スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED_第16話

Last-modified: 2012-08-09 (木) 20:43:04
 

 スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED
 第16話「通信」

 
 

 ZAFT軍ザラ隊旗艦ヴェサリウスでは、バスターからの近距離通信で連合の足付き艦隊と思しき部隊の存在が伝えられた。
 執務室でその報を受けたアスランは、タリア・グラディスと今後の対応について協議している所だった。
 応接椅子に腕組みして対面に座る彼女は、この唐突な報に内心呆れていた。
 彼女からすれば出来過ぎた話にも思えるこの報告に、半ばこの少年の頭の中を覗いてみたく感じていた。

 

「……お姫様探しのつもりが、結果的に足付き追撃になったわけね。
 まさか、これも想定内というわけかしら」

 

 彼女からこういわれて、アスランも内心苦笑していた。

 

「さすがにそれはありませんよ。
 ただ、本国の増援として指揮下に入ったツィーグラーを先行させても何の手掛かりも無い。
 妥当な結果と言われれば仰る通りになるのでしょうけど」

 

 実際、先の戦闘を切り上げた事に他意は無いし、敵側も先を目指すものと考えていた。
 あの戦闘での対応の早さを考えれば、出来るだけ進んで体制固めすると思っていたのだ。

 

「まったく、足の遅いローラシアを先行させると言いながら、頭の回る事。
 で、叩くのかしら?」
「そうですね。……叩けるなら叩きましょう。
 相手がわざわざ潜む以上、そこに意味があるんでしょうから。
 とはいえ、どの道叩くつもりですが、出来ればあぶり出したいのが本音です」
「相手の目的は何かしら。
 デブリベルトに留まりながら修理をする程の損傷を受けている様には見えなかったけど。
 修理じゃないとしたら、……援軍を待っているのかしら」
「この宙域に彼ら以外の連合がやってくるとしたら、
その動きは逐一報告されるはずです。しかし、そうした情報はありません。
 援軍の線は薄いでしょう。考えられるのは新造艦である足付きが、内部的に負荷をかけて想定外の破損をしたか、ドレイク級の損傷に問題があるかだと考えます」

 

 グラディスは顎に手を当て、しばし考え込む様に間を置く。
 アスランはそれを黙ってみていた。徐に彼女の口が開く。

 

「……最近、私も貴方の石橋の叩き方が少し分かった気がするのよね。
 私が貴方なら、この場で突貫工事はしたくない。
 でも、見つけた以上は攻撃をしなくてはならない。
 ここは最大船速で強襲し、敵に考える暇を与えずにあぶり出せれば勝ち。
 ……と考えているんじゃないかしら」

 

 グラディスの意見に、アスランは穏やかに微笑む。

 

「良いですね。やってみましょう」

 

 彼の即答振りにグラディスは眉を上げて驚いてみせたが、彼女も微笑んで同意した。
 その後はバスターを帰投させると、2隻を最大船速で暗礁宙域へと進ませ始めた。

 

 ―艦長日誌補足―
 私は艦隊の指揮はアークエンジェルを中心に任せ、我々が為すべき艦隊戦力の改修に努力していた。
 トゥヴォックは民間保安部隊の結成を終えると、それをバーナードから引っ張ってきた武官に引き継がせた。
 これでアークエンジェルに不足した武官についてはひとまず補強出来ただろう。
 彼にはセブン1人で遅れがちなローのエンジン改修作業の監督に向かわせた。
 これで作業効率は上がるだろう。

 

 私はMSハンガーへ出向いていた。
 ハンガーでは所狭しと整備士達が働いている。
 そこにある幕の張られた例の一角へ足を運んだ。
 そこには新しく組まれつつあるMSの姿があった。
 忙しく働いている作業員達の中で、整備主任のマードック軍曹が私を見つけて声をかけてきた。

 

「あ、大佐!どうしました」
「あら、マードックさん。って、もう大佐なのよね。
 ふふふ、どう?作業の進み具合は」

 

 私の問いかけに彼は苦笑混じりで答える。

 

「いやはや、ハンセン女史は凄いですぜ。
 こいつの設計もとんでもない物だったけど、これを実際に組み上げる技術は、……俺達がおおよそ知っているようなレベルを超えている。
 なのに彼女の手に掛かれば難なく進んでしまうんだ。
 あの手は魔法かなにかですか」

 

 彼の驚きは無理も無い
 彼女は「我々の時代でも」高度な技術者だ。
 それがこの時代で作業しているのだ。
 いくら人間の作法に慣れてきたといっても、彼女は偽装を上手くこなす方ではない。
 しかも、この状況下で最善を尽くすとなれば、偽装どころではなく効率を優先するだろう。
 実際そのお陰でドレイク級の改修も進んでいるが、少々やりすぎた感はある。
 私は溜息を一つ付くと、彼同様に苦笑混じりに答える他無い。

 

「……確かに彼女は天才ね。私達でも一目置くほどよ。
 でも、時に真面目過ぎて付いて行くのが大変になるのはご愛嬌かしら。
 さて、私も作業を手伝うわ。
 分からない事が有れば彼女の代わりに答えましょう。何か有る?」
「大佐がですかい!でしたらこれなんですが……わかりますかぁ?」

 

 彼は私の提案にいかにも懐疑的といった表情であったが、手に持ったパッドを操作し設計の分からない所を示した。
 私は彼のパッドを受け取り目を通す。

 

「……(これは神経接続型インターフェース。……フラガAIで味をしめたのね。
 それにしても……これはいつ出来上がるのかしら)
 このシステムはいわばオールガンバレル操作の試作ね。
 彼女の理論によれば、このオプティカル回路を全身に巡らせ、それぞれの末端に電子/光コンバータを接続して、神経伝達スピードを人間の生体性能に近づけている。
 一部ではたぶん反応速度は上回るはずだわ。
 精密部品については、我々のシャトルにある部品を利用するようね」

 

 彼は私を見て呆気にとられた表情で暫く立っていた。
 だが、ハッと我に帰ると目を輝かせ、矢継ぎ早に質問を始めた。
 その時、耳に装着したコミュニケーターがアラート音を発する。

 

「ちょっと待って。はい、こちらジェインウェイ」
『ラミアスです。敵母艦が動きました。
 高速でこちらへ向けて発進してきている様です』
「高速で。………グリーンはどうなったの?」
『大尉のメビウスを追って、ゆっくりこちらへ迫っています』
「そう。今の所は予定通りかしら。
 また何か変化が有ったら教えてください」
『はい。では』

 

 コミュニケーターの発声が消えた。
 しかし、敵の動きが気になった。
 これまで慎重に動いてきていた敵が、大胆にも高速で接近してきているという。
 潜んでいる敵を前に高速接近とはどういうことだろう。
 一撃離脱を構えるには宙域の条件も悪く、最悪なんらの効果も上げられず仕舞いになりかねない。
 幾つか保険は掛けたつもりだが、敵の意図を計りかねた私は、シャトルに待機させているイチェブへ通信した。

 

 アークエンジェルのブリッジでは、敵側の動向がセンサーを通して逐一補足されていた。
 その時、サイ・アーガイルがセンサー情報を慌てて読み上げる。

 

「敵ナスカ級が消えました!」

 

 その報告に、バジルールが声を荒げる。

 

「見間違いではないのか!よく確認しろ!」
「はい!……いや、間違い有りません。
 情報をそちらへミラーリングします」

 

 そこには確かにセンサー識別からロストしていることが確認出来た。
 ラミアスがその報告を聴きしばし考えると、手元のコンソールを動かしモニターに情報を表示した。
 そこには何かの計算結果が表示されていた。

 

「艦長、これは……」
「……予想だけど、もしあの距離からサイレントランされた場合に、こちらへ到達する想定時間よ」
「サイレントラン!?……しかし、どうして」
「敵はミラージュコロイドによる光学遮蔽を利用して潜行している。
 私達は勿論そちらをモニタリングするけど、……母艦もそうだとしたら?
 ……相手はミラージュコロイドの弱点を逆手に利用してきている可能性があるわ」

 

 ラミアスの話は大胆というには荒唐無稽とでも言える程のものだった。
 勿論というべきか、バジルールはその意見に反論した。

 

「敵母艦サイズでミラージュコロイド!?
 あのサイズで潜行出来る程のエネルギーがナスカ級にあるとは思えません」
「えぇ、私もそう思います。でも、たぶん目的はそれだけでも十分な陽動になる。
 潜めている私達からすれば、敵は派手に動いてくれる方が有り難い。
 だからこそ……そうしないのよ」

 

 ラミアスは全艦に第一戦闘配備を敷き、敵艦の攻撃に備えてMS及びMA部隊を宙域に待機させる命令をだした。

 

「キラ・ヤマト、ストライク、行きます!」
「イチェブ・オドンネル、デュエル、出撃します」

 

 ストライクとデュエルが艦前方に待機し、ドレイク級から出撃したメビウスF2機が後方に待機した。

 

「メビウスF-01、ヤスベイ・ラムレイ、おし、出撃する!」
「メビウスF-02、フォッグ・ナイト、出る!」

 

 メビウスFの初陣だが、2機はバーナード及びローのMAチームメンバーに見送られながら、無事にリニアカタパルトを出撃して行った。
 グリーンのラインが輝き、両艦の後方に陣取る。

 

「……ったく、囮ってのは性に合わないねぇ」

 

 フラガのメビウス・ゼロは、ゆっくりと背後の「グリーン」を誘導していた。
 敵側は全くアクションを起こすわけでもなく、こちらの動きにそっと付いてきていた。
 何度か攻撃に最適なモーションをとってみたが、相手側は一切手を出して来ない。
 さすがのフラガもここまでの慎重さを見て煽るのはやめたが、敵の動きが不気味であった。

 

「艦との距離は………そろそろか。じゃぁ、行かせてもらいましょうか」

 

 フラガはエンジンを全開にして発進した。
 そのときグリーンがミラージュコロイドを解除した。

 

「お、乗ってきたか!?」

 

 グリーンがバーニアを吹かして急速に接近を始める。
 後方からターゲティングを受けていることをセンサーがアラートで知らせる。
 フラガはそのアラートを半ば無視する様に感覚を研ぎすます。
 システムがロックオンされた事を強い警報音で知らせてくるが、彼は全力で機体を高速航行させ続けた。
 一筋の光線が通り過ぎる。彼はそれを紙一重という僅かな差でかわした。
 彼のメビウスは新しく搭載したエンジンにより、これまでならば不可能だった細かい上下運動なども可能となったお陰の産物だ。

 

「……ふぅ、さすがだねぇ。アニカちゃんは天才だぁ~♪」

 

 一方、グリーンを操縦するニコルは相手の機動力の高さに驚いていた。
 彼の知るメビウス・ゼロは直線的な高速航行に長けた飽くまで「戦闘機」であって、上下左右といった飛行中の運動性能はMSに劣るものと思っていたが、このメビウスはエンジンが改修されて高性能になっていた。

 

「……甘く見てはいけないですね。
 連合は着実にキャッチアップ……いや、我々を凌駕し始めている。
 引き締めなきゃ……」

 

 彼は努めて冷静だった。
 彼の乗る機体はミラージュコロイドの影響でかなりのエネルギーを消費していた。
 もはや無駄弾を打てる程の余裕も無い。
 引き返して補給を受けることも可能だが、艦隊側からの命令は何も無い。
 ZAFTは階級等の命令系統が曖昧な軍事組織であり、一見すると混沌とした指揮系統を持つが、コーディネイターはそれぞれの持てる力の最大を行使し合うことで、最大のパフォーマンスを発揮しながら自然に連携することを旨としていた。
 故に、命令が無いということは、彼には一定の自由が与えられているのと同時に、最大の戦果を期待されているとも言える。
 ナチュラルならば尻込みする様な制度設計だが、彼らにとっては自由が最大の価値なのである。

 

 逃走を始めた敵機を確実に仕留めるためには、相手の足を止める必要がある。
 これまでならば接近戦に持ち込んで叩いたものだが、新型がエンジンのみ改修されたのかはわからず、無闇に接近するのは憚られた。
 ならば、やる事は一つであった。
 ニコルはゲイツの残るエネルギー全てを使ってターゲットを攻撃することにした。
 武器システムのエネルギーリミットを全解除し、ターゲットスコープを覗き込んだ。
 彼の操作で照準が絞られて行く。

 

「……全ターゲットロックオン、オートファイヤシステムスタンバイ。
 カウント、3、2、1……ファイヤ!!」

 

 ゲイツ・ステルスのビームが幾筋も放たれる。
 オートファイヤシステムにより攻撃操作が自動で駆動し正確な精密射撃を始めた。
 しかし、それらは全てメビウス・ゼロに当たる事は無かった。

 

「なんだぁ!?ヘッタクソだなぁ。って、くそ!俺がか!?」

 

 フラガは自分の認識の甘さを悔いた。
 敵の攻撃は全て前方のデブリを狙ったものだったのだ。
 大型の岩などがビームにより破砕され、宙域前方に無数に飛び散る。
 このまま突っ込めば機体の損傷程度では済まされないだろう。
 彼にはエンジンを逆噴射して緊急停止させる他に道がなかった。
 そこへゲイツ・ステルスがシールドからビームクローを出して迫る。

 

「頂きますよ!!!」

 

 だがその時、彼の進行方向を巨大なビームの閃光が阻んだ。

 

「!?」

 

 そこに現れたのは、彼らが宿敵である「足付き」だった。
 いや、足付きだけではない。
 足付きからはストライクが出てきていた。
 ストライクはシュベルトゲベールを構えてゲイツに急迫する。
 咄嗟に受け止めようと盾を構えるが、斬撃を受け止めた瞬間にエネルギーが切れた。
 ストライクはそのままゲイツの左腕を切り落とすと、その衝撃で弾かれたゲイツにバーニアを噴かして迫る。

 

「うぉおおおお!!!!」

 

 キラが咆哮する。
 半ば迷いを振り切る様に彼は突進する。
 しかし、システムが攻撃アラートを知らせた。
 彼の機体を強力なビームが擦り、ストライクの装甲がじりじりと音を立てて悲鳴を上げる。

 

「ディアッカ!ナイスです!」
『おう!お前は早く後退しろ!』

 

 ゲイツの後方からは、潜行していたナスカ級と共に複数の機体が出撃していた。
 彼らはバスターの支援砲撃と共に迫る。
 ストライクはメビウスを庇いながら後退すると、それを援護する様に一斉に艦隊が艦砲射撃を始めた。
 宙域が両軍の攻撃で眩い閃光に包まれる。

 

「……アークエンジェル前進微速、特装砲用意」

 

 アークエンジェル艦橋では前方を睨み、冷静にラミアスが指示を出す。
 バジルールがモニターを見ながらそれに呼応する。

 

「ローエングリン照準、エネルギー充填率、80……90……100%充填完了!」
「撃て!」

 

 ラミアスの号令下、特装砲が閃光を放ち前方を貫いた。

 

「回避!」

 

 グラディスの命令下、ナスカ級キグナスは回避運動をするが、
彼女の判断は一歩遅く、左舷から翼に掛けてローエングリンの光が貫いた。
 損傷した左翼から爆発音がし、激しい衝撃が艦内全域を伝う。

 

「くぅ、報告!」
「は、左舷壁面損傷、左翼大破。
 隔壁緊急閉鎖していますがぁ……負傷者が出ている模様です」

 

 アーサー・トラインの読み上げに、グラディスは内心腸が煮えくり返る程の怒りを感じていたが、同時に足付きとの戦力差を改めて実感させられていた。

 

「今のは何なの!?」
「は、はい、センサーの記録からポジトロン反応が出ています」
「ポジトロン!?陽電子砲ですって!?!……なんて破壊力なの。
(こんなものを正面から相手するなんて聞いてないわよ。……いいわ。
 やってやろうじゃない。アスラン・ザラ、見てなさい!)
 ……キグナス前進微速、主砲照準、敵、足付き!」
「か、艦長!?」

 

 アーサーはこの状況でまだ前進をするという艦長の命令に戸惑っていた。
 彼女は気が触れたのか。しかし、彼女の目はいつもの力強いものだった。

 

「……キグナスの勇姿を見せてやるのよ!!」
「は、はい!!」

 

 アークエンジェル艦橋では敵側の動きに動揺が広がった。
 キグナスは損傷しつつも前進してきたのだ。

 

「敵ナスカ級、迫ります!」

 

 CICの報告にラミアスは狼狽えた。

 

「特攻する気!?回避!あ、訂正!!!
(……できないわ!?敵はドレイク級を狙って!?)」
「艦長!このままでは」

 

 迫り来る敵艦の姿に、いつも冷静なノイマンが慌てた。

 

「分かってるわ、特装砲用意!」
「艦長、この距離では充填が間に合いません!」

 

 ラミアスの命令も、即座にバジルールがそれを否定する。
 だが、彼女にはそれ以外に打開策は見えなかった。

 

「いいから、出来るだけ充填して放って!!!」
「艦長!」

 

 その時、CICのアーガイルが報告を上げる。
 彼女からしたらこんな余裕の無い状況で、他の情報を上げられるのは正直うんざりだが、そんな事は言っていられない。

 

「今度は何!!!」
「後方から艦影!」
「なんですって!?」
「敵、ナスカ級です!」

 
 

「!?」

 

 艦橋が戦慄した。
 後方に現れたのはもう一隻のナスカ級、ヴェサリウスの姿だった。
 ヴェサリウス内部では、前方宙域の状況を冷静に見つめていた。

 

「ザラ隊長、足付きを捕捉しました。……さすがです」

 

 アデスが賞賛の言葉を告げる。
 その言葉にアスランは軽く手を挙げ返答する。

 

「いや、グラディス艦長程の人じゃなければ、あの場で引き下がってこの作戦はダメでしたよ。
 本当に尊敬すべきは彼らです」
「……左様ですな。
 しかし、隊長の判断無くしても、この作戦は成立しませんよ」
「……ありがとうございます、アデス艦長。
 さて、ではヴェサリウス主砲照準!敵、足付き!砲撃用意!」

 

 アスランの命令下、ヴェサリウスはアークエンジェルに照準を合わせた。
 もう、その命令を下すばかりというその時、それは発せられた。

 

『……ZAFT艦隊に告ぐ、今すぐ攻撃を止めなさい』

 

 ジェインウェイの言葉が発せられる。
 シャトルアーチャーのコックピットから通信を繋げたジェインウェイは、音声通信を敵味方両方に聞こえる形で無理矢理割り込ませていた。

 

『……本艦隊はZAFT現最高評議会議長、シーゲル・クラインの令嬢、ラクス・クライン嬢を保護している。
 宙域を漂っていた救命ポッドを人道的に保護した我々に対する攻撃は、ラクス・クライン嬢の命を奪う行動とみなす。
 本艦隊は貴艦隊が即座に攻撃を停止し、現宙域から去ることを希望する。
 もし守られない場合、クライン嬢は我々と運命を共にする事は免れないことを言い添える。
 尚、彼女の身柄は本艦隊が責任を持って移送し、外交チャネルで貴国に返す用意がある』

 

 この通信に両軍は一時停止した。
 それは両軍にとって衝撃的な内容であった。

 

「……大佐、こんな……」

 

 ラミアス他アークエンジェル艦橋の誰もがその言葉に息を詰まらせ絶句した。
 キラもストライクの中で半ば時間が止まった様に聞き入っていたが、そのあまりの内容に愕然としていた。
 ヴェサリウスからアスランが怒りを抑えつつ、足付きへ通信を入れる。

 

「……貴艦隊が……我が国民であるラクス・クライン嬢を保護したというが、それは本当か。
 その確認をさせて欲しい」

 

 この通信に対し、一通の映像通信が発せられた。
 そこに映っていたのは、ラクス・クライン本人だった。
 彼女は自室の中でトゥヴォックの撮影のもと、カメラの向こう側へ話しかける。

 

『はい、その声はアスランですか。
 お元気ですか?私は元気です。それに、どこも怪我無く大丈夫ですわ。
 見ての通り狭いお部屋に缶詰ではありますけど、地球軍の皆さんは良くして下さっていますわ。
 地球軍の方々が仰る通り、私は彼らに暖かく保護されました。
 もし皆さんがこのまま攻撃を継続されていたら、私も貴方と会えなかったかもしれません』

 

 彼女は終始笑顔でそう告げるのに対し、アスランは怒りも忘れ、半ば呆気にとられつつ言った。

 

「……あの、ラクス、……貴方が無事で良かった。
 あー、その、我々は地球軍の言い分を聞き入れ、一時撤退します。
 しかし、本当に……その、ご無事の様ですね」
『はい!とっても無事ですわ♪
 ですから、アスランも気を落とされないで。
 私は必ず帰ってきますから、お父様にも心配為さらないでとお伝え下さい。
 あ、出来ればですけど、本国に慰霊団のVを送って下さいますか?
 一緒に来て下さった慰霊団の皆様が映っているので、ご遺族の方にお渡し下さいましたら。
 データは通信後に送って下さるそうですので、お願い出来ますか?』
「……はい。そのように手配させて頂きましょう。
 私も、必ず貴方を迎えに行きます。その……それまでご無事で」

 

 この通信により、この戦いは唐突に終わりを告げた。

 
 

 ―つづく―

 
 

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