クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第072話

Last-modified: 2016-02-20 (土) 02:22:23

第七十二話 『人類の革新なのかい?』
 
 
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声が聞こえる。控えめな少女の声
—————その先を左へ
ムウは迷わず、その声に付き従った。驚いたことにこの声は、まったく警備兵のいない場所へと導いてくれる

(すげぇ・・・・)

ムウが持つ空間認識能力とは、実際のところ謎が多い能力だった
一説によると透視や予知、感応といった超能力全般のことを指すと言う
これが謎の少女が持つ空間認識能力だというのなら、彼女はどれほどの力を持っているというのか

MSデッキが見えた
—————まっすぐ、中へ
声に従い、ムウはマリューを抱えたまま、MSデッキに侵入した
ぐるりと周囲を見回す。人の姿は見えない。今なら、フリーダムに乗り込める

通路は、直接フリーダムのコクピットへ延びている
ムウは急いでコクピットまで来ると、マリューを降ろす。それからハッチを開けて、中を確認した
ロックはかかっていない。ここまで手は回らなかったのだろう。電源を入れ、MSを起動させた

「マリュー」

外にいる恋人へ声をかけたとき、ムウは固まった。マリューは銃を構えてこちらに向けていたのだ
そういえば銃を取り上げていなかったことを、思い出す

「やめて、ムウ・・・・お願い・・・・やめて・・・・・。私、そんなことしたくない・・・・」
「・・・・そうだよな。俺は、おまえの気持ちも聞かずに勝手をやった
  でも、もう決めたんだよ。おまえの気持ちなんか関係ない。おまえをさらって、嫁さんにする」
「ムウ・・・・・」
「今まで情けないことばっかやって、いろいろ裏切っちまった俺だけど、それだけは偽りたくねぇんだ
  だから・・・・」ムウは再び、右手に銃を握ってマリューに向けた「俺と一緒に来い、マリュー」

お互いに銃を向け合う。マリューは泣きそうな顔になっていた
彼女は多分、まだラクスとキラを信じている。いや、二人を間違いだと言い切るほど、ムウは自分に自信があるわけではない
それでも、なにかが違うと疑い続けていた。そしてシンの叫びを聞いて、それは確信に変わった

「バカね・・・・カッコ悪い・・・・そんなプロポーズがあるの?」

銃を握るマリューの瞳から、つぅっと一筋の涙がこぼれ落ちた
  オ
「堕ちた鷹にはお似合いさ」
言って、ムウはさびしい笑みを浮かべる。それしかできない。彼女は銃を捨てない
マリューは自分を拒絶した。それだけがわかった

「ダメ。私、行けない・・・・。キラ君たちを置いてはいけないわ。どうしても一緒にって言うなら、私を殺して、ムウ・・・・」
「・・・・・わかったよ」ムウは銃を下げた「フラレたのかね。本当にどうしようもねぇな、俺は」
「いいえ。愛しているわ、ムウ。本当よ?」
「おう。その言葉だけで十分だ」

ムウはフリーダムのハッチを閉めた。もう少女の声は聞こえてこない
代わりに、マリューの周囲にからみつくラクス・クラインが見えた

(・・・・・・?)

思わず、ムウは目をこする。ほんのわずかな間だったが、
マリューに何人ものラクスがまとわりついているのが見えたような気がしたのだ
それは幻だったのか、どうか。フリーダムを起動させると、そんなことも忘れた

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シンはテンメイアカツキの中でじれた。胃が、きゅうっとしぼられたような感じになる
心臓は早鐘を打ち、額にはあぶら汗が浮かぶ
大舞台で打つハッタリが、これほどプレッシャーのかかるものだとは思わなかった

視線を、モニタに映るエターナルへ向ける。ラクスからの返答は無い
沈黙が辛かった。相手に動きがないなら、ここでさらになんらかの手を打つべきか
そう思った瞬間、事件はエターナルではなくアークエンジェルで起こった

レオパルド、ヴァサーゴの二機がアークエンジェルに取り付いたのだ
どういうわけかヴァサーゴはアークエンジェルに衝撃を与え、レオパルドがこちらに砲身を向ける

『ケッ、ロアビィの野郎! テロリストに成り下がっちまうとは、とことん落ちたもんだぜ!』

ウィッツの叫び声が聞こえ、エアマスターは二丁のバスターライフルをレオパルドに向けた

「ウィッツ! まだ交渉は終わってない!」
『わかってら、シン! でもけん制ぐらいはしとかねぇとよ!』
『いや、ばれたかもしれねぇ』

ガロードの、硬い声が聞こえる。同時にアークエンジェルから出撃してくるMSが見える
フリーダム。シンは操縦桿を握り締めたまま、歯噛みした

「ネオ・・・・! やっぱりあんたは・・・・え・・・・?」

奇妙なことが起こった。出撃してきたフリーダムは、すぐ近くにあるザフト艦の主砲を吹き飛ばしたのだ
爆発が何度も起こり、ザフト艦はあわてて撤退しようとしている

『シン、聞こえるか?』

同時に、アスランのインフィニットジャスティスがやってきた

「か、艦長。俺・・・・」
『別に咎めに来たわけじゃない。おまえに言いたいことは、山ほどあるが
  いいか、それよりよく聞け。ラクスはエターナルにいない。いるのはアークエンジェルだ』
「影武者、ですか?」
『そうだ。シン、やるなら最後までやってみせろ。ラクスを撤退させてみせろ
  ヤタガラス、三本足の照準は、アークエンジェルに合わせてある
  まぁ、おかげでバルトフェルドにはサテライトキャノンのブラフはばれたが、これも脅しとして有効だ』

言われて、シンは始めてヤタガラスがローエングリンを起動させていることに気づいた
この行動は、本当にサテライトキャノンが撃てるなら不要な行動である
つまり三本足の照準は、サテライトキャノンがブラフである証明となってしまった、が・・・・

「甘かったんですか、俺は?」
『いや、アイデアは悪くなかった。だが本当に撃てない兵器より、撃てる兵器の方が有効だ
  それにいざとなれば俺はラクスを吹き飛ばす。それまでになんとか交渉させてみろ』
「はい・・・・。艦長は?」
『ニュータイプはすごいな。俺も人類の革新というのを信じそうになったよ
  あっちの世界で、権力者たちがティファを手に入れようとした理由もわかる
  少し先の未来がわかるんだからな。俺は、あれの相手をする』

フリーダムを追いかけて、一機のMSが出てくる。ストライクフリーダムだった
同時にアカツキの周囲にあった、ガイア、Dインパルス、DX、エアマスターも散開し、アカツキを守るような陣形を取った

『やってやれよ、シン! 護ってやっからよ!』

ガロードの声に、シンはかすかにうなずいた

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ティファの予言。それは、ムウとキラがアークエンジェルから飛び出してくるということ
それと、アークエンジェルにはラクスがいるということ。最後に、この戦いは自分たちの勝利に終わるということ

アスランはインフィニットジャスティスで艦隊につっこむ。まだオーブ軍は体勢を立て直していない

『ムウさん! 戻ってください!』
『いまさら・・・・!』

フリーダムとストライクフリーダムが交戦している。戦力差は明らかで、ムウのフリーダムは防戦一方だった
Sフリーダムが動きを止めんと、ドラグーンを自機の周囲に展開させ、次々とビームを放つ

ドシュゥ!

即座にインフィニットジャスティスがフリーダムをかばい、ビームシールドを展開。ドラグーンからの攻撃を防いだ

「ムウさん! アスラン・ザラです。あなたはヤタガラスへ戻ってください!」
『おいおい・・・・いきなり、こっちの事情も説明してないっつーのに・・・・・』
「細かい事情はわかりませんが、あなたが敵ではないということはわかっています
  それにあなたが死ねば、シンとステラが悲しみます。早く!」

ジャスティスはビームライフルとリフターにある二門のビーム砲を起動させ、ストライクフリーダムに向かって放つ
けん制。Sフリーダムはビームシールドでそれを受け止めている

フリーダムが背を向けて、逃げ出した。アスランはそれを見届けると、Sフリーダムをにらみつける

『アスラン!』
「キラ・・・・! おまえやラクスの勝手でプラントを討たせはしない・・・・ッ!」
『どうして君はッ!』

Sフリーダム。ドラグーン、展開。オールレンジ。即座にジャスティスは、
下がるのではなく、一直線にフリーダムへ突っ込み、右足のビームサーベルを起動、蹴りを放つ

ガシャァァン! Sフリーダムが吹っ飛び、ドラグーンが行動を止める
しかしどういう装甲をしているのか、ビームサーベルで斬りつけたにも関わらず、傷はほとんどない

「平和だったオーブを奪って戦争に巻き込み、レクイエムで深刻な被害を受けたプラントを討つ・・・・
  おまえはいつからそんなことが平気でできるようになった!?
  自分のやっていることが本当に理解できているのか!?」
『わかるけど・・・・君の言うこともわかるけど!』

瞬間、Sフリーダムの腹が光る。複相ビーム砲。赤色のビームが、すさまじい勢いで、こちらに向かってくる
展開する、ビームシールド。受け止めるが、あまりの衝撃で体勢が崩れた

「くっ・・・・・どうでもそんなに、そんなに人を不幸にしたいのか! そんなに誰かを傷つけたいのか、おまえはッ!」
『違う! 人には自由な未来が必要なんだ!』
「未来だと!? おまえは、ラクスが創る勝手な未来を押し付けるだろう! 俺はそんなものを許しはしない!」
『どうしてわからないんだ、アスラン!』
「なに!?」
『僕たちがこうして戦うことで、カガリは、カガリは今、泣いているんだぞ!』ストライクフリーダムがビームサーベルを抜き、
斬りかかって来る『こんなことになって、一番悲しんでいるのはカガリだ! 僕たちは戦っちゃいけない!
  君はオーブを討ってはいけないんだッ! 僕たちを悪役にして、自分だけが正義みたいに言い訳して!
  それで君は僕らを討つのか! カガリが守ろうとしたものを!』

迫り来るSフリーダムのビームサーベル。ビームシールドで受け止める
散る、火花

「ふ・・・・ふざけるなキラァァァッ! 誰のせいでカガリは泣いているッ!!
  どこまであつかましくなれるんだおまえは・・・ッ!」

同時にジャスティスは両腕のサーベルを起動させ、Sフリーダムを挟み込むようにたたきつける
ガシャァン! 衝撃。しかし、斬れていない

『なら、僕は君を討つ!』

キラの声

アスランは瞬間、敗北を確信してしまった。Sフリーダムがビームサーベルを振り上げる
ばらばらに分解される、インフィニットジャスティスの姿さえ想像できた

『この野郎ォォォ! やらせるかぁぁッ!』

瞬間、DXが乱入。バスターライフルを乱射し、Sフリーダムとジャスティスの戦いに割って入ってくる

『うっ・・・・! ダブルエックス!?』
『やらせやしねぇ! 討たせもしねぇ! 俺はそのためにここにいるんだ!』
『君は!』
『へっ、こうやって戦うのは地中海以来だな、天才パイロットさんよ!』
『君は、君だけは放っておけない!
  どうしてDXなんていう危険なものに乗り続けられる・・・サテライトキャノンを撃ったりできるんだ!』
『んなモン決まってら! 俺は過ちを繰り返したくねぇだけなんだよ!』

DXが隙を作るまいと、バスターライフルを連射する。同時にまったく別の方向からもバスターライフルが飛んでくる
ウィッツのエアマスターがいつの間にか後方に回り、高機動を維持したままライフルを放ってるのだ

『よっしゃ! 一気に追い込むぞガロード!』
『そっちこそ踏ん張れよウィッツ!』

Sフリーダムが防戦に回る。だが。アスランは確認した。こちらにレオパルド、ヴァサーゴが向かってきている
しかもオーブ軍による、クラウダやムラサメ、グフやザクの発進も確認できた

(交渉決裂か?)

アカツキを見る。黄金の機体、その周囲ではガイアとDインパルスがシンを護っていた
少女たちが駆る二機のMSは、寄せ付けるオーブ軍のMSと交戦を始めている
ただテンメイアカツキは沈黙を守っており、戦闘に参加してはいない
驚いたことにシンは、このぎりぎりのところで、まだ交渉を続けているのだ

『ロアビィ、てめぇ、この野郎! とうとう頭おかしくなったんじゃねーのか!』
『おいおい、ひどい言い方じゃないのウィッツ』
『ケッ、こうなったらおめーのレオパルドと俺のエアマスター、どっちが上かはっきりさせてやらぁ!』

エアマスターが乱入したレオパルドと交戦を始めた

そしてヴァサーゴとSフリーダムが、DXを破壊せんと攻撃を開始している
ジャスティスはビームライフルを引き抜き、それを阻止する

(もう無理だぞ、シン)

アスランは押し寄せるオーブ軍のMSを見る。いくらヤタガラスとはいえ、この戦力とはまともに戦えない
こうなってはせめて、ラクスをここで殺し、ヤタガラスだけで月に向かうしかない
ラクスの死は、オーブ軍崩壊のきっかけとなる

アスランはヴァサーゴと交戦しつつ、三本足の発射を決意した

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ジャミルはヤタガラスのブリッジで戦況を見つめていた
負傷は完治していないが、いざとなればGXで出るつもりだった

『こちらオーブ軍一佐ムウ・ラ・フラガ! ヤタガラス、これより貴艦に投降する!』

フリーダムがヤタガラスへやって来る。かすかにジャミルの頭を、ちりっとなにかが駆け抜けた
失ったはずのNT能力、その残り火が、ムウと感応したのか

「ネオ大佐!」

副艦長席にいたイアンが、驚いて腰を浮かせた

『おいおい、イアンか? なんでヤタガラスにおまえがいんの!?』
「それはこちらの台詞です。それよりもネオ大佐、ヤタガラスへの着艦がご希望ですか?」
『ネオはやめろって。フリーダムは別に損傷受けてないから、着艦はいい。ただ、敵と見なさないでくれ』
「了解しました」
『えらくあっさり投降を信じるな。普通、もうちょっと疑うもんじゃないのか?』

するとティファが、首をあげてブリッジのモニタに映るムウを見上げる

「あなたは味方です」
『おまえさん・・・・あの声の・・・・』
「私には、それがわかるから・・・・あなたを信じます」
「そう、か・・・。サンキュ。おまえさんの声で、助かったよ」

言うと、フリーダムはヤタガラスの正面についた。警護についたということだろう

モニタが切り替わり、オーブ艦隊が映る
Sフリーダムとインフィニットジャスティスが交戦し、そこにエアマスターやDXが乱入する

「オーブ軍は、シンの交渉をはねつけたのか?」

ジャミルはそう思った。次々と、オーブの艦からMSが出撃してくるのだ
それを見つめながらジャミルは、ティファを見た。しかし彼女はゆっくりと首を振る

「まだ誰も諦めていません・・・・。みんな、頑張っています」
「そうか。それにしても厄介だな。ラクス・クラインがニュータイプだというのは」

ジャミルがつぶやくと、ユウナが反応してきた

「キャプテン・ジャミル。本当にラクスは、ええと、人類の革新なのかい?」
「もしも我々の世界に彼女がいれば、間違いなくニュータイプと呼ばれていたでしょう
  他にもムウ・ラ・フラガや、レイ・ザ・バレルがニュータイプに相当します」
「うーん。よくわかるね、そんなの。会ったこともないんじゃないの?」
「ニュータイプ同士は、深く感じあうことができます。言葉を交わさなくともわかるのです」
「じゃあさ、ティファ。それでラクスに呼びかけるってできないのかい?」

ユウナが首を回して、ティファに視線を移す
するとティファは、軽くうなずいた

「やってみます」

ティファが祈るように手を組み、目を閉じて精神集中を始めた