クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第058話

Last-modified: 2016-02-17 (水) 23:59:03

第五十八話 『ガロード・・・・・』
 
 
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アスランは信じられないものを見た。誰が信じるだろうか
なんとガロードは、生身でレジェンドに戦いを挑んでいるのである

時折、レジェンドが動く。それでもガロードは懸命にしがみつき、
コクピットハッチををビームナイフで切り付けている
それはまぎれもない、愚者の姿だった。だが・・・・・

「美しいものですな、艦長」

イアンがつぶやいている。アスランも無意識にうなずいた

「ああ。どうしようもない、バカな行動なはずだ・・・・。なのに、どうしてこうも・・・・」

ぱぁん、ぱぁんと、レジェンドのコクピットハッチから火花が散る
頑張れ、ガロード。頑張れ。無意識に、アスランはこぶしを握り締めていた

気がつくと、ブリッジの人間は、ガロードの姿に釘付けになっていた

「戦闘中だ! 総員、仕事に戻れッ!」

アスランが声を張り上げると、ブリッジクルーは我に返った
それを確認すると、アスランはイアンを見た

「出られるのですか、艦長?」
「・・・・俺も馬鹿の一人のようだ。イアン、艦の指揮は任せる」
「はっ」

ブリッジを出て、MSデッキに向かおうと艦長席から立ち上がった時だった
メイリンが、声を張り上げて空気を切り裂く

「艦長! ミネルバの、ハイネ・ヴェステンフルスから、専用回線で緊急入電です!」

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ガロードの目の前で、火花が散る。レジェンドのコクピットハッチは硬く、なかなか切り開けない
レジェンドにしがみついている、左腕がしびれる。レジェンドは動いているのだ。ワイヤーで固定しているとはいえ、
しがみついていないと振り回される羽目になるだろう

「ティファ、待ってろ・・・・。もうすぐ、もうすぐだからな」

腕の痛みも忘れた。死の恐怖も忘れた

思い出すことは始めて出会った日のこと。うさん臭い男の、うさん臭い依頼を受けて、
ガロードはフリーデンからティファをさらった。しかしうさん臭い男に、ティファを引き渡さず、二人で逃げた
そして逃げ込んだ先にあった、MS、ガンダムX。無我夢中で、乗り込んだ
あの日から、長い戦いの日々は始まったのだ

「聞こえるか、ティファ。俺はまったく後悔してねぇぜ
  出会えたんだから、俺たちは。だから俺はティファがいなくなるなんて嫌だ
  一緒にいたいんだ。だからぜんぜん、怖くねぇ。こんなのはどうってことはねぇ」

恐怖を、噛み潰す。今はナイフを一心不乱に振り続ける
シンのアカツキが、レジェンドの周囲にマガタマを展開しつつ、Sフリーダムとやりあっている

振り返ると、ムラサメが二機、やってくる。レジェンドを破壊せんとしているのだ
しかし、それは横合いから放たれたビームに撃墜された
ガイアだ。ガイアが、マガタマのフィールドの外で、レジェンドを護るようにそびえ立つ

ガロードは心の中で、ステラとシンに礼を言った

ガシン・・・・!

「・・・・!」

コクピットハッチの一部が、割れた。ガロードはそこからのぞき込んで、中を確認する
ティファがいる。パイロットスーツを着ていて、両腕両足をバンドでコクピットに固定されていた

「ガロード・・・・・」
「おまたせ、ティファ。今開けるぜ!」

手を突っ込んで、割れた部分にあるハッチ開放のボタンを押す
空気が漏れる音がして、ハッチが開く

「ガロード・・・・・!」
「ひでぇことしやがる。この野郎!」

ガロードはビームナイフではなく、普通のナイフでティファを拘束するバンドを切った
パイロットスーツに、コクピットからチューブが伸びている。それも切った

「ガロード・・・・ガロード・・・・・・」
「行こう、ティファ。こんなところにいちゃダメだ! ほら・・・・!」

ガロードはティファを抱きかかえて、レジェンドの中から脱出した
ティファを連れ出したせいか、レジェンドの機動は終了している

「ごめん・・・・なさい・・・・・」

ティファがガロードの胸に顔をうずめて、消え入りそうな声で謝る
ガロードはそっと、その頭をなでた

「いいんだよ、もう」
「・・・・・・」
「こうやって会えたんだ。いいんだよ、もう」

言うと、ティファがガロードにしがみついてきた
もう少しだけこうしていたかったが、今はまだ、戦闘中である

マガタマが開放され、ガイアがこちらにやってくる
すぐにガロードはティファをつれて、その手に乗り移った

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ぱぁぁぁん

シンの頭で『種』が弾ける
テンメイアカツキが、次々と出力調整型ハイパービームサーベル『ツムガリ』を繰り出す
ザン、ザンっと、斬撃を避け切れなかったストライクフリーダムが、かすり傷をつくっていく

洗練された格闘動作。宇宙空間でありながら、剣聖のごとき足運び
射撃管制のすべてを犠牲にして造られた天命は、シンの想いを具現化する

『うっ・・・・強い・・・・・? ロドニアの頃とはまったく違う・・・・・』
「人間は成長するんだ! 昨日の俺は、今日の俺じゃない・・・・・
  最初、どうあがいてもあんたに届かなかった俺だけど・・・・・ようやく今日、追いついたッ!」
『それでも・・・・ッ! 僕には護るべきものがあるんだッ!』

Sフリーダムが、残された左手で連結ビームサーベルを引き抜く

「なめるな・・・・・! 護るべきものがあるのは、こっちも同じだ・・・・ッ!」

ツムガリ。瞬時に出力を調整し、行く手をはばまんとしたSフリーダムの連結ビームサーベルを吹き飛ばす!

『な・・・・・』
「あんたにこれ以上関わってる暇はないッ!」

シンの声に応え、ツムガリの刀身が伸びて一気に三倍ほどの大きさになる。それはSフリーダムの肩を貫いた
そのまま斬り落とし、左腕までもSフリーダムは失う

(このまま・・・・!)

シンはアカツキの中で生唾を飲んだ。圧倒しているのは、奇襲が成功しているからである
それにツムガリをただのビームサーベルと思い込んでいたようだし、
Sフリーダムは、まさかテンメイアカツキが射撃武装のすべてを犠牲にしているとは思わないだろう
対して、こちらはSフリーダムの武装や攻撃パターンを知り尽くしている
その差が、いま現れているだけで、再戦となると勝敗はわからない

キラが両腕を落とすなど、めったにありえないことだった
ビームサーベルを無くしたSフリーダムでは、アカツキを落とすことは至難になっている
このまま押し切るべきだった

『うっ・・・・・ラクス!』
「悪いが、もうあんたには情けはかけられない・・・・。キラッ!」
『クッ・・・・!』

Sフリーダムが背を向ける。追いすがろうとした時、クラウダやムラサメが間に入ってきた
瞬間、シンはそれがオーブ軍であることを思い出した

「どうして・・・・どうしてキラに味方してるんだ、あんたたちは! あいつはオーブを乗っ取ったんだぞ!」

通信を開いて、シンは思いっきり叫ぶ。しかし反応はない
返礼はビームだった。シンはその場を動くことなく、ビームを受け止め、跳ね返す
ムラサメが爆発した

(時間稼ぎの・・・・つもりかよ!)

やりきれなかった。どうしてこうなっているのか。人はこうまで愚かなのか
なぜ物事の本質を見極めることができないのか

ツムガリを構え、一瞬のうちにクラウダを三機、撃墜する
あれほどてこずったクラウダを、たやすく斬り捨てることが今はできている
しかしまったく嬉しくなかった

瞬間、逃げようとするSフリーダムへ、デスティニーが襲い掛かっていく
いかにSフリーダムが最新鋭とはいえ、デスティニーの機動性には劣る
全速で逃げるSフリーダムは、徐々に差を詰められた

しかしそれをかばう、オーブ軍の兵士たち。デスティニーの前に立つ、ムラサメやM1アストレイが撃墜される
それは時間稼ぎになり、Sフリーダムの逃げ道を作る

『坊主、なにぼーっとしてる!』

ヒュン! 下からやってきた、フリーダムのビームサーベルがうなりをあげる
シンはそれを避けつつ、中の人間が誰か、すぐに理解した

「ネオ・・・・! また、あんたか!」
『キラはやらせん!』
「どうして・・・・どうして・・・! そんなにキラが大事かよ、ラクスが大事なのかよッ!」

ザンッ! ツムガリが、フリーダムのシールドを一撃で両断する

『な・・・・どういうビームサーベルだよ、こりゃあ!?』
「キラやラクスがなにをしたって言うんだッ! ただ戦争をやりたがっているだけじゃないか・・・・・
  なんでそんなのを、命がけで護るんだよッ!」
『黙れ、シン! 戦争をやらなきゃいけない人間の気持ちが、おまえにわかるか!』
「わからない・・・・! でも、戦争をやらなきゃいけなかったユウナ代表や、デュランダル議長の苦しみは、
  少しだけ俺にも見えたんだッ! だから・・・キラやラクスのやっていること、俺は認めないッ!」
『デュランダルだと・・・・!? 世界を我が物にせんとしている人間を、なぜかばう、シン!』
「なにも知らないくせに・・・・・ッ!」

アカツキは盾で思いっきり、フリーダムの顔を殴りつける

『うぉ・・・・!』
「もうやめろ・・・・やめろよ、ネオ! あんたはとっくにわかってるはずだ!
  無理に自分を納得させないでくれ!」
『俺はムウ・ラ・フラガだ・・・・・間違えるなッ!』
「話をそらすな! こうなったら、力ずくで止める・・・・ッ! あんたにも、この世界がどうなってるか、教えてやるよ!」

キラと同じことをするのは気が進まなかったが、こうなったら両手両足を斬り落として、
ヤタガラスまでさらってやる。シンはそう覚悟した

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アスランはインフィニットジャスティスで戦場に急行していた
その右腕には、パイロットのいないGXが握られている

残り十分。それまでに戦場を離脱する必要がある

M1アストレイが立ちふさがる

「邪魔だッ!」

GXを片腕で引っ張った態勢のまま、ジャスティスは片手でM1アストレイを斬り落とした
それほどクラウダも、数が多いというわけではないらしい

「デスティニー・・・・。ニコルか・・・・、くっ」戦闘するデスティニーを見たとき、
アスランはそこに斬りかかりそうになる自分を感じたが、
どうにか抑えて通信を開く「シン、ステラ、聞こえるか! 戦闘をやめろ!」

ガイア。そして、フリーダムとやりあうテンメイアカツキが見えてくる

『艦長!?』
「シン。熱くなるな。俺たちの目的は戦闘じゃない。ガロード、受け取れ、GXだ!」

インフィニットジャスティスが、ガイアの方向に向けて、GXを押し付ける
すぐにガロードはそこへと乗り移った。もう一人、少女を連れている
あれがティファ・アディールなのだろう

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ガロードはGXへ、ティファを連れて乗り移った

「へへっ。思い出すな、ティファ! あの時もこんな風に、一緒にGXへ乗ったっけ!」
「ええ・・・・」
「にしても、アスラン、怒ってるもんだと思ってたけどよ」

一人つぶやくと、通信が入ってくる

『怒っているぞ、俺は』
「あ、アスラン・・・・」
『後でたっぷり絞ってやる。今は脱出するぞ、ここから』
「ん・・・・ああ、急ぐけどよ。どうしたんだそんなあわてて?」
『・・・・妙にザフト軍の展開が遅いと思ったら、おとりだった。ヤタガラスの参戦など、余計なお世話だったようだな』

アスランが苦々しく吐き捨てる。ふと、ガロードは不吉なものを感じた

「なにか、あんのかよ?」
『ザフトの新型宇宙機動要塞メサイア。そこにミネルバは入港した。エネルギーのチャージは終わり、
  地球を射線から外すと同時に、オーブ艦隊への射線を取りながら、メサイアは動いている
  すでに発射態勢に入っているんだ・・・・・ネオジェネシスが』
「ネオ・・・・ジェネシス? なんだそりゃ?」