クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第132話

Last-modified: 2016-02-28 (日) 00:52:55

第132話 『出来ないことなんてあるのか?』
 
 
==========================

ジャミル・ニートが生きている理由とは。

表向きは、ニュータイプの保護が目的だった。
そういう特殊な能力を持っている人間が間違った道に進んだり、あるいはなにかに利用されたりするのを、防ごうという話である。
この話をすれば、たいていの人間は賛同するかどうかは別にして、納得はする。
わかりやすいからだ。動機も、行動も。

しかし、ジャミル・ニートが生き恥をさらしている本当の理由は。

ニュータイプとは、なんなのか。

その言葉を己に問い続けるためだという気がする。
保護とうたってはいるが、いつまでも出ないその答えを見つけるため、
99億人という数えるだけで狂いそうになるほどの命を奪ったこの手で、もがき続けている。

ニュータイプは、素晴らしいもののはずだった。人類の未来、人類の革新、人類の進化形。
MSをうまく操れることはもちろんのこと、言葉をかわさずとも人とわかりあえるのだという。

しかし、現実はどうだ……?

NTは多くの場合戦争にかり出される。MSの操縦が上手いからだ。
それどころか、元の世界では戦争の理由にさえなった。

コズミック・イラでも、そうであったのかもしれない。
ラクスとキラはニュータイプである。彼らはプラントに宣戦を布告した。
戦争の元凶、というのはむごいかもしれないが。それに近しいとは言える。

ジャミルには、見えていた。
ガロードやテクスが、ラクスが洗脳能力を持っているとバカげた妄想をしたのも無理はない。
あれは、ただの感応だった。強すぎる彼女の意志で、心を叩かれるのだ。
心を揺さぶられてしまうのも無理は無く、しっかりと己を持たなければ彼女の意志に押し切られてしまう。
それを、ガロードは洗脳と勘違いしたのだろう。

ラクスは、無意識のうちにすべてを悟っていた。
カガリ暗殺の犯人と、己を襲撃した者を、彼女は早期にデュランダルと断定している。
それも、『なんとなく』。
それはある意味で、正しかった。
確かに、彼女がそう断じた時、デュランダルはすでにジョージ・グレンであったのだから。
オーブを乗っ取ってまでプラントに戦いを挑んだのは、彼の危険性を『なんとなく』感じ取っていたからだ。

しかし、自分だけだろう。ラクスのために弁護するのは。
すでに彼女は敗者であり、薄汚いテロリストであり、世界からの断罪は決定的である。
今さらこんなことを並べても、コズミック・イラの権力者たちは誰1人として納得すまい。
なにより、ユウナとアスランの憎悪はぬぐいがたいものがある。

ラクスは、どうやって生きていくのか。
永遠に彼女は許されることはないのか。
ジャミル・ニートは救えなかった。遅すぎた、というのは言い訳なのか。
ただやりきれない思いだけが、心の奥に残っている。

『ザフトが……』

サザビーネグザスが、周囲を確認する。
とんでもない女傑だと、ジャミルは思った。
タリアは自らの太もも一つで、かなりのザフトを寝返らせてみせた。

「終わりだな、ジョージ・グレン」

第三波のザフトは、寝返りが少ないようだ。それでもコクピットへ次々と、寝返りの報が届いてくる。
コロニー落としの主要部隊も、かなり寝返っている。
まだ残っている部隊もいるが、掃討も軌道の変更も楽に出来るだろう。

『……』
「大人しく裁判を受けるような人間とも思わんが、降伏してみるか」
『自分の傷を見て、モノを言っているのか、ジャミル・ニート』

サザビーネグザスが、ビームアックスでこちらを指し示している。
言い返すことは出来なかった。
ミーティア装備は、すでに半壊している。7割の兵装が、使い物にならなくなっていた。

「降伏するかどうかを私は聞いている!」
『答えはわかっているだろう、まだなにも終わってはいないのだ』

ファンネル。サザビーの中で充電を終えたそれが、ミーティアの周囲を取り囲む。
それより一瞬早く、ミーティアを捨てた。数瞬遅れて、一斉射撃を受けたミーティアが、破砕する。
とっさに、ドムの腕で壊れそうなミーティアを掴んだ。バーニアを全開にし、サザビーの方へ押し出す。

「悪あがきを! 今さらコロニーの1つや2つ、落として世界が変わるものか!」
『変えてみせる……世界は、まだ変わる』
「救いがたい男だ、私と同じほどにな!」

爆発寸前のミーティアを押し出し、勢いをつけ、そして離脱した。
サザビーネグザスのところで、ミーティアが爆発する。

すぐにドムのビームサーベルを抜いた。
射撃兵装は、ミーティアを扱うために持ち出して来ていない。

盾を前に構えたサザビーネグザスが、爆炎の中から飛び出してくる。
ドムの体勢を低くし、刺突。まっすぐにサーベルを、押し出した。

「崩壊した軍勢でなにが出来ると言うのだ、ジョージ・グレン!」
『第三波、第五波は健在……これを軸に作戦を展開し、地上を制圧
 その後反攻に移る、それですむ話だ』

突き出したサーベルを、サザビーが身体をひねることでかわす。
同時に、ビームアックスが振り下ろされてきた。
とっさにサザビーの身体を蹴って、斬撃から逃れる。

「虐殺者に誰が従うか! コロニー落としなど……! 
 世界でもっとも愚劣なことをやっている、自分に気づけッ!」
『必要なことだ、世界の時計を早め続けるためにはな』
「そのサザビーネグザスは宇宙革命軍の技術が使われているだろう!
 貴様は我らの世界を知っているのだろう!
 コロニー落としの結果がなにを生んだか、知らないと言わせんぞ!」
『なぜおまえたちは……ッ!』

びくん。と。
ジャミルの全身が、なにかに打たれたように震えた。
久しく感じること無かった、強烈なニュータイプの律動。

「教官……?」

一瞬、我を忘れた。サザビーネグザスと、ルチル・リリアントが重なった。
何故。
悲しすぎた最後を遂げた、初恋の人。
あの、いつも通りの笑顔で、少し泣きそうな笑顔で、笑っている。

『なぜおまえたちはそこまで安穏としていられるのだ!』

サザビーが、ビームライフルを放ってくる。
他のビームとは比べものにならぬほどの、出力。とっさに上昇することで、それをかわした。
しかし、二撃、三撃と連射してくる。量産型の、3機分はありそうな出力を、平然と撃ちまくってくる。

「安穏だと……?」
『人間がどれほど信じられないものか、前大戦でなにも学ばなかったのか!
 いや、そもそも人が信じるに値するほどのものであったなら、コーディネイターはもっと素晴らしいものであったはずだ!』

防戦一方。張り巡らされる弾幕を、避けるだけの作業が続く。
嫌な感覚。ジョージは、こちらの動きを読んでいる。

「貴様……」
『人と人との架け橋になるべき技術を、欲望のはけ口にしか使えない人類が作り出す未来に、なんの希望があるか!』
「それが貴様の戦う動機か! つまらん、ただの人間不信ではないか!」
『私を否定してみるか、ジャミル・ニート。だが私は自らが悪であることを自覚している
 通り一遍のきれい事は、通じぬぞ』
「貴様を論破したところで意味などない、私はコロニー落としをする人間が許せぬだけだ!」
『本音が出たか……結局、貴様も私怨に振り回されているだけではないか』
「なにッ!」
『自らの傷を誤魔化すため、ニュータイプを護るか。
 自分と同じようになってほしくないから、ニュータイプを導くのか。
 その善行でどれほどの人を救えた?
 自分の心すら救えていないのが、貴様の現実だ』

心を、えぐられる。頭痛がする。
ジョージが、心を抜き出していく。心が、巨大な牙を持った野獣に食われていく。

なぜ、そこで笑っているんです、教官。

光。光が、見える。
光に抱かれる。

ドムの右足が、ビームで撃ち抜かれる。
対ビーム防御装置のスクリーミングニンバスを展開しているが、サザビーの出力はそんなものお構いなしだった。

光。光が近づいてくる。1つ。いや、もう1つ。
頭が、痛い。ニュータイプ能力の残滓が、無遠慮に心を暴くジョージの力に、反応している。

「やめろ、近づくな!」

叫んだ。でももう遅かった。

『ここで、終わらせる!』

テンメイ装備、アカツキ。全力の出力で、ツムガリの太刀を振り下ろす。
サザビーネグザスはとっさにビームアックスで受けたが、逆にアックスの方が吹き飛んでいた。

『シン・アスカか……!』
『行け、ルナ、ステラッ!』

2機が交戦した交錯した瞬間、後方からビームが放たれてきた。
ガイアと、インパルスがアカツキごと連射している。

『邪魔を……するな!』

光。サザビーネグザスが、なにかに包まれ始めている。
錯覚か。ビームがかき消されている印象さえ、ある

「ニュータイプの力が、暴走しているのか」

恐れていたことが。
あまりに強すぎるニュータイプ能力がシステムと呼応すると、超常的な現象を引き起こすことがある。
システムの、オーバーロード。
ただし絶大の引き替えは大きく、たいていは操縦者の精神を破壊する。

『どういうことなのよ!?』
『ビームが届いて、ない?』
「下がれ、ルナマリア、ステラ! シンもだ、NTで無い者には荷が重い!」

退却すべきだった。ジョージ・グレンは破滅へのトリガーを引いた。
今は確かに手をつけられないが、そうそういつまでも続く力ではない。

『でもここで止めないと、コロニーが落ちますよ!』

アカツキが、それでもサザビーに向かっていく。
インパルスも、ガイアもひるみはせず、武器を近接に持ち替えて突っ込んでいく。

一閃。

サザビーネグザスの、指から光が漏れた。隠し武器、ビームサーベル。
かろうじてアカツキがかわすが、インパルスとガイアはなぎ払われた。
ファンネルが、追撃をかけてくる。

すぐにドムを動かした。
雨のように降り注ぐファンネルの攻撃を、スクリーミングニンバスで軽減しつつ、ガイアとインパルスの前に出ると、両機を掴んで後ろに下がる。

「ルナマリア、機体を捨てろ!」

言うと同時に、インパルスが分離してコアスプレンダーが飛び出た。
同時に、ガイアのコクピットをドムの腕で引きちぎる。
そのまま、さらに下がった。

ガイアと、インパルスの本体が爆散する。もうサザビーネグザスは手がつけられない。

「ステラ、コアスプレンダーに移れ。
 ルナマリア、ひとまずヤタガラスへ戻れ」

ドムの手に包まれたコクピットから、ステラが這い出す。
コアスプレンダーが開き、ルナマリアがそれを迎え入れた。

『ひとまず下がります、換装してきたらすぐに戻りますから!』

ルナマリアが、通信を送ってくる。
無駄だと言おうとしたが、それより早くコアスプレンダーは離脱していった。

アカツキは、当然だが接近戦を挑んでいる。
初手でビームアックスを破壊しているが、それでもサザビーの指先から出ているビームサーベルに、押されている。

ジャミルは、念じてみた。瞬時に、痛みが走る。しかし宇宙の感覚もまた、見えた。
懐かしい想いと、どうしようもない恐怖。再び、扱いきれるのか。

ジョージ・グレンの、パイロット能力はそうたいしたものではない。
そう言うと語弊があるし、並大抵のパイロットよりは強いが、トップエースレベルではない。
おそらく、ルナマリアよりわずかに劣るぐらいだろう。
多分、本格的なMSの教導を受けていないことと、操縦期間そのものが短いせいだ。

しかしシン・アスカというトップエースを押しているのは、サザビーの性能とNTとしての能力、そして完成された判断力があるからだろう。
ならば。
NTというアドバンテージさえ打ち消せば、後はどうとでもなる。

==========================

DXは隕石の影に、隠れていた。
アスランが守備用に、あちこちの宙域からかき集めてきていたため、身を隠す場所には事欠かない。

ガロードは、サテライトキャノンのエネルギーに目をやった。
2割のチャージであるが、MS一機吹き飛ばすには十分だろう。
それに、あまり強力すぎるとシンを巻き添えにしてしまう可能性が出てくる。

一瞬で、ハイネ、ルナマリアとステラが撃退されている。ジャミルもほとんど一方的に押されていた。
まさに化け物である。これだけ見ていると、素でキラを撃墜したのではないかと、疑いたくなる。

シンには、3秒足止めしてくれればいいと言った。
本当は、その半分あれば照準をつける自信はある。
撃ち漏らしは無しにしたかったからだ。次弾は、無いのである。

しかし、アカツキは押されていた。とても足止めする余裕があるようには見えない。

『よけろ、ガロード!』

いきなり、シンの声が聞こえた。
なんのことだと思う前に、ペダルを押し込んでいた。

隕石に、穴が空く。陽電子砲。さっきまで居た場所を、通っていく。

『DXか、小賢しい真似を』

サザビーネグザスは、悠然とこちらを見下ろしていた。

「隕石撃ち抜くかよ、フツー……。
 ウィッツ、ドッキングアウトだ!」
『仕方ねぇな、こうなりゃ正攻法だぜ!』

Gファルコンと、分離する。即座にディバイダーを構えた。
ちらりと、横に目をやる。ジャミルがサザビーをここまで押し込んでくれたおかげで、同盟軍は立て直しつつある。

アカツキごと、サザビー目がけてディバイダーを撃ちまくった。どうせヤタノカガミにはビームが通らない。
Gファルコンも、同じように拡散ビーム砲を放っている。
さすがにエアマスターがメインだっただけあって、ウィッツの動きは良かった。

「くっそ、なんか身体が重くねぇか?」

撃ちながら、ぼやく。全身がなにかに押さえ付けられているような感じがある。
しかも、どういうわけかサザビーネグザスにビームが届いていないような気がする。

『届いてねぇぞ……』
「やっぱりか?」

ウィッツの通信で、気づかされる。しかし身体が重い。
しっかりしろと、自分に言い聞かせる。なんだか集中できていない。

『下がれ、ガロード』

ジャミルのドムが、DXの脇を通り過ぎていった。
駆動系には問題ないようだが、かなりのダメージを負っているのは肉眼でも確認できた。

「待てよ、ジャミル! 仕方ねぇ、ウィッツは待機しててくれ!」

ドムの後ろを、追った。しかし身体が重い。

『無駄な時間を食っているか。そろそろ指揮官に戻らなくてはな』

サザビーが、後退の気配を見せた。

『逃がすかよ! これ以上、そんな好き勝手!』

すぐにアカツキが、光の翼を広げて肉薄する。

『黙れ!』

サザビーの、一喝。ファンネルが出現する。
一瞬、サザビーの背が光に包まれたような気がした。

『きくかよ、そんなモン!』

盾を構えて、突進しようとするアカツキ。降り注いだのは、ビームではない。
実弾だった。アカツキの盾が、集中砲火を受けて砕け散る。

『ヤタノカガミに頼りすぎたな』

サザビーが、目くらましのグレネードを撃ってきた。
アカツキが、反動で後ろに下がる。爆炎が、周囲の空間を覆った。

『くっそぉ!』
「大丈夫か、シン!」
『やられらたのは盾だけだよ!』
「おい、ぶっちゃけの話だけどよ。退却してコロニーの軌道変更に専念した方がいいんじゃねぇか」
『なんでだよ、あいつさえ倒せばもう終わりだろ。ザフトも戦う意味を無くす』
「ザフトもだいぶ寝返っただろ。放っといてもあの野郎は自滅するぜ」
『……』
「って言うのは建前だけどな。ぶっちゃけ、勝てそうにねぇよ」
『なに言ってるんだよ、ガロード!』
「なんかあの野郎おかしいぜ。ビームも届いてねぇし、だいたいおまえは接近戦ならキラにも分があっただろ。
 なのに、隠し武器のビームサーベル相手に、押されまくってたじゃねぇか」

隠し武器は、奇襲に使うのが目的だから、出力や強度は純正品に比べて劣るのが相場だ。
しかしサザビーはそれを使って、CE世界における格闘武器の最高峰を押し切っていたのだ。
それに言葉に出来ない、妙な迫力をあの機体はまとっている。

『わかってる……けどッ!
 ジョージ・グレンが戦争の元凶なら、倒さなくちゃいけないだろ!』
「冷静になれって、シン。俺もティファがさらわれたけどよ……」
『ガロード、俺は1人を殺して100人救えるなら、ためらいなくそいつを殺す』
「……」
『あいつを殺すのが、コロニーをそらす一番の近道だ。わかりきってる。
 それにさ、ガロード』
「なんだよ」
『俺とおまえがいて、出来ないことなんてあるのか?』

アカツキが、手を挙げてくる。
つい、ガロードの鼻から笑いが漏れた

「そうだったな、俺たちは無敵だぜ」

DXの手を、アカツキに軽く叩きつけた。