クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第079話

Last-modified: 2016-02-20 (土) 02:43:53

第七十九話 『俺が全部殺してやるよ』
 
 
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レクイエムのコントロールルームでの爆発を確認したと、偵察用ジンから報告が入った。
すぐさまレイはバレル隊を戦線からわずかに下げると、旗艦である空母ゴンドワナに戻った

「ジンからの報告は本当か?」

ブリッジに戻ったレイの第一声はそれだった。

「ご覧下さい」

オペレーターが映像をブリッジに映し出す
遠目ではあるが確かにコントロールルームと思われる拠点が、黒く無残に変色し、屍をさらしていた。
これでレクイエムは事実上無力化したのだろう。

「やったのはヤタガラスか?」
「そのようです。例のジャーナリストが戦場を随時放送したので、偵察用のジンよりそちらの方がよくわかりますよ」

レイは喜んで良いのかどうか、かすかに複雑な気分になった。
こちらの目的もレクイエムの破壊だが、手柄をヤタガラスに取られたという形だ。
そんなことを考えていると後方から気配がやってきて、隣で形になる。副官のサトーだった。

「やはり先を越されましたか」
サトーはとがめるような口調だった。確かに、遮二無二攻めればこちらがレクイエムを落とせたかもしれない。
それは事実だが、命令はレクイエムの発射阻止だ。任務は見事に果たしたつもりである。
「サトー。俺は手柄争いをする気はないと言っているだろう。それに手間がはぶけた。 このまま本隊を前進させて、ダイダロス基地を制圧するぞ」
「ヤタガラスとぶつかるのですか?」
「艦長……いや、アスランもそこまでバカではないだろう。あちらには基地を制圧する能力が無い。 欲しかったのは正義だけだ。さっさと退くだろう」
「いや、肝心なものがまだ残っています」
「なに?」
「ジブリールです」

レイははたと沈黙した
ロード・ジブリールは、この戦争の元凶とも言える男であり、プラント150万の民を殺した殺戮者でもある
ザフトとしてはなんとしてもこの手で捕えるか殺すかしなければならない男だった。
そして、ヤタガラス側にもそれは言える

「ジブリールの首までヤタガラスに取られては、ザフトの面目は丸つぶれですよ
 わかっておられるのですか、バレル隊長」
「わかっている。ロード・ジブリールとラクス・クライン。
 戦争の元凶であるこの二人は、なんとしても殺さなければならない。 月軌道の包囲は完了しているのだろう?」
「はい」
「なら、それでいい。ジブリールを逃がさなければそれでいいんだ。
 サトー。俺は過程に興味はない。誰がやったにしろジブリールが死ねば、それでいいと思う」
「隊長。あなたはそれでいいかもしれませんが、大勢のザフト将兵はそう思ってはおりません
 コーディネイターの虐殺を行ったジブリールだけはザフトの手で。
 そう考えている者たちの願い、かなえてやりたいとは思いませんか?」
「……」
「青き清浄なる世界のために。その言葉の下で、どれほどのコーディネイターが死んだと思っておられるのです」

サトーの言うことに理がないわけでもなかった
確かに、ダイダロスを制圧すると言うより、ジブリールを殺しに行くと言った方が兵の士気は上がるかもしれない。

レイがそう考えかけた時だ。プラント本国から直接に空母ゴンドワナへ指令が入る。
指令、といっても司令官からではなく、デュランダル議長からのものだった。
思わずレイは緊張した。ディスプレイに、いつものように柔和な笑みを浮かべたデュランダルがいる。

「やぁ、レイ」
「議長」
さっとレイは敬礼する。他のブリッジクルーたちもそれにならった
「レクイエムのコントロールルームが破壊されたのをこちらも確認したよ
 プラントのためそれは喜ぶべきことだが、少し困った戦艦がいるようだね?」
「はい」
「とはいえ私も、シンやタリアが裏切ったとは少々信じられなくてね。
 この間の放送、見ただろう? ラクスを止めたシンは、まだプラントの味方であるのは間違いない。
 オーブに忠実なアスラン・ザラや、あの出自不明の、私の偽者が彼らをだましていると考えるのが妥当だろうね」
「おっしゃるとおりです」
「私は彼らと戦いたくないのだよ、レイ。だがそういう感情を戦争は許してくれない」
沈痛な表情をデュランダルが見せた。優しいギル。なぜ彼が悲しまなくてはならないのだろうか
「議長。俺にできることでしたら、なんでも命じてください」
「ありがとう。君がいてくれて本当に助かるよ。今はヤタガラスを放っておいていい。 君はダイダロスを『潰して』くれたまえ」
「潰す?」

奇妙なことを言うとレイは思った。
ダイダロスを制圧するのではなく、潰すと確かにデュランダルは言った
しかしロゴス最後の本拠地とも言うべきダイダロスだ。アリのようにたやすく潰せるものではない。

「世界を平和に導くために、不要な者には退場してもらわなくてはならないのでね」

デュランダルが笑みを浮かべる。いつもの、柔和な笑みだった

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コントロールルームが破裂する。破裂という表現がぴったりな、崩壊の仕方だった。

「艦長は!?」

シンはテンメイアカツキの中で崩壊するコントロールルームをにらんだ。
デスティニーが飛び出し、アビスを確保して去って行ったがインフィニットジャスティスが出てこない。

『クソッタレ!』
「ガロード!?」
『一番硬ぇのはDXだ! 後は頼むぜシン!』

DXがコントロールルームへ通じる出入り口に突っ込む。アスランを探しに行こうというのか。
無茶だ。そう言う前に、DXの巨体は出入り口に吸い込まれて行った

(後は頼むって……)

損傷をチェックする。体当たりを使ったダメージは大きく、アカツキの出力は50%に落ち込んでいる。
ヤタノカガミの損傷率も高く、ところどころの装甲がむき出しになっていた

しかしウインダム部隊や、ダガー部隊がこりずに包囲を開始している。
連合の物量は、無限かと思うほどだ。

いや。編隊の組み方が少しおかしいことに、シンは気づいた。
連合軍は数が多いためこちらを囲んでいるように見えるが、実はこちらに対して距離を取っているようにも見える。
現にあれほど激しかった連合の攻撃が、ぴたりとやんでいた。

『シン』
ハイネから通信が入る
『気づいたか?』
「連合軍の動き、ですか?」
『あの陣形、攻撃陣じゃない。守備陣だ。そしてレクイエムが使えなくなった以上、やつらが護るべきは一つ』
「ロード・ジブリール」

つぶやいて、シンは息を呑んだ。民衆を扇動し、戦争を引き起こした元凶が、包囲するMSたちの先にいるのか。
すぐにシンはヤタガラス本隊へ通信を送った。
どちらにしろ戦艦とは合流しなければならないし、ジブリールを討つには半壊したアカツキでは無理だ。

どうすれば。守備陣の先に、一隻の戦艦が見える。ガーティ・ルー 、ガイア、アビス、カオスを奪取した戦艦であり、今はロゴスの旗艦であるという。
それにはロード・ジブリールが乗っている。それを逃がしていいのか。

その時、コクピットにアラートが鳴り響いた。耳障りな警報と共に来るのは、母艦からの緊急通信。

『ヤタガラス、並びにミネルバ各機へ緊急の伝達です』
「なに……?」
冷静さを装っているが、メイリンの声には焦りがあった。ただ事ではない。
『ザフト軍の接近を確認』
「ザフト軍。レイ、か?」

シンは月面上空を見た。巨大な宇宙空母が中心となり、ザフト軍が月へ降下してくる。
それらはすでに連合の軍と交戦を始めており、しかも押していた。圧倒していると言っていい。
すでにヤタガラス側との戦いで疲弊しきった連合である。それに兵の質はザフトの方が高い。

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「全機続けッ!」
レイが叫び、レジェンドは奔る
「逃しはしない。ジブリール、おまえだけは!」

連合の部隊がザフトを止めんと前に立ちふさがる。だが。かなり消耗しているようだ。
情報にあったとおり、ロゴスの旗艦であるガーディ・ルーが中央にいる。

レジェンド。ドラグーンを展開。まずはガナー隊や艦砲射撃、ドラグーンで砲撃を行う。
もっとも厄介だと思っていた、デストロイの姿は見えない。

(シン)

デストロイを落としたのが誰なのか、もうわかっていた。
今は悩んでいる場合ではない。レイは感傷を振り切り、MS戦に集中する。

『クッ、虐殺者を逃しては恥だぞ。ジブリールだけはなんとしても殺せ!』

サトー。悲鳴のような怒りを叫んでいる。なかなか相手の守備を突破できない。
追い詰められたせいなのか、連合は思った以上に粘る。それに錬度の高いザフト兵たちがラクスへ付いたのも痛い。

「戦争を作り、生み出し、嘆きの上にあぐらをかいているような男が、生きることを許されると思うのか。
 ジブリール。貴様もラクスも、俺が殺す……ッ!」

ダガーL。ビームライフルで撃墜する。ふと、目の端に映った金色の機体。
いや、気にするな。レイは雑念を振り払う。

遠い。ガーティ・ルーまでが遠い。手柄を横からさらうような真似をしてまで、接近したのだ。
『ザフト』がジブリールを討つのなら今しかない。急がねばならない。時間が無い
できればあんな方法を使いたくは無い。だがいよいよとなれば仕方ない。

遠い。届かない。兵の質はザフトが上。だが粘る。なんのために。なんのためにジブリールなどへ手を貸す。

『コーディネイターめ。悪魔め』

MSを一機落とした。恨みに染まった敵の声が聞こえた。恨みか、忠誠心ではなく
やはりおまえたちは、コーディネイターを皆殺しにしなければ気がすまないのか。

世界を変えなければいけない。それも大胆に。そうしなければ本当に、世界は滅びてしまうだろう。
ガロードたちが見ていた世界と、同じ情景など見たくない。そのためにDプランが必要だった。
憎しみの連鎖を、いつまで続ければいいのか。終わらせなければ。

そのために、ギルの邪魔をするジブリールは討つ。悪と断ずるにふさわしい男を討つ。

でも遠い。届かない。ダメだ、あの悪魔を逃がしては。逃がすと、悪魔は人を殺す。
だから悪魔は殺さなきゃ

ガーティ・ルーがレイたちをあざ笑うかのように、戦闘空域から離脱していく。
レジェンドは闇雲にビームを放つが、届かないし、連合のMSに進路を阻まれる。

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逃がすな。

確かにそう聞こえた。喋れぬ男の声である。だが確かにシンの耳に届いた。
あるいは声にならぬ叫びであったのかもしれない。それでも聞こえたのだ。

デュランダルがそう言った。ジブリールを逃がすな、と。彼さえ討てば勝てるのだと。

『フラガラッハは二本ともイカレたが……議長がそうおっしゃるなら、やってみせましょう』

ザフトと交戦を始めたことと、ガーティ・ルーの防備についたせいで、連合の攻撃は弱まっている。
それに構わず、ハイネのノワールは連合部隊へ攻撃をかけた。

「そうだよ。逃がしちゃ、またあんなのを逃がしたら……」
シンの脳裏に蘇る光景。死の世界、静かな地獄、鎮魂歌の傷跡。150万の命が、一瞬で消えた。
『シン!』

ステラの声。見下ろすと、ガイアが犬の形に変形していた。すぐにその意を察し、アカツキはガイアの背へ飛び乗る。
あたかもそれは、戦場を疾駆する騎士のごとく。ツムガリを抜き放ち、一気呵成に敵陣へ切り込む。

仇を討ちに行こう。ステラの命を奪った男を、倒しに行こう。俺と君で。

「おおおおおッ!」

銃弾が降り注いでくる。実弾は切り払い、ビームははじいた。ガイアが、右へ左へと飛び跳ねる。
アカツキは身を低くしてガイアにしがみついた。

届け、
届け、
届いた

ガイアが跳ぶ。同時にアカツキもその背を蹴り、さらに翔んだ。
ブリッジ。そこ目掛け、ツムガリを振りあげる。

いた。ジブリール。口紅をぬった趣味の悪い男。
それがなにか、信じられぬものでも見るようにこちらを見つめていた。
なにを驚いているんだ。あんなに人を殺したんだ。殺したら、殺される。おまえはそれもわからなかった。

ツムガリが振り下ろされる。ブリッジが真っ二つに割れ、そこへ真空の風が吸い込まれる。
中にいたクルーたちは投げ出されたりたたきつけられたりしていた。スーツをつけていない。
全員、助からないだろう。

ジブリールは死んだ。確かにこの手で殺した。ツムガリの切っ先が、彼をこの世から消滅させた。

「ジブリールを討ったぞッ! ジブリールは死んだッ!」

シンは叫んだ。同時に雄たけびをあげた。まるで獣のような声だと思った。

連合軍が動きを止める。もはや彼らの完全なる敗北である。
ロゴスのMSは動きを止め、基地へと撤収していく。基地からは白旗があがっていた。

だが

『ブルーコスモスめッ! 死ねぇ!』

そこへとザフトのMSは容赦なく攻撃をかけていた。シンは思わずはっとする。

(ジブリールを殺せば、よかったんじゃないのか?)

甘くは無かった。プラントは150万の人間を殺されているのだ。
ジブリール一人の首をあげたところで、ザフトの怒りはおさまるだろうか?
ザフトのMS隊は容赦なく、白旗を掲げる連合基地へ攻撃をかけている。
まるで無抵抗の猫をいたぶるような、嫌なものを見ている気分にシンはなった。

『シン』

レジェンド。それがビームサーベルを構えて、こちらにやってくる。
シンの全身を、驚愕が貫いた。それから悟ってしまった。

ああ、本当に俺たちは敵味方に分かれてしまったんだな、と。

「レイ!」
『なぜだ、シン。なぜおまえは俺や議長を裏切った?』
「違う! あの議長は偽者だ!」
『ほう。証拠は、あるのか?』
「ある! サザビーが議長を殺した映像が……証人もいるし、なにより議長本人がヤタガラスにい……」

瞬間、レジェンドの頭部がバルカンを放った。あわててそれを避ける。

『映像だと? 証人だと? そんなものが簡単に用意できることがなぜわからない!』
「待て、レイ! 議長にお会いするんだ!」
『この世界は、人の偽者だって簡単に造り出せるんだ。おまえはだまされている、シン!』

レジェンドが背から二本のドラグーンを放つ。ドラグーンか。
ならばビーム攻撃しかできない……いや、レイがアカツキの特性を知らぬはずが無い!

瞬間、衝撃が来た。盾にドラグーンがねじ込まれている。
なんとこのドラグーンは、先端部にビームスパイクを取り付けていられている……ビームサーベルと同じだ。
これではヤタノカガミ装甲は効かない。

「がっ!?」

また、衝撃。今度はアカツキの肩にスパイクが食い込んでいる。

『シン。わからないのか? ギルは、なにかあれば真っ先に俺へと言ってくれるんだ
 なのにあの偽者は俺になにも言ってくれなかった。それがあれを偽者だと言う何よりの証拠だ!』
「なん……だって?」
『投降しろ! 俺はおまえを殺したくはない!』
『やめて!』

閃光が走るのが見えた。ガイアだ。ステラのガイアがレジェンドにビームで攻撃をかけている。
いや、攻撃ではない。少しだけ、ガイアの攻撃は急所を外れている。

『やめないか、ステラ! 俺がやっていることはシンのためになることだ!』
『いじめてるようにしかみえないよ、レイ!』
『俺は……』
レジェンドが動く。瞬く間に、ガイアの四肢はばらばらに切断されていた
『おまえも殺したくはない』

「ステラ!」

アカツキが走り、月の重力へ引かれるガイアを受け止めた。
レジェンドがそれを冷たい目で見下ろしている。依然としてザフトの、連合に対する一方的な殺戮は続いていた。

どうする。シンは自分へ尋ねる。今の性能が低下しきっているアカツキでは、レジェンドへの勝ち目は無い。

『やめなさいよ、レイ! このバカ!』
『ルナマリア?』

ルナマリアのDインパルスがエクスカリバーでレジェンドに斬りかかる。
ビームサーベルとそれはぶつかり合い、激しい放電現象が起こった。
繰り広げられるは、武士たちのつばぜり合い 。

『な・ん・で! あんたとシンが戦争やらなくちゃいけないのよ!』
『そう思うのなら投降しろルナマリアッ!』
『じょーだんじゃないわよ! ふざけないで、あんた目が腐ってんじゃないの?
 どっちが本物か、見りゃあわかるでしょ!』
『おまえもだまされているんだ、ルナマリア! やめないか!』
『だったらあんたもやめなさい! あんたはステラを殺さなかった……
 だったら、レイは優しいレイのままなんでしょ!』
『勝手なことを言うな! おまえに俺のなにがわかる!』
『そっちの都合なんか知らないわよ! でも、あんたも私も、お互いに殺しあうことを望んじゃいないでしょ!』

やめろ、ルナ、レイ。シンが口の中でつぶやいた時、目の端が異変を捕えた。

月の向こう側からそれはやってくる。赤い。赤いものだ。その赤は、なにかを引き連れている。
引き連れているのは、ウインダム、ダガーL、ザムザザー、ゲルズゲー
それらがザフトへ攻撃を開始している。ロゴスの増援……いや

『それはあたかも赤き薔薇のごとき奇跡ッ! 我こそは人の可能性を導く新星ッ!
 またの名を、宇宙にまたたく美しき流星ッ! 連合のスーパーエース、赤い2連星ただいま参上ッ!』

赤い色に塗装したデストロイが、砲丸投げをするような感じでキメポーズを取っている。

『その口上、恥ずかしいんでやめてくれませんか? それよりダイダロス基地の制圧ッ!』
『チッ、わかったよ。あー、あー。マイクテスト、マイクテスト。げっ、しまったカンペどこ行った?』
『紙なんかあるわけないでしょうが。だいたいマイクテストする必要がどこにあるんですか
 こういう時ぐらいビシッと決めてくださいよ。……口上のデータ送りましたよ!』
『おう、こりゃすまねぇ。えー、こちら大西洋連邦第17艦隊司令、アカイ・N大佐であるっ
 ブルーコスモス盟主ロード・ジブリールは、ええっと、罪状なんだったっけ……』
『大量虐殺の指示、軍への不法介入、収賄、兵器の不法所持、その他78の罪状の容疑により、
 大西洋連邦は議会決議においてジブリール氏の拘束を決定しました。
 しかし氏の死亡により、逮捕は不可能となりましたが、余罪追及のためダイダロス基地を接収いたします。
 ブルーコスモスの兵はどうか抵抗せず、速やかに命令に従いください
 なお、そちらに抵抗の意志ありと判断した場合、我々第17艦隊はこの場においてあなた方を殲滅します』
『がっはっはっは。ジブリールね。ま、外道の最後なんてこんなもんだ。
 というわけでザフトのチミたち、ダイダロスは大西洋連邦の管轄に入る。とっととうせてくれたまえ』

「大西洋連邦……? 大西洋連邦軍が、なぜ?」
シンは思わず、アルザッヘルで出会った男の顔を思い出した。ジョゼフ・コープランド大統領。

—————プラントとの和平は、こちらも望むところだ

そう告げた大統領の声。だが彼は、和平最大の障害をなんだと言ったか。

—————レクイエム。そしてロード・ジブリール

そうだった。それがたった今、消えたのだ。

『シン、逃げるぞ!』
ノワールがやってきて告げた。それでシンは現実に舞い戻る。
「逃げるんですか?」
『大西洋連邦軍の参戦は、議長の策だ。おまえが月で大統領に渡したアレだよ
 それに俺たちはザフトと戦いに来たわけじゃない。 
 レクイエムを破壊し、ジブリールを殺った今、俺たちの役目は終わりだ』
「でも……」
レジェンドを見る。ルナマリアのDインパルスは明らかに押されていた。
『大丈夫だ。後は任せておけ。おまえは知らないだろうが、』
一機の、 赤く塗装したデストロイがレジェンドに接近する
『赤い2連星は『月下の狂犬』や『切り裂きエド』と並ぶナチュラル最強のエースだ』

赤色のデストロイ。レジェンドはドラグーンの一斉射撃を放つが、陽電子リフレクターではじいた。
しかし囮。本命のビームスパイクが、真後ろからデストロイを貫かんと接近し……。

『おせぇな! おまえの動き、手に取るように見えるぜ!』
あっさりとデストロイはそれをかわし、レジェンドへこぶしを叩き込む
『クッ。なんだ、この不愉快な感覚は、コイツ……まさか俺やラウと同じ……』
『ニレンセイ、おめーはザフトの艦をやれ! このドラグーン野郎は俺がぶっ潰すッ!』
『チッ! 調子に乗るな! MSの色を変えれば、強くなれるわけじゃない!』

レイの号令が響き、ザフト軍が一斉射撃を行う。実弾、ビーム、なんでもありだ
だが信じられないものをシンは見た。デストロイがその巨体にも関わらず、一斉射撃を器用にかわしたのだ。
まるで射撃の軌跡がわかっていたかのような動きだった。

『俺をただのハッタリ野郎かと思ったかよ? 戦場でパーソナルカラー使うってこたぁな、
 敵にそんだけ狙われるってことなんだ。教えてやるぜ、若造。年季の違いってヤツをよ!』
『なんて、動きだ、コイツは!?』
『白旗揚げた敵は殺しちゃなんねぇって、ザフトじゃ教えてくれなかったのかい!?』

デストロイが素手で何度もレジェンドを殴りつける。レジェンドはビームシールドでガードしているが、ダメージを受けていた。

(レイ……)

シンは助けに行こうとする自分を感じた。しかしすぐにその考えを捨てる。
確かにこの局面ではデストロイが圧倒しているが、ザフトは新たに現れた大西洋連合軍を押していた。

これが、コーディネイターとナチュラルの差である。

『消えろ、ナチュラルどもめ! おまえたちはそうまでプラントを討ちたいのか!』
『黙れ! 頭上の悪魔が、なぜ白旗を掲げた敵を殺せる!』
『150万も殺しておいて今さら!』
『エイプリルフールを忘れたか! コーディネイターめッ!』

聞こえる。いたるところからやってくる、憎悪のぶつけ合い。
まだやっているのか、こんなことを。俺たちはいつまでこんなことを続ければいいんだ。

『シン』

アカツキの腕が抱きしめていたガイア。そこから声が聞こえる。

「ステラ。わかってる。わかってるけど、どうしたら……」

その時、赤いデストロイが爆音をあげた。レジェンドのビームスパイクが、背中へ命中している。

『あいにくだが、俺はデストロイに乗ったことがある。その機体、火力は絶大だが機動性は低い。
 いくら乗っているパイロットが優秀でも、機動性が伸びるわけじゃない。
 レジェンドの動き、追いきれなかったな』
『チッ!』
『安心しろ。これ以上、俺が戦う必要は無い。俺は道筋を作るだけで良かったんだ
 ……シン! なにをしている、おまえは早く逃げろ!』

「レイ?」

なにを焦っているんだ。道筋を作る? なにを言っているんだ。
瞬間、なにかの影が見えた。影? 小さくない。大きい。まさか、あれは。

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ヤタガラスのブリッジで、ジャミルは信じられないものを見た。
同時にそれでなにが行われるか察した。

「コロニー落とし、だと!?」

モニタにズームで映し出される、一基の廃棄コロニー。ブースターを取り付けられたそれは、
月面の軌道までやってきている。もうじきだ。もうじき、それは月の重力へ引かれるだろう。

「なんだい、その、コロニー落としって? っていうか、ものすごく嫌な予感がするんだけどさ」

ゲスト席に座っていたユウナが、ジャミルを見つめてくる。おびえの混じった視線だった。

「ザフトの作戦は、月面への『コロニー落とし』と思われます。この世界にはなじみの薄い作戦かも知れないが、
 ユニウスセブン落下のようなことを正式な軍事作戦として行う、いわば殲滅戦です。
 巻き込まれればひとたまりも無い」
「な……じゃあ、ザフトはダイダロスをもろとも潰すつもりで?」
「というよりも、大西洋連邦の主力艦隊を潰したいのかもしれません。
 それはザフトにとって利益となることでしょうから。レクイエムの報復という大義名分もあります。
 それにしても、この世界の人間がコロニー落としとは……」

どんどんユウナの顔が青ざめていく。それに構わず、ジャミルは別のことを考え始めていた。
なぜこの世界の人間が、コロニー落としなど考えつくのか。ユニウスセブン落下をヒントにしたのか。

いや、今はとにかくこの局面を切り抜けねば。この艦には国の主席が二人も乗っているのである。

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『なに考えてんのよ、レイ! あんなもの落としたら、みんな死んじゃうじゃない!』

ルナマリアが叫ぶ。しかしレイのレジェンドは、その言葉に微動だにしない。

『敵におかしな情けをかけたらどうなるのか。おまえたちはラクスで学ばなかったのか?
 ユウナ代表は彼女を生かしたがために、国を乗っ取られた。忘れたわけじゃないだろう』
「レイ!」
『俺はためらわない。コロニーは引力に乗った。おまえたちも早く逃げろ、シン』

レイのレジェンドが飛び去っていく。

(逃げろったって!)

ガロードとアスランは、いまだコントロールルームから出てこないのだ。
あんなものが落ちてきたら確実に二人は助からない。なにをやってるんだ。

『このクソ野郎がぁぁ。ただの人間なめんじゃねぇぇ!』
『おぉぉぉぉぉッ!』

なにを思ったか、二機の赤いデストロイが落下してくる廃棄コロニーに向かっていく。

『たかがコロニー一つ! ガンダムで押し出してやる!』
「ちょ、ちょっと待て! それはいくらなんでも無茶だぞオイ! バカなことはやめろ!」

シンが叫んだが、デストロイは止まらない。本当に廃棄コロニーへ取り付き、押し出そうとブースターを吹かす。

『やってみなければ分からん!』
「正気か!?」
『俺様はな! まだ人類に絶望しちゃいねぇんだよ!』
「コロニーの落下は始まってるんだぞ!」
『デストロイガンダムは伊達じゃないッ! って、アレ?』

どぉん……コロニーの落下に負けて、二機のデストロイガンダムが爆散した。

「そりゃそうなるだろ」
シンは頭を抱えたくなった。というか、コイツ、司令官じゃなかったか?

『ギャー! 赤い2連星がまたやられたぁ!』
『どうして誰も助けに行かなかったんだ!』
『隊長—————!? ダメだ、もう連合はダメだぁぁぁ!』
『俺、この戦争が終わったら、結婚するんだ……』

また連合軍が大混乱におちいる。
もうダメだ、こうなったら一刻も早く逃げなければ。シンは回線を開き、連合軍に呼びかける。

「逃げろ連邦軍、一刻も早く遠くへ! まだ間に合う! 可能性がある限り逃げるんだ!」

声を受け、連合軍が退却を始める。
ふと、シンはキラが大量破壊兵器サイクロプスの発動による人死にを避けるため
連合、ザフト両軍の兵へ退却を勧めたというエピソードを思い出した。

『シン! 急げ! 連邦に構うな! 俺たちも時間がないぞ!』
ノワールがアカツキの腕を取る。
「でも、艦長とガロードが! クッ!」

シンは思わず自分の膝を叩いた。なんとザフトが、基地上空より、逃げようとする連邦を遠距離狙撃で撃ち落としていた。
そこはぎりぎりコロニー落としの影響を受けない範囲か。

『ナチュラルめ、生かしては返さん! 娘の仇だ!』
『ひぃ! ざ、ザフトめぇ! 無抵抗のヤツに……ぎゃー!』
『ジョン、ジョン! クソッ、コーディネイターめ! どうしてこんなことが平然とやれるんだあいつらは!』
『許すものか! おまえたちがレクイエムで撃ったコロニーには、俺の、俺の家族が……ッ!』

まただ。またこんなことをやっている。ガイアを抱えて撤退しながら、シンは歯噛みする。
いつまでこんなことをやるんだ。こんなことは止められないのか。
俺はなんて無力だ。エースだなんだと言われながら、バカな連中一人止められない。

憎悪をぶつけ合う、ナチュラルとコーディネーター。そうやってお互いを憎みあいながら、そして死んでいくのか。
いつまでそんなことを。いつまでそんなことを。いつまで。

『ナチュラルが!』
『コーディネイターめ!』

 い つ ま で も グ ダ グ ダ う る せ ぇ ん だ よ 、 こ の 腐 れ キ ン ○ マ ど も ! !

ドシュゥゥゥゥ!

凄まじいエネルギーが、レクイエムコントロールルームのある施設を貫き、コロニーへ到達する。
白い巨光。それはどう形容していい力なのか。MSでは到底不可能な、大量の破壊。白の破壊。
それは正確にコロニーを貫き、跡形もなく消滅させていく。
シンは息を呑む。この凄まじい威力、まるで悪魔のような力。

「サテライト……キャノン?」

コントロールルームをのぞくと、DXがサテライトキャノンを構えてそこにいた。

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タリアはミネルバのブリッジで、白い巨光を見つめていた。
「月面に落ちるコロニー、完全に……完全に、消滅しました」
通信士のアビーが、化け物でも見たかのような声をあげる。

『撃ったというのか、DXはサテライトキャノンを!』
『イザーク。しょーがないでしょこの場合』
『でも信じられません。あれは本当にMSなんですか?』

ミネルバを護っていたジュール隊が、震えるような声をあげている。
タリアも同じ気分だった。

「信じられないMSね。ユニウスセブンを破壊した時も思ったけれど、味方である私ですら、怖い……
 なら、敵はどれだけ怖いのかしらね。悪魔と呼ばれるのもわかるわ」

タリアはため息をついた。これで、決着か。

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DXのサテライトキャノンが終わり、コロニーがこの世から消滅する。
同時に戦場は凍りつき、誰もが悪魔と呼ばれたMSを見つめた。

悪魔は叫ぶ。

『いつまでもナチュラルだの、コーディネイターだの、おまえらそれしか言えねぇのか? ええ?
 いい加減、温厚な俺でもあったま来たぜ!』
「おまえのどこが温厚だよ、ガロード」
シンは口の中でつぶやいた。少しだけ笑った。

『オイコラ、ザフトのクソ野郎にロゴスと連邦のクソ野郎ども。戦闘をやめろ!
 ビームライフル一つ撃ってみろ……。俺ぁ、撃った方の陣営にサテライトキャノンぶち込むぜ!』
『そんな無茶苦茶な……。だいたい、DXはザフトのものじゃ』
おそらくザフトだろうか。一般兵の声がした。その時、DXの砲身がザフトの方へ向く。
『んな細けぇことはどうでもいいんだよ。俺は気が短けぇんだ。
 てめーらの飽きもしねぇ憎みあい見てたら、むかっ腹が立つぜ
 いい加減やめにするってことができねーのか? ああ?
 こんなこと続けてりゃ、とんでもなく人が死ぬってわかるだろーがよ。そんでもって、取り返しのつかねぇことが起きる……
 ならそうなる前に、俺が全部殺してやるよ。死にてぇやつはいるかッ!』

しん、とザフトや連合の艦隊が声を失った。夜の海みたいな静けさが広がる。
レイのレジェンドがザフト艦隊の前方に出た。それはDXをにらんでいるかのようだ。
『莫大なエネルギーがなければ、サテライトキャノンは発射できないはず……
 ヤタガラスやミネルバにそれが積み込めるとも思えんが』
『俺も最初は正気かと思ったがな。種はこれだ』

アスランの声がして、DXの隣よりインフィニットジャスティスが出てきた。ケーブルをぶらぶらさせている。
瞬間、シンにはなぜ撃てたのか理解した。レクイエムのエネルギーをDXに回したのだ。

『負けか。さすがに、真の力を解放したDX相手では分が悪い。撤退するぞ。
 ……わかっている。作戦の失敗は、俺の責任でいい』

レジェンドがザフト艦隊に命じて、撤退していく。
大西洋連邦の軍が、ダイダロス基地に降り立ち、制圧を行う。

「帰ろうか。やっと終わったよ、ステラ」
『うん……』

ヤタガラスがこちらにやってくる。DXが合流する。アカツキは、DXに向かって敬礼した。

かくして、ダイダロス攻防戦は終わりを告げた。