スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED_第11話

Last-modified: 2012-06-24 (日) 17:58:36

第11話「尊厳」

 

「追悼慰霊団が行方不明!?…でありますか」
「……そうだ。お前にはしっかりと婚約者としての任を果たしてもらう必要がある」
「私がですか。しかし、では足付きの追撃は」
「……無論やってもらう。その為にナスカ級の足があるだろう」
「お言葉ですが、戦力の分散は得策とは思えません。
 相手はクルーゼ隊長すらも欺いた指揮官です。
 今後第八艦隊と合流でもされては現有の戦力でも十分と言えるか……」
「お前達に送ったZGMF-600シリーズの試作では足りないと言うのか。…情けない」
「!?………不確定要素は極力取り除きたいのです。
 援軍の要請が通らないのでしたら、私はピエロを降りる覚悟は有ります」
「………分かった。援軍は送る。その代わり、ピエロも全うしろ。以上だ」

 

 通信は一方的に途切れた。
 アスランは溜息を吐くと、椅子に深く身を沈めた。

 

 副長日誌
 アステロイドベルトを航行中の我々は、
コロニーヘリオポリスが崩壊して数日が経過するが、艦長達の消息は掴めない。
 そこで地球連合軍に対して問い合わせたが、彼らも捜索中で詳細を把握していないらしい。
 そんな中、全く違う筋からの連絡があった。
 その為に地球へ偽装したデルタフライヤーで赴き、転送で降り立った。

 

 VST社ロサンゼルス本社応接室

 

「ようこそおいで下さいました。私は副社長のチャコティ・デロリアです」
「おぉ、ネイティブアメリカンですか!すばらしい!
 あ、申し遅れました、僕はムルタ・アズラエルです。
 突然のアポを快くお引き受け下さり、有り難うございます」

 

 彼こそは地球連合を裏で牛耳ると言われる「ブルーコスモス」の現最高指導者である。
 ブルーコスモス……彼らは地球中心主義者の集まりだが、元々は我々の世界にも存在した軍産複合体企業群だ。
 世界は彼らの意図する利益の為に啀み合い、時に戦い、そして殺し合った。
 その最大の事件が我々の時代の第三次世界大戦だった。 
 しかし、彼らは自分達を過信するあまり力に溺れ、落とし所を見誤った。
 世界を核で焼き払い合った戦争は全てを破壊し尽くし、彼らの富の源泉であったはずの産業すら破壊してしまう。
 それどころか「絶対の安全」すら確信していた彼ら自身のセーフポイントすらも、汚染によって失ったのだ。
 我々の世界では彼らに対する風当たりは相当のうねりとなり、世界の治安の崩壊と共に彼らの居場所も無くなった。
 だが、この世界での「彼ら」は健在で、第三次世界大戦を経験してもなお君臨し続けているという。
 それもこれも、我々の世界には現れた「ゼフラム・コクレーン」という革新者の登場がなかったためだ。
 それだけじゃない、彼らの存在がこの世界の技術的発展を阻害してさえいるのかもしれない。

 

 見た目の印象は気さくな優男だが、その目は笑っていない。
 彼はボディーガードを連れていたが、彼らは部屋の外で待機するよう指示され、室内には私と彼以外は誰もいない。
 私は彼に椅子へ座る様勧め飲み物の希望を尋ねたが、彼は水だけで良いと答えた。
 警戒しているのか、それとも単に仕事熱心なのか。
 彼の元へ水差しとグラスを持ちテーブルへ置き、椅子に座ると希望通りに水を注いで勧める。
 彼はそれを笑顔で受け取り飲んでいた。私も自分のグラスを取り一口飲んだ。

 

「さて、本日こちらへ来させて頂いたのは他でもない、
御社の社長さんの安否についての話をさせて頂こうと思いましてね」
「さすがアズラエル理事。情報が早いですね」
「えぇ、連合の全てではないですが、ある程度の顔が利きますので、情報もそうしたラインから入ってくるのですよ。
 この度は本当にお困りでしょう。心中、お察しします」
「有り難うございます。しかし、あなたが自らいらっしゃるという事は、ただいらしたわけではないですね」

 

 私の問い掛けに彼は一瞬目が点になったが、すぐに改めるとニヤリと微笑んだ。

 

「……あなたは良い頭をお持ちだ。私の部下に欲しいくらいです。
 仰る通り、私はあなた方の社長の安否も心配ですが、それ以上にあなた方が作られたOSに興味を持っています」
「左様ですか。しかし、あなたの期待に添える様な物はここにはありません。
 我々の試作システムは社長が全て持って行きました。
 それもこれも機密扱いを厳にされている連合に配慮しての対応でしたが、まかさこの様な事態になるとは思わず、我々としても苦慮している所です」

 

 私の答えに彼は顔を曇らせたが、努めて平静を装う様に暫く間を置いてから口を開く。

 

「………つまり、ここには無い、ということですか」
「えぇ、家捜しされても構わないですよ。
 それくらいの徹底をしないと軍との信頼は築けないと社長は仰っていました。彼女も元は軍属ですから」
「……シャノン・オドンネル元大佐。記録でもかなりの『真面目』な方だと伺っていましたが、それほどに大真面目な方でしたか………。いや、あなたは正直に話してくれた。
 これも連合への忠実な心得からと理解しますよ。……となると、守らなくてはなりませんね」
「……守る?」
「……とある筋から、ヘリオポリスのGAT-Xがもの凄い進化を遂げた……という情報を貰いました。
 そのシステムは御社製で、開発していたアークエンジェル、我が方の新造艦ですが、……は上手く逃げ伸びているそうですよ。
 もしかしたら、御社の皆さんもアークエンジェルに乗っている可能性があります。とすると、あの艦を落とすわけには行きませんね」
「どうされるおつもりで?」
「予定ではアラスカのジョシュアへ来ることになっていますが、タイミングが最悪です」
「最悪?」
「今から彼らへ援軍の準備をしても、たぶん無理でしょう。彼らが自力で勝ち抜く事を祈る他無い。しかし……」
「しかし?」
「我々の協力次第では、奇跡を起こせるかもしれませんよ?」

 

 アズラエルはこの場に似つかわしくない笑みを浮かべると、グラスの水をゆっくり飲み干した。

 
 

 艦長日誌補足

 

 アークエンジェルでは救出した少女の扱いに苦慮していた。
 彼女はプラントのアイドルであり、現最高評議会議長であるシーゲル・クラインの令嬢だという。
 彼女の扱いを誤ればZAFTは勿論、連合内部での関係も最悪な状況に陥る可能性がある。
 彼女の安全を考え、可哀想だが身柄は小部屋に拘束する形となった。

 

 加藤ゼミの面々は食堂のテーブルで話していた。
 その話題は勿論「彼女」のことだ。

 

「(……!あのジン、もしかして!)」

 

 キラは彼女のポッドを発見した時にいたザフト機を思い出していた。
 もしかしたら、彼らは彼女を救出に来ていたのではないのか。
 そして、自分は全く不必要な行動をしでかしてしまったのではないのか……と。
 しかし、であるなら何故彼女は「救難ポッド」に入っていたのだろうか。
 そんな事を考えていると、何やら争う様な話し声が聞こえてきた。
 声の主はフレイ・アルスターだ。

 

「嫌よ!」
「フレイー!」
「嫌ったら嫌!」
「なんでよ~」

 

 フレイはしきりに嫌がっている。
 そんな彼女にミリアリアは執拗に手に持っているトレイを渡そうとしている。

 

「どうしたの?」

 

 キラは同席するカズイに尋ねた。

 

「……ん。あの女の子の食事だよ。ミリィがフレイに持ってって、って言ったら、フレイが嫌だって。それで揉めてるだけさ」

 

 どうやら昼食のトレイを持って行くので揉めているらしい。
 何故揉める必要が有るのだろうか。
 フレイが嫌ならミリアリアが行けば良いのに……と考えていた時、

 

「私はヤーよ!コーディネイターの子のところに行くなんて。怖くって……」
「フレイ!」

 

 その言葉は二重の意味でショックだった。
 片思いをしている相手からの拒絶でもあり、自分自身の存在の否定でもある。
 フレイはキラの存在に気付き、自身の失言に慌てて弁解を始める。

 

「……あ!……も、もちろん、キラは別よ……それは分かってるわ。
 でもあの子はザフトの子でしょ?コーディネイターって、頭いいだけじゃなくて、運動神経とかも凄くいいのよ?何かあったらどうするのよ!……ねぇ?」
「……えー、……あぁ。え……」
「フレイ!」

 

 キラは彼女に唐突に問われ、しかも自分も含めた同類がまるで犯罪者の様な扱いに、どう答えて良いか分からなかった。
 ミリアリアは再度失言を責めるが、彼女は矛を収める気は無い様だ。

 

「でも、あの子はいきなり君に飛びかかったりはしないと思うけど……」

 

 あまりの発言にさすがにおかしいと感じたカズイも呟く。
 実際、彼女がそのような行動をとる場面を見たら、滑稽なものである事には違いない。
 それはそれで見てみたいという個人的な感想はあるが、この状況で言う話ではないので心に留めた。
 しかし、彼の言葉にも彼女はヒートアップするばかりだ。

 

「……そんなの分からないじゃない!コーディネイターなんて、見かけじゃ全然分からないんだもの。
 凄く強かったらどうするの?ねぇ?」
「まぁ~!誰が凄く強いんですの?」

 

 その場の全員が声の主に一瞬言葉を失った。
 そして、示し合わせた様に声のした方を振り向くと口を開いた。

 

「ああ”っ!?!」

 

 戸口に現れた声の主は、全員から驚かれ戸惑いつつもにっこり微笑んで佇んでいた。

 

 その頃、アークエンジェル艦橋では。

 

「…しっかしまぁ、補給の問題が解決したと思ったら、今度はピンクの髪のお姫様か。
 悩みの種が尽きませんなぁ。艦長殿!」

 

 フラガ大尉の言葉は目下の難問である。
 このような重要人物を抱えて動く余裕等この艦には無いどころか、自分達が無事に第八艦隊へ辿り着けるのかすら心もとないのだ。
 ラミアス大尉は暫くの沈黙をおいて口を開く。
 彼女にしてみれば静養から明けてすぐの難題である。
 その表情は晴れない。

 

「……あの子もこのまま、月本部へ連れて行くしかないでしょうね」
「もう、寄港予定はないだろ」
「でも、軍本部へ連れて行けば彼女は、いくら民間人と言っても……」
「そりゃー、大歓迎されるだろう。なんたって、クラインの娘だ。色々と利用価値はある」
「……できれば、そんな目には遭わせたくないんです。民間人の、まだあんな少女を……」
「そうおっしゃるなら。彼らは?……こうして操艦に協力し、戦場で戦ってきた彼らだって、まだ子供の、しかも民間人ですよ」

 

 ラミアス大尉の言葉は確かに一理あるが、そうであったとしても納得出来ないものもある。
 バジルール少尉は健気に手伝うこの艦の少年達や多くの民間人を思うと、彼女の言葉を承服できなかった。
 少尉の発言はラミアス大尉も痛い反論だった。

 

「少尉……それは……」
「……今、二人の少年がGに乗っています。
 彼らを、やむを得ぬとはいえ戦争に参加させておいて、あの少女だけは巻き込みたくない……とでも仰るのですか。
 ……しかもキラ・ヤマトはコーディネイターだったんですよ。なのに我々に協力している」
「……」
「彼女はクラインの娘です。
 と言うことは、その時点で既にただの民間人ではない……と言うことですよ。
 ……私はあまりこういう言い方は好きではないですが、人には与えられた運命があり、それを選んで生まれてくるわけではない。
 彼女がその運命から回避されるならば、我々の艦に協力する彼らもまた……故郷を失う運命を回避出来て然るべきでした。
 しかし、現実はそう甘くはない。違いますか?」
「……」

 

 バジルール少尉の言葉は正論だ。
 それもまた分かるが故にラミアス大尉は心が痛かった。

 

 その頃、私はセブンとハンガーへ来ていた。
 機体の整備状況の視察だ。

 

 彼女の話ではシステムの稼働状況は安定しており、テスト時と同じ良好な結果を出しているという。
 そこで、船全体のシステムを時期を見て完全に書き換えることを提案された。

 

「そんなことをして、彼らは対応出来るのかしら」
「心配には及ばない。UIは現行のシステムを完全に踏襲する。その上で我々のOSサービスを付加する形をとる。
 具体的にはOSコアを現行の非効率なものを排除し、我々のコアシステムに置き換える上で、現行UIを被せる形にする。
 これにより彼らのUIをマスターするコストを無視出来る上、我々の方でもシステムの細かい制御が可能になる」
「コアを書き換えて制御を可能となるのは良いけど、狙いは何かしら?」
「連合のシステムを遠隔的に制御出来る様にしておくことで、緊急時に我々が問題点を補正出来る。
 数値的な修正を細かく制御出来れば、これからの戦闘でより効率的な運用に我々が力を貸せる」
「……なるほど。誘導弾兵器の追尾に彼らの計算式を利用するより、我々の方で電波誘導情報を無視して追尾させれば、彼らよりは確実に弾頭を当てられるわね。
 それにはセンサーの強化も必要だけど、差し当たって命中精度が30%だったものが60%以上に向上すれば充分過ぎる性能ね」
「それもあるが、まぁ、社長の言う通りだ。必要の範囲を彼らの流儀に従うのがここでの動き方だったな。
 ならばそういう事で構わない」
「……セブン、一応言っておくけど、あなたの言いたい事はわかっているわ。
 でも、以前トゥヴォックが言った通り、必要以上の彼らへの干渉も問題があるのよ。
 出来る限り彼ら自身が考えて、彼ら自身の持ち得る手段の範囲で物事を解決する様にさせる。
 ……私達が出来る行動は、その中で我々の安全を確保するに足る条件を整えるだけね」
「……効率的ではないが、個性を尊重するとはそういうことなのだな。理解することにする」
「えぇ。ほんと、あなたの言う通り回りくどい事だけど、これは親子の関係でも一緒よ。
 大人が何でも出来るからと、子供に何もさせなかったら育たない。失敗しようと、挑戦する事に意味が有る。
 そうしなければ何も経験できないし、過去から学ぶ事も伝えられない。何事も積み重ねなのよ」

 

 後の事はセブンに任せ、私はハンガーを出る事にした。

 

「わぁ……驚かせてしまったのならすみません。
 私、喉が渇いて……それに笑わないで下さいね、大分お腹も空いてしまいましたの。
 こちらは食堂ですか?なにか頂けると嬉しいのですけど……」

 

 彼女は皆の刺さる様な視線に晒されつつも、思い切って話しかけた。
 彼女の発言に相槌を打つかの用に、桃色の球体型ロボット「ハロ」も何かを言っているが、誰の耳にも入っていない。

 

「っで、って、ちょっと待って!?」

 

 キラは彼女の登場に頭が一瞬真っ白になっていたが、この事態に彼女の表情とは逆に青ざめる思いだった。
 カズイもじと目で呟く。

 

「鍵とかってしてないわけ……?」

 

 誰もが思う事だった。フレイがそれに続く。

 

「なんでザフトの子が勝手に歩き回ってんの、どうなってるのここの監視!」

 

 これまた彼女にしては的を得たもっともな発言だった。
 しかし、当の言われた本人は何とも感じていないようだ。

 

「あら?勝手にではありませんわ。
 私、ちゃんとお部屋で聞きましたのよ。出かけても良いですか~?って。
 それも3度も。それに、私はザフトではありません。
 ザフトは軍の名称で、正式にはゾディアック アライアンス オブ フリーダム……」
「な、なんだって一緒よ!コーディネイターなんだから」
「……同じではありませんわ。
 確かに私はコーディネイターですが、軍の人間ではありませんもの。
 ……貴方も軍の方ではないのでしょう?でしたら、私と貴方は同じですわね。 御挨拶が遅れました。私は……」
「……ちょっとやだ!止めてよ!」

 

 彼女の和やかな言動に、一際強い拒絶の声が彼女の発言を止める。
 言われた側からすれば何故止められたのか理解出来なかった。

 

「……?」
「冗談じゃないわ、なんで私があんたなんかと握手しなきゃなんないのよ!
 コーディネイターのくせに!馴れ馴れしくしないで!」

 

 キラは二人のやりとりをただ聴いているだけなのに、自分もフレイに責められている様に感じていた。
 彼女の発言の端々に「コーディネイター」の単語が否定の為に使われている。
 自分が言われているわけではないが、気分の良い話でも無い。
 そしてこの時、加藤ゼミの面々はフレイの発言にある答えが浮かんでいた。

 

「あっ!!」

 

 ミリアリアが唐突に声を上げたが、その続きを言って良いのか躊躇う。
 彼女に衆目が集まるが、言葉を発する事が出来ずに沈黙が辺りを包む。
 そこに、空気を和ませる様にハロが無意味な言葉を発していたが、全く誰も聴いていない。
 ミリアリアの代わりに彼女の言いたい事を発したのは、カズイだった。

 

「……フレイって、ブルーコスモス」
「違うわよ!」

 

 即座に否定するフレイ。
 思わずミリアリアが溜息をついた。
 他の面々も呆れと妙な疲れが全身を包むのを感じていた。
 その反応に焦った彼女は慌てて弁解を始める。

 

「あぁ、でも!……あの人達の言ってることって、間違ってはいないじゃない。
 病気でもないのに遺伝子を操作した人間なんて、やっぱり自然の摂理に逆らった、間違った存在よ」
「……はぁ」

 

 確かにその通りの一面は有るとしても、オーブで育った彼らからすれば、所詮は「ブルーコスモス」の考えであって、それに同意して暮らしていたわけではない。
むしろ、オーブはそれを受け入れずに共存を選んだ国だけに、彼女の言葉は彼らには相容れないものがあった。
 一同は沈黙する。

 

「ほんとはみんなだってそう思ってるんでしょ?」
「……」

 

 その時、戸口から一人の女性が入ってきた。
 その人物はむっとした表情でつかつかと足早に歩いてくると、フレイの前で止まり、唐突に彼女の左の頬へ平手打ちを放った。

 

「痛い!?」
「…これがラクスさんの痛み」

 

 再び返す手で右頬を打つ。

 

「痛っ!」
「…これがキラくんの痛み」

 

 最後に、もう一度左頬へ力強く打ち放つ。
 彼女はあまりの強さに床に倒れた。

 

「きゃぁ!!」
「…これが、ここに居る私達の尊厳への痛みよ。恥を知りなさい!!!」

 

 入ってきたジェインウェイは、彼女のあまりの言い草に堪忍袋の緒が切れていた。
 頬を打たれ倒れ込んだ彼女は、震えた眼差しで自分を平手打ちした人物に釘付けになっていた。

 

「あなたの様な甘えた事を言う人間が誤りを起こし、殺し合いをするのよ。
 生まれの違いはあれど、人としての尊厳を忘れたら終わりよ。
 その結果がこの戦争だと何故分からないの。あなた達はまだ子供。
 その子供がこの体たらくでは、未来はお先真っ暗ね。
 ……でも、私の目の黒いうちは放置しない。罰としてフレイ、あなたは彼女の世話係よ。
 ……良いわね?」
「……はい」
「もっと、大きく!」
「はい!」

 

 収拾不能な程にこじれていた場の空気は、一転してジェインウェイの気迫で張りつめたものとなった。
 その後はそれぞれの持ち場に戻る事となり、フレイは言いつけ通りにラクスの世話係となった。

 

「またここに居なくてはいけませんのね」
「……ええ、そうよ」

 

 フレイは運んできた食事のトレーをテーブルに置いた。
 ハロが彼女の周りを無邪気に飛んでいる。

 

「フフ、びっくりしましたわ。あの方はどなたですか?」
「え?ジェインウェイさんのこと?」
「ジェインウェイさんという方なんですか。……凄く、怖かったですね」
「へ?」

 

 フレイは彼女が唐突に何を言い出すのかと思ったが、自分が打たれたわけでもないのに怖かったとこぼす彼女に拍子抜けした。

 

「……別にあなたが打たれたわけじゃないでしょう。おかげで私は頬が痛いわよ」
「……仰る通り、コーディネイターは病気ではなくとも遺伝子を操作した存在。
 私自身、自然に反していることは自覚しています。……でも、それは私が決めた事じゃありません。
 私の父や母が……そう望んで私を産んだのです」
「……」
「……私は、両親を批難しなくてはならないのでしょうか。
 ただ、私が彼らの望む結果を残すのかどうか……それはどんなにコーディネイトしたとしても、そして私が努力を傾けたとしても、理想通りのものになるとは限りません。
 それでも世の親という人の願いは、子供に未来を託したがるのでしょう。
 それは、あまり変わらないのではないでしょうか。私は……その中で生きていくしかありません。
 批判は甘受する他ありませんもの。例えば、私の遺伝子を『元に戻す』ことが出来るわけでもありませんし」

 

 彼女の話は確かに彼女自身が望んでそうした事ではないと分かっている。
 フレイ自身、彼女に無理を言ったところでどうにかなる話ではないと理解しているのだ。
 それでも納得がいかないものがある。

 

「……コーディネイターのこと、私は好きでも嫌いでもない。
 でも、あなた達のせいで沢山の人達が亡くなっているのも事実よ。
 勿論、それは私達にも原因が無いわけじゃないけど……。
 ジェインウェイさんが言った人としての尊厳じゃないけど、私は認めない。
 まるで100m走をドーピングして走る様なものじゃない。
 そして、それを認めろって言うのよ!……あなたが自分で決めた事じゃない事もわかるけど、私達から可能性を奪う様な行動もやめて欲しいわ」

 

 ラクス・クラインは目をパチクリとして一瞬驚いた表情を見せるが、穏やかな表情で微笑んた。
「……やっと、率直にお話できましたね」
「へ?」
「私も、あなたのこと嫌いです。でも、言いたい事がはっきり言えることは大好きです。
 見習いたい。またお話ししてくださいますか?」

 

 まさかここでこのような反応が返ってくるとは思わず、今度はフレイの目が点になった。
 と同時に、どんなにコーディネイトしたとしても、自分と同じ「女」であることを感じた。

 

「……い、良いわよ。係だもの。あなたも随分と良い性格してるわね。
 見た目が綺麗な女って、ほんと性格最悪よね」
「フフ、仰る通りですわ。あなたもとっても素敵です。フフフ!」

 

 ラクスが悪戯っぽい笑みを浮かべて笑う。
 そんな彼女にフレイもまた馬鹿らしくなって思わず笑った。

 

「あ、ご挨拶が遅れましたわ。改めまして、私は、ラクス・クラインと申します」
「フレイ・アルスターよ」

 

 アークエンジェル艦橋

 

 トノムラが何らかの通信信号をキャッチした。
 彼は必死にそれを調整する。そして、

 

「……ん?んっ!はぁ!間違いありません!
 これは地球軍第8艦隊の、暗号パルスです!少尉」
「追えるのか?」
「やってますよ!解析します!」

 

 通信を受けたCICの側で音声の解析が行われ再生される。

 

『こちら…第8艦隊先遣…モントゴメリー…アー…エンジェル…応答…』

 

 この声に一早く反応したのは艦長であるラミアス大尉だった。

 

「ハルバートン准将旗下の部隊だわ!」

 

 ラミアスの言葉に艦橋の一同から歓声が沸いた。
 ノイマンが操舵しながら問う。

 

「探してるのか!?俺達を!」

 

 彼に続く様にナタルもまた尋ねる。

 

「位置は!?」
「待ってください!……まだ距離があるものと思われますが……」

 

 ナタルはその返答に思案顔になるが、他の一同はようやくの朗報に浮かれた。
 一方、ザフト軍ザラ隊母艦「ヴェサリウス」内のアスラン執務室では、キグナス艦長のグラディスとの話し合いがもたれていた。

 

「……というわけで、グラディス艦長の部隊はこのまま追撃を、我々はラクスの捜索をしながら追うこととなります」
「随分とどっち付かずな采配ね。司令部はやる気有るのかしら」
「……私は、追撃が不可能であればピエロを辞めると申し出ました」

 

 彼女の発言は誰もが思う事だろう。
 国の一大事になると言って援軍を送っておきながら、ラクスを探す為に部隊を割けという。
 この矛盾した政策は、指導層の政治的立場の駆け引きの産物としか言い様がない杜撰さだった。
 そんな上層の命令をこの少年は突っぱねて見せたというのだ。
 グラディスはアスランの評価を見直した。

 

「大胆な行動に出たわね。でも、お咎め無しということは、了承されたわけよね」
「はい。私の援軍の要請を受け入れてくれました。
 足付きが第八艦隊と合流する前には何とか到着させると返答が来ています」
「……援軍。こう言ってはなんだけど、上出来ね。
 侮る気は無かったけど、あなた予想以上に出来るのね。安心したわ」

 

 唐突な褒め言葉に、アスランも面食らう。

 

「え?あ、はい」
「でも、いつ届くのか。たぶん、差し当たってはそれが一番ネックね。
 もの凄い足の早さが必要よ。司令部はロケットでも飛ばしてくるのかしら。
 いずれにせよ、やるしか無いのだけど。で、編成の主力は私達の方へ移送し、ヴェサリウスはあなたのイージスとバスターで行くのね」
「はい。その方が戦力のバランスを考えても丁度良いかと。」
「随分な自信ねぇ。あなた達二機で対応するのよ?大丈夫?」

 

 グラディスからすれば、アスランの考えた陣容は随分とバランスを欠いている様に思えた。
 船を預かる身からすれば、保有戦力が多いことに越した事は無い。しかし、戦術としては随分無謀に見える。
 何しろ彼らはエリートと言っても実戦経験不足なのだから。
 それでもこの少年は表情一つ変えずにこちらを見据えてくるのだ。

 

「えぇ。……周辺宙域は我々のテリトリーで、敵は連合の足付きくらい。
 奴らの戦力は2機のMSに1機のMA。直接の戦力はMSのみと考えた場合、数の上でも練度の上でも我々の方が上です。
 それに何より彼らと遭遇しても、敵は打って出て来ません。奴らはあくまで逃げる側です」
「……そう。分かったわ、それではすぐにその様に……」

 

 その時、執務室に呼びかけが有った。
 アデスの声がする。

 

「ザラ隊長、前方に地球軍の艦艇が航行しているのを発見しました」
「数は?」
「……まだ遠過ぎて確認は出来ていませんが、数隻の艦影を確認しています」
「……わかりました。ブリッジへ行きます」

 

 アスランはグラディスへ目配せする。
 二人は執務室を出て艦橋へ向かった。

 
 

 ―つづく―

 
 

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