シンとヤマトの神隠し 壊れる者 短編

Last-modified: 2008-01-06 (日) 01:41:06

それが発見されたのは某月某日のこと。
「ロストロギア・天魔の媚薬……。」
そう呟くキラは深い青色のいかにもそれっぽい瓶を割らないよう、慎重にフェイトの元へ向かおうとしていたのだが
「キ~ラ君♪」
突然、はやてに背後で耳元に声をかけられ……。
「あっ!」
驚いた拍子に瓶はキラの手から離れて宙を舞い、シンの頭上へ……。
わりとやすっぽい音をたて割れた。
「…………。」
頭から薬と血を流し、白眼を剥いてシンは気絶。
キラは階段からころげおち、気を失った。
「これは……うちのせいなんか?」
前にキラ、後ろにシン。
取り合えず、はやては周辺を歩いている局員に協力を仰ぎ、二人を医務室へと連れていく。
瓶が割れ、飛び散ったはずの中身の液体はシンの体に吸い込まれるようにしてその痕跡を消す。
そしてそのことに気づくものは誰もいなかった。

機動六課、医務室。
シャマルははやてに頼まれたシンとキラ、二人の処置に多忙を極めていた。
シンは出血こそあったものの、恐らくは気絶しているだけだ。
一番の問題はキラの首が有得ない方向に曲がっていたことで
「これは…え~と、こうして……」
ゴキャッ
とむごたらしい音を立て、力業で真っ直ぐに戻す。
「きっと大丈夫よね、スーパーコーディネイターだし……。」
なんて何の根拠もないことをシャマルが呟く。
「……うっ…ここは……?」
と、シンが目を覚ました。
「あら、目が覚めた?シ……。」
シンと目を合わせた瞬間、シャマルの心臓というべきか、リンカーコアが大きく脈打った。
「シャマル…先生?」
てっきり状況を説明してくれるものだと思っていたシンは自分をじ~っと見下ろしているシャマルを不振に思った。
「あの……なんなんですか?人の顔をじろじろと……ひょっとしてまだ悪いところでも?」
やがて、シャマルがゆっくりと口を開いた。
「シン…て、綺麗な瞳してるのね……。」
静かに、もじもじと恥じらいながら言葉にされたそれは、シンの脳に危険信号をとす。
「は、はぁ…どうも…。」
シャマルがシンの寝ているベッドに一歩近寄り、右膝を乗せた。
ギシっと軋むベッド。
あらわになる白く柔らかそうでいて張りのある太股に一瞬シンの視線が動き、再びシャマルへと戻る。
「あの…。」

「お肌もすべすべ……」
妖艶な笑みを浮かべ、シャマルはシンの手に自分の手をゆっくりと、それでいてねちっこく絡ませてきた。
「さっきから、なんなんですか?あんたは…。」
先程から貞操の危機を感じているシン。
シャマルの雰囲気が何故だか偉く色っぽくなっている。
「さぁ…健康診断しましょうね?まずは上着を脱いで…。」
ネクタイを緩め、首もとのボタンを外す。
「いや、…いいです!俺、頭の怪我以外は健康体ですから!多分!」
Yシャツにかけれたシャマルの手をふりほどくと、シンは逃げるようにして医務室をあとにした。
「何なんだありゃ……。」
頭に響く痛みをそのままに廊下を疾走する。
「待ってよシ~ン!」
純白の白衣を翼の如くはためかせあとを追いかけてくるシャマル。
「嘘だろ!?」
シャマルの声に振り向き見れば、自分を追ってくるのがシャマルだけではないことにきづいた。
心なしか先程すれちがったばかりの局員たちまで加わっている気がする。
「何で追ってくるんだ!あんたたちは!!」
走り続け、シンは十字路に出る。
前からなのは、左からはやて。
焦って思考がうまく出来ず、たたらを踏んで右へと抜けたその直後を多人数の女性局員がシンを追う。
なのはとはやて二人が顔を見合わせ、首を傾げた。
「皆、なにをやっとるんやろ?」
「さぁ…、ところではやてちゃん、さっきフェイトちゃんがキラ君を見なかった?
って言ってたけど、はやてちゃん見なかった?」
神妙な顔付きでなにやら深く考えこんでいるようなので
「階段から落ちたんで、キラ君ならさっきうちが医務室に連れていったよ?」
「あ~、割れちゃったかな~。その時キラ君、手に何か持ってなかった?」
はやてが人指し指を顎に当ててから二分ほど。
「そ~言えばむっちゃ青い瓶もっとったなぁ~。」
「やっぱり……。」
溜め息をつきながらなのははうなだれた。
「あれって、割ったら不味かった?」
引きつった笑顔で聞いてくるはやてになのは言った。
「キラくんが持ってた青い瓶、天魔の媚薬って言うロストロギアなの…。」

「媚薬ってそんな強力なんか?」
「うん、あの媚薬は使用した者が異性を惹き付ける力を得るちょっと厄介なものでね…。」
移動を続けるシンをモニターしながらはやてとなのはは通路をひた走る。
「つまり、今はシンが私達、女の人を誘惑するフェロモンを放ってるの。」
「つまり、走りながらフェロモンを巻き散らしつつ、すれちがう女性局員のハートを撃ち抜きながら、なおかつ浜辺やお花畑でよ~やる追いかけっこを今現在シンは楽しんどるわけやな?」
「言い方は引っ掛かるけど、簡単に言うとはやてちゃんの言うとおり。
でも、何だか全部シンがやりましたって言ってるように聞こえるけど、実際ははやてちゃんとキラ、二人にも責任があるわけで……。
とにかく、事態の処理は手伝ってもらうから……。」
なのはの指摘に苦笑いしながらはやては走るペースを上げた。

肩で息をするシン。キョロキョロと周辺を見回し、手近な部屋に入った。
「なんで…ぜぇっ、俺が…はぁっ、こんな…。」
扉に背を預け、力なくズルズルとへたりこむ。
「どうしたのシン?」
ビクッと身を震わせながらシンが振り向くと、フェイトの姿があった。
「いやそれが…」
理由を説明しようとシンが口を開くと同時にフェイトのデスク上空間モニターが閉じられた。
椅子から立ち上がるフェイト。
「何故だかさっきからすれちがった人たちに追われてるんです。」
「へぇ~…それは……大変だねぇ~。」
扉に背を預けたまま、シンはズリズリと立ち上がり
「しかも何故だか女ばっかり…。」
目尻に涙を浮かべすがるように改めてフェイトへと視線を向けて、シンは動きをとめた。
「うんうん、それで…?シンは私にどうしてほしいのかな?」
嫌な予感がした。
声色だけで聞けば、いつものフェイトならばきっとなにかしら対策を講じてくれたに違いない。
『しかも何故だか女ばっかり…。』
自分の発した台詞が頭の中で反芻された。
手探りで開閉スイッチを探すシン。
「シン、大丈夫だよ。ここなら誰も来ないし、」
フェイトは口元をゆっくり綻ばせ。
「邪魔もはいらない。」

「あ、開かない!」
扉の開閉ボタンを押せども押せどもうんともすんとも言わない。
「どうしたのシン?折角二人きりなんだからさ…語り合おうよ?」
「…くっ!!」
力付くでこじあけようとしたが、駄目なようだ。
シンは自分の制服のポケットというポケットをまさぐり始めた。
そして、取り出したるはデスティニー。
緋色の光が一度強く発光し、光が晴れるとそこにはバリアジャケットを身に纏い、両手で大剣を構えるシンの姿。
「なるほど…。」
低い声音で呟くフェイト。
「…シンはそういう趣味なんだ?」
シンは側頭部を思いっきり殴られたような感覚に襲われた。
「もぅ…俺、疲れたよ…。」
アロンダイトを構え、翼を展開。今しがた変身を終えたフェイトへと向かって行った。

日も暮れ、機動六課に静寂が訪れた頃、シンは目を覚ました。
「おっ、気ぃついたか?」
シンの視界に最初に入ったのははやての笑顔。
「ヒィッ!!!」
情けない悲鳴をあげてシーツにくるまって部屋の隅で丸まり、ガタガタブルブルと震えていた。
「さすがはロストロギアや。
一人の人間を一気に女性不振に追い込むとは……」
「いやまぁ、本来の機能も発揮したわけだけどね…。」
苦笑しながらなのは。
「あれ?キラくんも目が覚めたみたいだね?」
キラがムクリと起き上がり、そして
「すみません、お聞きしたいんですが、」
「時間か?」
はやてが口を挟むが、キラは否定し
「僕は一体誰で、ここは一体どこなんですか?」
そうなのはとはやてに問うた。
「「え゛っ!?」」
(完)