クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第130話

Last-modified: 2016-02-28 (日) 00:50:45

第130話 『おっしゃあ!』
 
 
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休憩時間は1時間とちょっと。シンはすぐに医療室へ行って、点滴をもらった。
誰かに、打ってもらう余裕など無さそうだった。
テクスを初めとした医師たちは、1人の例外なく忙しく立ち回っていて、怒号が飛び交いとても落ち着けるところではなかった。

やむなく、アメノミハシラの床に転がって、自分で点滴を差し込む。
ヤタガラスには行かなかった。どうしても、四者会談の結果がどうなのか気になったからだ。
けれど、会議室まで行く余裕は無い。今の自分は、どうあがこうとパイロットだった。

同盟そのものは、成立したらしい。その事実が、今はなによりありがたかった。

点滴を、腕に差し込む。少しきつめの栄養剤だった。
これで疲労はいくらかごまかせる。

床に転がって、周囲を見た。見ると、疲労困憊している兵たちが目に付く。
階級章から判断するに、オーブの新兵たちだろう。
ほとんど戦わなかったと思うが、緊張と死の恐怖でどうにかなりそうなのだろう。

「誰だって、怖いさ」

ぼそっと、シンはつぶやいてみる。自分は怒りでそれを誤魔化している所がある。
真っ向から、死の恐怖を克服できる人間は、そう多くない。

「訓練を思い出せ! 自分を新兵と思うな、経験の差で強弱のすべてが決まるわけではない!
 どんな強者も、ビーム一発で死ぬ、ただの人間だ!」

怒声が聞こえたので、顔をそちらに向ける。ジャミルだった。
そういえば、オーブで教官をやっていたのだ。新兵たちにとっては、自分よりずっと身近な存在だろう。

ジャミルがこちらに気づいたのか、ふと歩み寄ってきた。

「シン・アスカか。新兵たちに、なにか言ってくれないか?」
「いや、いきなり言われても。ちょっと思い付きませんね」
「そうか」

ジャミルは、鉄面皮を貼り付けたまま、新兵たちを見回す。

「聞いたか! シン・アスカは、オーブの意地を見せてやれと言っているぞ!
 このままでは、大西洋連邦に功績をすべて持って行かれるとな!
 いやそれどころか、コロニーが落ちれば地球は滅ぶ!
 それでいいのか、死んでいった友のために、オーブの誇りを見せることすらおまえたちは出来ないのか!
 俺は、オーブの人間としてそういう同胞を恥じる、そう言っているぞ!」

ジャミルの怒声。なんてでっちあげだ。
最初驚いて、次いで苦笑が漏れる。
新兵たちは少しざわついたが、少しして声をあげ始めた。
やってやるぞ、とか。地球を守る、とか。まぁそんなことを叫んでいた。

ジャミルも、AWの歴戦らしくなかなかにしたたかだ。
こういうところは、どことなくガロードの師らしかった。

「ジャミルさん、ミーティアはどうですか?」
「操作にクセはあるが、どうとでもなる。ただ応急には限界があるからな。
 どこかでパージしなければならなくなるとは思う」
「助かりました。ジャミルさんが居なければ、前線は突破されていたと思います」
「違うな。誰1人欠けても、前線は突破されていた。
 新兵たちでさえ、全力を尽くしているのだ」

にこりともせず、ジャミルはそういう。
なんとなくだが、頑固そうな語り口だった。
いや、それどころかシンを拒絶しているような雰囲気すらある。

「例を言う。1人のNTは、君に救われたのかもしれん」
「友達を殺したい人間はいませんよ。
 それにあなたのために、やったんじゃありません」
「そうだな、それもそうだ」
「ジャミルさんは、休まなくてもいいんですか?」
「それほどヤワな鍛え方はしていない」

ジャミルが立ち上がる。そのまま、なんの表情も見せずにシンの前から去る。
どことなく、空漠としたものがシンの胸に広がった。

ジャミルが拒絶しているのは、シン・アスカではなく、コズミック・イラそのものなのかもしれない。
そう思う。異世界人なのはガロードと同じだが、根本的ななにかが彼は違う。
あるいは、タカマガハラやオーブ、四者同盟というものが気に入らないのか。

アスランが、ジャミルを嫌っているワケがわかった気がする。
なんとなく彼は、心に引っかかる。

「大丈夫ですか」

意外な人間から声をかけられて、戸惑った。ティファである。
気づいて、とっさに点滴を腕から抜いた。軽い痛みが走る。

「いや、栄養剤を打ってただけだから。
 それよりどうしたんだ、ティファ?」
「ガロードがあなたに話があるって。確か、そう言ってましたから」
「わかった、どこにいるんだアイツ?」
「付いて来てください」

ティファが先導する。そう歩くことも無かった。
アメノミハシラの出入港近くで、DXが待機している。
嫌でも目立つのが、補給中のGファルコンで、直径10メートルはありそうなケーブルが突き刺さっている。
モーター音もひどく、長時間ここにいると耳がおかしくなりそうだった。

港に面してある、個室があった。ティファと同じように、その中へ入る。

「……」

最初、呆然とした。しかしすぐに納得した。
ガロードが、ベンチに寝転んで高いびきをかいている。

「むにゃ……ティファ、好き……」

なんて寝言だ。ティファの顔が、みるみる赤くなる。

「が、ガロード……起きて」

顔を真っ赤にしながら、ティファがガロードを揺り動かす。

「へっへっへ、世界で一番愛して……」
「ガロード……! ガロード!」
「うっふふ……」
「あッ……」

寝ぼけているのか、ガロードが寝転んだままティファの手を取って引っ張る。
ちょうど、ティファがガロードの上に覆いかぶさるようになる。

「もう……ガロード……」

ティファが、ガロードの顔をじっと見つめている。
揺り動かすのも忘れ、見入っている。

な、なんだこの空気は。耐えられん。
思うが早いか、履いていたスリッパを脱ぎ、思いっきりそれをガロードの額に叩きつけた。

「い、いてぇええ!」
「起きろガロード! こ、これ以上おまえを見ていると刺してしまいそうになるんだよ!」
「ああ、シンか。クソッ、叩くことはねぇだろ。
 アスランと同じだな、そういうとこ」

言いながらガロードは、自分の上に乗っているティファに気が付いたようだ。

「ガロード……」
「ティ、ティファ……いや、これは……」

まただ。この2人は、部屋の酸素を薄くする達人だなまったく

「とりあえず2人とも離れてくれ。話が進まないし、時間は少しでも惜しい」

無理矢理、ティファとガロードを引き離す。両方とも、名残惜しそうな顔をしていた。
戦いが終わったら好きなだけやってくれと、腹の中でぼやく。

「話があるって、ティファから聞いたんだけどさ。なんだよガロード?」
「ああ。サザビーネグザスだけだよな、あと手強いの?」
「デスティニーがいるけど。まぁ、あれは中将の標的だから。
 そうだな、俺たちが戦うエース格はサザビーだけだと思う」
「これ、キラから聞いた話だけどな」
「キラ!?」
「そう悪い奴でも無かったぜ」

にっと、ガロードが笑う。ふと、傷つきやすい少年のような、キラの顔を思い浮かべた。

「俺はおまえみたいにはなれないよ。
 キラはやっぱり、まだ敵だ」
「あー、そんなもんかな。ま、とりあえずキラのことは忘れてくれ。
 サザビーネグザスがストライクフリーダム倒しただろ。あれのトリックが、わかった」
「本当か?」
「推測だ。決定じゃねぇことを、まず頭に入れといてくれ」
「わかった」

それから、ガロードは少し話をした。
かつてAWで見た、マシンをすべて止める装置の話。
それはNTの力で動くものだという。

「Lシステム……そんなもの実在するのか?
 とんでもないじゃないか」
「体験してるんだ、間違いねぇ。
 ローレライの時はなにも思わなかったけど、これが敵だったらとんでもない兵器だぜ。
 なんせ、自分以外のMS全部を強制的に機能停止させるんだからな。
 MSの腕や性能以前の問題だ」
「それがサザビーネグザスに積まれている?」
「推測だ。もう1度だけそれを断っとく。ただよ、いくらサザビーが強いって言っても。
 それぐらいのトリックがねぇと、キラには勝てねぇぜ」
「いや、中将もサザビーはAWとCEのハイブリッドであることを疑ってた。
 おかしくはない……けど。参ったな」

テンメイアカツキは、完全な近接戦装備だ。
近づかない限り戦えず、しかし近づけば動きを止められる。

「ただLシステムらしき現象は、1回しか確認できてねぇんだ。
 しつこいかもしれねぇけど、マジでただの推測だ。だからとてもアスランには言えねぇ」
「言ってもしょうがない気がするけどな。サザビーネグザスには近づくなって。
 わかってても、サザビー倒さないと終わらないわけだし」
「いや、サテライトキャノンの遠距離狙撃って手がある。
 だから、なんとかサザビーの動きを止めてくれねぇか」
「動きを止めるって、どれぐらい?」
「照準あわせ考えたら、3秒欲しい」
「難しいな。ただ頭には入れとく。話す人間には、Lシステム話していいか?」
「おう。でもLシステムに振り回されて、サザビー逃がしたら意味ねぇからな」

システム発動前に仕留めればいいだけだった。
お互い、それがベストだと思っている。そういうことは、言わなくても伝わる。

「……ガロード」

唐突にティファが声をあげた。

「え? なんだ、ティファ?」
「私も行きます」
「いや、それはダメだティファ」
「あの人……いえ、ジョージ・グレンを止める理由は私にもあります」
「ダメだ、それは本当にダメだティファ」

意外なほど強い口調で、ガロードはティファを拒絶した。

「どうして……?」
「俺はコズミック・イラにバカみてぇに関わっちまった。だいたい、戦争起きたのだって俺のサテライトキャノンが発端だ。
 ティファみたく無理矢理巻き込まれたわけでもなければ、ウィッツみたいにカネで雇われたわけでもない。
 自分の意志で、俺はこの世界を……どれだけかはわかんないけど、変えちまった。
 その責任が俺にもあるんだよ」
「……」
「それに」

ガロードが、シンを見つめてくる。反射的にうなずいていた。

「メサイアから戻ってくるときもティファに言ったけど。
 俺はシンのために戦う。俺は、コイツの夢や理想を手伝ってやりてぇ。
 シンの夢はあとちょっとなんだ。マジで、そこまで見えてきたんだ。
 こいつが、アホみたいに頑張って、バカみてぇに突っ走って、それでやっとゴールがすぐそこまで来てるんだ。
 俺もアーモリーワンからここまで、一緒に走ってきた。そのコンビで、終わらせたい。
 なんか、ティファを仲間はずれにしてるみてぇで、怒るかもしんないけど。
 今回だけは、ティファを守るための戦いじゃない、シンのための戦いだから……えと……うまく言えないけど。
「……ガロード」
「頼む」

しばし、2人が見つめ合う。

「わかりました」

ティファが、ふっと笑う。喧嘩になるんじゃないかと思っていたので、シンの肩からも力が抜ける。
ガロードも、大きく息を吐いた。

「ありがとー、ティファ! へへっ、怒られるかと思ってたぜ!」
「でも」

ティファが、じろっとガロードを見る。
ガロードは、わかりやすく凍り付いた。

「な、なに?」
「帰って来なかったら、許しません。
 ガロードが死んだら、私も死ぬから」
「あ、いや……」

「世界一怖い脅迫だな、ガロード」

笑いながら、ガロードの肩を叩く。

「うるせーよ」

顔を赤くしながら、ガロードが下向いて笑う。

『四者同盟参加の、全軍に伝達。
 ザフトのコロニー落とし、第2波を確認。全軍戦闘配置』

ガロードと目が合う。お互いに、もう一度うなずく。

「終わらせるぜ、シン」
「ああ。必ず世界を平和に戻す!」
「おうよ、一発のコロニーも許さねぇ。AW魂見せてやるぜ!」
「だったら俺は、CE魂だ!」

パシンと、こぶしを手の平に叩きつける。
そしてお互いに、口の端だけつり上げて笑う。

「「おっしゃあ!」」

ヘルメットをぶら下げ、2人並んで部屋から出た。

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ハイネは、ミネルバのブリッジにいた。

「パイロットたちの疲労はどうかしら?」

隣で艦長席に座っているタリアが言う。

「疲れています。しかし、ここが機かとも思います」
「そうね。疲れているのはザフトも同じね」

憂鬱そうに、タリアがうつむく。
お互いに、言わなくても通じることがある。
ハイネもタリアも、純血のザフトだった。割り切ってはいるものの、敵対し、滅ぼしていくことに辛さはある。

すでに戦況は逆転している。ザフトは滅びの道に足を踏み入れているようにも見えた。

「議長がね」

タリアが、少しだけ笑う。

「はい」
「ザフトをどうにかできないかって、おっしゃったわ」
「俺も同じ事を考えていますよ、艦長」
「方法、ね……」

タリアは、やはり憂鬱そうだった。

「なにか手段が?」
「ハイネ、あなた私のこと嫌いでしょう?」
「いや、いきなりなにを言ってるんです」
「不倫だものね」

別にタリア個人が嫌いというわけではなかった。
彼女の言う通り、タリアが人妻であることが問題なのだ。
不倫関係を持つ。一介の議員でもまずいことなのに、議長の立場でそれをやるのは危険なことだった。
だから面と向かって、デュランダルにタリアと別れるよう言ったこともある。

放送があって、アスランが出撃を告げてくる。
ミネルバ隊は、第三波に当たるよう言われた。

第二波は、囮。そんなことはお互いに読み切っている。
DXが出て、すぐにサテライトキャノンで吹き飛ばすだろう。
だから、ザフトもおざなりな警護しかつけないはずだ。

「MSデッキで待機しています、戦闘配置で」
「ええ、ハイネ、あなたは本当に優秀ね。帰ったら、あなたがザフトの頂点かしら」
「……嫌味を言っているように聞こえますよ。
 決戦です、しっかりしてください」
「……ええ」

妙に元気の無さそうな、タリアが気になる。
とはいえ、彼女も優秀な軍人だ。戦闘になれば自分を取り戻すだろう。
そう信じながら、ブリッジから出た。

白服のイザークはもちろん、ディアッカも、シホも、人材不足から小隊長に回されている。
ハイネの下にいるのは、元ザフトの寝返り組だった。
さすがに、オーブ新兵を最前線へ行くミネルバに載せるわけにはいかない。

「ノワール、おまえとも長い付き合いになったなぁ」

ぽんぽんと、ストライクノワールの足を叩く。装甲には、無数の傷があった。
ブルーコスモスからの寝返り組に、ノワールのパイロットだったという男がいた。
ノワールを返そうかと聞いてみたが、好きに使ってくれと言われた。
名前は、知らない。聞く前に、コーディネイターは嫌いだと言われたからだ。

世界はまだまだ難しいそうだなと、考えたりもする。
それでも一緒に、戦えている。そう悲観したものでもないだろう。

そうして待機していると、サテライトキャノンが第二波のコロニーを撃破したという報が入った。
MSデッキが歓声に包まれる。しかしここからが本番で、浮かれる気分は微塵も起きなかった。

「ハイネ・ヴェステンフルス、ストライクノワールで出るぜ!
 ヴェステンフルス隊は俺に続け!」

第三波を確認、という報が届くと同時にミネルバは出撃した。
すぐにMS隊を展開させる。
コクピットの中で、状況を考えた。

偽者は……いや、信じがたいことにジョージ・グレンだそうだが。
全方位で一斉にコロニー落としをやると言った。それならばDXも対応できないだろうと。
しかしそこには間違いなく嘘がある。降伏をさせるための脅しなのだから、本当に落とせる国とそうでない国がある。
今のところ、オーブ上空と大西洋連邦上空を守ればいい。
ただ、大洋に落とすという手も残っている。脅しとしては効果的だろう。

そこにも、問題はある。
多方面作戦であるがゆえに、少なくとも落とすコロニーの数だけザフトは軍を分けねばならない。
各個撃破が容易になるし、重力圏に入るまでに警護を倒してしまえば、軌道をそらすことはどうにかできる。

「チェックメイトだぜ、ジョージ・グレン……!」

巨大なコロニーの残骸を囲む、ザフトが見えてくる。
ビームを放ちながら、近づく。

空母ゴンドワナ。ザフトの旗艦。ハイネの胸に、苦いものがよぎった。
なんとしても、第三波のコロニーを墜とすつもりか。

DXの補給には2時間かかる。このコロニーだけは、自力で軌道をそらすしかない。

接近すると、フラガラッハを抜いてグフを切り下ろす。
すれ違いざま、レールガンを放って後退する。後続が、その傷へ突っ込む。

『第三波と交戦中の、同盟軍に告ぐ』

アスランの声。なにか、嫌な感じがした。

『ザフトは、第十波までのコロニー落としの部隊を出動。
 世界各国に対し、降伏を迫っている。危惧した通りの、全方位からのコロニー落としである』
「マジか、ジョージは気が狂ったのか!?」

コクピットで叫ぶ。そうしながら、アンカーでザクを絡め取り、後方へぶん投げた。
後続がそこへビームを放つ、ザクが爆散する。

『しかし、焦りは禁物である。同盟軍は粛々と、冷静にすべての攻撃に対処する。
 これは、ザフトの暴走であり、追い詰められた証拠でもある。
 各部隊は、慌てることなく目の前の事態にあたれ。
 そうすれば数時間後、我らは歴史に残る勝利を収めるだろう』

アスランは、冷静だった。そこに安堵する。
とにかくこちらも余計なことを考えるのはやめた。
隊長に必要なのは、司令の思考ではなく、隊長の思考なのだ。

『おっしゃあ! 大西洋連邦軍参上ッ!』
『これよりオールレンジアタックをかけます!
 友軍は流れ弾に気をつけて!』

しばらくザフトとやりあっていると、ノワールの横を赤いMSが通り抜けていった。
それも1機ではない。合計、12。
頭にトサカを持った、見たことも無いMSだった。
それが、まるで12で1つのMSであるかのように、整然と動いている。

ザフトが、突進してくるそれを押しとどめようとビームを放っている。
生き物。
そうとしか形容できない陣を形成しているMS群は、華を咲かすように展開し、一斉にビームを放つ。

ザフトが、一斉に落ちる。
奇体な連携。どんな猛訓練をしても、届かないような、統制。

『これがビットMS、そしてラスヴェートの力よ!』
「赤い2連星、か……!」

声で判断する。大西洋連邦軍のトップエース。
いつの間にあんな新型を開発したのかはしらないが、12機でとてつもない戦力だった。
コロニーを守っている部隊が、ほとんどなすすべも無く落ちていく。

途方もない力だった。放っておけば、12機だけでこの部隊を壊滅させてしまいそうだ。

「アホ共が、気にいらねぇ」

苛立ちだけが、胸に落ちていく。
赤い2連星が嫌なのではない、やられていくザフトを見るのが嫌だった。
機体のメモリーを引っ張り出し、選択する。ザフトに居た頃持っていたコードは、全部ノワールにたたき込んである。

空母ゴンドワナへの、直通通信。ハイネ・ヴェステンフルスのコードは、拒絶されなかった。

「ウィラード司令、ウィラード司令! 
 こちらザフト『FAITH』、ハイネ・ヴェステンフルス!」
『……』
「応答されたし! すでに勝敗は火を見るより明らか、投降されよ!
 ザフトもまた、新しい世界に必要です……降伏は恥と思われぬよう!」
『新しい世界と言うが、停滞した世界であろう。
 同じような和議は、前大戦でも結ばれた。しかし平和はたやすく破られた』
「だったら、コロニー落としで作られる平和が望みですか!」
『やめよ、ヴェステンフルス』

それだけだった。通信は切られ、そして拒絶された。

歯をぐっと噛みしめる。デュランダルがそんなにもいけないのか。

前大戦、世界をほっぽり出してオーブに引きこもったラクスに代わって。
血のにじむような努力と眠る暇も惜しんだ働きで、プラントを復興させたのは誰だと思っているのだ。
地球連合から国辱的な因縁をつけられながら、それでも戦争を回避しようとした男は誰だと思っているのだ。

「おまえたちは、ギルバート・デュランダルをなんだと思っているんだよッ!」

空母ゴンドワナ目がけ、何度もビームを放つ。距離的に当たるはずもない。
当たっても、軽傷だろう。それでも撃たずにはいられない。

「ザフトを、滅びに導かせる男になぜ従う! 降伏しろ、降れよ!
 誰が一番プラントのことを考えたか、忘れたのかクソッタレが!」

全方位通信をかけ、叫ぶ。
見苦しいことをやっている、それがわかっていながらなお、やめられなかった。

『プレッシャー……やべぇ!』

唐突に、ラスヴェートの動きが止まった。
12機の、それ。
次いで、爆発が起こる。

「なに……?」

ラスヴェートが、なすすべもなく撃墜されていく。
ハイネは、息を呑んだ。腹の下が、嫌な感じに緊張する。

『私はプラントのことを一番に考えていないかもしれないが』

サザビーネグザス。血色の真紅。
全身にファンネルを停滞させ、ゆっくりとこちらに浮上してくる。

「偽者野郎……」
『少なくとも、世界のことをこの世の誰より考えているつもりだ』

サザビーネグザスが、ゆっくりとビームライフルを構える。
それだけで、こちらを圧倒してくるなにかを、押しつけてくる。

「ここで、殺してやる」

すぐに全軍へ、サザビー出現の報を送った。
送ると同時に、ビームライフルショーティのエネルギーを確認した。