓を開けた。それほど長く本を読んでいたわけではないが、頭を使ったためか、少し重い
外は静かな砂漠の夜が広がっている

「おーい、孔子。聞いてるかー。それじゃあ遅すぎるんだぞー
  だいたいみんながそんなに長生きできるわけじゃ・・・・」
「なにバカなことやってるのよ」

シンの背中から声がかかる。ルナマリアがTシャツ短パン姿で立っていた

「あれ・・・・ルナ。寝てるんじゃなかったのか?」
「早めに寝ようと思ったんだけどね。コニールがガロードの話とか、
  いろいろせがんでくるから、寝損なっちゃって。まぁ、あの子はもう寝たけど・・・・」
「そっか。そういや、コニール、ガロードにキスとかしてたからなぁ・・・・・」
「でも、勝ち目の無い恋よね。なんか同情しちゃうわぁ・・・・」

ルナマリアが隣にやってきて、シンと同じように窓から空を見つめる
綺麗な三日月がそこにあった。砂漠には三日月が似合うと、シンは思う

「まぁな。ガロードは見事なぐらい、ティファとかいう子のことしか頭にないよな」
「でも、あそこまで想われるって、きっと幸せよ?」
「ああ。ルナは・・・好きなヤツとかいないのか?」

そう言うと、ちょっと驚いたようにルナマリアがシンを見つめてきた
それから少し思案するような顔になって、うなずく

「最初は艦長なんか、いいかなって思ってたんだけどね。あーあ。見る目なかったのかなぁ・・・
  私の方が、ずっと長い付き合いで、チャンスもあったはずなんだけどなぁ・・・・・」
「ルナ・・・・・?」
「ま、今はそんなこと話してる場合じゃないでしょ。オーブを取り返す、議長を戻す
  やることはいーっぱいあるわ」
「そうだな。そういや・・・・俺、思うんだけど」
「なに?」
「ラクス・クラインってさ、凄いよな。許せないけど、凄い。けど・・・・もしキラがいなかったら、どうなってたんだろ」
「キラが・・・・。うーん、そうね・・・・。なんか、キラがいないと思ったら、倒せそうな感じがするわ」
「あの二人、なんで一緒にいるんだろ?」
「え・・・・?」

シンの脳裏に、浮かぶ二人の姿。救国の歌姫と、大戦の英雄
ぴたりと背中合わせでそこに存在する、キラとラクス

始めから、自分は前提を間違えていたのかもしれない
キラを倒そうと思うから、キラを倒せない。キラはもう一人の自分を持っている

「二人で一つ、か・・・・・。キラを倒すには、ラクスも一緒に倒さなきゃいけない・・・・。
  なら、どうやってラクスを倒すのか・・・・・。あいつはMSに乗って出てくることなんてしない・・・・」
「そりゃあ、恋人同士だからじゃないの?」
「え?」
「キラとラクスが、どうして一緒にいるかって話のことよ。恋人だから一緒にいるんでしょ
  そういう意味ではお似合いだもんね。歌姫と、それを守る無敵の騎士」
「恋人だから、か・・・・。不思議、だよな・・・・」

シンは思う。歌姫と無敵の騎士。ルナマリアの言葉には、形にならないラクスへの好意があった
なぜラクスはあそこまで好かれるのだろう。確かにロゴスなどよりやっていることはマシかもしれないが、
それでも行っていることは非難されるべきことが多い。オーブ政権の武力簒奪などその最たるものだ
それにユウナは、彼女の政治能力のなさを指摘していた。完璧な英雄というわけでもない
しかし、ラクスを心の底から嫌悪している人間は、少ない

ふくれあがったカリスマ。あまりに好かれる歌姫
それを倒すにはどうすればいいのか。それを超えるにはどうすればいいのか

しかし完璧なパイロットであるはずのキラは、ナチュラルのガロードに負けた
理屈ではそれは、絶対に不可能なことだ。なら、自分もラクスを超えることができるのか

答えはわからず、ただ月は光っていた

==========================

翌日
かなり夜遅くにウィッツは帰ってきていたようだった。しかし彼は休むこともなく、
早朝にジープへシンとルナマリアを乗せた

「んじゃ、コニール。留守番頼むぜ?」
「おう。兄貴も頑張れよ」

コニールに別れを告げて、ジープが走り出す
ガルナハンの町を見上げる。ところどころにゲイツなどザフトのMSがいるが、おおむね平穏だった

どんな形であれ、民というのは、平和と豊かな生活と、ある程度の安全と自由が保障されればそれでいいのかもしれない
シンはガルナハンの町を見つめながら、そう思う

ジープが走った先は、また懐かしい場所だった
かつてこの町に不時着したとき、DXやガイア、インパルスを隠した洞窟だった

「これ・・・・シャトルなのか?」

シンが洞窟の中でうずくまっている蒼い物体を指差す
戦闘機のようだが、後方に巨大なブースターがついていた

「ちげーよ。ガンダムエアマスターバースト。れっきとしたMSだ。こいつで宇宙に上がる」
「え? MSで宇宙になんか行けるのか、ウィッツ?」
「追加ブースターがついてんだろ。そいつとエアマスターの出力をあわせて、一気に上まで行く。
  ま、こんな芸当ができるのは俺のエアマスターだけだろうけどな」

しかしよく見ると、ブースターはコンテナをかねているようだ
コンテナの窓から、なにかが顔をのぞかせている

「なぁ、あれにはなにが入ってんだ?」
「あ? ただのジャンクだよ。ハイネが持ってけってうるせぇからさ」
「・・・・・なんか窓から赤い・・・いや、若干ピンクだけど・・・MSみたいなのが見えるんだけど・・・・」
「気にすんな。それより早く乗れ。エアマスターのコクピットに三人は狭いけど、しゃあねぇ」
「あ、ああ・・・」

うながされ、エアマスターのコクピットに乗り込む。一人用のコクピットで、狭い
しかしそこは、いつか見たDXのコクピットに似ているような気がした

「おっしゃ、ベルトで体を固定したな? じゃ、シン、ルナマリア! 行くぜ!」

エアマスターが、ゆっくりと起動する。それは洞窟から戦闘機として飛び立つと、方向を上空に定め、
そして宇宙に首を向ける。

ゴォッ!

瞬間、追加ブースターが起動し、シンたちの体に圧力を与える
それに耐えるのに、必死になる。そして気づいた時には、もう地球を抜けていた

==========================

ヤタガラスが宇宙を行く。アメノミハシラまではもう少しだそうだ
ガロードはそこがどういうところなのかよく知らないが、シンがアカツキを受け取ったところだというのは知っている

アメノミハシラはいまいちよくわからないところだ。宇宙ステーションというのは確かだが、
オーブの国土、というわけでもないらしい。ただオーブに近い存在というのも確かだった
しかしユウナの口ぶりから察するに、ヤタガラスに協力的かと言われれば、また疑問符がつく

すべての鍵はロンド・ミナ・サハクという女性が握っているらしい
アメノミハシラがヤタガラスを拒絶すれば、バルチャーになるか、プラントに亡命するかしか選択肢は残らない

ガロードは宇宙の見える、廊下を歩く。ふと、その先に見知った顔がいた。ステラである
彼女はぼんやりとした視線で、手に持ったピンクの貝殻を見つめていた

「よぉ。どうした、ステラ? シンがいなくてさみしいのか?」
「ガロード・・・。あ・・・・うん・・・・ステラ、さみしい」
「またはっきり言うな、オイ・・・・」

しかしステラのシンを慕う姿は、見ていて痛々しいほどだった
本当ならほほえましく感じるはずだが、なぜか痛々しい。それは彼女の体のせいだろうか

「ねぇ、ガロード?」
「うん?」
「シンってどうしたら、よろこんでくれるのかなぁ・・・・」
「え? よろこぶ?」
「シン、なんだか苦しそう。でも、ずっとステラにはわらうの。つらいはずなのに、わらってくれるの」
「・・・・・・」
「だいじょうぶって聞いても、だいじょうぶだしか言わないし
  ステラをまもるからって・・・・いっつも・・・・。ステラをだいじにしてくれるけど・・・・」
「・・・・・・・・」
「ステラもシンになにかしてあげたいの・・・・。ステラ、たたかうことしかできないけど・・・
  たぶん、あとすこしだけしか、いっしょにいられないから・・・・」

あとすこしだけしか。それは、どういう意味だったのだろうか
彼女の命は、そう遠くないうちに絶える。しかしステラ自身は、それを知らないはずだ

ガロードは思わず、声を失った。どうやって声をかけたらいいのかわからなくなった
なぜか少しだけ、泣きたくなった

「あー・・・・。じゃあ、今度俺がシンに聞いといてやるよ
  なにかやってほしいことがあるかどうか」
「あ・・・・うん。ありがとう、ガロード」

そう安請け合いしたものの、正直、シンがステラになにかを求めているとも思えなかった
シンはステラを守れればそれで十分と考えているふしがある
正直なところ、ガイアで出撃するのも反対だろう

(なんとか、なんねぇのかな)

そう思う。ステラの体である。見たところ間違いなく健常であるのに、そこまで命がたやすく消えてしまうものなのか
しかしステラが食事のたびに、少なくない薬物を飲み込んでいるのを見ると、暗い気持ちしかわいてこない

ブリッジに向かった。トニヤやシンゴは仕事をしている。副艦長の席には、元連合のイアンが座っていた
艦長席にはいつもどおり、アスランがいる。ゲスト席には、ユウナもいた

「ガロードか。もうすぐアメノミハシラだ」
「おう、アスラン。やっとDXの修理ができるな。ったく、一時はどうなることかと思ったぜ」
「だが状況は甘くないぞ。・・・・メイリン、アメノミハシラとコンタクトは取れたか?」
「あ・・・はい。こちらから呼びかけていますが、ちょっと待ってください・・・・。混線してて・・・・
  あ・・・・? え・・・・?」

一瞬、メイリンの動きが止まった。嫌な予感がガロードの胸を突き抜ける

「なにがあった?」
「こ・・・・アメノミハシラ、交戦中! 敵は・・・・!」

メイリンの叫びが聞こえた。次の瞬間、ガロードはMS格納庫へ走り出した

==========================

                アマツ
アストレイゴールドフレーム 天 ミナ。それが押されている。いや、圧倒されていると言っていい
目の前のMSはそれほど強い
アメノミハシラの防衛戦力は、ほとんどヤツにやられた。M1アストレイが、無残な屍を宇宙にさらしている

わずか一機だけの敵ならば、十分に撃退できるはずだと踏んだが、そうもいかなかったのか

(一機だけで来るのは、それだけの理由があるというわけか・・・・!)

ロンド・ミナ・サハクはコクピットで歯噛みした

『どうしましたぁ? その程度ですか、オーブの軍神の力は!?』

不愉快な声が聞こえる

「貴様はなにが目的だ? なぜアメノミハシラを襲う?」
『あははははは、別にこんな宇宙ステーション、どうでもいいんですよ
  僕の獲物はもっと別にあります。ヤタガラスって知ってますか?
  あれをさっさと沈めなければいけないんでね・・・・』
「連合の手先か・・・・? それともロゴスの飼い犬か?」
『うふふふ、どこでしょうね? とりあえず不幸な運命に襲われたと思って、諦めてくださいよ
  まぁ、僕としてはついでという感じでアメノミハシラ襲っているわけですが』

腹の立つ声だった。しかしミナは苛立ちを抑える。挑発しているのだ
しかし状況は絶望的である。

目の前にいる一機のMS。デスティニーガンダム。聞いたことがある
幾度となく戦況に介入したMSであるが、その正体は不明
ただ、そこに乗っているのはカガリを殺したニコルという男だという

「貴様の正体は、どうでもいいことか・・・・・。来い、この身に代えてもここは通さん!」
『あははは、知ってますか? そういうこという人ってね、たいてい、死んじゃうし、なにも守れないんですよ?』

挑発を無視し、ゴールドフレームはサーベル、トツカノツルギを引き抜く
ゴールドフレームの本領は格闘戦にあるが・・・・
しかし、デスティニーはあざ笑うかのように巨大な大太刀、アロンダイトを引き抜いている
あれにかかれば、ゴールドフレームは一刀両断にされるだろう。小回りでどれだけごまかせるか

ふと、緊急通信が入った。アメノミハシラからだ

『ミナ、私を出させてくれ』
「・・・・バカを言うな。ジャンク屋になにができる。さっさと逃げるがいい」
『しかしこの状況、黙ってみているわけにもいかん』
「私は戦えるジャンク屋など、一人の例外を除いて知らん
  ・・・・それに、誰かは知らんが、大切な人間をかくまっているのだろう、おまえは
  おとなしく見ていろ。せめて私の命に代えても、デスティニーを先には進ませはしない・・・・!」
『・・・・・・・・・・・』

通信が切られる。ミナはすぐにそのことを忘れて、ゴールドフレームのミラージュコロイドを展開させた
同時にゆっくりとデスティニーの後ろに回る・・・・が、いきなりデスティニーの姿が消えた

「なっ・・・・!?」
『あははははは! ミラージュコロイドはね、本来、僕の専売特許なんですよ!?
  それでこうなるとね、こうなっちゃうんですねぇ!』

いきなり現出したデスティニーが、翼を広げ、周囲へ光を放つ
同時にゴールドフレームがいる場所がゆがんだ。そこめがけ、アロンダイトを振り下ろしてくる!

とっさにビームシールド、オキツノカガミを展開したが、アロンダイトに吹っ飛ばされる
どうにかゴールドフレーム本体は無事だが・・・・

次の瞬間、アメノミハシラから一つの光点が出てきた。それは人型となり、こちらにやってくる

『やはり見ているわけにはいかんな』
「な・・・・。来るなと言ったろう、死にたいのかジャミル!」
『死ぬ予定はない。それに・・・・・ただのジャンク屋であるのも、そろそろ限界だろう
  極力この世界には介入したくなかったが・・・・・』

GXディバイダー
そう呼ばれたMSが、ゴールドフレームの隣にやってくる

「ジャミル・・・・。ジャンク屋がかなう相手では・・・・」
『ミナ。あなたには世話になったが・・・ジャンク屋は今日で廃業させてもらおう
私はパイロットに戻らねばならないようだ。・・・・・ジャミル・ニート、GX、行くぞ!』

ジャミルのGXが、盾を構えて、内蔵されたハモニカ砲を露出させた